~勧誘しましょう~
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というわけで久々の学園です。というか、ずっとイスファがうちに居ることが当たり前になってきた。
どれくらい当たり前かというと、まずムネリが土下座し、私が背中を踏む、そしてムネリがはぁはぁするという光景が行われてもイスファが流せるくらいになった。
「そ、そうだね。人それぞれ嗜好はあるから、ね」
流せるのと、受け入れられるのは違うみたいだ。まあ、私も受け入れているわけではないけれどね。
まあ、前も馬車で一緒に学園に行っていたから問題はないか。 そう思ってクラスに入った。
「おはようございます」
私はまず、手紙でもやり取りをしていたさっちゃんに挨拶をした。
「おはよう。イレスティア様」
「もう、エリーって呼んでよね。さっちゃん」
さっちゃんは硬いのだ。まあ、帝国におけるサリナ・レドルフの実家であるレドルフ家は子爵位だ。このさっちゃんも、ももちゃん同様に商家が発祥の貴族らしい。特にラース帝国は平野部が少なく、山岳部から鉱石を採取し販売をしているのだ。
レドルフ家は銀鉱山があり、銀の排出を多くしているのだが、ラース帝国は武勇を誇るため戦にあまり出ないレドルフ家の評判は悪いのだ。意味がわからない。外貨を稼いでいるレドルフ家は国として重要なはずなのに。
まあ、価値観は人それぞれだものね。それはムネリを見ていればよく思う。あの足への執着はよくわからないもの。
「うん、ありがとう」
さっちゃん以外もラース帝国からこの学園に留学しているものはいるが、公爵家や王族、その血縁者が多い。
そういう高潔な人たちがさっちゃんを受け入れないのだ。高い入学金、授業料。王族だとそれらが免除される。
金でむしり取った権利だと彼らは主張しているのだ。そんな人たちも私がさっちゃんと一緒にいると何も言って来ない。
よほど噂の『赤い悪魔』が怖いみたいだ。
がるるるるとか叫んだ事もないのに。噂って怖いよね。そう思っていたら私の前にでこちゃんが立ちふさがった。
「私はあなたの卑劣な行動になんて負けないわ!」
「はい?」
なんかでこちゃんはそれだけを宣言したら自席に戻っていった。
「あれなに?」
つい声に出てしまった。
「エリー。あれは手紙で書いた内容の・・・」
でこちゃんが孤立しているのは、同級生を毒殺しようとしたと噂が流れているからだ。でこちゃんの中では、ちょっとした私へのいたずらだったようなのだが、実際にももちゃんは失明し、車いす生活をするはめになっている。
行ったことは許せない。けれど、でこちゃんはオザーム東方連合国の盟主の娘。そう簡単に罰せられることはない。
まあ、どうにか罪の意識を持って改心してくれたらいいのだけれど、私に責任転嫁してるくらいだから、難しいんだろうな。
「そうね、どうしましょうか?」
「まず、他のクラスの人と仲良くなるのはどうでしょうか?」
さっちゃんは私の周りには珍しい常識人な気がする。これで変なフェチとかあるとか後からわかるとかないよね。
なんて思っていました。授業でさっちゃんと横になったのだけれど、このさっちゃんなぜかノートを取らないのよね。
手を動かすことなく、黒板を板書することもなく、ただ1点だけを見つめているのだ。どういうこと?
授業が終わりさっちゃんに質問した。
「さっきの授業だけれど、黒板を板書していなかったけれど?」
「なぜ、皆さん黒板を書き写しているんですか?」
あれ?なんだか会話がかみ合っていない予感。
「そうね、授業内容を記録するためかしら?それに書くことで自分の中の理解にもつながるし、みたいな?」
なんか板書の意味を問われたけれどうまく答えられなかった。
「記憶ですか。私は一度見聞きしたものは全て覚えるんですよね」
先ほどの授業を再現できるくらいの記憶力だった。ってか、どういう頭しているのよ。
「人との会話とかしぐさも全部覚えるから、なかなか友達ができなくて」
そりゃそうでしょう。何気なく言った一言とかこっちは覚えていないのにさっちゃんは覚えているんだよね。怖すぎだよ。あれ?でもいいこともいっぱいじゃん。
「それってむっちゃ便利じゃん。記憶が出来ると言うことは、例えば、過去の出来事を記憶して、今起きていることが過去に起きた出来事の何に近いとか照らし合わせ対処できるとか、内政官向きだと思うもの。私ならそんな秘書とか部下欲しいよ!」
私がそういうとさっちゃんはびっくりした顔をした。
「エリーはすごいね。私は今までこの記憶のことを知られたら周囲から人が去っていったの。気持ち悪がられたから。でも、そんな私を受け入れるだけじゃなく、この能力の活用方法も示してくれるなんて」
いや、普通にそう思うじゃん。特に過去の自然災害とか記憶しているとその時の対処方法とかすぐに出て来るとかむちゃくちゃ便利だと思うんだよね。
だって、イレスティア王国はこれから冷害被害を受けから。過去も冷害被害を受けたこともあるから、対処方法を調べてもらうのもいいかも。
「これで、さっちゃんもラース帝国に戻ったら重宝されるよ」
そう言ったけれど、さっちゃんは首を横に振った。
「多分、帝国では私のスキルは受け入れてもらえないよ。だって、あの国は戦いで勝利すること、それも正面突破で勝つことを美徳としているんだもの」
あれ?そうだったかしら?
アネモネ時代にあまりラース帝国の戦いぶりについてはいい記憶がないんだよね。卑怯としか思ったことがない。
ということは、誰かがそういう風に指揮した者がいたのかも。
あ、そう言えば、なんかラース帝国にはすごい軍師が居るってアネモネ時代にリッターが言っていたような気がする。確か若い女性で過去の戦術をすべて把握している天才がいるって。
って、まさか、その軍師ってさっちゃんって事はないよね。うん、ないない。
でも、さっちゃんならそういう戦い方もできるんじゃないのかな?
「戦いなんて過去の戦術とかを活用すれば、被害少なく勝利できるのにね。でも、もしさっちゃんがラース帝国に居場所がないのならイレスティア王国に来る?」
冗談っぽくいったのに、なぜかさっちゃんは本気にした。
実家にイレスティア王国に仕えることが可能なのかを確認までしていた。
よく聞くと、さっちゃんはレドルフ家の3女らしく、そのままレドルフ家にいたとしてもどこかに婚姻に出されるか、兵役に狩り出されるかのどちらからしかった。
女性だから前線で戦うのではなく、後方で戦術を練る部隊に配属されるらしいが、それでも戦場に立つため危険だという。
「ただ、そのまま国をまたいで士官となると問題だって。だからエリーの周りで若くて未婚の男性が居たら紹介してほしいの。結婚と言う形ならイレスティア王国に行けるらしいから」
え?若い男はいると言えばいるけれど、ムネリは変態だからな。
「そのため一度エリーの家に行けたらって思っているんだけれどいいかしら?」
「・・・いいわよ」
とりあえず、ムネリとさっちゃんで恋が始まらない事を願っておこう。そう言えば、さっちゃんってちょっとおっとりしているというか、ちょっとむっちりしているんだよね。
杞憂に終わってほしい。




