~全力で魔法を使ってみましょう~
~全力で魔法を使ってみましょう~
私の敵は誰なのか。
最近考えるようになった。父上のことは信じたい。けれど、無条件で信じられるほど私は純粋ではない。
特に聖ブブロ王国に向かう途中でこのように襲撃を受ければ色々と疑いたくなる。
だが、父上よりも怪しいものは多い。私には兄が二人、弟、妹といる。
一番上の兄は残念な性格をしている。二番目の兄は何を考えているのかわからない人だ。
悪辣女王は父上とこの二人の兄を殺害している。
弟は幽閉され、妹は行方不明だったはずだ。
現状、私を狙って得をする人という観点で見ても誰が該当するのかわからない。
投石してくるのはよくわからない正義感を持った人だろうけれど、そういう人を扇動して何が一体したいのだろう。
そんなに私を殺したい人がいるのだろうか?
よくわからない。
不安に思っていたけれど、襲撃されたのはあの1回だけで、それ以降は何事もなくカージェス領に戻ってくれたのだ。
まあ、馬車の御者をミューズが行ったので、道中暇でしたが。リーリカはおしゃべり相手にはなってくれないしね。
というわけで、1か月ぶりにカージェス領に戻ってきました。カージェス領で少しゆっくりしてから聖ブブロ王国に向かう予定です。
「お嬢様。おかえりさない!」
カージェス領に入ると領民に歓迎された。本当にうれしい。
まるでパレードのようにメインストリートに人が集まっている。
領主館に入るとリムバとラナさんが迎えに出て来ていた。
「この1か月で変わったことはあったかしら?」
1か月程度でそんなに変化はないだろうと思っていたらリムバが「実は・・・」とか言い出してきた。
え?あるの?
しかも、結構めんどうなトラブルが起きていた。
トラブルは私たちがこれから行く聖ブブロ王国から司祭がこのカージェス領に派遣されてきたことがはじまりだ。
各領地には教会の設置が義務付けられている。カージェス領にはイージェ村、ノージェ村、セージュ村の3つがあるが、その3つとも教会はある。
どの教会に司祭はいないが、女神像や神具も設置している。ただ、普段は孤児院として使用をしている事が多いのだ。新たに建設?ええ、イージェ村だけはしましたよ。ただ、孤児院と教会はセットにしないと補助金が降りないんだよね。解せぬ。
もともと村にあった教会も古かったため、間取りはそのままに改築を行っている。また、孤児院の収入につながればと隣接する場所にレンガを作る工房や薬草などを育てている農園がある。
このカージェス領にはしばらく司祭はいなかった。そのため、怪我や病気になった時は薬草を煎じて飲んだりして対応をしていたのだよね。
その派遣された司祭がこう言って来たのだという。
「新たな教会を建築する必要がある。そのため、費用を寄付するように」
意味不明だと思った。ならば既存の3つの教会についてはどうなのかというと教会は使用するというのだ。
派遣されたのは司祭と後は従者が3人ほどだという。3つの村に分かれて生活するのなら既存の教会でも問題ない。
「理由は何と言っていますか?」
「とりあえず、費用の請求だけですね」
リムバはため息をついた。
「ちなみに、新設する教会はどこに立てる予定なんですか?」
イージェ村はかなり発展してきており、中心部に飽きスペースはない。
「決まっていないとのことです」
「ふ~ん、新しい教会を建てればいいのでしょう。場所はこちらで決めるというのはどうでしょう?ちょうどイージェ村から離れた所に鎮魂の意味もかねて石碑を立てようと思っていたし」
私がそう言うとリムバもどこなのか理解したみたいだ。
「あの猫族がいた場所ですが、スペースが出来たためなのかわかりませんが、モンスターが住み着いています。それにその延長線上にちょっとやっかいな建物があります」
「ふ~ん、そうなんだ。でも、モンスターが住み着いているのなら討伐しなきゃだね。それに、教会をつくるのなら、外側だけでいいのなら廃材とかあまっているものでいいでしょ。あ、そうそう、ファイアーボールを水平に打ち込んだら道ができるか試してみたかったのよね」
あの場所に行くまでの道はけもの道で移動に時間がかかるのだ。それに、リムバが面白い情報を渡してくれたし。これは利用するしかないわよね。うふふ。
翌日、司祭と面談をすることになった。
「ほう、あなたがあの悪童と名高いエリザベートですか。ほう、そうですか。そうですか」
私を上から下に舐るように見つめてきたのは、太って二重あごに太っているため目も細く、聖人にはまったく見えなかった。
「どうも、はじめまして。エリザベート・フォン・イレスティアと申します」
名乗ったのに、この二重あごおっさんは「ふんっ」とだけ言って来た。名前は「フン」さんとでもしておこう。
「それで、教会を新設するのに必要な費用はいついただけるのでしょうか?」
いきなりフンは金を要求してきた。まあ、そう聞いていたからびっくりはしないけれどね。
「我が領にはすでに3つ教会があり、領民が祈りをささげるには問題ないかと思います」
「わかっておられないですな。信仰とは形が必要なのですよ。あのようなみすぼらしい教会では信仰心も芽生えませんぞ」
みすぼらしいかしら?前は確かにみすぼらしかったけれど、レンガ造りの教会は領主館と比べても遜色ないはずだけれどね。
だって、孤児院として活用するし、アネモネが生活する場所になるんですもの。
自分ファーストってわけじゃないけれど、結構気合い入れて作ったからね。
「そうですか。ただ、すでに領内にはまとまった土地がないのが現状です。そのため、建設をする場所についてはこちらに一任してくれませんか?」
私がうやうやしく頭を下げてそう言ってみた。
「・・・ほう。その態度に免じて許してやろう。どのあたりを考えておるのか見せてくれぬか?」
よし、食いついた。リムバは金銭だけでなく、場所についても「そんなスペースはない」と一喝して断っていたらしい。
だから、私のこの対応を見て、柔和したのだろうと勝手に思ったのだろう。いやいや、そんなわけないだろうが。
「では、ご案内いたします」
そう言ってイージェ村の城壁に案内する。城壁に登るとイージェ村の全容がよく見えるのだ。
「ほう、こう見ると村とはいえ、人が住むレベルには見られる程度には発展しておるではないか」
建物は全てレンガ造りだし、屋根の色も青で統一している。まだ領民が多くないから規模は小さいけれど、かなり発展をしているのだ。かなりイライラが溜まってしまった。
よし、手加減せずに魔力を込めてぶっぱなそう。そう決めた。
「あの先を予定しています」
そう言って森を指差した。森のかなり先には砦のような建物がある。あれはうちの領地ではない。まあ、隣領が管理しているものでもないけれどね。まあ、どうでもいい。ただの目印だ。それに、このフンが見ているのはあんな先ではない。手前の森の部分を見ている。これはありがたいことだ。
「はあ?森ではないか。ふざけているのか」
フンがそう言っていたが、スルーした。スルースキルを身に付けたのだ。ばっちりだね。
「これから開拓を行います。ご希望されますか?」
「当たり前だろう。すぐにやれ。これは聖ブブロ王国としての命令だ!」
いい言葉をもらった。この場には私だけでなく、リムバもミューズもいる。みんな空気を読んで声に出さない。後、このフンのおつきの従者なのかもついている。
「では命令通りさせていただきます。問題ありませんね?」
「あるわけないだろう。すぐにしろ!」
その言葉を受けて私は込められるだけ、魔力を込めたファイアーボールは手の平に出現させた。
大きさは馬車が2台通れるくらいの大きさだ。見た目は大きいけれど、込めている魔力量からすればこれでも圧縮した方だ。
「な、なにをしている!」
「ご安心ください。ご命令とありましたので対応させていただきます。では『ファイアーボール』」
そう言って繰り出したファイアーボールはすでに色が赤色ではなく青色になっていた。青い炎なんて見たことないな。
轟音が響いた。ただ、ちょっと失敗したのは高温すぎて地面がガラスみたいになったことと、予定地に向かって真っすぐ突き進んだ。ちょっと予想より高火力だったけれど。
「な、な、な・・・」
おや、『な』しか言えない人になったのかしら?
「ご命令とありましたので開拓するための道を作らせていただきました。ご命令でしたので問題ありませんよね?」
この延長線上に何があるのかは調査してもらっている。
このフンはがめついが小物である。そして、このフンには上席と言われるものがいる。その上席の隠れ家でもあり、金品を保管している保管倉庫がこの延長線上にあるのだ。
そう、遠くに見えた砦みたいなやつだ。その保管倉庫はガーゴイルが守護をしており、人は配置されていない。
つまり、全力で魔法をぶっぱなしても問題ないのだ。まあ、あの高温、圧縮したファイアーボールでその保管倉庫は消滅しちゃったけれどね。
事前の打ち合わせでは保管庫がちょっと破壊される程度だったんだけれど、まさか消滅しちゃうなんてね。てへぺろ。
なんだかリムバとミューズがヤバい生き物を見る目で私を見ている気がする。気のせいだと思いたい。
「ま、待て。これは何だ。何が起こったのだ。夢だ。これは夢に違いない。ありえない。こんなことありえていいわけがない」
お、『な』以外の言葉を言ってくれるようになった。
「お嬢様。聖ブブロ王国からご命令があったため、道を作ったと伝書鳩を方々に送らせていただきました。新たな道が出来たこともあり、新街道として申請も行っておきます」
リムバがそう言ってくれた。
このフンは消失したあの砦のことを知っていたのかどうかは知らない。けれど、リムバの迅速な行動のおかげで私がカージェス領にいる間にこのフンって男は聖ブブロ王国に強制送還となった。
フンが連れてきた従者にはちゃんといい笑顔で『OHANASI』させていただきましたもの。
皆さん『フンが勝手にやった』と証言すると言ってくれました。自分たちの保身のためにはそう言いますわよね。
「お嬢様。交渉の際に青いファイアーボールを手にするのは辞めてもらえますか?私たちもかなり暑くなるので」
ミューズにそう言われた。いや、ちょっとした茶目っ気で見せてあげただけなのに。
それに今さらちょっとくら逸話が増えたって私の悪評は覆られないし。
というわけで、カージェス領は今日も平和です。
1週間の滞在ののちに私とミューズは聖ブブロ王国に向かうことにした。御者として新たに『ムネリ』という男性を雇い入れた。
ジェムスが認めた強さの男性だ。ただし、ちょっと癖が強いんだよね。




