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3. 親友の来訪

 それから2日間、私は私宛に来る手紙を捌いたり、引き継ぎ資料のさらに追加の資料を作ったりしながら、離縁後の自分の人生について考えを巡らせていた。


 私たちは白い結婚ではないのだし、いくら公爵様が有責とはいえ社交界では私は傷もの扱いになる。

 まともな縁談は一生こないと考えた方がいい。

 生家の伯爵家に一旦戻るとしても、ずっと令嬢として居座るわけにもいかない。


 幸いにも離縁時には公爵様からお金をいただけるということだから、伯爵領に家を買って平民として慎ましく暮らすか。

 もしくは、全額寄付して修道院に入るか。

 寄付……か。

 貴族としての最後のお勤めにはお誂え向きかもしれない。


 よし、決めた。

 慰謝料は寄付して修道院に入ろう。

 であれば…。

 修道院について色々調べないといけない。

 しかしもう私は実質公爵夫人ではないし、あと半年は自由に外を出歩くつもりもない。

 どうやって調べようかな?


 そんなことを考えていると、部屋の扉が叩かれる。


「エレクシア様。お手紙をお持ちしました」


「カール、いつもご苦労様。あと半年だけ我慢してちょうだいね」


 私が労いの言葉をかけると、カールは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「……エレクシア様。本当にもうリチャード様とはお会いにならないおつもりですか」


「ええ、そういう約束だから。……そういえば、誓約書をまだいただいていないわね?お忙しいところ申し訳ないけど、誓約書を急ぐようにお願いしてもらえる?」


「………はぁ。かしこまりました」


 カールは力無く一礼して部屋を後にする。

 毎日2回も本邸と別邸を行き来させているから、疲れているのかもしれないわ。

 こっちに来てもらうのは2日に一回にしよう。


 カールが持ってきた手紙に目を落とす。

 毎日来ていた招待状は、もう全てお断りするように伝えてこちらには持って来る必要はないと伝えた。

 今日の手紙は二通。

 この封蝋は……お父様だわ。

 どうやら初日に出した手紙の返事が来たらしい。

 出来るだけ感情を乗せないように事務的に報告したけれど、お父様はどう捉えたかしら…?


---


 エレクシア


 そんな場所に片時もいる必要はない。

 すぐにこちらに戻ってきなさい。


---


 ……………。


 これは…かなり怒っていらっしゃる雰囲気。

 でも確かに、こちらでの仕事が片付いたらあとは書類のやり取りだけだから、半年間ここに居座る理由もないのよね。

 公爵家での私の痕跡を全部片付け終えたら、早めに伯爵領に戻ることにしましょう。

 私はペンを取り、お父様にその旨返事を書く。


 二通目の手紙を開けると、それはカトレナからの返事だった。


---


 私の親友 エレクシア


 離縁って一体どういうことなの!?

 リチャードは正気??

 ああ、全てドッキリのための嘘だったらいいのに!

 とにかく、直接話を聞きたいから明日すぐに訪問するわ!


 あなたの親友 カトレナ


---


 明日訪問って……今日よね?

 やっぱりビックリさせたわよね。

 私もビックリしたもの……。


「アメリ。今日カトレナ・サヴィアス侯爵夫人がいらしたら、この部屋にお通ししてくれる?

 それから、この手紙を出してほしいの。

 カールには今日はもうこちらに来ないで、ゆっくりしてちょうだいと伝えて」


 アメリに手紙を渡すと、一礼して部屋を出ていく。

 急に手持ち無沙汰になった私は部屋をぐるっと見回し、本棚の本に手をつけた。



◇◇◇



 カトレナはお昼頃にやって来た。

 ちょうどランチの準備をしていたので、カトレナと一緒に食べることにする。


「それで…どういうことなのよ!どうしてこんな客間に……そんな地味な服を着て……!」


 カトレナは私を見ただけで既に泣きそうだ。


「別にこれを強いられているわけではないのよ。私が希望してこうしているの。もう公爵夫人ではないのだから」


「公爵夫人はあなたよ!あなた以外に務まるわけがないわっ…!リチャードは頭がおかしくなってしまったの!?」


 カトレナは興奮してしまって感情を抑えられないようだ。

 私はカトレナの背中を撫でて、気持ちを落ち着ける。


「私たちは政略結婚なのだし、きっとこういうこともあるのよ。私にはよく分からないけど、恋は盲目なのでしょ?」


 カトレナは夫のサヴィアス侯爵とは幼い頃からの婚約者だが、ずっと侯爵に恋をしていたから、恋する気持ちは理解できるはずだ。


「だからって……酷いわ!エレクシアはこんな仕打ちを受けていい人じゃないのよ…」


 怒りのあまり拳を握りしめるカトレナを見て、ああ、こんなに私を想ってくれる人がいるって幸せなことだな、と思う。


「ねえ、カトレナ。公爵様はあちらの有責で離縁してくださると仰ってるの。私としては、それ以上は何も望まないわ」


 私が微笑むと、カトレナは涙で潤んだ瞳で私を見つめる。


「あなたはお人好しすぎよ……。こんなことなら、リチャードなんかに渡すんじゃなかった。先にお兄様を紹介していれば……」


 そう言ってカトレナは泣き出す。


 カトレナは公爵家出身で、私がサヴィアス侯爵と顔見知りだった縁で仲良くなった。

 カトレナとリチャード様は幼馴染らしく、私とリチャード様が婚約するあたりで色々やり取りをしていたようだった。


「カトレナのせいではないわ!運が悪かったのよ。だって、誰も前世の恋人がライバルになるなんて思わないでしょ?」


 カトレナを元気付けるために少し戯けてそう言ったけど、カトレナは拳をより強く握りしめるだけだった。


「エレクシア……。もう本当にリチャードには未練はないの?」


 カトレナの問いかけに、私は少し言葉に詰まる。


「………未練、というかは分からないけど。公爵家のことは好きなのよ。みんな良くしてくれたし、楽しい思い出ばかり。だけどね……」


 私は、カトレナにこれを言うか言うまいか逡巡する。

 でも、私はこの一言で全てを諦めたのよね。


「公爵様は私と白い結婚でないことを『残念だ』と仰ったのよ…」


 「なっ………!」


 カトレナの目が一気に吊り上がる。


「それほどまでに、私と早く離縁したかったみたい。そんな状況で、未練も何もないわよね」


「リチャード………絶対許さない………」


 カトレナが俯いて何かを呟いているが、私には聞こえない。


「大丈夫よ、次の行き先も考えてあるの」


「次の……行き先?」


 俯いていたカトレナが顔を上げる。


「ええ。離縁の慰謝料をいただいたら、それを寄付して修道院に入ろうと思って。ほら、こんな傷もの誰も欲しがらないでしょう?

 あ、そうだ!私修道院について色々調べたいのだけど、カトレナ協力してくれない?」


「修道院……?ダメよ!ダメ、絶対ダメ!!どうしてあなたがそこまでしなくちゃいけないの!!」


 突然カトレナが私の手を握って号泣しだす。

 修道院、そんなにまずかったかしら?

 私は元々派手な暮らしが好きではないし、人が好すぎるともよく言われるから、修道院は性に合っていると思うんだけど。

 でもカトレナがこれだけ反対するということは、カトレナには修道院についての情報集めは頼めないわね。

 困ったわ………。


「とにかく、あなたの行き先も含めて私が何とかするから、絶対早まった行動はしないと約束して!」


 カトレナがあんまり真剣な表情でそう言うから、私は黙って頷いた。

 何とかすると言っても、行き先は既に限られてると思うんだけど…。




★感想、いいね、評価、ブクマ★

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全14回で完結。

毎日17時更新。


********


11/6 新連載開始しました!


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