~謝罪しましょう~
~謝罪しましょう~
理事長は冷静だった。
「皆さん、離れてください。『アンチドーテ』」
痙攣していたももちゃんの動きがゆっくりになる。理事長が魔法を発動させたけれど、どういう魔法なのかよくわからなかった。
聖属性の魔法って私よくわからないんだよね。
「これはまずいですわね。ちょっと大聖堂にこの子を移送して。それと親族に連絡を!」
理事長がそう言いだした。え?どういうこと。
そしてでこちゃんがずっと「あんたよ。あんたが毒を入れたのでしょ!赤い悪魔!」と叫んでいる。
何があったのかわからない。さっちゃんは脅えて震えているだけだし。
「とりあえず、今日はこのまま授業を終了します。けれど、事情徴収をするため皆さん別室に待機となります」
テーブルマナーの授業を担当している先生がやってきて、私たちは一人ひとり個別に入れらるという。連れて行かれたのは学園の離れにある塔で、個別部屋と言われて中に入れられた。
ベッド、簡易トイレ、テーブルがあり、入り口は鉄格子に囲まれ安全性抜群。窓は小さなものが一つだけ。って、ちょっと待って。ここって牢屋だよね。
私何もしてないわよ。ってか、本当にクラス全員牢屋に入れられているの?
あ、耳を澄ますと色んな叫び声が聞こえる。そりゃ、牢屋にいきなり入れられたら怒るよね。なんだか大半は「赤い悪魔がやったんだ!」って叫んでいる。
やっていないし、現場にも居なかったし。なんで私がしたことになっているんだろう。
とりあえず、さっき理事長が使っていた『アンチドーテ』と言う魔法について考えてみた。魔法はイメージが大事だ。
ももちゃんは毒を飲んだのだろう。ということは、テーブルマナーの授業で出されたお茶かお菓子のどちらかに毒が含まれていたと考えるのが普通だ。
ということは、その毒を外に出すというのが『アンチドーテ』という魔法だと思う。では『毒』って何なんだろう?
昔、ラナさんに生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の事が毒だと教わった。だが、薬は毒にもなる。
つまり何をもって、毒と認識し、どうやってその毒を体外に出すというのだろう。
イメージがわかない。
理事長が使った魔法を思い出してみる。
まず、ももちゃんの体を調べるような魔力が流れていた。調べるための魔法は難しくない。自分にかけることもできた。
だが、情報が多すぎて何がなんだかわからなかった。おそらく聖魔法というのは人体の仕組みに詳しくないと効果が出せないのだろう。そう思うことにした。
実験をしていたら、扉が開いた。扉を開けたのは理事長だった。
「ももちゃんは大丈夫なの?」
ももちゃんの容体が気になる。だが理事長の表情は暗いままだ。
「そうね、毒がかなり体に回っていたから完璧な解毒はできなかったわ。後遺症が出ると思う。視力が戻らないか、意識障害があるか・・・」
え?ちょっと待ってよ。ももちゃんがなんでそんなことに。
「なんで、そんなことになったんですか?」
つい大きな声が出てしまった。
「そうね、用意していたお茶の中身が変えられていたの。こちらの安全管理不足よ。実行犯は魔力の流れでわかっているのだけれど・・・とりあえず、再発防止のため、私の庭園の入り口には衛兵を立たせているわ」
なんだか話しが読めない。どうして庭園?
「よくわからないのですが、どうして庭園に人を立たせるんですか?中庭は誰でも立ち入りできるのでは?」
意味がよくわからない。毒と庭園のつながりがわからない。ショックすぎて私の頭がまわっていないのだろうか。
「・・・そうね。今回使われたのは、人払いの結界をかけていた庭園に咲いていた赤い花なのだよ。どうやら、ちょっとしたいたずらと思っていたのかもしれないがのう。中庭に咲いている赤い花は痺れるくらいの毒性だが、結界で閉じていた方の花は薬に使うためのものを多く栽培しているの。ただ、それも正しく使えば薬になるが、間違った使い方をしたら毒にしかならない。そして、今回使われたのが、かなり毒性が高くてな。神経障害、特に視神経への影響が大きいんじゃ。かなりの量を摂取してしまったから、意識が戻っても何らかの障害はでそうだな。視覚についてはかなり厳しいじゃろう」
それって、もしかして私が結界を壊したから?
「・・・だから私のせいなんですね。私が結界を壊したから」
私がそう言うと理事長は私の手を取ってこう言ってくれた。
「違うわ。あの庭園の結界を破られても立ち入り禁止の看板はかけておったんじゃ」
そんなのがあったのか。気が付かなかった。
「それに、そこから花をもぎとって、入れ替えた人が悪いに決まっておる」
「それでも、私にも責任の一端はあります。私が結界を壊さなければこんなことにならなかった」
私はそう言いながら泣いていた。
「ももちゃんが、ももちゃんに、謝りたい。謝りたい」
「今は少し休みなさい」
理事長の優しいその声を聞いたら私はぷつんと何かが切れたように眠くなり、床にへたり込むように眠りについた。
ああ、これは魔法だ。それはわかったが、抗えなかった。
目が覚めたら、ベッドに横たわっていた。周囲は鉄格子のあの牢屋ではない。ここはどこだろう。
知らない天井だ。
周囲は狭い部屋だ。ベッドがあり、周囲をカーテンで囲われている。体を起こし、カーテンを開けると同じようにカーテンで囲われているベッドが近くにあった。
薄い生地のカーテンのため、うっすらと奥が見える。桃色の髪をした女の子が横たわっていて、その近くに成人男性と女性が座っているのが見えた。多分、横たわっているのはももちゃんで、その近くに座っているのが両親なのだろう。
声をかけていいのかわからない。だが、謝らないといけない。おそらく、その場を理事長は用意してくれたのだろう。
私は立ちあがり二人に近づいた。
「はじめまして、私はエリザベート・フォン・イレスティアと申します。お二人はひょっとしたらイーキャ夫妻でしょうか?」
これで違っていたらかなり恥ずかしい。
「ああ、そうだ」
男性がぼそっと返事をしてくれた。
「謝罪をさせてください。後でモモハ様にも謝罪を行いたく思います。私が庭園の結界を壊してしまったために、モモハ様を危険な目に合わせてしまいました。もうしわけございませんでした」
私はそう言って深々と頭を下げた。許されるとは思っていない。だが、今の私には謝ることしかできない。
「頭を上げてください。何があったのかはこの学園の人から説明を受けております。レスティア王女。あなたは悪くありません。ただ、今回の件についてオザーム東方連合国は実行犯のみを処罰することとなりました」
意味がわからなかった。そう言えば実行犯って誰なんだろう?それは教えてもらっていないが、流石にこの人に聞くのは違うのがわかる。
傷ついている人を余計に傷つけるだけだ。
「え?エリー。エリーがそこにいるの?」
ももちゃんの声がした。
「ももちゃん。私はここにいるよ」そう言ってももちゃんの手を掴む。
「エリーが無事で良かった」
こんな状態なのに、私を心配してくれるのだ。さらにももちゃんはこう言って来た。
「サリナ・レドルフさんのこともよろしくね。私は学園を辞めることになるから」
ももちゃんの視力は戻らなかった。更に、歩くことができなくなり車いすでの生活になることが決まったのだ。
歩行機能に障害が起き歩けなくなったと言う。何も言えなかった。泣きながら謝り続けていた。
しばらくすると理事長がやってきて「イーキャ嬢の負担になるぞ」と言われたので私は離れることにした。
イーキャ夫妻にこれからどうされるか聞いたら、まだ決めていないとのことだった。
「どちらにしても、移動されるのならカージェス領を通過されるかと思います。カージェス領は私が治めてる村ですのでよければ滞在していってください。後で代官であるリムバに手紙を書いておきます」
そう、私のこの申し出が大きな変化につながるなんて私はまだ気が付いていなかったのだった。




