~カオスな状況を整理しましょう~
~カオスな状況を整理しましょう~
集落について、目の前で起きていることがなかなか理解できなかった。
まず、イージェ村からこの集落に向かった衛兵が四つん這いになりその上に褐色で金髪ロングのスレンダー美女が座っていた。
そのスレンダー美女は一人目の衛兵に腰掛け、爪を研ぎながら足はもう一人の衛兵の背中に乗せていた。
そのスレンダー美女の耳が細長いので、この美女がエルフなのだと分かった。そのエルフの視線の先には森を燃やした後があった。
ただ、その中央に盛り上がった黒い塊があった。多分、死んだ黒猫を燃やした後なのだろう。ってか、すべて消し炭になっているということはかなりの高温で燃やしたのだろう。
そのスレンダー美女の後ろには、一見すると人間の女性に見えるのだが、頭に猫の耳があり、おしりには黒いしっぽが生えているものが10人ほどいた。
その女性はすべて跪いており、頭を下げていた。そのため、顔は見えない、全員黒髪で黒い耳がぺたっとなっていた。
服装は胸が隠れるだけの胸当てを当てていて、下はスカートをはいていた。結構扇情的な服装だ。
この猫たちと違って見た目は人間に見える。ただ、手首と足首のから先とがもふもふしていた。
ってか、この見た目の猫と人の間みたいなのはアネモネ時代に見たことがある。イレスティア王国の兵士としてこういう猫の女性兵がいたからだ。
そして、その猫女性の近くに金髪をおかっぱした前髪ぱっつんの褐色少女がいた。目の色はスレンダー美女と同じ金色。目は蛇とかのような獰猛な感じだ。
これが言っていた親子のエルフか。
「あらぁ?かわいいお嬢ちゃんだことぉ。一体何しにここに来たのかしらぁ?」
くつろいでいると言っていいのかわからないけれど、大人の方のエルフが私をみてこう言って来た。
しかも体は動かさずに首だけが動いている。その動きが人のそれと違いすぎていて怖かった。
「お初にお目にかかります。この近く。カージェス領で領主をしておりますエリザベート・フォン・カージェスと申します」
そう言ってカテーシをして挨拶をする。
沈黙だ。
「ご尊名をお伺いしてもよろしいでしょうか?エルフ様?」
私がそう言うと空気がぴりっとした。
「はぁ?私はダークエルフと。あんな腐れエルフと一緒にしないでちょうだい!」
私のすぐ横をこぶし大のファイアーボール、いや、岩が見えたからファイアーバレットが突き抜けた。威力で、ほっぺたが少し切れた。
こいつやばい。
「これは、失礼いたしました。高名なダークエルフ様とお見受けいたします。ご尊名を愚鈍な私に教えていただけないでしょうか?」
ヤバい、こいつは絶対にヤバい。ちょっとでも気分を害したらそれだけで殺してくるだろう。
勘違いした貴族が、平民を嬲り殺すよりもヤバい。だって、それはちゃんと人を攻撃しているという感じだからだ。
このダークエルフにしてみたら、私たちなんて多分、羽虫をぷちっと殺すとのあまりかわりないのだろう。
それくらいどうでもいい感じの目で見られているのがわかった。そして、強さの差も。
「ふ~ん、あんた面白いのに守られているのね。私はあんたの頭をぶち抜くつもりで放ったのにさ」
ちょっとまって。どういうこと?
そう思っていたら私の影にあるあほ毛の部分が少し動いた。ああ、リーリカが攻撃をずらしてくれたのか。全然気が付かなかった。
「ということは、あんたも暗魔法使いか。ならばちょっとくらい暇つぶしにがてら会話してあげるわ。喜びなさい。ああ、私の名前だったわね。色々あるからどれがいいのかしら?気に入っているのは『サテナ』というのかしらね。後は『リリス』と名乗った時もあったし、『ディーヴァ』だった時もあったかしら?あなたたちの世界でダークエルフと言えば誰を思い出すのかしら?」
そう言われたが、そんなこと知るわけないじゃない。そう思っていたら私の護衛についてきたはずのミューズが震えながらこう言って来た。
「災厄の『シュラ』まさか、あなたが!」
あれ?なんかその名前ってどこかで聞いたことがあるかも。ラナさんが紙芝居でたまに言っていたな。
「悪い事の大半はダークエルフの『厄災のシュラ』が行っているのよ」
え?あれっておとぎ話しの世界じゃないの?
「ああ、そうそう。そう呼ばれたこともあったかしら?それで、私の名前を聞いて満足したのかしら?」
気が付いたら『厄災のシュラ』は私の前に立っていた。え?さっきまで四つん這いになった衛兵を椅子にして座っていたよね。
全然目で追えなかったんですけれど。
「あら?あなた面白い魂しているわね。面白そうだから殺さないでおいてあげる」
厄災のシュラが至近距離にいる。瞬きが出来ない。いや、冷や汗が止まらない。何これ?危険だと理解できているのに指一本動かせない。ついてきたミューズも、ジェムスも同じだ。微動だにできないでいる。このまま嬲られるのをまつだけなのだろうか。
「おかあさん。おなかすいた」
ゆったりとした声がした。後ろにいた子供のダークエルフが声を出したのだ。
その瞬間に張りつめていた空気が変わった。
「あら?さっき食べたじゃない。あれ?さっきってどれくらいだったかしら?もう長く生きていると時間の感覚がわからなくなるのよね。でも、ここにあるものは汚染されて汚らしいからね。ちょっとあんたたち。食べ物を出しなさい」
私はこの時ほど『クリエイトブレッド』を習得しておいてよかったと思った事はなかった。
「このパンおいしいよ!」
愛くるしい顔で笑う少女がそこに居た。この子は私の、いや私たちの命の恩人だ。
「それはよかったです。水もあります」
私はクリエイトウォーターで顔の半分くらいの水球を作りだした。
「お水ももらうね」
そう少女が言うと私がつくったはずの水球の支配権をさくっと奪って行った。え?そんなことできるものなの?はじめてされた。
そして、『厄災のシュラ』は先ほどと違ってこの少女を見る目は優しかった。
「戯れに作った子が癒しになるなんて知らなかったな」
そうつぶやいた。返事が欲しいわけじゃないのだろう。ちゃんと空気くらい私も読める。
沈黙が続いた。なんだかちらちらこちらを見て来るので話題をふれということなのだろう。ひょっとしてこの『厄災のシュラ』ってただのめんどくさい系女子なのだろうか?
「『厄災のシュラ様』はこの地で何をされているのでしょうか?ここはあまりよい環境ではないのか・・・・と・・・・」
最後まで言わせてもらえなかった。厄災のシュラがものすごい勢いで私を見てきたからだ。だが、顔は笑っている。いい笑顔だ。
「ここが穢れていたから、その穢れの塊をもらいに来たのだよ。あれだな」
そう言って燃えた森の一部で少しうず高くなっている黒い燃えカスを指差した。
「ああ、デカい猫ですか。何やら病気だと訴えてきました」
私がそう言うと「はぁ?」って言われた。どうやら返答を間違えたらしい。
ちなみに、ミューズとジェムスは空気と化している。そして、私は立って話しをしていて、『厄災のシュラ』と少女は四つん這いになった衛兵に腰掛けている。
テーブルもないので、同じく四つん這いになった衛兵がテーブル代わりになっている。
「お前、ここの穢れに気が付いていないのかぁ?バカかぁ?そこまでの魔力を持ちながら気が付けないとかおかしいだろうがぁ!!」
やはり逆鱗に触れたみたいだ。話し方が出会った時のように荒々しくなってしまった。そして、私の護衛のはずの二人は空気に徹している。
身分が下のものが口を出すと瞬殺されると思っているのだろうな。そして、その選択は間違っていないような気もする。勘だけれど。
「すみません。愚鈍な私に教えてください」
そう言って頭を下げた。
「お母さん。この人、本当に気が付いていないよ。お母さん詳しいんだから教えてあげてよ。それに私も聞きたいな」
天使がいた。この少女の言葉で『厄災のシュラ』の機嫌が直った。
「そうか、そうか。よかったな。この『エンジェ』がそう言ったから教えてやろうではないか」
ものすごくご機嫌だ。るんるんって感じだ。どういう情緒なのか教えてほしい。
「ここにいた猫族は血縁で交配をしすぎた。そのため、遺伝子レベルで障害が出た。特に免疫不全になったものが多く、ほとんどのものが土着病にかかっていた。だが、普通のものは罹らぬ病だ。助からぬものたちの苦しみを、嘆き、悲観という感情を集めに来たのだ。暗魔法を行使するためにな。そのために燃やした」
ごめんなさい。何を言っているのかまったく理解できません。
きょとん顔をしてしまったが、少女が手を叩いているからこれ以上は聞けないのだろうな。
「だが、面白い種族がいた。そこにいるだろう。女ばかり10名だ。あれは猫族と人族のハーフだ。あんなのが産まれるとは自然の摂理とはまだまだ解明できぬものだな。まあ、『エンジェ』についても解明できぬ存在だ」
私はダークエルフの少女、『エンジェ』を見つめる。
悪辣女王には四天王が居た。ダークエルフの女性の名は確か『エンジェ』だった。だが、どうして、『厄災のシュラ』の子が悪辣女王に協力したのだ?
わからないことだらけだ。
「謎は多いものですね。それで、あの猫人族とでもいいましょうか。彼女たちはどうされる予定でしょうか?」
普通にそう思ったので口にしてしまった。彼女たちはずっと跪き頭を下げたままだ。微動だにしない。というか、動いたら殺されると思っているのだろう。
「さあ?興味ないね。私が今研究しているテーマと関係ないし。もう少ししたらここを立ち去るから好きに生きて、死ねばいいんじゃない?次は女ばかりだからこれまた繁栄させるにも難しいだろうしね。なんだ、欲しいのか?欲しいんだよね。欲しいに決まっている。ならばやるよ」
やるって言われても、どうすればいいの?
「というか、繁殖させておけ。交配実験的なものだ。気になるだろう?なるよね?なるにちがいない。やりたくなっただろう?なら、やるしかない。決まりだな」
ダメだ。『厄災のシュラ』は会話が成立しない。これは受ける以外ないのだろうな。
「かしこまりました。期待に添うよう尽力いたします」
これで終わりかな?もう帰ってくれるのかしら?
ってか、どこに帰るのだろう。近くに居座られたらマジで困る。
「おかあさん。この人面白いね」
そう言って、『エンジェ』が私のほっぺたをむにゅむにゅしてきた。というか、ミューズがその瞬間だけ反応したのだけれど、どういうことよ。
「ほう、こういうのがいいのか。ならば首を落として持ち歩くか?」
いや、いきなり理解の外な返答しないでくださいよ。
「お母さん。ダメ。死んじゃったら血色わるくなっちゃう」
ってか、心配するとこそこなの?
「ならば生け捕りにするか?」
待って、待って。物騒すぎる。ってか、どうして護衛二人はずっと空気なの。ちょっとは主人を護ろうとしましょうよ。
リーリカも脅えて影から出てこないし。ってか、私以外にプレッシャーをずっとかけているのは知っている。私だけが特別扱いなのだ。
「ダメだよ。だって、この人。お母さんのプレッシャーの中でも普通にしているんだよ?」
いや、それは私だけプレッシャーが免除されているからですよ。私がすごいわけじゃなく、この『厄災のシュラ』がすごいんですよ。
「普通なら、プルプル震えたり、冷や汗でびっしょりになって、動けなくなるのに。こんな貴重なのは殺しちゃダメ」
「そうだな。じゃあ、諦めるか。おい、小娘」
「はい!」
諦めてくれてよかった。これで死なずにすんだ。理由は誤解だけれど助かったって思った。
「また、遊びに来る。近いうちにな。じゃあな」
そう言うと二人とも、風が吹いて目を閉じた瞬間に、目の前から消えていた。影渡りともまた違う。何が起こったのだ。
「はぁ~怖かった」
私がそう言って腰砕けになったら周囲も同じようになった。
「お嬢様。流石です。あんな人外と交渉ができるとは!」
いや、ジェムスが持ち上げてくれるが私はすごくない。それに交渉という交渉もできていない。
「お嬢様、ほっぺたは大丈夫でしたか?」
そして、ミューズよ。心配するところはそこなの?そして、ほっぺたをぷにった後にお腹をつまむのは辞めて欲しい。
「さて、彼女たちをどうしましょうか?」
私は猫人族の10人を見つめた。見捨てるわけにもいかないし、繁殖させないといけないんだよね。ってか、まず彼女たちとは会話できるのだろうか?
「ねえ、あなたたちはどうしたいのかしら?言葉わかる?」
そう尋ねると10人はこう言って来た。
「私たちは全てあなた様のしもべとなりますにゃ!!」
とりあえず、会話は出来そうなので、一旦イージェ村に連れて行くのがいいかしら。それに、イージェ村は男性比率が高いのが問題になっていたし。これで結婚して出生率も上げてもらわないとね。
でも、まだまだ問題は山積みなのだった。




