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~状況を整理しましょう~

~状況を整理しましょう~


 薬湯が効いたのかわからないけれど、2日目で起き上がることが出来るようになった。


 その間、重湯やおかゆを食べさせてもらった。おいしいは正義だ。ただ、ずっと左胸が痛いと思っていて自分の胸を見たら、なんと赤黒い複雑な文様の魔方陣が刻まれていた。


 しかも、触ると若干魔方陣の文字が動いたように感じた。なにこれ?気持ち悪い。こすっても消えないからみなかったことにしよう。見なければ大丈夫。


 でも本当に鏡を見る度に思う。夢じゃないとすれば私はあの悪辣女王と言われ、国民から嫌われ革命を起こされる女王エリザベートに転生したのだと。


 最悪だ。いや、精霊神の力なのかなんなのかわからないけれど、私はあの時死なずに済んだのは。それは感謝しています。


 けれど、よりによって殺される運命の悪辣女王エリザベートに転生ってどうしてよ。


 なんでこうなったのよ。


 多分、あの悪辣女王かあの黒フードのおっちょこちょいさんのどちらかが何かをした結果なんでしょうね?


 侍女に聞くと私はもうすぐ5歳で、『女神の祝福の儀』を受ける前らしい。


 5歳の誕生パーティで出されたドリンクを飲んだら、そのドリンクに毒が入っていたらしく、そのまま倒れ死にかけたらしいのだ。


 そのタイミングで転生したみたいなんだよね。まあ、転生してすぐに死亡にならなくて本当によかったわ。



 それで、私は自分が知っている悪辣女王のエピソードを思い出していたのだ。


 どうしてかというと、折角転生したのだ。私が死なない様にするために悪辣女王と言われる理由となったエピソードを回避すればいいのだと思ったのだ。


 まずは最初の悪辣エピソードはエリザベートが5歳の時だ。

 確か、エリザベートは5歳の時に魔力暴走を起こし、離宮にいた従者50人を焼き殺している。

 5歳のころからこれだ。


 詳しい事は知らないけれど、後は8歳の時に任された領地にある村一つを焼き尽くし、12歳の時に学園で他国の王子を拉致。


 15歳で父と兄を焼き殺し女王に即位するのだ。


 そこから、北にあるラース帝国と戦争をするため、民を無理やり兵士に徴兵。そのため、農作物の収穫量が減るのだ。


 食糧が減った後に、貧民街で疫病が流行、さらに冷害のため少なくなり、国民の大半が飢えて苦しんだ。


 それなのにもかかわらず王都では贅沢三昧。その状況を嘆き北の辺境を治めるダールトン辺境伯がラース帝国の力を借りて革命を起こしたのだ。


 知っていることはこれくらいだ。本当はもっとあるらしいのだが、詳細は知らないし、覚えていない。


 ってか、私自身がエリザベートに転生するのならもっとちゃんと聞いておけばよかった。だって、孤児院では文字や算術を教えてくれたけれど、イレスティア王国の状況や悪辣女王のことについては教わることなかったし、知ろうとしても止められたのよね。


 まあ、今わかっていることは5歳の時点で魔力暴走させないようにすることなんだけれど、あまりいい状況ではないのよね。


 まず、侍女の顔が覚えられない。どうやら、ローテーションが組まれており、1か月に1回のペースでしか私の側に来ないみたいなのよ。


 おかげで、今日仲良くなった侍女と次出会うのは1か月後なのよ。仲良くなることなんてできませんわ。


 それともう一つまだ体力が戻っていないのだ。起き上がることはできたけれど、長時間歩けないのだ。


 どうやら毒の影響で筋力がかなり低下したみたいなの。


「エリー。お前を毒殺しようとした実行犯を捕まえたぞ。だが、なかなか口を割らぬのじゃ。実行犯一人ではなく誰かを庇っておるのじゃろう。だからこの離宮にいるもの全てを入れ変えようかと思っておる。全員エリーが苦しんだ毒をつかってな」


 父上が来て物騒なことを言い出した。


 ってか、どれだけ父上の愛が重いんだ。この離宮にいるのって50人だよね。それを全員毒殺するって言い出したよ。


 でも、おかしい。だって、この状況で50人を毒殺したら悪辣女王エピソードにある50人を焼き殺すよりも50人毒殺の方が目立つ。


 そもそもそんな話しは広まっていない。ということは、この50人毒殺は実際には起きなかったはずだ。


 では、なぜ起きなかった未来が起きそうになっているのか。その原因は・・・


 やっぱり私だよな。ってことは5歳のエリザベートは何かをしてこの50人毒殺を回避したんだ。


「私が毒を飲むに至るまではどういう状況だったのですか?」


 確認しないといけないよね?


 でも、聞いたってまったくどうしていいのかわからない。


 悪辣女王のエリザベートって残虐非道ではあったが優秀でもあったと言われている。


 でも、私は女王でもなくただの平民だし、革命軍においては一般兵だった。


 そんな知識はない。それに、今は味方もいない。


 ってか、よく考えたらこの離宮にいる50人の中に毒殺未遂に関わった人が居る状況なのよね?


 味方がいないじゃなく、どこかに敵がいる状況じゃない。


 マズイ、マズイ、マズイ。


 やっぱり人を入れ変えた方が安全なのかもしれない。でも、50人の毒殺には関わりたくないな。


「そうじゃな。詳細は筆頭執事に確認してくれ。この離宮を管理しているのは筆頭執事のスチュワートだからな。儂も執務があるから王城にこれから戻る。エリーよ。寂しい思いをさせてすまないな」


 この国王は娘を強く思っているのだろう。思いすぎているから重いことを平気でやってのけそうで怖い。


 赤い髪をオールバックにして、時折赤い目はわらっていなこともあるがいい人だと思う、いや思いたい。だって、忙しいはずなのに近くもない離宮まで顔を出しに来てくれるのだ。


 どうして悪辣女王はこの父上を殺してまで王位を簒奪しようとしたのだろう?


「あ、ありがとう。お父様」


 私がそういうとおでこにキスをされた。


 ああ、こういう親の愛を受けていたはずなのに、どうして悪辣女王のような極悪非道が産まれたのだろう。


 わからないことだらけだ。悩んでいたらドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します」


 メガネをかけて頬がこけた神経質そうな顔をした中年がそこにいた。金髪はオールバックにしている。オールバック流行っているのかしら?


「筆頭執事のスチュワートでございます。今回の事件について説明するように指示をうけております」


 そう言ってスチュワートが頭を下げた。よく考えたら私は5歳だ。


「スチュワート。教えてくれませんか?何があったのか」


 そこで私は茫然としたのだ。私が倒れたのは私の5歳を祝う誕生会だったという。


 父上と母上は仕事で急きょ遅れることになり、親族や関係者の前で私が演説をした後に乾杯の音頭を取ったらしい。というか、5歳児だよね?あ、スチュワートが横でサポートしてくれたのね。ありがとう。


 それで、乾杯をしたと思ったらそのまま私は倒れたそうだ。おかげで、すごい騒動になったというし、女神の祝福の儀も延期になっているという。


「そうですね。後で神殿に行き祝福の儀を行いましょう」


 スチュワートにそう言われた。私は5歳の祝福の儀式がまだ先だと思っていたからだ。というか、祝福を受けちゃったら次はこの離宮と使用人を焼き殺す事件が起きるんだよね。


 ってか、私が焼かなければいいだけなんだけれど、心の準備がまだできていないというか、ちょっと『祝福の儀』を避けたいって思っちゃうんだよね。


「祝福の儀は後で受けますが、先にこの事件の犯人が知りたいです。実行犯は捕まったんですよね。そのものは何と言っているのですか?」


「それが、要領を得ないのです。商人に騙されただけとしか言わないので。強情なのです」


 スチュワートが面白くなさそうにそう言った。それって、その犯人はそれしか言わないのではなく、それしか知らないのではないのかしら?


「その商人というのは調べましたか?」


「実行犯の言う事を信じるのですか?」


 なんだか話しが平行線だ。


「ならば、そのものに私が聞きます。連れて行ってください」


 私は力強くそう言った。まあ、5歳児が胸を張って威張っても威厳も何もないんですけれどね。



 ということで、離宮から馬車に乗り、王城の方に向かいました。どうやら私がいるところは王城からも結構離れているみたいです。馬車で40分ほどゆらゆら揺られてやってきたのは薄暗い地下牢です。


 うん、子どもの教育に悪いところですね。だって、むせ返る血の臭いと酸っぱい何かの臭いがします。考えないようにしてハンカチで口と鼻を抑えました。


「この先の独房に入れております」


 そう言って扉があけられた。そこには半裸の女性が横たわっていた。


「締め上げ、爪をはぎましたが口を割りません」


 黒づくめの男性がそう言っている。


「ねえ、あなた。名前はなんていうの?」


 私がそう聞くと女性は私を見て頭を下げた。


「エリザベート様。今回は私の確認不足のため苦しい思いをさせてすみませんでした。私はマリーリカと申します」


 顔を見ても思い出せない。というか、あの離宮って使用人が50人くらいいるから顔と名前がわかるものってほとんどいないのよね。


 スチュワートについても今日会ってはじめて顔と名前が一致したくらいだし。これは問題だ。


「マリーリカ。何があったのか教えてくれないかしら?」


「はい。私はあの日。エリザベート様が飲みやすい甘くてあっさりした果実水を用意していました。けれど、その日に限っていい果物がなかったのです。その時にいつもとは違う行商人がやってきました。水色のローブを着た赤い瞳に黒い髪をした褐色の男性でした。そのものが果物を売ってくれました。見たことない果物でしたが食べると少し酸味があるけれどほんのり甘味があるレモンのようなものでした。その果実を購入し、果実水を作るために一度沸騰させてから冷やし、砂糖を追加いたしました。その果実水を出したのですが、どうやらその果実は加熱すると毒性を持つものだったようです。私は知らなかったのです」


 マリーリカは震えながら、泣いていた。これが演技だったらすごいだろうな。多分実際のことなのだろう。


「ねえ、マリーリカ。なぜ果実を加熱しようと思ったの?」


「その商人が過熱すると味に深みが出ると言われたので試しました。自分でも試飲をしましたが、問題はありませんでした」


 どうして問題がなかったのか。スチュワートが冷たく言い放った。


「あの果実は女神の祝福を受けていないものは毒性を分解できないのだ。どこであの果実を手に入れた。あれは禁制のものだ」


「知らなかったのです。本当に、本当に」


 なるほど。マリーリカの話しを信じることをしない人からすると、何かを隠している、庇っているようにも聞こえるのだろうな。


「ねえ、このマリーリカが言っている商人がいるか確認してほしいの?その商人が禁制のものをどこからか入手して売りさばいているのでしょ。ならば似顔絵を描いて衛兵が調査すればよいのでは?」


「こんな罪人の言う事を信じるのですか?」


 スチュワートが声を荒げる。


「すべての可能性を調べるのも大事なことです。それとも、何か調べられない理由でもあるのですか?」


 私がそう言うと横にいた黒い服をきた男性が「こちらで調べます」と言ってくれた。良かった。


「マリーリカ。貴女の言う事が本当かどうか調べるから。それまで拷問はなし。彼女は実行犯か利用されただけなのかわからないから」


「わかりました。私の方でも調査いたします。ケッヘル。家の者に伝えて調べるように」


 スチュワートも動いてくれた。これで変化が起きるはずだ。私はそう信じて離宮に戻った。 


 次の日。該当の商人は見つかった。死体で。


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