~魔法を使ってみましょう~
~魔法を使ってみましょう~
周囲の変化を一気に感じたけれど、私にはやらなければいけないことがあった。それは魔法制御だ。
魔力が暴走してこの離宮を焼き尽くしたということだから、私は火魔法を制御できるように練習しないといけない。
というか、魔法を本当は教わりたかったのだけれど、誰に聞いていいかわからないので、まず離宮に置いてある書庫に行って魔法について書いてある本を探したの。
「お嬢様、本をお読みになられるのですか?」
侍女にそう確認された。あ、そうか。私はまだ5歳。本を読めないと思われている。
転生前のアネモネ時代には文字は教わっているからある程度の文字は読むことはできる。ただ、魔法は教わらなかった。
なので魔法書について読んでみたのだが、これが難しい。なんか抽象的すぎて何がなんだかわからないのだ。
まず「丹田」に力を入れましょうと書いてあるのだが、「丹田」というのがわからない。なんですか?
体の中に田んぼでもあるんですか?
次に魔力の流れを感じましょうとあるのだが、どうやったら感じられるのかがわからない。魔力や魔法が使えるものは女神の祝福を受けたものの中からしか発動しない。
女神の祝福は貴族しか受けることができないから、平民の中から魔法が使えるものはいないのだ。
魔力を持っているものがいるとしても、そのことに気が付けないからだ。しかも私は全属性持ちだ。
どうやれば火の魔法が発動するのかもわからない。困ったことだ。そのためまずお腹に力を入れて、イメージをするようにした。
火、水、風、土、金の3つだ。イメージしやすいのは前の3つだ。手のひらに小さな火を出すイメージをしたのだが、特に何も発動しない。水も風も同じだ。
仕方がない。もうちょっと本を読むか。そう読んでいたら詠唱というものを知った。
あれ?エリザベートもあの黒フードのおっちょこちょいさんも詠唱なんてしてなかったけれど、詠唱しないと行けないのかしら?
とりあえず、本に書いてある詠唱の文言を読んでから呪文を発動させた。
火が出た。ってか、小さい火じゃなく、火柱のようなものが部屋の中にでたので焦った。焦げ臭いけれど燃え移っていない。
危なかった。もう少しでこの離宮を燃やす所だった。ひょっとして悪辣女王もこうやって離宮をもやしちゃったのかしら?
でも、詠唱がきっかけなのはわかった。詠唱は口に出さなくても心の中で唱えたら発動することがわかった。
後、長いのはちょっと省略しても大丈夫なのもわかってきたけれど、その加減は未だによくわからない。
誰かちゃんとした人に魔法を教わりたいが、あの日を境に父上は離宮に顔を出さなくなったし、私の周りの侍女や執事はわかい見習いに近いものばかりにかわった。
それも、何回か繰り返し同じ人が来てくれるようになったので、話しをして仲良くなれた。
まず、侍女のサーシャ。この子はちょっとドジっこだけれど、一生けん命なのだ。執事はエルリックという少年が対応してくれている。
エルリックは紅茶の蒸らし時間がないため、色は付いているけれど味も風味も足りないし、サーシャが髪を結ってくれるのだけれど左右非対称になることも多いのよね。
筆頭執事のスチュアートに毒殺の件がどうなったのか確認したいのに報告がないんですよね。
「スチュアート。いますか?」
私がスチュアートを呼んでも他の者が出てくることが増えた。
今日もそうだ。
「筆頭執事様は多忙でございます。それゆえ私が用件をうかがいます」
ここ最近私の側にいるエルリックがそう言って来た。
「わかりました。王城に行きますので準備と先触れをお願いします。マリーリカに会いに行きます」
商人は捕まえることは出来なかったがマリーリカの証言に嘘はなかったのだ。だからマリーリカを解放することができるはずだ。
地下牢についてマリーリカへの接見を求めたが拒否という結果になった。
「あなたたちは王族より偉いのですか?私がこのマリーリカを保護します。問題ありますか?ないですよね!」
つい、怒鳴ってしまった。これでは悪辣女王そのままじゃない。しかも魔力がにじみ出てしまったため、相手を委縮させてしまった。
時間はかかったが、衛兵は私の威圧と勢いもあって動いてくれた。
扉が開いて目にしたのは、昨日以上にひどい怪我を受けており、血だらけでボロボロ、生きているのが不思議なくらいに弱ったマリーリカだった。
だが、そのマリーリカに触れた瞬間私の中に何かが駆け抜けた。
魔法は詠唱しないと発動しない。そして、その詠唱は魔法書で調べて覚えないといけない。
だが、その時の私の中に属性として知られていないはずの『暗』という属性の魔法が頭をよぎった。
「そんな死にかけでいいなら持っていっていいぞ」
ニタニタと笑う兵士がそう言ってきた。
マリーリカの腕ももげかけているし、足の筋も切られているのか歩くことも出来ていない。なるほど。解放することは同意したが、壊れるまで痛めつけたというわけか。
というか、体は微動だに動いていない。
「わかりました。馬車に乗せてください。離宮に連れて帰ります」
私がそう言うと衛兵は槍でマリーリカの胸を突き刺し、引きずり、馬車の近くまで連れて行った。こいつらを私は許さない。どうしてこんなひどいことが出来るのだ。
「ほらよ」
馬車の中に荷物のように放りこまれた。執事助手のような形で付いてきたエルリックは御者の横に座っている。馬車の中が血だらけになっているからだ。
すでにマリーリカは息をしていない。だが、私は先ほど頭に浮かんだ詠唱する。マリーリカの周囲に黒い魔力が渦巻く。
「ネクロマンシー」
死霊魔術が発動した。マリーリカは髪は灰色、肌の色が褐色になり、目が赤くなった状態で復活した。
「コ、コレハ?」
マリーリカは自分の姿を見ている。髪も肌も目の色も変わり話し方も変わっているから戸惑っているのがわかる。
「マリーリカ。あなたは先ほど衛兵たちの拷問により殺されました」
馬車の中を見渡す。かなり血で汚れている。
「ウォッシュ」
水属性の魔法。洗浄するだけの魔法だ。汚れは落ちたけれど、マリーリカの血で汚れ、ボロボロになった服はどうしようもない。こればかりは魔法では戻せない。
「マリーリカ。お願いがあります。私には力があります。けれど、その力を隠すつもりです」
死霊魔術なんて使えるなんて知られたら大騒ぎになる。なんせ、死霊魔術は悪魔が使うと思われていて、人が使える魔法だと認識されていない。
なぜか使えちゃったんだよね。というか、死者をこのような形で復活できるんなら悪辣女王は最強じゃない。
でも、不死の軍団とか使って来なかったわよね。何か制限がある魔法なのかしら。
私がそう悩んでいたら、マリーリカが跪き「カシコマリマシタ」とだけ言った。
よく見たらマリーリカの顔を見たら顔つきが変わっていた。
頬はこけ体もかなり細くなっているが、目が爛々と輝いて生き生きしていた。まあ、死んでいるんだけれど、なんというか目の輝きが少し怖い感じする。
「今ここでマリーリカは死にました。あなたはこれから別の名を得て私に仕えてください」
この状態のマリーリカを外に出していいものなのだろうか?褐色の肌に灰色の髪、赤い目の人は確かにいた記憶はある。
けれど、離宮に勤めているもので褐色の肌のものはいない。このままマリーリカを連れて帰ったら目立つだろうな。
まあ、見た目がここまで変わったから、今のマリーリカを見て生きているとも思わないだろうし、私を毒殺しようとしたものが今のマリーリカを見て何かしてくるとも思えない。
「ワカリマシタ。コレカラハ『リーリカ』ト、ナノリ、エリザベート、サマニ、オツカエ、イタシマス」
その名前を聞いて私の魂は震えた。
悪辣女王の周囲にはいつも4人の幹部が身辺を守って居たのだ。その一人に悪辣女王を心酔した狂信者の魔術師がいる。その魔術師の名前が『リーリカ』だからだ。
いつから仲間だったのか、いつから身辺を守っていたのか伝記にも記載されていなかったのだが、まさか5歳の時に出会っていたとは。
だが、私が行動をしたからマリーリカは死なずに済んでいる。では、実際はどのようにリーリカは悪辣女王の元にたどり着いたのだ?
それとも、同じ名前なだけで別人なのだろうか?あのリーリカなら影渡りができたはずだ。
「リーリカ。あなたはしばらく表だって私に仕えることができません。私の影に潜み私を守ってください」
そう尋ねてみた。するとリーリカの足下の影が広がったと思ったらそのままリーリカは地面に消えて行った。
「あ、そうそう。リーリカ。どこかで服を新調しておいてね。そのボロボロのままだと困るから」
そう影に伝えたら、影がすっと移動していった。やっぱり、『リーリカ』は四天王のひとりなんだ。
どうしよう。
なんて、悩んでいたけれど、そんな悩みが吹っ飛ぶ状況が起きていた。
離宮に戻ったら武装した兵士が大量に詰めていたからだ。そして、離宮にいるものをすべて拘束していたのだ。
「犯人が誰かなんかどうでもいい。全て倒してしまえば問題なかろう」
武装兵士を取りまとめていたのは筆頭執事のスチュワートだった。だが、その表情は善人のそれとはかけ離れていた。どうみても悪人の顔にしか見えなかったからだ。