~開き直りましょう~
~開き直りましょう~
ミューズもさっちゃんもひどい。折角脱出してきたから感動の再会になると思ったのにこう言われたんだ。
「え?まさか暴れて出てきたんですか?」
「ミルザ王国での殺人は最悪死刑になってしまいますね」
あるれ?心配していたんじゃないの?
「安心して。暴れては、いないとも言えないかもだけれど、誰も死んでいないわよ。ちょっととてつもなく硬いパンを頭の上からぶつけたくらい。みんな気を失っているだけ」
大丈夫。何回か行っているから、相手がただ気を失っているだけというのはわかっている。
「お嬢様。それはどの場所かわかりますか?」
「え~と、そうね」
そんなのリーリカが案内してくれたから場所なんて覚えていない。そう思っていたら影が動いて少しだけリーリカが顔を出した。
「アンナイ、スル」
流石、リーリカ。仕事ができる。
「お嬢様はここでおとなしくしてください。サリナ。お嬢様を見ておいて!」
「かしこまりました」
ミューズはそう言って走って去っていった。
「え~と、さっちゃん。何があったの?状況が飲みこめていないんだけれど」
さっちゃんから現状を教えてもらえた。
・ミルザ王国内でも今回の事件は問題になっている
・ナジーブラ第二王子とその一派の暴走をどうにかうまく利用したい
・ミルザ国王が外遊中のため、戻って来られてからの対応となる
・予定では後2.3日でミルザ国王が王都に戻ってくる
なるほど。だからあのおバカさんたちは焦っていたのね。なんか勝手に詰問会とか言い出して。
あれ?でも、それだったら私はあの塔に戻った方がいいのかしら?
「ねえ、さっちゃん。私はあの捕えられていた塔に戻った方がいいのかしら?」
「いいえ、こうなったら違うプランで行きます」
さすがさっちゃんだ。だが、思っていたプランはかなり壮絶だった。
え~と、これってどういうことなのかしら?
イスファと久しぶりに会ったけれど、なんだか表情がさえないのだ。
「イスファどうしたの?」
「いや、エリーが無事で良かったよ」
心配をしてくれたのはわかるけれど、なんだかイスファの表情は曇ったままだ。
「何かあったの?」
「うん、そうなんだ。今ちょっとミルザ王国の王妃が勝手な行動を取っていて頭が痛いんだ?」
ミルザ王国の王妃って?
「それはイスファの方?それともナジーブラの方の?」
それによって話しが変わってくる。
「姉とナジーブラの方だね。王妃は二人いるんだ。僕の母の方が『スィーリーン王妃』。スィーリーン王妃は元はミルザ王国の4公爵の一つ『アルダーブ公爵』出身なんだ」
アルダーブ公爵領って何が有名だったっけ?そう思っていたらさっちゃんが「アルダーブ公爵領はミルザ王国の最南端。海産物と塩が有名です」と教えてくれた。
魚って生臭いイメージがあるんだよね。
「それで、姉のフェリアルと弟のナジーブラの母は『ディートリンデ王妃』。こちら名前でわかると思うけれどイレスティア王国出身で『ウィンザー公爵』の娘なんだよ」
誰それ?ウィンザー公爵?知らない人ですね。きょとんとしていたらミューズが教えてくれた。
「現国王の従弟君です。まあ、プライドは高いけれど、実務が全くできない『使えない貴族』です。それに性格はアレな方ですし、イレスティア王国内でも評判はよくないですね」
ミューズが嫌そうな顔をしながら教えてくれた。ああ、まともな性格じゃない人なんだろう。関わり合いたくないな。ん?でも、それならイレスティア王国とミルザ王国の関係が強固になるのならディートリンデ王妃は私を嫌わないのでは?
「ねえ、ディートリンデ王妃は私のことをどうして嫌うのかしら?だって、第一王子であるイスファは王位を返上するし、ミルザ王国とイレスティア王国の関係も強固になるでしょ。ならば敵対する理由なんてないんじゃないの?」
私は自分が思った疑問を投げかけた。え?何か私間違っている?
「まず、アルダーブ公爵は僕の王位継承権放棄について難色を示している。けれど、ちゃんと利益も伝えている。そう、今までイレスティア王国との貿易は全てディートリンデ王妃派閥が牛耳っていた。でも、僕がイレスティア王国に行くことで違うルートが開拓できる。ウィンザー公爵経由だと関税がすごく高いからね」
なるほど。利益でイスファは自分の所の派閥の意見をまとめたんだ。
「それに、僕は確かにミルザ王国の王位継承権を放棄するけれど、僕にはスィーリーン王妃と血のつながる弟のタリークがいるからね。タリークは僕と1歳しか違わない。ただ、僕が王位を継承するものだと思い国政の儀礼、外交などを司る『礼部』としてずっと研修と業務を行って来たんだ。まあ、タリークが王位継承するとなったらミルザ王国の国政は安泰だろうね」
なんかわかってきた。つまり、今回わがまま三昧なディートリンデ王妃一派を一掃しようとイスファは考えているのね。
今まではイレスティア王国との関係もあるから強く出られなかったけれど、ウィンザー公爵よりも強いパイプが出来るのだから切り捨ててもよいと。
ああ、だから、ディートリンド王妃はなりふり構わずに私をどうにかしようとしてきたというわけね。
「それで、ミルザ国王が戻ってくるまでの間に私は何をすればいいの?」
「そうだね、おとなしくしてくれるだけでいいよ」
イスファの目が泳いでいる。何か言いたそうなんだよね。なんだろう?そう思っていたら外が騒がしくなってきた。
扉が勢いよく開いて、薄いピンク色の髪に赤い瞳をした少女がそこに立っていた。
「イスファン。お母様を返しなさい。あなたがどこかに連れて行ったのでしょう!」
なんだこの騒がしいのは?
「な、なんで、ここに赤い悪魔がいるのよ。魔封じの塔に閉じ込めて封魔結界の中で断罪したはずでしょう!」
何それ?魔封じの塔?魔法が使えない塔なんてあるのかしら?私が居た塔は普通に魔法は使えたけれど。ああ、ちょっとなんか魔力練りにくいって思ったけれど、枕が変わったからだと思っていたな。後はリーリカの声がいつもよりたどたどしかったくらいかしら?
封魔結界とかなんか名前だけはかっこいいけれど、そんな場所ってあるのかしら?
「まあ、いいわ。この王都では魔法は使えないのよ。結界の中だからね。魔法が使えないのならあんたなんて怖くないわ。倒してあげる。私が直々に!」
なんかそうって騒いでいる少女は剣を抜いて私に向かって来たんだよね。ここには血濡れのミューズもいるって言うのに。
ってか、これ誰が倒すの?私?ミューズ?イスファ?リーリカに頼んだ方がいいのかしら?私は周囲を見渡した。なんか皆目線を下にして頭を振っている。いや、頭を押さえているという方が正しいのかしら。
「クリエイトブレッド」
とりあえず、パンで気絶させるか?もちろん堅めのパンを頭上から落とし気絶させた。
「んで、この子だれ?」
なんとなく予想は付いているけれど、聞いてみた。
「その倒れているのが姉のフェリアルです」
なんとなくそんな気はしたんだよね。さっきは母をそして次は娘を気絶させたのか。もうどうにでもなれって思った。多分、さっちゃんが何とかしてくれる。はずだよね。
え、皆さぁ、目線そらさないでよ。不安になるじゃん。




