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十一、変わりなく
これを境に黑は来なくなるかと思ったが、翌年も黑は父親と一緒に店に来た。
そして、何事もなく朱のもとに来て、その膝上に座る。
朱は当然、疑問に思う。黑が来た時に客に呼ばれることはあの時だけだったが、黑はもう、朱が何を生業にしているのか理解しているだろう。それなのに懐き続けているのはどうしてなのか。猫のような目で、こちらを見上げてくる黑の顔を見つめても、朱には分からない。
変わった子だ。
商人の目を盗んで、朱は不躾ながら黑の頬を少し撫でてみる。黑は特に何の表情の変化もなく、何も言わない。まさかと思いつつ、自分に懸想をしているわけではないらしい、と確認してみたのだ。
当たり前か。
朱は思う。周りにもっとまともな職業や身分で、いい男はたくさんいるはずだ。きっと黑にとっては世話係やおもちゃの自分が何であれ、どうでもいいのだろう。その無味乾燥さが、彼には心地いい。
「そろそろ、膝にはのせられないね」
そろそろ、少し重かった。
朱は背が伸びてきた黑を見つめ、何気なく口にすると、
「どうして?」
と返された。