~決意を新たにしましょう~
~決意を新たにしましょう~
霧を晴らしたら、そこにはひん死のオーゴが居ました。というか、右胸を貫かれ、右太もも、左腕、左わき腹と滅多刺し状態だった。
ミューズはすぐにオーゴの元に駆け寄ったが、かなり危険な状態だという。
イージェ村、いいえカージェス領にちゃんとした医師はいない。薬師なら一人いるが作れるのは簡易なポーションと解熱剤くらいだ。
つまり、この状態のオーゴをどうにかできるものはいない。
「オーゴ。気をしっかり持って!」
「・・・いや、この傷は厳しいだろう。もう、俺はダメだ」
見た感じ助かりそうにはない。血を止めているが、右胸と左わき腹は助かりそうもない傷だ。オーゴが私を見つめる。
「不思議な子だな。お前は」
オーゴが私に手を差し出した。私はその手を掴んだ。その瞬間何かが駆け抜けた。何だろう。私はこの感覚を知っている。
ネクロマンシーとは違う魔法だ。だが、これは人の尊厳を奪う魔法だ。使っていい魔法なのだろうか?
頭の中に浮かんだのは、暗魔法の中にある『吸収』という魔法だ。
自分より弱っている相手のスキル、記憶を『吸収』する魔法だ。オーゴを助けることはできない。けれど、オーゴの魂を飲みこむことは出来る。
その記憶もスキルも。おそらく『ネクロマンシー』と同じでいつでも使える魔法じゃないのだろう。
だが、死を冒涜することにならないだろうか。私は望んでいない。けれど、勝手に『吸収』は発動してしまった。
なぜ?
オーゴと手を掴んでいたから?それともこの『未来』が決まっていたから?
私は拒絶したのに、「嫌ぁぁぁあ!」って叫んだのに。止められなかった。
色んな思い、記憶が頭の中に入ってくる。気持ち悪い。気が付いたら私は気絶していた。
目を醒ました。
いや、どちらかというと覚醒する前のようなふわふわした感じがする。
周囲を見渡すと王城の一角のような感じがした。床や壁は石でできているし、窓から見える城壁は高くそびえたっている。そして、城門の上には赤色に金の淵、中央に剣と獅子が描かれている。イレスティア王国の国旗だ。
「なあ、オーゴ。お前王女の護衛に着くんだってな?」
そう言って声をかけてきたのはダークブラウンの髪を肩口で一つ結びをしている男性だ。年齢はまだ若そう。オーゴと同い年に見える。
「レックス。どこから聞いたんだ?」
私は傍観者なのだと気が付いた。これは多分オーゴの記憶。私はその記憶を見ているのだろう。自分が透明になった感じがした。ものにも触れられないし、声を発することもできない。
「ああ、ザインからだな。あいつどうやら盗み聞きしていたみたいで、情報広めてるみたいだな」
「隊長にぼこられるだろうな」
「違いない。それで、オーゴ。その女王はすごいわがままで魔力暴走までする危険で有名なんだろ?大丈夫なのかよ」
え?ちょっと待って。私ってわがままなの?魔力暴走はそういう設定にしたから仕方ないけれど、わがままだなって知らないわよ。
「ああ、捕えていた罪人に面会を求めたり、死体を持ち返ったりとかの話しだよね。聞いている。まあ、これからは王族でもなくなるのだ。徐々にわかってもらうよう教育していく」
ちょっと待ってよ。あれは違うのよ。だって衛兵の方が態度わるかったのだし、それに死体を持ち返ったと言うか、勝手に殺したのは衛兵でしょうが!
声を大にして言いたい。私はわがままじゃないって。
「それで同行する相手は決まったのか?」
「まあな、これから顔合わせだ。悪いが相手の事は知っているが俺から情報はださないからな」
ってか、オーゴってしっかりしているのね。こういう時にうっかり名前を言わないあたりが流石だと思った。
「流石だな。もし、名前を言ったら隊長に報告するとこだった」
「やっぱりな。隊長怖えからな。じゃあ、言ってくるわ。任務終ったらうまいものでも喰いに行こうな」
オーゴはそう言って笑って移動していった。そう言えば、私の横に居た時のオーゴって一回も笑っていなかったな。
あんないい笑顔するんだって思った。それにもうオーゴはこのレックスには会えないのか。私がもっとうまく対応できていればよかったのに。
扉を開けると、一緒に私の護衛としてやってきたミューズが立っていた。そして、もう一人白銀の髪をオールバックにした中年の男性が立っていた。片メガネをしておりきれいな顔立ちをしているが体格がヤバい。
まず胸板がかなり厚い、そして、腕も太い。顔は理知的なのに体が細マッチョなんだよ。何このアンバランス。なんか怖いんですけれど。
「隊長失礼いたします!」
オーゴが片膝をついて頭を下げた。この人が怖いと言っていた隊長さんか。というか、オーラがすでにヤバい。
こんな人王城に居たんだ。敵として出会ったこともないから出会う前に死亡しているのか、他国に亡命したか、革命軍に参加していたのかどれかなのかしら?
「オーゴよ。待っていたぞ。こちらが同じ役目を付くミューズだ」
オーゴがミューズを見た時に心臓の高鳴ったのがわかった。どこかで私とオーゴがつながっているということか。
「はじめまして。オーゴと申します」
「ああ、私がミューズだ。君のことは隊長から聞いている優秀なんだってな」
ミューズが差し出した手をオーゴは握っていた。女性騎士の手だ。私なんかのぷにっとした手と違って硬かった。そして、ミューズの頬は少しだけ赤くなっていた。
ひょっとしてこの二人は相思相愛なのか?横にいる隊長の口がにやっとしていた。
あれ?なんだか世界がぐるぐるしてきた。
え?なんで?そう思ていたら世界が暗転した。
「大丈夫?」
目の前にミューズの顔があった。周囲は暗いから夜なのだろう。
「ここは?」
一瞬どこかわからなかった。
「今日は宿屋に泊りました。あの後色々ありましたので、明日からは領主館で過ごしてもらいます」
そう言ったミューズは無表情だった。感情を消しているのだと思った。
ごめんね。オーゴを助けてあげられなくて。
私は誰かが悲しむような未来を避けたい。そう思った。
ただ、できるのだろうか。一兵卒だった私にそんなことが。
気負っても、願ってもできない事はあるし、すくえない人なんていっぱいいる。後悔もいっぱいするのだ。
それを知るのはもう少しだけ後のことだ。




