プロローグ
はじめての投稿で至らぬところがあると思いますがどうか冷ややかな目で見て頂けると幸いでございます。
連載作品となります。このプロローグを書いている時はどのくらいになるか分かりません。
ファンタジー要素やバトル要素は一切ありません。
社会派の人間ドラマの話になっております。
男は足を上下に揺らし怒りをあらわにしていた。
だだっ広い会議室におよそ5人の面接官が窓側に設けられた席に鎮座し、サバンナのハイエナのような鋭い目をした者、ナマケモノのようにだらんと身体を椅子に委ね気怠い表情を浮かべている者、手元の履歴書だけに目を通している者、各々自由に思い思いの時間の過ごし方をしている。その面接官たちの態度に男は苛立ちを覚え貧乏ゆすりを続けていた。
「…んで、結局君はこの会社に入って何がしたいの?」
面接官の一人が高圧的に質問を投げかける。男の隣に座っていた女性が怯えた様子で恐る恐る口を開こうとするもすっかり恐々としてしまい何も答えずにいた。ドクドクと緊張による心臓の音がこちらまで聞こえてくるほど固まっており、その様子を見て面接官たちは意地悪な笑みを浮かべながら顔を見合わせていた。何故にここまで追い詰める必要があるのか、男は終始この空気感に違和感と苛立ちを覚えてむかむかとしていた。男のほかに6人ほど高圧的な質問を投げかけては恐がらせて何も言えなくなり大人は呆れた顔をしている。この不景気のなか皆この会社に入り働くことを夢見て長い就職活動をしてきたというのにわざと落とすような面接に一体何の意味があるのか、ついに堪忍袋の緒が切れた男は無断で席を立ち会議室を出ようとする。あまりに突然の事だったので周囲の空気は一度止まった。ふと我に返った面接官の一人が男を呼び止める。
「お、おい!君、どこに行くんだ、まだ面接途中だぞ」
「…この面接は無駄だと判断したのでお先に失礼します」
「は?君、自分が何を言っているのかわかっているのか」
激高する面接官たちを意に関せず就活生たちはあんぐりとした表情だった。ひと際真面目そうな見た目の男がアウトローな行動に出た意外性に驚いていた。男は面接官の怒号を上回るほどの大きな声で反論した。
「ずっと聞いていたが誰一人としてこの会社の最大の魅力であるコンテンツについてを一切話に上げず、家柄がどうだ学歴がどうだのと外面の部分だけ聞いて内面を一切聞いてくれない、雑誌編集者は地位や名誉だけ飾っていればなれるのか?」
真っ直ぐな目で正論が吐かれ面接官たちはぐうの音も出なかった。男は続けた。
「俺は漫画が大好きだ。『週刊スクワット』が大好きだ。俺には絵の才能は無かったので漫画の編集者として、世界に誇れる漫画を作家と雑誌と会社と共に作りたい。ガキの頃にそう夢見てこの会社を受けたがこんなにも酷い会社だったとはがっかりだ」
男の真っ直ぐな思いが言霊として部屋に飛び交い場の空気を一変させる。先ほどまでぐうたらと面接を続けていた面接官たちも言い返す言葉も無くただ男の言葉を鵜呑みにするしか他なかった。男は「失礼します」と一言呟き部屋を後にした。張り詰めた空気のまま面接官の一人が弱々しい声で「これにて面接を終了します」と言い、就活生たちもそれぞれ部屋を後にする。
「…いやぁ、とんでもない奴でしたね」
「全くです。自分の立場も弁えず…ああいう奴はどこ行ってもやれませんよね」
面接官たちは若干の胸糞悪さを残しながら談笑していた。男を罵倒し嘲笑いあっていた。だが、面接官の一人鋭い目をした男だけは険しい表情を浮かべながらその談笑に加わることなく男の履歴書をじっと眺めていた。
「…あれ、海老名さんどうしたんですか、険しい顔して…っていつもか」
「…桑島、我々は屈辱を受けたぞ」
「は?」
「あの男に我々は辱められた」
「はは、何を言ってるんですか、恥ずかしい目に遭ったのはあいつの方でしょう」
「…」
海老名と呼ばれたその面接官の表情はみるみる険しくなり、履歴書をぐしゃぐしゃに握り締めていた。190センチ程ある巨体が勢いよく席を立ち巨人の進軍が如くすさまじい勢いで部屋を出た。強い力で閉じられたドアはドンと爆音を発し、部屋にいた人間を委縮させる。
「…あぁーあ、巨人を怒らせたなあいつ」
「あいつ先がねぇなハハハ」
部屋の外まで響く面接官たちの笑い声に苛立ち海老名は憤怒し、廊下で怒号を上げた。
「お前らのような薄情者に編集者の資格はない!」
他4人の面接官たちは自分たちに浴びせられた海老名の怒号にすっかり委縮してしまい誰一人として口を開かず黙ってしまった。
海老名は男の後を追った。幸い男は会社のロビーに居り、今まさに外に出ようとしていた時だった。「君!」
野太く力強い声がロビーに響く。海老名に呼び止められた男はゆっくりと振り向き海老名の顔をじっくりと見つめた。
「…なんですか」
「…先ほどはすまなかった、我々が間違っていた」
「…」
「君の漫画への情熱、伝わった。他4人の目に君がどう映ったかは分からないが私は奴らよりずっと見る目がある男だと思っている。君と世界を狙いたい。」
真剣な目で語る海老名の顔を見て男は少し微笑み海老名に近づいていった。
「…生嶋です、生嶋健三。週刊スクワットを世界一の漫画雑誌にするのが夢です」
「…週刊スクワット副編集長の海老名だ。君を採用する」
二人は固い握手を交わし、小一時間程漫画について熱く語り合った。
後日正式に採用となり生嶋は漫画編集者となった。生島の豪快な人柄と画期的なアイデアで上司や作家を驚かし、1年目から続々と連載作品を立ち上げ、すべて人気看板作品となった。
プロローグを再編集しました。
読みづらい部分あると思いますがどうか暖かい目で見守って頂けると幸いでございます。