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~プロローグ~

~プロローグ~


 大陸の覇者として君臨していたイレスティア王国。


 けれど、エリザベート女王が国を治めるようになってから麻のように乱れた。


 無理な戦争、冷害よる飢饉、疫病の蔓延。その結果、国民は蜂起した。


 北部の辺境を治めるダールトン辺境伯はイレスティア王国の北に位置するラース帝国の手を借り、周辺の領地から人を集め、イレスティア王国の王都イースレティアを包囲するまでに至った、らしい。


 どうして、らしいかというと、私にとっては、いや、多くの国民にとっては革命にそこまで興味はない。


 私が革命軍に参加したのは参加すると1日に1回パンがもらえるからだ。


 硬くておいしくないが、パンはパン。そして、私と同じようにパンがもらえるから参加しているものは多い。


 パン以外には丸い大盾と槍が支給された。槍をかまえ盾で防ぎながら前進する。それだけをすればパンがもらえるのだ。このパンにつられて参加した人は多い。


 人が増えると配給されるものの質も落ちた。パンは小さくなり、1日1回が2日に1回になることもあったが、もう戻ることも難しい。


 だから私たちはこんなはずじゃなかったと思いながら行軍についていった。目的地である王都がもう目の前だから頑張れた。王都には食糧も金銀財宝も大量に保管されていると言われていたからだ。


 私たちがこんなに飢えているのに王族だけ優雅なくらしをして許せない。そう怒っていた。


 王都になだれ込むと廃墟のような感じだった。人がほとんどいない。どういうことだ?


 王城に突き進む。兵士もいない。もぬけの殻。だが、王城の上に赤い髪の女性が見えた。


 このイレスティアで赤い髪をしているのは王族とその血縁者のみ。


「女王エリザベートがいたぞ!倒せ!」


 正直女王エリザベートに興味はない。私たちは食べ物か飲み物が欲しい。


「あなた。あの奥にある小さい扉から中に入りなさい。あの奥は厨房よ。食糧を確保しなさい!」


 そう命令した人の顔はどこかで見た事がある気がした。まあ、命令してくるくらいだから上官なんだろう。行くのは厨房、仕事は食糧の確保。


「はい、かしこまりました!」


 飢えている私は当たり前だが引き受けた。周りに私しかいなかったのも幸運だ。これはついている。


 ちょっとくらいつまみ食いをしたってばれないよね?


 うん、王族のための厨房なんだ。絶対においしいものがあるはず。


 扉を開けたらかび臭かった。しばらく使われていない厨房。どういうこと?


 棚や引き戸を調べる。何もない。ああ、少しだけ欠けたパンくずがあったら口に含んだ。水は貯めていたみたいだが濁っている。流石にこれは飲めそうにない。


 葡萄酒なんかもあるかと思ったが何もなかった。どういうこと?


 扉の奥は何やら騒がしい。戦っているの?敵がいるの?そっちには行きたくないな。


 奥から風が吹いた。風が流れている方を見ると細い通路があった。一人だけが通れるくらいの細い道だ。ひょっとしたら隠し倉庫が奥にあるかもしれない。


 食べ物が欲しい。


『こっちよ』


 何か声が聞こえた気がする。何だろう?幻聴かしら。もうお腹がすき過ぎて頭がよく回らない。


 私は声がした方にむかって歩いて行った。



 通路の先に広間があった。通路が暗かったため、灯りがさしているその先がまぶしく、その場に着いた時、目の前の状況が理解できなかった。


 目の前には床に二人倒れていた。


 一人は赤い長い髪をした女性。この国の女王エリザベートだ。


 もう一人は黒い短い髪の男性。黒い髪のものもこの国には珍しい。


 この革命軍を率いていたダールトン辺境伯だ。遠くから見たことがある。顔はよく見えなかったが、珍しい髪色だったから覚えている。


 その二人が床に倒れている。それも胸から大量の血が流れているのだ。


 え?二人とも死んでいるの?どうして?


 そして、どうしてそんなところに私がいるの?


「おや、こんな所にネズミがいるとはな」


 ネズミ?どこにいるのかしら?そのネズミは食べれるのかしら。ネズミも焼いたらおいしそうだ。


「そこのアホずらした女。お前だ。お前のことだ!」


 声を発しているのは部屋の隅にローブを被った男性だ。顔は見えないが声が低くくぐもっているため、男性だとわかる。というか、この人誰だろう?


 ローブは黒く、高そうな感じだ。隠れるために黒色なのだろうけれど、ローブ縁に金色の刺繍を入っているのはなんだろう。おっちょこちょいさんなのだろうかしら?


「え~と、おっちょこちょいさんですか?」


「誰がが!アホな女はこれだけら困る。お前はどこからやってきた。ここは人払いの結界の中だぞ!」


 結界?はて?


「ふざけているわけではないみたいだな。まあ、よい。この状況を見られたのだから死んでもらうしかないな」


 そう言って黒いローブのおっちょこちょいさんは手に持っていた杖を掲げた。しまった。細い通路でじゃまだったから盾も槍も置いて来てしまった。


「・・・その子は関係ないわ。『ジャガード!』」


 後ろから声がした。振り向くと心臓を貫かれて倒れていたはずの女王が顔だけこちらを向けて手をこっちに向けている。


 あれで生きているってすごい。女王ってもしかして不死身なのかしら?


「あれで生きておるとはな。だが、防がせてもらう!」


 そう言って黒フードの男に首根っこを捕まれた。ちょっとまって。女王がはなった赤いうねうねうごく魔法攻撃が私の胸に突き刺さる。


 そのまま後ろの黒フードの胸にも。ああ、一緒に殺されたのか。あ、何か黒フードのおっちょこちょいさんが何かつぶやいて光に包まれた。


 私が覚えているのはそこまでだ。そう、気を失ったからだ。



「お嬢様、お嬢様」


 声が聞こえる。体がだるい。頭がいたい。気持ち悪い。


「ここは?」


「お嬢様が目を醒まされました!」


 お嬢様?ってかお嬢様って誰よ?私は孤児だし、見た感じすごい豪華な部屋にいるのがわかる。ただ、体を起こそうとしても気持ち悪くてうごけない。


 ただ、顔を起こした先にあった鏡を見てびっくりした。顔が違う髪の色も違う。


 イレスティア王国の大半が金髪か茶髪なのに、私の髪色は真っ赤だった。まるでそう、あの時に見た女王エリザベートのように。


 気持ち悪くて意識を失った。


「エリー。意識を強く持つのだ。後少しで回復できるからな」


 なんか声がしたので目を開けた。知らない赤い髪の男性が近くにいた。誰だこいつ?


 ってか、エリーって誰?私の名前はアネモネだ。


 カージェス領にある孤児院で暮らしていた。名前は近くに咲いていたアネモネからつけられたと教わった。


 たまにやってくるフードを被った女性が孤児院に定期的に寄付をしてくれていた。フードから見えた髪は赤っぽかったけれど、王族以外の赤髪は王家から追放されたか、手を出された平民が追い出されたかどっちかだ。


 触れない方がいいし、身を隠すのも当然だ。名前は知らないから孤児院では『フード卿』と呼んでいた


 なんでこんなことを思い出したのだろう?



 私は差し出された薬湯を飲んだ。すごく苦かった。


「お嬢様は毒殺されそうになったのです。今、お館様が犯人を捜し出しています。エリー様は良くお休みください」


 周囲を見ると高位なものの家なのだろう。調度品が高そうだし、このベッドもふかふかだ。天蓋もある。本当にどこかのお嬢様なのだろう。


 ひょっとして精霊王が私の魂を転生させてくれたのだろう。私はそう思って眠りについた。


「絶対に捕まえろ!このイレスティア王国の王女であるエリザベートを毒殺しようとしたのだからな!」


 眠りつきそうだった意識が吹っ飛んだ。


 私の記憶の中でイレスティア王国の王女でエリザベートという名を持つものは一人しか知らない。


 エリザベート・フォン・イレスティア。


 別名、悪辣女王。


 私はまさか、悪辣女王に転生したとでもいうのか?


 嘘だと言って欲しい。ただ、私の意識はそのまま深い、深い眠りについた。


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