~世界は変えられなくても、一人でも未来を変えましょう~
~世界は変えられなくても、一人でも未来を変えましょう~
一度夜中に目を醒ましたけれど、その後も眠りについた。ただ、その後は普通の睡眠でオーゴの意識を垣間見ることもなかった。
ただ、解ったこともある。オーゴが使っていたパンを作り出す『クリエイトブレッド』だけ使えることはわかった。
剣技とかについては頭の中では理解できているが、体が幼すぎるためうまく動かすことができない。
この『吸収』という魔法は便利なものでもなんでもないのだとわかった。記憶だって、垣間見た内容以外オーゴの事はわからない。
そう、何かを吸収できたような気がするのだが、何を得たのか自分でわからないのだ。
ベッドから起きて、身だしなみを整えてから、扉をあけようとした。
「おはようございます」
扉が目の前で開いた。そこにはミューズが立っていた。いや、美人さんが無表情で立っているって怖いですよ。
「お、おはようございます。ミューズさ・・ん?」
なんだか無言のプレッシャーを感じた。
「これから、このイージェ村にある領主館に向かいます。ただ、昨日戦ったため、かなりあれております。住民に手伝いを依頼しておりますが、出せる金額も少ないため何名来るか不明です」
イージェ村は私が知っていた時よりもかなり貧しいし、何人参加してくるのだろう?
領主館の前には3人だけいた。みすぼらしい服装をしていたので孤児なのではと思う。まだ、私が育った孤児院はないため、仕事もなくあぶれている人なのだろう。
ただ、その3人だが見覚えのある顔立ちだったのだ。
「自己紹介をまずしてください」
ミューズがそう言うと一人目の10代後半の女性がこう答えた。その女性はくすんだ金髪を二つ結びにしていて、顔の半分を隠していた。顔の半分に赤い痣があるのだ。
「私はラナと申します」
ラナさん。彼女は孤児院を取りまとめていてくれた人だ。そして、私が革命軍に参加するきっかけになった人でもある。
そう、ラナさんは私たちを庇って盗賊に殺されたのだから。いや、盗賊を装ったイレスティア王国軍にだ。
そのことは後から助けにやってきた革命軍の人たちが教えてくれたが、それが真実かどうか私にはわからない。ただ、泣いていたってラナさんは生き返らないし、おなかも膨れない。
生きるために私は革命軍に参加したのだ。だが、どうして革命軍はこんな果ての場所にいたのだろう?革命軍に参加する前のことはわからないからな。
でも、ラナさんを助けることができるかもしれない。未来を変える。私ならできるもの。
「ラナ。あなたは普段の仕事は何をしているのですか?」
私はラナさんにそう確認した。私が出会った時のラナさんは右足を引きずっており、また、顔に痣があるということから忌み嫌われていて、糞尿のくみ取りや村のゴミをまとめて、焼却するという汚れ仕事をさせられていたのだ。
今日も村から誰か出さないといけないということもあり、ラナさんが仕事を押し付けられたのだろう。
「え~と、色々しています。まあ、あまり裕福ではありませんが」
5歳児の私が確認したのに、ラナさんは答えてくれた。
私は知っている。ラナさんが孤児院で作ってくれたご飯はおいしかった。野草や食べられる部分がないと判断された骨や捨てられた内臓をつかって料理を作ってくれていたのだ。
「そうですか。今、領主館では働くものが一人もおりません。もし、ラナさんがよかったら領主館で働いてもらえませんか?」
私がそう言うとミューズがびっくりした表情をした。
「お嬢様。このようなものを召し抱えるというのですか?それに、この容姿に、足だって不自由なのです。一体何を考えているんですか?」
そりゃ、普通そうなるよね。でも、私は折れないよ。だって、私はわがまま姫なんでしょう?そう、思われているのなら最大限活用しなきゃ。
「ミューズ。もしラナを雇い入れたらこの村はどういう反応すると思いますか?」
「おそらくラナを苛めるのではと思います。人の妬み、嫉みは怖いものですから」
ミューズがそう言うとラナはびくっと体を動かした。その恐怖が伝わったのだろう。
「では、ラナには領主館で生活をしてもらい、外に出ないというのはどうでしょうか?掃除、洗濯、炊事など外に出ずに仕事をしてもらいます。それと優秀なものを雇い入れる、仕事を与えると伝えたらどうでしょうか?」
イージェ村でラナさんの評価は低い。孤児院を任せられていた背景は知らないけれど、アネモネの時に孤児院で生活していた時に村のみんなは助けてもくれなかった。
ラナさんの世界を変えたい。確かにラナさんの世界を変えたって、イレスティア王国が革命される未来は変わらない。
けれど、ラナさんの未来は確実に変わる。私は恩を受けたラナさんには生きていて欲しいのだ。
「わかりました。それで残りの二人はどうされるのですか?」
ラナさんの他に二人いる。ここでこの二人を雇い入れなかったら問題になるだろうな。
「もちろん、雇い入れます」
残りの二人、男性と女性。
男性は左手の手首から先がなかった。歳は30代くらい。名前はジェムス。
元冒険者らしいのだが、モンスターと戦った時に左手首を食いちぎられたそうだ。聞いているだけで痛そうだ。
私の記憶にこのジェムスという人はいない。おそらくこのイージェ村を出てどこかにいったのか、亡くなったのかどちらかだろう。坊主頭で体格もいい。大きい目と口ひげが特徴だ。こんな見た目なら覚えているはずだ。
女性は名前を聞いた時に頭を抱えてしまった。名前だけは知っていたからだ。
彼女の名前は『オリビア』歳は20歳。かわいらしい感じなのだが、イージェ村で語り継がれているのだ。
略奪のオリビア。そう、多くの既婚男性に色目を使い、金を搾り取る悪女だと。
その結果、イージェ村の女性から不評を買い、初の私刑執行となったのだ。
イージェ村では不義理なことをすると『オリビアのように石つぶてを投げられて殺されたいの?』と言われるくらいなのだ。そして、『オリビア事件』から村では疑わしきものを罰するという風潮になったのだ。
私はオリビエと会ったことはない。
けれど、『あの』オリビエがこの領主館の仕事を押し付けられるくらいなのだ。
すでに火種はくすぶっていると思った方がいいのだろうな。
さて、どうしましょう?




