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~女神の祝福を受けましょう~

~女神の祝福を受けましょう~


 商人の死亡の知らせと共にもう一つの知らせが入った。


「エリーよ。延期になっていたが今日の午後神殿で女神の祝福を受けるぞ」


 父上がそう言って来た。珍しく今日の朝食は父上と一緒だった。母上は後宮にいるため離宮に出て来ることない。


「かしこまりました」


「それと、その後に後宮に顔を出すように。カーラ王妃とミレイがさみしがっていたぞ」


 カーラ王妃は私の母上だ。ミレイは乳母だ。この離宮にいるのは私だけだ。そして、この場所を訪れてくるのは今の所父上だけだ。


 朝食を食べ、侍女が服を着せ替えてくれる。はじめは慣れなかったが、お風呂も着替えも侍女が手伝ってくれる。なんか、貴族様って感じですよね。


 交代制なのか、毎日違う侍女が来て行うので、髪を洗ってもらう時やマッサージのポイントが違うし、こうしてほしいなんていう依頼をしても次の人に引き継ぎもされていない。


 固定したい気持ちもあるが、正直、商人がすぐに死体で見つかったことから、この離宮にいる人の中で誰が信用できるのか、わからないのだ。どこに私を毒殺しようとした人が潜んでいるかわからないからものすごくビクビクしちゃう。


 だから、毎日違う侍女がやってくるのは不安でもあるが、誰が担当なのかすぐにわかるので実行犯が捕まりやすい点もある。ということを父上が教えてくれた。


「お嬢様、着替えが終わりました」


 白をベースに紺色のリボンが付いているワンピースだ。赤い長い髪がかなり目立つ。なんだかこの赤い髪を見ると悪辣女王を思い出すから嫌なのだが、髪を短くすると結い上げることができなくなるため、髪を短くすることは全員から断られたのだ。うん、残念。


 というか、私がその悪辣女王だったわ。絶対にひどいことはしない。心に誓う。


 玄関に行くと馬車が用意されていた。


「お父様。お待たせいたしました」

「おお、エリーはかわいいな。では行こうか」


 馬車は私とお父様。後は侍女が2名ついた。毎日変わるから名前が覚えられないし、次に会うのが約30日後なのだ。しかもその30日の間に入れ変えもあったりするということがわかった。つまり、一回しか巡り会わない侍女もいるというのだ。



 馬車で移動している時に父上に昨日実行犯に尋問しに行ったこと、そこで聞いた商人が殺されていたことを伝えた。


 まあ、商人が死んでいることを教えてくれたのは筆頭執事ではなく、その場に居た執事っぽい人が教えてくれた。これまた次いつ会うかわからない人なのだ。


「そんなことがあったのか」


「ええ、どこからか情報が漏れたのか、どこかに裏切り者がいるのか。解決していないので不安なのです」


 私がそう言うと父上がさらっとこう言って来た。


「ならば、やっぱりこの離宮にいる全員入れ変えればいい。エリーが殺されかけたのだ。まあ、殺すなというのなら全員責任を取って鉱山送りにでもすればいい。いい考えだろう?」


 ちょっと待って。それじゃ、悪辣女王が行ってきた悪行とあまり大差がないような気がする。まあ、確かに安全と言えば安全ではあるけれど、抵抗があるのよね。


 それに、恨まれそうですし。絶対に悪辣女王って色んな所で恨みを買っていたと思うんです。そうじゃないと、革命なんて起きないですもの。


 みんなに好かれる女王を目指します。あ、女王になる必要もないのか。


「お父様。人は宝です。大事にしないといけませんわ」


 私がそう言うと父上が「そうだな。はははは」と笑い出した。笑い事じゃない。私は悪辣女王にならないように頑張りたいのだ。



 報告のような話しが終わり、次は年齢の近い子を持つ貴族の話しになった。


「一度、交流会のようなものを考えておる。その中にエリーの未来の婚約者がいるやもしれないしな」


 悪辣女王の婚約者。それは、この国ではなく他国の王族だ。学園時代に誘拐し、身代金としてその国の財、人をむしり取るだけむしり取り、国を破滅させたのだ。


 できればあの国にも幸せになってほしい。というか、学園に入学した時は色々と気を付けないといけない。被害を広めるわけにはいかないから。


 話しがひと段落した所で神殿についた。



 神殿は白色に統一されているなんというか、背筋が伸びそうな雰囲気のある建物なのだ。円柱の柱があり、中は見渡せるようになっている。壁があるのが礼拝堂だけでそれ以外は開放的な建物なのだ。


「お待ちしておりました」


 出てきたのはこの神殿長のオムスリだ。オムスリはアネモネ時代にも出会っている。その時と比べるとかなり若い。この世界では私はまだ生まれていない。悪辣女王と私は10歳離れているのだ。後5年しないと私は産まれない。


 神殿長のオムスリは革命の時は、神殿勢力は積極的に関与せずに中立でいる事を約束してくれたのだ。神殿は怪我や病気の回復を行っている。有料だが公平に受けいれてくれた。


 中立を守る。それだけだったが、革命軍も等しく回復してくれたし、神殿に泊まることも許してくれたおかげで私たちかなりは楽だった。なぜなら、神殿はどの拠点にもあるからだ。街の大小に関わらず。そして、質素だが食事も提供してくれた。


 後は神殿には最強の騎士と呼ばれるものがいた。そのものが敵にならなかっただけでも本当に助かったのだ。


「それでは神殿の奥の間に行きましょう」


 奥の間に大きな水晶があり、その水晶に触れると精霊たちと繋がり、女神の寵愛を受けることができる。


 私は水晶に手をかざしたら世界が虹色に変わったように見えた。手に5つの属性が光る。だが、この光は自分にしか見えないのだ。


 悪辣女王は火属性だけだったはずだが、全属性反応したのだ。アネモネが全属性だったからその影響なのだろうか。


 奥の間を出ると父上が「どうだった?」と聞いてきたので「全属性でした」と口に出そうとした。


 だが、声は掻き消えていく。全属性であることは言えなかった。だが、その時体を赤い火が包み込んだ。燃えるような火ではない。魔力の塊なだけで何かを燃やすことができるものではない。属性を表すだけの魔力だ。


「ほう、火属性か。いいぞ。火は攻撃にも使えるし、体を温める、料理をするなど生活にも必須な魔法だ。エリーは流石だな」


 そう言って笑っていた父上の目は笑っていなかった。父上には私が全属性でないと思ったからだろう。この日から父上が離宮を訪れなくなったのだ。


 ふと、父親の愛を失ったから悪辣女王になったとでもいうのか?


 親の顔すら知らない、ぬくもりも知らない私はまっすぐに育ったのに。


 そう思ってしまったが、心の中に何かぽっかり何かが開いた気はした。


 もう一つ。同じように私が全属性でないと知った母も後宮に用事がないと来ないようにと言われたのだ。


 乳母であるミレイだけは違ったが。


 世界は悪辣女王に優しくなかった。


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