~ターニングポイント1~
~ターニングポイント1~
(ジョン・イーキャ視点)
娘のモモハが視力を失い、歩行が困難になった。歩行については訓練をすれば杖などの補助があれば歩けるようになるという。だが、目が見えないのだ。歩けるようになるといっても不安だらけだ。
犯人はデコール・フォン・オザーム。オザーム東方連合国の娘だ。もし、あの時イレスティア王国のエリザベート・フォン・イレスティアに会っていなかったら私は怒りの矛先をイレスティア王国に向けていたかもしれない。
デコールという少女はオザーム東方連合国の中ではわがままだし、触れてはいけない存在だ。そして、その情報は国外にも発信している。
金をかけ時間をかけ手間もかけ行っていたのだ。全ては娘を守るためだ。それなのに、そんなデコールに対して反抗する態度を取った相手がいて、しかもその相手の代わりに娘が巻き込まれたのだ。
逆恨みだと言われるのもわかる。だが、振り上げたこぶしを下ろす先が欲しかった。だが、イレスティアのわがまま姫、殺戮が好きな史上最低の少女だと言われている子は普通の女の子だった。
謝罪し、娘を気遣い、私たちのわがままも聞き入れてくれた。
噂通りの子なら恨みをぶつけられたのに。ぶつけても誰も言わない相手なら簡単なのに。そう思っていた。
だからだろう。私は正しく加害行為をしたデコールと隠ぺいをしたオザーム東方連合国に怒りを向けられたのは。
だが、エリザベート・フォン・イレスティアはもろすぎる。
彼女について調べるとブラックボックスにすぐにたどり着く。情報が秘匿され過ぎているのだ。ここまでわかりやすい事はない。
噂が事実でないと言っているに等しい。だから、私は娘の友達でもあるエリザベート・フォン・イレスティアをどうにかしてあげたいと思っていた。
おせっかいかもしれないがその準備をしていた。そんな時、カージェス領の代官であるリムバから相談を持ちかけられた。
一つは寒冷地帯でも育つ小麦の苗の入手だ。どうやらカージェス領で育てるというのだ。適正価格を支払ってもらえるようなので商人として断る理由がない。
しかも購入先まで決まっている。そこまで接点がなかったイース帝国のレドルフ子爵だ。レドルフ子爵は元は商家の出だという。そして、その娘であるサリナ・レドルフという娘がエリザベート・フォン・イレスティアに仕えたという。話しを聞くとこのサリナと言う娘はモモハの事件の時同じ班だったと言う。
「どちらが被害を受けていたのかわからない状態だったと言う。許せるものではない」
レドルフ子爵からの手紙にはそう書かれていた。この人とは仲良くなれそうだ。
そしてもう一つの依頼。それはエリザベート・フォン・イレスティアの悪名を削ぐというものだった。
「それは手伝いましょう。いえ、ぜひ手伝わせてください。私も思う所ありましたので」
私はそう言って計画に参加することになった。
いや、この参加は僥倖だった。サリナという特異な能力を持った子と出会えたのだから。
(サリナ・レドルフ視点)
兵役には着きたくなかった。イース帝国は近いうちにどこかに攻め入るだろう。可能性が高いのはイレスティア王国だ。
今までの人生でイレスティア王国の人間に出会ったことはなかった。学園で出会ったのがエリーでなかったら、いいえ、もっと性格の悪い人間だったら私はこんなにためらわなかったと思う。
エリーにはひどい噂話しがあった。『赤い悪魔』と呼ばれているけれど、魔力が高いのと想像力がかなり変なだけで普通にいい子なのだ。
感情豊かだし、人の事を大事にするし、それに私の事だって受け入れてくれたのだ。
私のこの特異なスキルを知ると距離を取りたがる人が多かった。怖いとか何を考えているのかわからないと言ってくる人が多かった。
けれど、エリーは違った。私を迎え入れたいと言ってくれたし、ミルザ王子には腹心だと紹介してくれたのだ。
だったら、その期待に応えないと行けない。父にも相談した。どうやら父は今回のモモハ・イーキャの件をかなり重くとらえ、本国の中でも掛け合ったみたいだ。
だって、運が悪かったら失明し、車いす生活をしていたのは私かもしれないのだから。だが、本国はオザーム東方連合国との衝突を避けたのだ。
「被害にあっていないのだろう。ならば不問とするのが筋だろう」
「・・・わかりました」
そんなやり取りがあったという。だから、私がイレスティア王国で出仕することも認めたくれたのだ。
ただ、ラース帝国の貴族名鑑から私は除籍をされることになるが。確認されたけれど「問題ない」と返事をしたわ。
それに、これから行う事はたくさんあるのですもの。
そう思っていたけれどなかなかうまくいかないんですよね。
「どうして、ガラスがここまで手に入らないのかしら?」
私はカージェス領の代官であるリムバにそう質問した。
「城壁に使うレンガは領内で生産できます。けれど、ガラスについては自領でまだ生産できません。今使っているものは購入しましたが大量購入となるとこのカージェス領の運営費だけでは賄いきれません」
なるほど。お金の問題か。カージェス領はこのイレスティア王国内でも僻地で人口も少ない。現在移民を受け入れるための準備をしているが、収入が上がるのはもう少し先だろう。けれど、そこまで待てない可能性が高い。
過去の記録からだけれど、後数年で冷害被害は徐々に起きるはずだ。
「あまりこの手は使いたくなかったのですが、エリーに作ってもらいましょう。おそらく『クリエイトストーン』を教えたらガラスくらい造り出すと思うんですよね」
私がそう言うとミューズがすごい表情をし出した。
「サリナ。わかっているのか!お嬢様に魔法を教える怖さが」
わかっているわよ。授業で特異性は見てきたもの。
「攻撃魔法じゃなければ大丈夫でしょう?それにエリーだってそんなむちゃくちゃなことしないと思うよ」
私はまだわかっていなかった。エリーに魔法を教えるという事がどんな結果になるなんて。
「ねえ、さっちゃん。見て、見て。こんなのできたよ!」
そう言ってエリーはものすごい笑顔で私の所に駆け寄ってきてくれた。
いや、確かに私はガラスを作ってほしいとお願いしたよ。でも、これはちょっと思っていたのと違う。
ガラスを使った栽培は目立たないように僻地で行うことにした。カージェス領の北の端ノージェ村よりも北にある山間の中に作ることにしたんだけれど、まずクリエイトストーンを教えたら、エリーは石の階段を造り出しちゃったのよね。
「だって、山の中腹に作るんだよね。だったら、階段とか滑り台とかあった方が便利でしょ?大丈夫。ちゃんと木々に隠れるように作ったから」
確かに隠れてはいる。けれど、全然ひっそりとしていない。だって、山の形が変わっているんだもの。けれど、ノージェ村の人は「また、領主さまが何かやっているんだろうね」って感じでスルーだ。え?山の形かわったよ?商人も何か思うんじゃ?
「大丈夫ですよ。このカージェス領だと山の形が変わるくらい当たり前だと商人も思っていますから。それに変に首を突っ込んでくるほど好奇心に負ける商人もおりません」
リムバがそう教えてくれた。ちなみに、ムネリは私のすぐ横で倒れそうになった私を支えてくれている。
なぜかお姫様抱っこで、太ももを触る手がちょっとだけわさわさして気持ち悪い。悪い人ではないんだけれど、ちょっと太もも愛がおかしな人だ。
まあ、私がこのイレスティア王国で戸籍を得るためにこのムネリと結婚をする予定なのだから文句は言わない。
この1点さえ目をつむればいい人なのだ。ただ、その1点が大きすぎる。
「サリナ。気を付けてくれよ。君の太ももに何かあったら大変じゃないか」
うん、変態だ。早まったかしら。
「ええ、大丈夫だから降ろしてちょうだい。おろさなかったらもう夜のふみふみはありませんからね」
「わかりました」
夜のふみふみ。マッサージか何かだと思っていたけれど、背中とか腰だけじゃなく、肩、頭を踏むようにムネリは言って来たのだ。
「それだけでいい。それだけでいいから」
まあ、ムネリから私に触れてくることはさっきにような時以外はない。まあ、過剰に反応して太ももを触りに来るけれど。
違った。こんな太もも中毒の事なんてどうでもいいのだ。
「とりあえず、中腹一体はガラスで囲ったよ。柱は鋳鉄で作りコーティングしたからちょっとの雨風、というか、飛行型のモンスターの攻撃では倒れないようなガラス棟を作ったよ。後、周囲は地面を掘り下げているからモンスターは近づけないと思う。これでよかったかな?」
いや、ちょっと材料を作ってもらおうと思っていたら中腹一体に20棟ものガラス棟が出来上がったのだ。
しかも地面は畑にしやすいように耕し済みなのだ。おかしい。クリエイトストーンって何もないところから石を生み出すだけのはずなのに。
「ど、どうしてこうなったの?」
私は何かを間違えたのかしら?
「だって、何もないところからも作れるけれど、目の前に土があるんだから、そこにあるものをうまく使えば効率よく作れるじゃん。それに、畑を作るのなら土壌改良もしてみたんだ。他の畑の土を触ってみたから同じような土になっているはずだよ」
うん、私の想像以上の結果だった。ミューズから肩を叩かれた。エリーに魔法を教える怖さを改めて知った。
けれど、このガラス棟での栽培を行えることでかなり計画がすすめられたのも事実なんだよね。
「あ、そうそう。水源っているよね。どうするの?掘る?それとも川を持ってくる?この魔法を使えばなんだってできる気がするんだよね」
「ちょっと待ってください。計画立てます!」
とりあえず、エリーは規格外だということを再認識したのだった。




