11話3 丈比べ
とうとう試験の日がきてしまった。俺は多分勉強が苦手なんだと思う。補講に呼ばれたこともあるし、この前の試験対策で当てられたのはすごく簡単な問題だったから。
「ムギ、お前ちゃんと勉強してきたか?」
試験直前の教室で、薊が話しかけてきた。薊は十八歳で、普段はやる気なさそうな感じだけど、難しい問題にも答えられるし、喧嘩があったら仲裁してくれるし、しっかりしてるお兄ちゃんって感じだ。
「あんまり?」
「自分のことなのになんで疑問形なんだよ」
「薊は?」
「さあね」
「薊こそ疑問形……絶対勉強してきてるだろ」
薊は俺をからかうみたいに笑う。ちょっとイラつく。
「試験前のお約束だからな」
「さすがに高校三年生は慣れているね」
子手毬が入ってくる。薊より一歳下で、きれいな顔をしてて、凛々しくて、大人っぽい。
「お前は試験、久しぶりか?」
「そうだね。高校には通っていないから」
子手毬は俳優の子で、家を継ぐために修行してるらしい。かっこよすぎだろ。
「でも、勉強には自信があるよ。台本を覚えるための記憶力や理解力は大事だからね」
すごく偉そうなのに、嫌味に聞こえないところがすごい。これが演技力なのかな。
ただ年上の奴らと話してても、俺が勉強が苦手ってことには変わりない。
試験の結果は思った通りだった。放課後の教室で、俺はしばらく解答用紙を眺めていた。
「三十三点!?」
俺と同じくらい勉強が苦手な……いや、勉強以外でもバカな汐が覗いてきた。
「覗くなよ!」
「いーじゃん! どうせお互い大した点数じゃないんだから」
大した点数だったらもったいぶっていいってことなのか?
「じゃあ、お前何点なんだよ」
「二十九点」
汐は堂々と解答用紙を見せつけてきた。
「ショボっ」
「三十三点が何言ってんのよ」
「四点分の差があるんだよ。俺よりも二問間違ってやんの!」
「どんぐりの背比べ」
加熱する俺と汐の傍を、ヒイルがそう言って通り過ぎた。一緒に歩いてる夜鷹が申し訳なさそうに頭を下げて手を合わせてる。なんかかわいそうだから手を振っておく。けど、汐はそうしなかった。ヒイルの後ろ襟を引っ掴んて止める。
「笑うんなら、あんたは何点だったの?」
「七十七点」
はっきりしない点数に、俺と汐は何も言えない。
「っていうのは夜鷹の点数で」
「「噓つき!」」
夜鷹の代わりに俺たちが怒る。
「ボクは八十五点」
「点高いんなら普通に言えばいいじゃん!」
「ひたすら夜鷹に失礼だな!」
夜鷹は何も言わない。何か諦めてる気がする。かわいそうな奴。
「ヒイル、勉強はできても性格悪いんだな」
俺の煽りに、ヒイルは笑う。
「まあね」
「褒めてない!」
ヒイルは手を振って帰って行った。夜鷹も追いかけて出ていく。
俺は何だかむっとして、六花、せきれいといる梢に話しかける。
「お前、何点だった?」
「えっと……」
梢は目を逸らす。これは、点が低くて恥ずかしいって合図か? ようやく俺たちの仲間が……!
「……八十八点」
「すげえじゃん! なんで恥ずかしがるんだよ!」
「だって、十二点分も逃したんだよ」
「別にそのくらい」
俺と汐が分からないでいると、六花が間に入ってくれた。
「梢ちゃんは目標が高いんですね。自分を成長させるには良いことですけど、八十八点も取れたって考えてみるのも良いんじゃないでしょうか?」
「でも、九十点は欲しくない?」
「梢ちゃん、最近は落ち着かない日が続いていましたから、その中でよく頑張りましたよ」
六花は微笑んで、お姉さんみたいというか、お母さんみたいというか……。みんなに優しいだけじゃなくて、よく相手のことを見ている。
「六花さん、ありがとう」
梢の気持ちが楽そうになって、俺はちょっと安心した。けど、それ以上に焦った。俺と汐以上に点数が低い奴の候補がいなくなったから! どうしよう。
「二人の結果はどうでしたか?」
六花は梢に向けたのと同じ天使みたいな笑顔を向けて聞いてきた。心臓がばくばくする。
「……こいつ二十九点で俺が三十三点」
「まあ! 頑張りましたね」
初めて褒められて、逆に悲しくなった。
そんな俺たちの傍を、今度は蒼空、五月雨、朝露が通り過ぎようとする。
「お前らは何点だった?」
投げやりになって聞いてみると、意外にも三人は目を逸らす。いつも眩しいくらい堂々としてる奴らなのに。
「私はその……内緒だ」
「僕も」
「――サハル・ルンジーエ」
朝露が出した魔法の扉で三人は消えた。
「あいつら、何なの?」
その時は、三人とも梢みたいに、自分の目標より低い点を取って恥ずかしがっているんだと思った。けど、数日後に五月雨を問い詰めて分かったことは、三人とも揃って百点を取って、俺たちの点数が低いのを耳に挟んで、満点を見せつけるのが申し訳なくなった、ということだ。この教室には優しい人が多いけど、結局、ヒイルくらい性格の悪い奴の方が、変な気を遣わずに生きられて得しているのかもしれない。




