おもいでのもうふ
森林が生いしげる『緑の世界』のある村の冬の晴れた朝、一人の幼い女の子が父親といっしょに家のにわで一枚の毛布を干していました。
毛布には四つ葉のクローバーのししゅうがしてあります。
「今日はよく晴れた日だね。ママがあたしにくれた毛布も大よろこびなくらいに……。今夜楽しみだな~。おひさまのにおいでぬくぬくするのが~。」
「ああ、そうだね……。」
毛布を竿にとめた女の子は村の子供たちとあそびに出かけました。
そして夕方になり、家に帰って来た女の子はにわに干してあった毛布を家に直そうとしましたが、毛布はなくなっていました。
「!……そんな……、あたしの大切な毛布が……。」
女の子は泣き出し、かけつけた父親に連れられ、家にもどりました。
夜になっても女の子は寝室でねむることなく、ひたすら泣いていました。
そんな女の子に父親は自分の毛布を持って来ました。
「なあ……、さむいだろ……。あの毛布の代わりにわしので暖をとろうな……。」
男性は娘に毛布をかけようとしましたが……
「やだ!あの毛布には四つ葉のクローバーが縫ってあったの!生きてたママがあたしの幸せを願って縫ってくれた大切な毛布なの!あたし、あの毛布じゃなきゃやだ!パパなんかにあたしの気持ちなんてわかんないよ!」
女の子は亡くなった母の形見の毛布を大切に思うあまり、父親がその毛布の代わりとして差し出した毛布をふり払いました。
(!……そうか……、お前にとってあの毛布は亡き母との大切な宝なんだな……。!……ん!?こんな夜おそくにお客さんか……?)
男性は娘の毛布に対するこだわりを察したと同時に玄関からノックする音が聞こえてきました。
「良いか、お前はここでおとなしくしているんだ。泣いてもいいが、ぜったいにさわぐなよ。」
「……うん……。」
男性は娘に念を押すと、玄関に向かいました。
玄関では二人連れの男性が立っていました。
一人は毛布を携えたきわめて強気な若者で、もう一人は対をなすように大柄だが弱気な男性です。
「おう、だんな。ちょっくらおじゃまするぜ。」
「……おじゃましやす……。」
「こんばんは。……おや……、毛布を持っていらっしゃるということはやはり……。」
「ああ、この毛布の持ち主はいるな?」
強気な若者は四つ葉のクローバーのししゅうの毛布を家の主である男性に見せました。
「!……うむ、これより呼んで参る。しばしお待ちを。」
家の主は娘を呼ぶため、寝室に向かいました。
しばらくして、女の子が父親といっしょに玄関に来ました。
女の子の両目は心なしか、真っ赤になっています。
「あっ、これあたしの毛布~!」
「じょうちゃん、あんたの大切な宝物は義賊であるトリッククローバー団首領のおれが心ねえやつから取り返したぜ。ほれ。」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
母の形見の毛布を受け取った女の子は首領に礼をのべて寝室にもどりました。
「わしからも……、感謝いたす。」
家の主も首領に礼をのべました。
大柄な男性はむねをなでおろして家を後にしようとしましたが……
「待て!まだ用はすんでねえ!」
首領は大柄な男性を引きとめました。
「えっ……!?親分……、この家に毛布をわたす用ならもうすんだはずじゃ……。」
子分は首領の強気な態度に動揺しました。
「とにかくおめえはここでおとなしくしてろ!」
「……。」
首領は子分に待つよう命じました。
「なあ、だんな。おれ達をこの村の村長に会わせてくんねえか?」
「村長ならわしだが……。」
「そうか、あんたが村長か。なら話は早い。さっそくでわりいが、こいつをこの村ではたらかせてやってくんねえか?適当なとこに住まわせてさ。」
「!……おれ……、もうTC団のみんなといられねえんすか……!?いくらなんでもあんまりっすよ!」
子分は首領の突然の言葉に不安になりました。
「人様から毛布盗みやがったのどいつだよ!?ああっ!?」
「あれは……、親分が『毛布とって来い』って言ったから……。」
「おれは『盗んで来い』と言ったおぼえねえぞ!」
「『とって来い』って言われたからてっきり盗むのかなっておれ思ったんすよ……。何せおれたち盗賊団っすから……。」
「おれはうちの倉庫から毛布持って来てほしかっただけだ!」
「だったら『うちの倉庫から毛布持って来い』って言ってくれりゃ、おれでもわかったんすが……!」
「この期におよんで人のせいにしてんじゃねえよ!おめえが人の話を良く聞かねえで事起こしたのがわりいんだろ!ちがうか!?」
「い……、いや……。」
首領は子分の口ごたえにいかりました。
「……まあまあ、毛布も無事にもどってきたことだし……。そのくらいで良いのではないか?」
村長は首領をなだめました。
「じゃあ……、お宅から毛布盗んじまったおれをゆるしてくれるんすか?」
「……うむ……、まあそういうとこだが……。」
村長はうなずきましたが……
「おれはゆるさねえな!」
「そっ……、そんな……。」
「おれ達TC団は心あるやつや弱いやつからの盗みは断じてはたらかねえ信条なんだ!なのに、おめえはそれを破ってTC団のこと汚しやがったんだぞ!さっきのじょうちゃんの目を見て何もかんじなかったのか!?」
「……うん……。」
「あの目は泣きに泣いた目だ!じょうちゃんはな……、おめえに大切な宝物とられて泣きじゃくってたんだよ!あんないたいけなじょうちゃんをおめえはかなしませやがったんだ!こそどろという卑劣なやり方でな!おめえのあやまちはおれのあやまちでもあんだよ!おめえをこのままゆるしたら他のダチ共はもちろん、この村のみんな……、何より全ての心あるやつらに示しがつかねえ!おれがおめえにダチとして最後にしてやれることは……、路頭に迷わせねえことだけだ!」
「『最後』ってことは……、おれはもうTC団じゃねえと……?」
「ああ、おめえは除名だ!だが、TC団の一員だったことだけはぜったい忘れんな!そして最期までこの村のみんなのために汗してはたらけ!……そいつが……、これからのおまえの生きる道だ……。」
「……親分……。」
首領のきわめて辛辣だが心ある言葉に子分はなみだを流しました。
「村長のだんな、こいつは気が弱いがけっこう力持ちでね。畑仕事に木こりなどの力仕事を存分にさせてやってくれ。適当な空き家にでも住まわせてさ。」
「うむ、承知したが……。……ぬしはこれからいかがしたい?」
村長は首領の子分にこれからどうしたいのかふりました。
「……村長さん……、どうか……、おれを……、この村に……、住まわせて……、下さい……。おれは……、この村の……、みんなの……、力に……、なりたいんす……。これが……、お宅の……、娘さんを……、泣かせた……、おれの……、せめてもの……、つぐない……、です……。」
子分はなみだを流しながら村長にあたまを下げました。
「うむ、わしの方こそよろしくたのむ……。」
「おれからも元ダチのことよろしくたのんだぜ。んじゃ、この村に四つ葉のクローバーをってな。」
「トリッククローバー団にも風の加護があらんことを。」
「親分……、どうかお達者で……。」
首領は子分を村長にたくして去って行きました。
こうしてトリッククローバー団を除名された大柄な男性は、村に住むことになりました。
それ以来、元トリッククローバー団の男性は一人の村人として、ある時は農作業、ある時は林業、またある時は大工、さらにある時は作物や木材等を運びながら村と市場を行き来する等、村の人達のために生涯はたらきつづけました。
先日祖母がご逝去された事を受け、『桜おばあさんと桜の樹』を投稿しました。こちらもご愛顧頂けたら嬉しい限りです。