~書類整理をしましょう~
~書類整理をしましょう~
「お前たちが王都から左遷されてきた罪人か。しかもこのカージェスを治めるとか。いいかお前らはただの飾りだ。領地運営は儂に任せておくがいい」
イージェの村にやってきて馬車を降りて最初に出迎えてくれたのは、カージェスの執務を取りまとめている『ヴォンド・イェーガー』という男性だ。
このヴォンドは元貴族だが、親の借金から貴族位を商人に売ったのだ。そのため、貴族の証であるミドルネームから『フォン』がはく奪され、家名も『カージェス』ではなく、売りとばした「イェーガー」を名乗っている。
貴族位を購入した商人は貴族としての名だけが欲しかっただけで、領地については王家に返納した。そのため、この『カージェス領』は少し前まで王直轄領だったのだ。
ヴォンドは小さめの丸メガネをかけており、くすんだ黄色の髪を七三わけた背の低いおっさんだ。
「これはイェーガー殿。ご丁寧にありがとうございます。けれど、私も父上よりこのカージェスを治めるよう言われております。そのため、申し訳ないですが、先にここ数年の収支報告書を確認させてください」
「ふん、ガキが見てわかるものか。まあ、領主ごっこを楽しめばいい。勝手にしろ。報告書は資料室にある。そうだ。そんなに資料が好きなら1週間ほど資料室に籠って置け。そこからでるな」
おお、これはありがたい。確かにヴォンド・イェーガーの両親は多大な借金を負った。それは商人に騙されたとも言われていたが、別に散財するためではなかったと聞く。
カージェスに着任する前に納税状況などを確認していたのだが、納税額が少なすぎるため、調査をしてほしいと言われていたのだ。
まあ、5歳の私にお願いしたわけではなく、オーゴとミューズの二人がお願いを受けていたのだ。
その依頼状況をリーリカ経由で教わったのだ。
「では、行きましょう。オーゴ、ミューズ同行してください」
「はっ!」
この二人はどうやって資料室に入ろうか悩んでいたはずだ。そして、その間に馬車の御者をしていたリムバは馬車を移動させ、馬を厩舎に移動させていた。更にそっと姿を消している。
この3人って私の部下じゃなく父上の部下だから全幅の信頼ができるわけじゃないけれど、仕事は出来るのだろうなって思った。
敵ではない3人と思っている。3人の行動はリーリカに監視をさせていたからだ。伝書鳩をつかって定期的に父上に報告を送っているのを見る限り私とこのカージェス領の監視が目的なのだろう。
資料室に入ると外からカギを掛けられた。
「ああ、1週間そこにいろよな。まあ、食事は知らねえ。まあ、喰わなくても死にはしないだろう?まあ、運が悪かったら死ぬかもしれないがな」
そうヴォンドは言って去っていった。
資料室には数多くの箱が設置されていた。手前はここ最近触っているのか埃がないが、奥の方は埃が充満している。
うん、空気が悪い。そして換気のための窓は壁の上側にあるだけだ。でも、この壁の向こうは外だと言う事は解った。
「あの、空気の入れ替えをしたいのですがいいですか?」
すでに書類を調べ出しているオーゴとミューズに話した。
「いいですか?どうするのですか?」
ミューズがそう聞いてきたので「クリエイトウォーター」を発動させ、手のひらに親指の爪くらいの小さな水玉を具現化させて壁にぶつけた。
壁に小さいけれど穴が開いた。
「「え?」」
オーゴとミューズがびっくりして壁を見つめていた。ああ、ちょっとこういうって気分がいいわ。
というか、悪辣女王が高飛車になったのって、魔法についてセンスがありすぎたからなのではと思ってしまった。
だって、普通「クリエイトウォーター」って水を生み出すだけの魔法で、攻撃魔法じゃないからね。
ウォーターボールという攻撃魔法があるのだけれど、ぶっちゃけまだ詠唱を覚えていないんだよね。
というか、「クリエイトウォーター」で十分なんだし。それにこの魔法の方が色んな形状に変化もさせやすいしね。
それに、一度触れたことがある液体だと「クリエイトウォーター」で再現できるのよね。
まあ、だから色を付けると言っても触れたことがあるインクとか聖水とかにしかできませんけれどね。でも、便利でしょ。えっへん。
「攻撃魔法じゃないのに、ここまでの威力とか?」
「他に魔法は覚えないのか?」
なんだろう?なんだか気持ちよくなってきた。もっと褒めてほしい。後、他の魔法は覚えたい。
「魔法を教えてくれる人がいなくて。もっと他の魔法を教えてほしいです」
そう伝えるとミューズはどこからか本を取り出して渡してくれた。
「先ほどこの倉庫で発見したのだけれど、この本には面白い魔法が記載されていたから練習してみるといいわよ」
そう言って本を読んでみたら水魔法の「ミスト」という霧を発生させる魔法が記載されていた。
クリエイトウォーターで水を小さくしても霧状にはならなかったんだよね。形や温度は変えることができたけれど、霧状は難しかった。まあ、何に使えるのだろう。
まずはかなり魔力を制御して、小さい範囲で「ミスト」を発動させた。
私の手のひらの上だけに霧を発生させる。霧を操作して形を変える。難しい。霧を圧縮させると水の塊となって手のひらに落ちてきた。
逆に拡散させると霧の濃度が薄くなった。なるほど、広範囲を霧で覆うにはこうやって拡散させればいいのか?
「おい、ミストって魔法あんな風に制御できるものなのか?」
「いいえ、無理よ。あの子に攻撃魔法は教えられないわ」
オーゴとミューズが何か話していたけれど、私は覚えたての「ミスト」の魔法に夢中だった。
後、オーゴがパンを生み出す奇跡の魔法というのをつかってくれた。
「このパン硬いです」
仕方がないのでクリエイトウォーターでお湯を作り、塩分を追加した塩スープもどきを作って食べた。スープはいつも食べていたけれど、具材がありましたものね。流石に具材は作ることはできません。残念。
まあ、スープ皿がないので、ふわふわ浮いた水の中にパンを入れて食べたのだけれど。
ちなみに、パンを作る「クリエイトブレッド」は教えてくれなかった。けちだ。
でも、詠唱をこっそり盗み聞きして試してみたのよね。詠唱の基本はクリエイトウォーターと似た感じだったが、なぜか成功しなかった。解せぬ。
1週間が経過した。私だって書類整理手伝ったのだからね。それに、収支報告書も確認させてもらった。
どうも領民の数が合わないみたいなのだ。隠れた村があり、そこで食糧を生産しているのではと推測をオーゴが立てていた。
リーリカに確認をさせたら、私の記憶にないこのイージェ村の南東に村があったのだ。
ただ、その村をリーリカに調べてもらったら「チカヅク、ダメ、ゼッタイ」と言われた。
一体この隠れた村に何があるというのだ?
余談だか、落ち着いてからこの村についてカージェス領の誰に聞いても何も語ってくれなかった。
まあ、こんな隠れた村よりも問いたださなきゃいけない事があったのだ。
扉の鍵は開けてくれなかったので強引に私がクリエイトウォーターで壊しました。
さて、反撃開始ですわ。




