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二人、寂しい

あの娘の名は梅黑蝶メイヘイディエと言った。妓楼で本名を呼ばれる娘の風聞を想い、朱は彼女に黑、とあだ名をつけた。彼女の父親、港町に拠点を持ち、大陸各地で取引を行っているらしい大商人は店の得意先となり、半年に一度ほど店に立ち寄るようになった。彼は凝りもせず娘も店に連れてくるので、朱は毎回部屋の隅で黑と遊んでやった。



「お酒はともかく、薬や賭博が溢れるこの街に幼い娘を連れてくるのは如何な事情なのでしょう」


一度、失礼を承知で朱は父親に尋ねてみた。それに、芸を見たり酒を飲んだりが主の酒楼や、もっぱら芸を売る高級妓楼と違い、ここは芸を売る学のない娼妓や男妓と酒を飲み、寝るところだ。全く、こんな年端の行かぬ娘を連れてくる場ではない。


客の側で退屈するより、黑と遊ぶ方が楽しい朱だが、少し父親の無配慮に憤りを感じていた。


赤ら顔の商人はぼんやりと朱を見つめ、酒瓶を揺らしながら言った。


「私はやもめで、職業柄信用できる人も少ない。自分の傍に娘が居るほうが安心なんだよ。…こんな美男子に遊んでもらえるのだから、黑蝶も宿にいるより楽しいだろう?」


商人が冗談を言うと、あはは、とまた、卓を囲む大人たちの笑い声が響く。


「そうなのですか。では、ここでは私が黑をお守りします」


朱は曖昧に笑いながら、無言の娘のかわりに、てきとうな答えを返した。そこに、信頼できそうな強面の付き人もいるだろうと思いながら。




「おとうさん、おかあさんがしんじゃって、寂しいの」


暫くしたあと、人形をつつきながら、ぽつりと黑がこぼした。黒い目から、彼女の心は読み取れない。


「黑も寂しい?」


朱が尋ねると、こくり、と小さく娘は頷いた。都市を行き来する大商人の娘だ。同じ年頃の友人などもいないのだろう。母親もいなくなってしまったのに、寂しくない訳がない。


「だから、わたしもこっちのほうがいいの。朱は、わたしがくるのは、嫌?」


いつも無口な黑が饒舌に話したので、朱は瞳を丸くした。


父子の利害は一致していたのか。


娘の大きな瞳が青年を見つめる。黒い瞳に映る己の姿に、もっと相応しい友人が居るはずだと思いながらも、朱は首を振った。


「黑が来たいなら、何度でも来ていいよ」


いずれ友人や新しい母ができれば、こんなところは避けるようになる。

そう思って、無責任に甘い言葉を吐いた。


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