13. 王城での話し合い②
視点切り替えが分かりにくいとのご指摘をいただきましたので、視点が切り替わるところは▼▼▼▼▼で区切ります。
「誓約書……?」
第一王子殿下は驚いた顔でリチャード様を見遣る。
「……すまない、誓約書のことは何も聞いていなかったものだから」
「リチャード卿。あなたはどんな気持ちで誓約書にサインをしたの?」
カシオペア様が眉を顰めて責めるような口調でリチャード様に問いかける。
針の筵と言わんばかりに肩を縮こめるリチャード様を見て、微かな罪悪感に襲われる。
「……本当はサインなどしたくなかった。だが……既に離縁を受け入れて前を向いているエレクシアに今更離縁したくないなどと……言えなかったのです」
消え入りそうな声でリチャード様が答える。
そんな……リチャード様は本当は離縁をしたくなかったと……?
「離縁を受け入れて前を向く……?よくもそんなことが言えたものね!」
カトレナが怒りに肩を震わせながら声を張り上げると、リチャード様は驚いたように目を丸くする。
「エレクシアはね……!離縁後は修道院に入ると言っていたのよ!あなたの軽率な言動のせいで!それを言うに事欠いて『前を向いている』ですって!?」
「………っ!修道院!?……エレクシア……本当か?」
リチャード様が真っ直ぐに視線を向けてきて、私は若干戸惑いを覚える。
この碧い瞳を真っ直ぐに見つめるのは、いつぶりかしら?
「え……ええ。白い結婚でもないですし……。私は世間では『傷モノ』の『石女』ですもの。娶っても良いなんて奇特な方もおられないでしょう……」
「そんなことはない!」
声を荒げたのは私のお父様だ。
「エレクシア……。お前は結婚前、どれだけの求婚書をもらったと思っている?結婚はお前の好いた者とすればいいと思っていたが、リチャード殿がどうしてもお前と結婚したいと言うから、お前と引き合わせたのだ」
「……え?」
リチャード様が、私と結婚したいと言ったというの?
私たちは紛うことなき政略結婚だと……。
そう思っていたのだけど。
「どうもお前はこれを政略結婚だと思っていたようだがな。婚約期間が短かったのも、リチャード殿がお前を一刻も早く嫁に欲しいと婚姻を早めたがったからだ!家柄も申し分ないし、リチャード殿ならお前を大事にしてくれると思ったから結婚を許したのだ。それなのに……修道院だと!?そんなことは私がさせん!」
ずっと政略結婚だと思っていたのに、実はそうではなかった……?
突然降って湧いた新たな事実に、気持ちが追いつかない。
「修道院だなんて……。私は酷い勘違いをしていたみたいだ……」
リチャード様は頭を抱えて呻いている。
「私の言動で彼方此方と振り回して……君の心をかき乱すのは良くないと。君が新しい生活に希望を見出しているならそれを応援しようと、そう思ったのだが……。修道院に入るなどと、そこまで思い詰めていたなんて……。
私は本当に大馬鹿者だ。愛しているのはエレクシア、後にも先にも君だけなのに」
愛がなくても信頼があれば穏やかな夫婦生活が送れると。
実際にリチャード様とそういう関係を築けていると。
それで満足していたはずなのに。
それなのに今「愛している」なんて言われたら、心の奥底に押し込めていた感情が溢れ出てきてしまう。
「愛してるなどと、どの口が……!」
「………!」
いつの間にか、私はポロポロと大粒の涙を流していた。
怒りに震えていたお父様やカトレナも、私が泣いているのを見ておろおろとしている。
恐らくどの人も、私が何故泣いているのかが分からずに声を掛けあぐねているのだろう。
私自身も何故泣いているのか分からないのだから、そのはずだ。
元より愛のない結婚生活なのだからしょうがない。
そう考えて、どうやら私は自分の気持ちに蓋をしたらしい。
でも、私はずっと泣きたかった。
公爵邸を去りたくなかった。
それは単に心地の良い生活を手放す寂しさだと、自分に言い聞かせてきたけれど。
私は……私の本当の気持ちは。
「リチャード様……。私はあなたをお慕いしております……」
会議室が一瞬にして静まり返った。
▼▼▼▼▼
「リチャード様……。私はあなたをお慕いしております……」
私は耳を疑った。
エレクシアが、私を慕っていると………?
聞き間違いかと思い周りを見回すと、皆驚いたように瞠目したまま固まっている。
エレクシアはただひたすらに、その美しいアイスブルーの瞳から水晶のような大粒の涙を零している。
「エ、エレクシア……。君が、私を慕っていると……?」
エレクシアは泣きながら、コクリと頷く。
そのいじらしい姿を見た瞬間、私の中のエレクシアへの想いが爆発した。
「……っ!エレクシアっ……!」
私は席を立ち、エレクシアの元へ駆け寄る。
エレクシアの足元に跪き、なおも泣き続ける愛しい人の手を取る。
「エレクシア……。私は君を愛している。すぐに思い込みで突っ走り、君を傷つけ、色々な人に迷惑をかけて不甲斐ない男だが……。もう一度だけ、私を信じてくれないだろうか?一生を懸けて、君に愛を伝えるから……」
私は懇願するように、エレクシアの手を握り締め額に擦り付ける。
どうか、YESと言ってくれ。
どうか、不甲斐ない私を許してくれ。
「……リチャード様。私は今はっきりと分かりました。あなたに離縁を言い渡され、とても傷付いたのです。
最初はあなたと信頼関係が築けなかったのが残念だと、そう思ったのです。でも、それは違いました。
私は私の想いが裏切られて、傷付いたのです」
泣きながらもはっきりと、自分の言葉で伝えるエレクシアの顔を、祈るような気持ちで見つめる。
私はどうしてこんなに可憐な妻を傷付けてしまったのだ?
耐え難い後悔の波が次から次に襲ってくる。
「私は……リチャード様を赦すことができません」
一瞬、呼吸が出来なかった。
目の前が真っ暗になった気がした。
私は、この美しい妻を……。
世界で唯一の最愛を……失ってしまうのか?
「だから……リチャード様は、一生私に謝ってください!」
私は驚いて目を見開いた。
エレクシアは真っ赤な頰をぷぅっと膨らませている。
怒っている……のだろうか?
可愛いだけなのだが。
「一生私の側で……愛を伝えてください。そして……信じさせて」
ああ………神様。
私の元に、この可愛い人を与え給うてありがとうございます。
命尽きるまで、いや、例え死が二人を分かつとも、もう二度と手放すことなどしない!
「エレクシア。いつでも何度でも跪き君に赦しを請おう。愛を伝え続けると誓おう。ああ、エレクシア。私の最愛……」
私は人目も憚らずにエレクシアを抱きしめた。
離縁を申し出る前より小さくなったその肩に、胸がジクジクと痛んだ。
▼▼▼▼▼
会議室には何とも言えない空気が漂っている。
主役の2人は、互いに泣きながら抱きしめ合っている。
エレクシア夫人の父君は、振り上げた拳をどこにぶつけたら良いか迷うように微妙な表情をしている。
ここは……私の出番だよな?たぶん。
……気が進まないけど。
「……2人の想いも分かったことだし、私たちは退出しないか?もう少し2人で話した方が良いだろう。王城で2人を待たれるなら、部屋を用意しよう」
私が声をかけると、皆一様に戸惑ったように顔を見合わせる。
「私はお暇させていただきますね」
大司教がにこやかに席を立たれる。
「大司教殿。このような個人的な席にご参加いただき、感謝申し上げる」
「いえいえ。サウザンヒル公爵夫妻は、結婚式にて私が夫婦の宣誓を聞き届けたのです。再び縁が繋がれて、嬉しい限りですよ」
そう言って大司教は、会議室の外で待機していた神官と共に神殿に戻られた。
前公爵夫妻は嬉しいような、困惑したような複雑な表情だったが、伯爵夫妻に正式に謝罪したいからと言って4人で会議室を後にした。
カトレナは最後の最後までリチャードに文句を言いたい風で顔を真っ赤にしていたが、サヴィアス侯爵が何とか宥めて引き上げて行った。
そして残った私たち夫婦は………。
「……カシー。僕らも帰ろうか」
「ええ。……そうですわね」
カシオペアの手を取って、私たちも会議室の外に出る。
ここまで骨を折ったのだから、明日からリチャードには馬車馬のように働いてもらわねばな。
………いや、折角だからあと数日は休みをやってもいいか。
そんなことを考えながらカシオペアに目を遣ると、カシーはニコリと笑い返してくれる。
………うん、頑張った甲斐はあったかな。
元サヤ反対派の皆様、ごめんなさい(>_<)
想定以上にリチャードが嫌われてしまい、心苦しい気持ちです。笑
宜しければあと残り1話、お付き合いください。
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全14回で完結。
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「義姉と間違えて求婚されました」
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