~閑話(商人の嘆き)~
~閑話(商人の嘆き)~
私はジョン・イーキャ。オザーム東方連合国で商人をしていた。元々は困っている村を助けるために始めた商売だ。
商品が届かない、買いたいのに、他の村に行けない。道中の安全が確保できない。
そういう願いを一つひとつ叶えていった。
オザーム東方連合国というのは国と名乗っているが、力を持つ諸侯が集まっている集合体だ。そのため、隣の領に行くと文化や価値観が異なる。
流通している貨幣が共通であることを除けば、商品の価値が変わる。一つの領では無価値で捨てられているものでも、少し移動すれば価値のあるものとして購入される。
諸侯連中はプライドが高く、お互いに距離をとり、情報を共有しない。そのため、間に立つ商人は気楽だった。
情報は簡単に手に入るし、金も手に入る。だが、もうけ過ぎると妬んでくるものも増える。
「時に聞いたのだが、うちの領に元々ある地元の商会ともめておるそうではないか?」
「地元産業も大事にしてくれ」
「社会貢献に興味はないか?」
色んなことを領主から言われることが増えた。領主は貴族だ。こちらは平民。命令されたらすべて奪われる。だからこそ、資金はオザーム東方連合以外に移してある。
他国と交流をする上でどうしても通過しないといけない国。それがイレスティア王国だ。
イレスティア王国はこの大陸の中央に位置している国だ。そのため、私はこのイレスティア王国に資産を隠すための商会を作ってある。
それ以外の資産についてはいつオザーム東方連合国の貴族に接収されてもいいようにしている。
万全だった。だが、オザーム東方連合で盟主をしているハゲール・フォン・オザームは悪辣だった。
まず、ハゲール盟主から「謁見する許可を与える」と連絡があったかと思ったら領地はないが男爵位を与えられた。
貴族を名乗ってよいが、国に税を納めろということだ。領地がある貴族は領地からの収入の一部を納税することとなるが、私はただ納税をさせられるだけだ。
「ありがたき幸せでございます」
貴族位を得るということは他領の貴族との軋轢も産まれるのではと思った。だが、違った。貴族は「自分所だけは特別に取引を継続するから今後もよろしく」と言って来たのだ。
取引状況について問題はなかったのだが、追加でハゲール盟主からこう言われたのだ。
「そうそう、君の娘だが、何と言ったかなモモなんとかって子。聖ブブロ王国の中央学園にうちの娘と一緒に入学してもらうから」
人質か。それに、ハゲールの娘のデコール嬢はかなりのわがままだと聞く。振り回される娘が不憫でしょうがない。
この打診に拒否はない。拒否をする時は一族がオザーム東方連合国を見切って他国に亡命する時だけだ。
といっても、そう簡単に亡命は出来ないだろう。何人かの貴族の裏事情を知りすぎてしまった。浮気をしているだけならまだ可愛いものだ。奥方の浮気に気が付かず、跡取りと思っている息子が実は他領の領主の子であるとかだ。
一番の問題は盟主のハゲールだろうな。ハゲールが盟主で居られるのは後ろ盾となるレーム地方を治めるミュルス家と婚姻を結んだからだ。
ハゲールには息子と娘が一人ずついる。だが、実はもう一人息子がいる。愛人に産ませた子だ。その愛人はミュルス家と仲が悪い。この事実が知られたらハゲールは盟主の地位を降ろされるだろうな。
本当に商人とは知らなくてもいい情報が入ってくるものだ。娘であるモモハには目立たず、ひっそりと学園生活を送るように言い聞かせないと。
入学してすぐに事件が起きた。伝書鳩で知らせが届いた。娘が毒におかされ危篤状態だという。
すぐに駆けつけるにはワイバーンを使った空路をつかう必要がある。まず、イレスティア王国に上空飛行の許可を申請する。
こういう時、他国にも献金していると話しはスムーズに進む。次に聖ブブロ王国にも打診を行うとこちらも了承を得られた。
伝書鳩だと時間がかかるため、小型ワイバーンですべて伝達をした。
「行ってくる。それと、もしものこともある。準備だけは進めておけ」
商会を取りまとめている番頭にそう指示を出して、妻と二人でワイバーンに乗って西へ向かった。
聖ブブロ王国からはワイバーンでの入国は認めないと言われたため、手前で山岳部分でワイバーンから降り、早馬に乗り換えた。
昼夜休みなく移動をし、娘のモモハの元にたどり着いた。
中央学園の理事長が出てきた。この理事長、エミュレット・ハーベイは聖ブブロ王国でも5指に入る回復術士だ。
会うのは初めてだが表情が曇っているのがわかる。
「お初にお目にかかります。エミュレット・ハーベイと申します。この度は娘様がこのようなことになり誠に申し訳なく存じます」
何があったのかを教えてもらった。
理事長としては、学園内の管理不足という説明を受けたが、悪意を持って行動を起こしたものがいることも聞いた。
その首謀者はデコール・フォン・オザームだった。睡眠魔法をかけ、関わったものたちに自白をさせたという。そのため、事の経緯、動機についても教えてもらった。
それと、娘には障害が残るという事も聞いた。視力は戻らず、また腰から下の感覚が戻らない可能性が高いと言われた。おそらく車いすでの生活になると。
全てを知って怒りでわなわなとふるえた。
「娘はそんなくだらないことで娘は、娘がこんな目に遭ったと言うのですか」
「誠に申し訳ございません。ただ、学園としては処罰を行う権利はありません。あくまで、処罰については各国に対応をゆだねる形となります。すでに詳細については、オザーム国の盟主に向けて伝書鳩を飛ばしております」
結果は確認するまでもない。あのハゲール盟主は娘に甘い。今までも問題を起こしてももみ消して来ている。
念のため私からも小型ワイバーンで手紙を送った。
結果。
毒花をポットに入れたレーリイ・レイノルズは本国へ強制送還。
レイノルズ家は減給となっただけで、特段、当家に謝罪も賠償もない。それと娘も学園を強制退学するようにと言われたのだ。
モモハは視力を失った。今は車いすでの生活になるが、足についてはリハビリを繰り返せば杖を使えば歩けるようになるかもとエミュレット・ハーベイが教えてくれた。
私はモモハを抱きしめた。
モモハが眠っているベッドの横に見知らぬ女性が寝そべっていた。エミュレット・ハーベイが言うには、モモハの友人だと教えてくれた。
赤い髪の少女。私が知っている中で赤い髪の少女はデコール・フォン・オザームよりもわがままで苛烈な者だ。
名前をエリザベート・フォン・イレスティア。悪い噂しか聞かないものだ。
だが、実際は違った。
話して思った。このエリザベートという子は純粋なのだ。そして、自ら罪を被りたがる子でもある。
どうして、あそこまでひどい噂が流れるというのだ。だが、それをこの少女は気にもしていない。
「どちらにしても、移動されるのならカージェス領を通過されるかと思います。カージェス領は私が治めてる村ですのでよければ滞在していってください。後で代官であるリムバに手紙を書いておきます」
ワイバーンは調教すればおとなしいが上下の動きがどうしてもあり、その動きに合わせて手綱をしっかり握らないといけないし、鐙にも力をいれないと振り落とされてしまう。
目が見えず、下半身を動かせない娘はワイバーンに乗せられない。陸路での移動となる。
「ありがたい。それではカージェス領に寄らせてもらうとする」
ワイバーンに乗り、上空から見たカージェス領は辺境という感じではなく、都市という感じに発展していた。
カージェス領は栄えているだけでなく、防衛も考えられて作られていた。それも、聖ブブロ王国側からも攻められることも想定している城壁だったのだ。
何が起こるかわからない世界だ。用心はするべきだな。
「ここ、優しい街だね」
娘がそう言った。はじめ、その意味が解らなかったが、このカージェスの街にある道路は路地にいたるまですべて舗装されているのだ。
車いすの場合、段差があったり、道が凸凹だと衝撃が大きいみたいだ。それに娘は目も見えていないのだ。
段差があるかどうか事前にわからないのだ。
「それに、階段もすくないしね」
そうだ。住んでよいと言われたゲストハウスは階段のような段差がなかったのだ。いや、2階建てのため2階に行くには階段を上る必要はあるのだが、娘が活動するのは全て1階で対応ができるのだ。
「ええ、そういう風にお嬢様から指示を受けましたので」
このゲストハウスを案内してくれたリムバという代官はそう言って来た。
ここまで配慮された街をしらない。
「モモハ。ここはモモハの友達のイレスティア王女が統治する街なのだ。ここ以上にモモハによい街を知らない。どうする。大変だろうが移住するか?」
そう、この選択が間違っていたとは思わない。だが、モモハの事を考えたらこれが一番だったと今でも思っている。
「うん!ここがいい!」
そう言ったモモハの笑顔が眩しかった。




