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サハル・ルンジーエ  作者: 在原白珪
第4章
201/203

13話2 病室

 私はどこにいたいんだろう。私は何をしたいんだろう。

 女王さまが用意してくれていた装置が壊されて、その修復が蒼空に任されて、困っている蒼空を見て、やっとその疑問を持った。

 今までは何もかも、用意されたものに従っていて、それに必死で気づかなかった。人間界もこの世界も広くて、いくらだって選択肢はあったのだ。

 もちろん、私がずっとこの世界にいれば、妖精界は安定する。でも百夜のように、不自由と孤独に押しつぶされてしまうかもしれない。私がそうならないと、きっぱり言い切ることはできない。百夜は、足引は、他人ではない。


 私は蒼空の涙に言葉で答えられないまま、塾に戻った。六花もせきれいも無事で、蛍さんが家まで送ってくれたらしい。

「鹿の子さん!」

「先生!」

 一日も経っていないのに、鹿の子さんと会うのがとても久しぶりなような気がして、二人でぎゅっとしあう。

「俺たちも帰ってきたぞー」

 猪目も鹿の子さんにアピールして、ハイタッチする。

 たち、というのは、蝶二さんもついてきたからだ。

「じゃ、蝶二、しばらくよろしくな」

 猪目さんはそう言って玄関に戻る。

「お前、どこに行く」

「話したいやつがいるからさ、ちょっと」

「一応今日はあなたの担当日……」

 猪目さんは蝶二さんのごもっともな意見を受け流しもせず、出て行った。

 蝶二さんは舌打ちする。

「全く、後で報告してやりましょう。お二人はお構いなく」

 やや不機嫌な蝶二さんに、鹿の子さんが両手を上げて構えている。ハイタッチの続きだ。

 蝶二さんは静かに応えた。


 蝶二がいれば先生も鹿の子も大丈夫だろう。大丈夫じゃないのは俺だけだ。

 足引隊長が悪魔かもしれない、そんな噂は聞いていた。噂だけでも動揺した。あのおせっかいな隊長が悪魔になんてなるはずがないし、それでこの世界を襲うはずがない。

 でも実際会ってみたら、本当にあの人だった。俺じゃ歯が立たなかった。ああ、そうか、あの人も環境が変わったらこんな風に話すんだなって、納得した。それが怖かった。

 あのとき……、地涌隊長がいなかったら、蝶二と先生が入ってきてくれなかったら、俺はどうなっていたんだろう。心のどこかで、あの人は俺にひどいことをしないんじゃないかって信じていた。でも疑うべきだった。五月雨だって言葉と魔法を奪われた。それなら、俺が奪われるものくらい分かっただろう。

 騎士の制服は便利だ。大抵の場所に予約なしで入れる。

「警備の応援ですか?」

「そうだ」

 嘘だ。受付嬢には悪いが、彼女に嘘をつかせないためには俺が嘘をつかなければならない。

 さて、あいつらの病室はどこにある? 結界くらい張ってあるだろうし、魔力で見分けるのは難しい。蝶二や蛍ならできるのかもしれないが、俺にはとても……。

 となれば、病室の見た目で探すしかない。隠されているなら、そういう隠し部屋か、空き部屋を装っているだろう。

 そう思って歩き出したときだった。

 若い男二人の会話が聞こえてきた。

「出番がないくらいがいいんですよ。だいたい、火事のときに忙しい諜報なんていますか?」

「放火なら捜査するのが当たり前だろう。……治りが早ければ、オレにもできることがあったはずだ」

「でも、部下ならともかく上司の取り調べなんてできます?」

「できる! 相手が誰でも関係ない!」

「隊長ったら、だだこねないの」

「こねていない! 口を慎め」

 あほらしい会話だったからうっかり聞き入って、指を差してしまった。

「昼顔!」

「〝隊長〟を付けんかあほ!」

 車椅子に乗った昼顔と、車椅子を押している副官だった。

「こらこら、二人ともだめですよ。大声で名前とか〝隊長〟とか言っちゃ。他の患者さんがびっくりするでしょう」

「お前だってさっき話してただろ」

 昼顔の副官は諜報部の割に明るい性格だが、何を考えているのか分からない。

「で、なんですか? 隊長に何かご用ですか?」

「いや、お前じゃない。いや、お前がいても別にいいんだが」

「お前、オレを何だと思っている」

「じゃあ誰を訪ねて来たんです? あなた、人間さまに精一杯で妖精の恋人なんかいないでしょう。ばかだし」

 そうつっこまれるとうろたえるしかない。

「確かに、……ばかだが」

「そこを認めるのか」

 考える。諜報部のこいつらにどうやってごまかす? 何を言っても何かつっこまれる気がする。いや、隠しても仕方ないか。

「……五月雨と紫陽花と話したい」

「ほう」

 昼顔の目が光る。


 昼顔の病室に連れ込まれる。手の届く範囲に文房具があって、小さい棚には本が積まれている。並べて立てておかない辺りは親近感が沸く。

「やはり協力者だったのか」

「違う。協力はしていない。けど、これからしてやりたいと思った」

「同情するのか」

「……そんなものじゃない」

 昼顔は車椅子のまま、副官は立って、俺は丸椅子に座らされている。尋問みたいだ。捕まったんだからしょうがない。

「五月雨はずっと塾で見てきたし、紫陽花の話はそこでたくさん聞いた。これからあいつら、どうなるんだって気にするのは当然だろう」

「五月雨は蒼空殿下を騙して悪魔に利用させ、紫陽花は無差別に市民を襲った。どうなるかくらい分かるだろう」

 紫陽花だけじゃなく、五月雨のやったことまで知られている。さすが諜報部、と褒められはしないな。

「あいつらだって生きるために、互いを守るためにやったんだ」

「関係ない。医者の許可が出次第、牢に繋ぐ」

 俺は席を立つ。

 威圧されても、この場で一番戦えるのは俺だ。

「俺はお前を隊長とは呼ばない。悔しいなら、魔法を取り戻せ。お前がお前とちゃんと話し合え」

 昼顔の病室を出る。

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