~魔法の練習をしましょう~
~魔法の練習をしましょう~
ミューズに怒られてから、私は領主館の一角で積み木とか絵本を渡された。
いや、見た目は確かに5歳ですが、中身は違うんですよ。こんなもの渡されても困ります。
しかも、同じような年代の子供もあてがわれている。
ここは託児所か!
男子は走って暴れているし、女子は隅っこでよくわからないごっこ遊びをして盛り上がっている。
ごめん。この場所は精神的にきつい。仕方がないので女王様っぽく椅子を持ってきて遠くから子供を監視する役目をしています。
ミューズさん。私が悪かったです。だから、ここから出してください。
「ほほえましいですね」
いや、ラナさん。あなたにはこの景色がどう映っているんですか?
あ、そうだ。ラナさんが孤児院を運営していたんだ。子ども大好きだったんだ。
「お嬢様も一緒に遊びましょう」
ラナさんにそう言ってお手製の紙芝居で物語を話し出した。
ああ、この紙芝居懐かしいな。
紙芝居の内容は、平民だった少女が貴族の男性に見初められる話し。けれど、身分の違いもあり、また貴族の男性には、高位の貴族の令嬢との婚約も決まっていた。
家を取るか、恋を取るか。
その貴族の男性は悩んだ末、恋を取ることを決意し、貴族の位を捨てて平民の少女と共に暮らすことを決意する。
貴族の令嬢は自分のプライドを傷つけられたとして、平民の少女に対して嫌がらせをする。
平民の少女の実家は商売をしていた。
貴族の令嬢はその少女の実家に圧力をかけ、商売が成り立たない様に追い込む。
また、巧妙にだまして少女の実家に負債を負わせる。
借金が返済できないのならば少女を娼館に売り払えと圧力をかけたのだ。
少女の実親はその申し出を拒否。自ら奴隷に落ちることを選択し、少女を助ける。
納得がいかない貴族の令嬢は少女を暴漢に襲わせることを指示。
本来は少女を少し怖がらせるだけのつもりだったが少女は貞操を守るために自害してしまう。
嘆き苦しんだ元貴族の男性は自らの毒杯を飲み干し死ぬのだった。
その様子を見ていた女神が二人の魂を浄化。二人は転生し、幸せに暮らしたとのことだった。
当時は何とも思わなかった話しだけれど、自分が転生?というか生まれ変わり?みたいな感じなったのでこれは女神が何かしたのかと考えてしまった。
でも、なんで悪辣女王なんかに生まれ変わってしまったんだろう?
というか、私はアネモネ時代に別に何か良いことを行った記憶もない。
ただ、あるのはこの胸にあるこの魔方陣って何なんだろう?
オリビアのことがあったら、金貨を自分の胸にある魔方陣に当てて見たけれど何もおきなかったし、他にも色々試してみた。
聖水をぶっかけて見てこすってみたりもしたけれど消えなかったしね。文字はうねうね動いているけれど。相変わらず気持ち悪い。
こんな気持ち悪いのが女神の何かなのだろうか?
というか、ラナさんはこの話しをどこから仕入れたのだろう?
「ラナさん。さっきの話しって誰かから聞いた話しなのですの?」
「あれは、聖ブブロ王国から来た方が話されていたお話しですね。たまに僧侶さんが山を越えて来られるから」
聖ブブロ王国か。そう言えばずっと『神に祈れば救われる』とか言っているんだよね。祈って救われている人を見た事はないんだけれど。
祈りや聖典よりパンが欲しいって思っていた。あ、そうだ。パンを魔法で出せるんだよね。
「ねえ、皆はお腹すいていない?」
私はそう言って皆に声をかけた。当たり前だがお腹を空かせていない子供はいない。
「すいたー」
「ぺこぺこ」
「すいているに決まっているじゃない」
各々そう言っていた。ラナさんを見る。
「ここにいる子供たちを満腹にできるご飯はないですが、お嬢様はお腹がすいたのですか?」
そう聞いてきた。ふふふ。括目するがいい。
「クリエイトブレッド」
私は魔力を込めて魔法を発動させた。ってか、今までの魔法と違って魔力をごっそり持って行かれたのがわかった。
けれど、目の前にはふかふかの柔らかそうな白いパンが現れた。
うん、成功だ。
「さあ、みんな食べて!」
ものすごい勢いで子供たちがパンに群がった。私も食べたが首をかしげてしまった。
パンには違いないのだが、もそもそしているのだ。オーゴの『クリエイトブレッド』と比べると何もかもが違う。
食べれるっちゃ、食べれるんだけれどおいしくない。子どもたちはでも気にせずに食べている。
なんかもうちょっと練習が必要なのかもしれない。
というわけで、私はこれからしばらくの間。この子ども部屋に閉じ込められていたのだけれど、その間ずっと『クリエイトブレッド』の練習をしていた。
2週間経過。
私は毎日『クリエイトブレッド』でパンを出しては、子供たちとラナさんの反応を見ていた。
この『クリエイトブレッド』は『クリエイトウォーター』と同じでイメージが重要なのだ。今まで食べたパンのイメージと言えば、アネモネ時代に配給されたくそまずいパンのイメージが強い。
そのため、あのくそまずいパンに引きずられて、味が落ちていたみたいなのだ。
日常的に食べているパンも高級というわけではないが、このパンを再現することができたのだ。おかげで子供たちも満足してくれている。
ただ、あまり作りすぎるとこのイージェ村でパンを作って販売している店に悪い。そのため、最低限のパンだけを作ることにした。
「今日で視察団が帰還することになります。最後はお嬢様にも見送りに参加してもらいます」
ミューズにそう言われた。おお、この子供部屋に閉じこもっていた甲斐があったみたいだ。
私はあのファイアーボール事件以降、オーガストから避けられていた。まあ、顔を合わしたら手のひらを上にしてにやりと笑うだけで怖がられていた。
いや、別に魔力を練ったりファイアーボールを具現化させたりしてないんだよ。
もう、幼女を見て怖がるとかやめてほしいんですけれど。
じゃあ、後は見送れば終了なんですよね。笑顔で見送りますよ。いい笑顔でね。
「あ、お嬢様。その笑顔は邪悪すぎですよ」
そう言ったミューズの顔も邪悪そのものだった。
後から聞いたけれど、この2週間は本当にミューズにとって辛い事ばかりだったと言う。詳細は教えてもらえなかった。けれど、これでようやく私はイージェ村の改革が出来るんだ。
がんばるぞ!




