~閑話(オザーム東方連合国)01~
~閑話(オザーム東方連合国)01~
あ~むかつく。むかつく。
オザーム東方連合国の盟主の娘である私はいつだって一番だった。誰もが私を愛し、褒めて、いつだって中心だった。
なのに父はわけのわからないことを言って来たのだ。
「デコールよ。自分の世界を広めるために、聖ブブロ王国の『中央学園』で学ぶがよい」
意味がわからなかったが、私が優秀なのを他国にも知ってもらえるチャンスだと思った。
学園に入学する前に文官たちから情報をもらった。
敵対してはいけない人物のリストをもらったのだ。
・ジャミラ・フォン・ブブロ。
聖ブブロ王国の第二王女。
1学年上のため、接点はあまりないと思うと言われたけれど容姿については確認した。
金髪の立て巻ロールで何名かの女性をはべらしている。
一見温和そうに見えるが目が笑っていないことが多い。
性格は正義感が強く、悪を極端に嫌うと言う。
噂は信じず、自分の目で見て、感じたことを優先するという。
お金で買収できない相手だし、嘘を嫌うし、なぜか嘘を見抜くという。
やっかいな相手だ。関わらない方がいい。
・エリザベート・フォン・イレスティア。
同学年の中で、ヤバいエピソードだらけの女。
幼少期に自分が育った離宮と離宮で働く50人を魔力暴走で焼き殺し、
降家した先でも村一つを焼き滅ぼしたという、通称「赤い悪魔」
見ためは赤い髪が長いと聞いているが、降家してからの情報がない。
人相は悪く、性格も傲慢で最悪だという。
目が合うだけで燃やされるという噂がある。
ジャミラとは別の意味で関わらない方がいい。命がいくつあっても足りない。
この二人が要注意人物だ。聖ブブロ王国の第二王女は姿画も出回っているので顔はわかるが、イレスティアの赤い悪魔は姿画がないのだ。
赤髪というのはイレスティアでは珍しいそうだが、他の国ではそこまで珍しくない。
まあ、傲慢でヤバそうな性格と人相も悪いみたいだからそれっぽいのを見かけたら避けておこう。
それより私は中央学園に、ミルザ王国の第一王子であるイスファン・ドゥ・ミルザも入学されるって聞いたのよ。
絶対にお近づきになりたい。というか、姿画を見た時に人形みたいな可愛い顔立ちでびっくりした。それに、オザーム東方連合国としてはどうしてもミルザ王国と強固なつながりを持ちたいのだ。
ここ2年連続で小麦の不作が続いている。国民には備蓄していた食糧を一部配給しているが、このままでは国の備蓄はなくなってしまう。
オザーム東方連合国では小麦の値段はあがってきていて、小麦には混ぜ物がされるのが普通になってきた。
やすく小麦を購入したい。だが、オザーム東方連合国はミルザ王国と直接の国交はなく、イレスティア王国を介しての商売となるため、割高になるのだ。どうにか直接取引できる関係構築が必要だと、とうさまから言われている。
重要なのは入学式だ。そこでミルザ王国第一王子とお近づきになると決めていたのだ。
だが、ミルザ王国第一王子はなかなか見つからず、見つかったと思った赤毛のショーヘアのちんちくりんな女が横にいたのだ。
「ねえ、あの女だれ?」
「さあ?でも、モモハ・イーキャの横に座るみたい」
「ああ、あのイーキャ男爵の娘でしょ。金で爵位を買ったという。元はただの商人でしょ。がめついって有名」
「まあ、いいわ。モモハに指示しておいて。あの女の入学式終わったら人気のない離れに連れて来るようにって」
結果。私たちは気絶させられた。おちていた大きくて硬いパンを見てこれで殴られたのだとわかった。どうやったのかわからないけれど。
しかも食べ物を粗末にするなんて最低なやつだ。
「もう、あったま来た。絶対にぎゃふんといわしてやる」
「そうですね。おかげでクラスの自己紹介に間に合いませんでしたし」
「遅れて私たちだけ自己紹介させられるなんて恥かかされましたもの!」
皆おこっていた。モモハだけは先に逃げやがって。なんだかモモハについてもムカつく。まあ、モモハには私に直接話しかけるなって言っているしね。
いつだって私のことを最優先に扱うアイリに窓口をさせている。アイリは青い髪を三つ編みにしてメガネを掛けているかわいい子だ。
家は子爵だけれど、歴史ある家で、特に野草や花に詳しいのだ。特に特性のブレンド茶とか絶品だ。
入学式後の顔合わせもおわったので、あの赤毛をぎゃふんと言わせてやるんだからね。
「ちょっと。赤髪のあなた。さっきはよくもやってくれたわね!」
「誰ですか?知らない人ですね」
むっきー。なんなの。なんなの。人の頭を固いパンで殴りつけておいて。まあ、パンは貴重なので持って帰って後で食べますけれど。
「硬いパンを頭にぶつけたじゃない」
そう言ったのに、まだわらかないとか。とぼけている感じじゃないから、こいつって本当にバカなの?
「ちょ、ちょっとまだわからないって言うの。こいつバカじゃないの!」
アイリも怒っている。アイリは植物に愛情を掛けて育てている。だからこそ、食べ物を粗末にするやつは許せないのだ。
「ちょっと、アイリ。この赤髪って噂になっているイレスティアの赤い悪魔じゃないの。ヤバいって」
モモハがいつの間にかアイリの近くにいて何か言っている。アイリに言うのではなく、私に聞こえるように言っているのだ。
モモハのこう言う所が嫌いなのよね。私は配慮していますって感じなのをアピールしてくるし。
「何言っているのよ。こんな残念なヤツが赤い悪魔なわけないでしょ。赤い悪魔って残虐で、人を人と思わない人間のクズなんでしょ」
ちゃんと私は文官から聞いたのだからね。人相は悪く、性格も傲慢で最悪。こいつが赤い悪魔なら誰かが燃やされていてもおかしくないわ。
「それに、あれでしょ。この中央学園で絶対に敵にしちゃいけない聖ブブロ王国の王女のジャミラ様を敵にまわす向う見ずなバカでしょ?」
うわさ好きの黄色の髪のレーリイがそう言って来た。というか、この赤髪は敵にまわしちゃダメなランク1位とか知らないのかしら?
「こいつが赤い悪魔だったら私たちは多分燃やされているわ。だから違う。こいつは赤い悪魔に似ているからってだけで強気になっているだけよ。それに私たちはどうしてもミルザ王国と接点を持たないといけないのよ!こんな奴が私たちの王子様と仲良くするなんてありえないわ!」
こういう赤髪の女って他にもいそう。まあ、本物の赤い悪魔に早々に見つかって焼き殺されればいいのよ。
「え~と、ちなみにあたなはどちらさまなのかしら?何者なの?」
このバカ全開の赤髪は。あなたと違って私はこの世界で有名なのよ。
「な、なんなの。まさか私を知らないとでもいうのかしら?」
つい声にでた。世界中に姿画を配布した。私を知らない貴族なんているわけがない。ということは、この赤髪は貴族じゃなく商家の金持ちの子とかかしら。世間ってのを教えてあげなきゃね。
「ええ、知らないはでこちゃん。あ、おでこ全開だからでこちゃんね。で、でこちゃんは有名なおでこなの?」
おでこが広い事を私は気にしている。けれど、癖が強いから髪を縛る必要がある。おかげでずっとおでこを出した髪型をしているのだ。
私にまわりにいるものも笑い出した。こいつら覚えていなさいよね!
「わ、私はデコール・フォン・オザームよ。オザーム東方連合国の盟主の娘よ」
「なんだ。名前もあってるじゃん。じゃあ、でこちゃんね。んで、でこちゃんは何?おでこが光るのが悩みなの?」
むっきー。むっきー。むっきー。おでこが光るとか。
ふ、ざ、け、る、な!!
私は怒りでわなわな震えた。
「あ、エリー。そんなところにいたんだね」
闖入者が現れた。ミルザ王国の第二王子だ。天使みたいな顔をした少年。怒りで醜くなった私の顔のまま声をかけることはできない。
だが、あぜかこの二人仲良しなのだ。ひょっとして、このバカ赤髪はミルザ王国出身なのか。
しかもなんだかこの二人仲良すぎでしょ。
「身分が違いますよ」
「学園内では身分は関係ないよ。それにエリーだって王女じゃない」
なんか耳に入った。ちょっと待って。ミルザ王国にエリーという名の王族はいない。いや、赤髪でエリーと呼ばれそうな王族なんて一人しかない。
冷や汗が背中を流れた。
「ちょっとあんた。まさかだと思うけれど本当に『赤い悪魔』なの?」
私が二人の会話に乱入すると一瞬、場が固まりなんだか冷えた目をしたミルザ王国の第二王子が私を見てから赤髪にゆっくりと尋ねた。
「エリー。やっぱりこの子たちは友達なんじゃないの?ちゃんと自己紹介した方がいいと思うよ」
その自己紹介の時に私たちはいなかったんだよ。どこかの誰かが固いパンで殴ってくれたおかげでね。
「教室でしましたわよ。あ、でも、『エリザベートと申します。宜しくお願いいたします』とだけ名乗ったわ。家名を言うとざわつきそうだったから」
は?本物なの?焼き殺される。失礼なことをした。笑顔で私を見つめてくる。いや、目が笑っていない。逃げなきゃ。逃げなきゃ。
「ぎゃ~」
気が付いたら叫びながら逃げていた。
しばらく走って、校庭の芝生の上で転がった。もう走れない。だが、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「ちょっと、モモハ。あんたは私たちと違って自己紹介の時に教室に居たでしょ!どうして言わなかったのよ!」
なんだかもじもじしている。
「あ、モモハ。教えてちょうだい」
アイリがそう言うとモモハはアイリにこう言いだした。
「・・・伝えようとしたのですが、できずにすみません」
「ほんと、使えないわね。まあ、いいわ。イーキャ男爵には慰謝料でも請求しようかしらね。ちゃんと父親に手紙を送っておくのよ!」
イーキャ男爵は金払いだけはいいから。ああいういくらでもお金を出してくれる貴族がいるというのはありがたいわ。
ああ、でもモモハも難いけれど、やっぱりあの赤い悪魔をどうにかしなきゃ。
「お嬢様。私に考えがあります」
レーリイの案は赤い悪魔の噂を流すと言う事だった。
「元々悪評が絶えない相手ですもの。少しくらい噂が増えたって問題ないわよね」
私はレーリイに任せておけばいいと思っていた。レーリイはちょっとやりすぎな所はあるけれど、噂を流すくらいなら問題ないでしょう。
明日が楽しみ。なんてその時はまだ気楽に思っていた。
その明日が最低な一日になるなんて思っていなかったんですもの。




