12話2 騎士たちの会議
合流先の騎士団の会議で、私は珍獣のように迎えられた。じろじろ見ながら、あるいは隣の同僚とこそこそ話しながら、でも私に声をかける騎士はいない。猪目さんと蝶二さんだけが、それぞれ似合った笑顔で私を席に案内してくれる。
「気にしなくていい。先生が優しい人だって分かってないだけだから」
猪目さんは私の耳元でそうささやく。
「言いたいことは全てそのまま言ってください。遠慮して黙っているよりそちらの方がいいでしょう」
蝶二さんが面と向かってそう言う。二人とも、心強い味方だ。そして二人は座らず、私が座っている左右の後ろに立った。他の騎士たちが不愉快そうな顔をする。
「猪目殿、蝶二殿、用意された席に着きなさい」
議長らしい初老の騎士がそう言っても、二人は動かない。空いている席は二つ見えるが、私の席からは数歩ほど離れている。
「座っていては、それにあの場所からでは護衛しづらいので」
蝶二さんが落ち着いた様子で断る。
「ここは安全じゃ。城内で、部屋の外にも衛兵が立っておる。お主らがそう気構える必要は」
「衛兵やここに座っておられる方々では、例の者が来たときに対応できないだろう? 他にも懸念はあるが」
強気な猪目さんに私はびくびくしながら、今にも血管が切れそうな騎士たちから目を逸らす。あれ?猪目さんも蝶二さんも、騎士団の中で優秀で人望ある人じゃなかったの? もしかして、私がいるせいで二人は孤立してしまっていないだろうか。
「ではもうそのままでよい。始める」
初老の騎士の諦めで、騎士団の会議が始まる。私が最後に出た会議は人間界の会社で、三か月前だった。そのときはただただ早く終わればいいと思っていたけど、今回はとても緊張して、不安に思っている。家を出たときにはそうでもなかったのに、女王さまと話してから、そしてこの会議室に通されてから、段々と心臓が締め付けられる。
「今回の議題は、二週間前に現れた悪魔とのその眷属について。そして、人間さまの処遇について」
私が出席しているのに私自身が議題……! 心臓が爆発するくらいに大きく鼓動する。
「まず、悪魔について。彼奴は二週間前のこの場所に、眷属の少女を連れて出没。騎士及び衛兵に傷害し、騎士団と王宮に宣戦布告。その時の状況は報告を受けておろう。今後の対応について、女王さまは『衛兵及び騎士の戦闘訓練を強化、臨戦の際には特別手当を支給』とおっしゃっておられる。何か意見のある者は?」
言いたいことは全てそのまま――と蝶二さんは勧めていたけど、とてもそんな精神状態ではないし、警備とか軍備みたいなことは全然分からない。私が肩を縮めていると、中年の騎士が挙手した。
「『戦闘訓練を強化』といっても、あの時何とか応戦できたのは蝶二殿のみ――つまり、二等星以上の戦力が求められることになります。非現実的では?」
私は蝶二さんを振り返って小声で尋ねる。
「二等星というのは……?」
蝶二さんは私の座高に合わせて腰をかがめてくれて、答えてくれた。
「騎士の階級には二種類あります。私の場合、大臣付きの二等星です。〝付き〟というのは、文官に置き換えたときにどのくらいの地位があるかで、相当する文官の護衛に就いているとは限りません。〝等星〟というのは武力の強さです。魔力検査や模擬戦闘で決まり、数字が小さいほど強いということになります」
私の質問を待ってか、会議は静かになっていた。けれどいつも通り冷静な蝶二さんと会話できた私は、うっかりリラックスしすぎてしまって、本当に思ったことをそのまま口に出してしまった。
「蝶二さんってものすごく偉いし強くないですか!?」
猪目さんによると、このときの他の騎士たちは拍子抜けしたり、舌打ちを堪えたりしているような様子だったらしい。私は気づいていなくて、蝶二さんは気づいていながら気にせず、いい紅茶に出会ったときに似た笑顔で答えた。
「当然です。先生をお守りするのですから」
「カッコいい……!」
私の肩を猪目さんが苦笑交じりに叩く。
「先生、知ってるか? 俺も大臣付きだし二等星なんだが」
「……どうしましょう、私、身の丈に合わないくらいすごいお二人にお世話になっていて……」
高揚する私に、猪目さんと蝶二さんが微笑みかける。
「卑下することなんかねえよ。あんたの人格は優れているし、妖精界のために頑張ってくれてる」
「私たちがついていることを誇りに思ってください」
初老の騎士が痰を詰まらせたような咳払いをして、私は気が付いて周囲を見渡した。騎士たちは皆揃って呆れている。
「……すみません」
私は頭を下げた。
「……構いませぬ。分からないことがあればどうぞすぐに質問なさられよ。そして質問を受けた者はなるべく簡潔に答えるように」
猪目さんと蝶二さんはそっぽを向いている。何があったのか分からないけど、二人の会議に対する嫌気があからさますぎて不安になる。
「気を取り直して、他に意見のある者は?」
今度は、坊主頭の騎士が挙手する。
「本人の強化には限界があるにしても、魔力や身体能力を増強する装置、武具等で一定程度の戦力になるでしょう。開発研究を支援するというのは?」
壮年の騎士が挙手する。
「そう一朝一夕にできるものでもないだろう。装置や武具の研究はあくまで補助として、が良いと思う。加えて、悪魔そのものについての調査も行うべきだ。案外、簡単なところに弱点があるかもしれない」
巻き毛の騎士が挙手なしに呟く。
「その調査のときも、女王さまがおっしゃってた『臨戦』に当たるの? 手当がつくならうちの隊を出すよ」
初老の騎士が渋い顔で質問を重ねる。
「戦わずに調査をするつもりか?」
「そう。後をつけてアジトを探ったり、あのベールを外す瞬間を狙って、容姿を記録する。普通に一日をどうやって過ごすかも知っておくと良いんじゃない? 刑事はそうやって容疑者の素性と弱点を暴いていくんだ」
巻き毛の騎士は得意げに答える。
「危険が伴うことには変わらん。手当てはつくであろう」
「やったね! 手柄ゲット」
「うまくいけば、だがな」
坊主の騎士が苦言する。
「じゃあさ、後で呼び出すのめんどいからここで聞いていい? 猪目と蝶二、悪魔と至近距離で会ったんでしょ? どんな感じだった?」




