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悪女が騙りて神を裂く  作者: たかはし?
第零章 Ep2 Normal End ~聖女じゃないなら悪役令嬢になれば良いじゃない。~
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008 棘があっては触れたくないし、薔薇を眺める趣味も無し2






「お久しぶりですね。」


「……僕に言ってる?」


「もちろん貴方に言っています。」


「はあ?会った事無いよお前なんか。誰と勘違いしてんの?もしかしてお前、他人の顔の区別ついてないんじゃないの?」


「あら…そうでした?かの有名な、枢機卿猊下のお孫様。前に一度お会いした、と記憶しているのですが?」


「うわ僕の事まで調べてんのかよ、ゲロキモ。」


「お忘れのようですが、一応本人から聞いた情報ですわ……」


「はあ、頭の良い僕が人の顔を忘れるはず無いんだよね。……でもま、根拠もなく決め付けるのはほんの少し気が引けるか。信じてあげるとすれば、歳の近い従兄いとこが居るからそれかな。」


「…ご本人かと思ったのですが、従兄様とはそんなに似ているのですか?」


「兄弟かって言われる位にはね。じいさまの孫なんてそこそこ居るけど、歳が近くて髪の色もってなると一人だけ。そういや今は丁度あの、王都の教会に居るんだったよ。会ったのは王都の教会とか、その周辺とかだろ?」


「…ええ、仰る通り。お会いしたのはあの教会の中で、ですね。」


「成程ね。そういう勘違いならまあ良しとするか。でも2度とはごめんだから、名乗っといてやる。顔と名前、一度で覚えろよ性悪女。僕は、エイジ=ダンディ・ラブ=クラーク。ファミリーネームは好きじゃないから、それ以外で好きに呼べよ。一応付け加えておくけど、僕はお前だけじゃなくアルシファイアとか言うゴミ貴族とは一度も会った事無いから。基本的に貴族は嫌いなんだ。」


「あら、殿下たちとは一緒に居らっしゃるのに?」


「ハッ!他よりマシなのがここだっただけだよ。」


「では本来は平民の方が好きなので?」


「誰が平民好きだよキモチワルイ。有象無象は皆等しく嫌いなんだよ。」


「あらまあ。これは失礼いたしました。」


「わかれば良いよ。ふーん。お前、会話はできる奴だな。」


「お褒めの言葉、でしょうか?」


「それ以外のなんだよ。」


「いえ、会話ができない人など…あー…」



 アリ゜スの目線が、未だにわーわーと騒ぐ金髪に自然と引き寄せられる。

 今はクリムと、薄緑髪の青年その2によって二人がかりで宥められている。




「居ますね。割と。」


「だろ?この中じゃ、あのチャラ男とバカは落第点だね。」




 「だから誰がチャラ男だ!」というツッコミは、誰の耳に入る事無く空気に溶けた。

 エイジの視線が、こちらを指さしてわーわーと騒ぐ金髪に自然と引き寄せられる。




「……『バカ』の方が誰の事なのかは、あえてお聞きいたしませんわ。」


「わかってるじゃん。そう言う、察しの良い所が『会話できる』って事だよ。まあ……だからと言って、アリスの件は許さないけどね。」


「あら。ならば私は今ここで法の下、次期枢機卿様によって裁かれるのでしょうか?」


「なに?ヨイショのつもりなら無駄だよ?気持ち悪い。言っとくけど僕がじいさまの後を継ぐのは確定事項だから。それにさ、今回は忠告だけだよ。お前が本気を出せばこっちも本気で潰す、ってね。法なんか関係なく…僕の意思で。」


「そうですか。御忠告感謝いたします。是非参考にさせていただきますわ。」


「少しくらいは動揺しろよ。やっぱ、話ができても面白みのない奴はダメだな。さ、じゃあもう話終わり。僕は帰らせて貰うよ。」




 そこに「おい!」と、数歩下がって見ていた薄緑髪の少年ディーンが声を荒げて戻って来る。




「待て待て待て何にも終わってねーよ!エイジお前、『僕に任せて!』みたいな口ぶりで勝手に割り込んで来たくせに、結局何も言ってねーじゃねーか!」


「はあ?犯罪教唆。最初に言ったろ?あれで全部じゃん。」


「いや、その、ほら!あっちもあるわけだし…」


「それに関しては今じゃないって、さっき決めてたろ。」


「そうだけど!もう少し探りとかさ…」


「アレについてはこっちだって証拠不十分だろ。寧ろもう情報出し過ぎなくらいだし。これ以上は無駄どころか有害なんだけど?いつも言ってるだろ、僕の貴重な時間を浪費するなって。それとも、何かまだ話す必要があるって?なら、その何かを明示してくれない?」


「何かって、そりゃ……」


「ああ、それとも僕の完璧な話の流れを理解できてない?ならせめて、間抜け面して永遠に黙ってろよ馬鹿チャラ男。」


「誰が馬鹿チャラ男だ!」


「その辺にしとこうよ、二人とも…ごめんね、アリ゜ス。」




 そしてこの場に居る最後の一人も会話に加わった。

 アリ゜スの名前を呼び捨てで、しかし丁寧に呼ぶ男。

 王太子を宥めていたもう一人、薄緑髪の青年その2。左右対称な緑髪の青年。軽やかで涼やかに、落ち着いた声。

 ダンテ・トゥー・ウィンドル。ウィンドル公爵家次男。ディーンの、双子の弟。


 中背、薄緑髪。顔がそっくりな兄とは対照的な、物腰柔らかで大人しい美青年。

 才能は座学、中でも魔法関連に突出しており、魔法学で満点を逃した事がない上、他の座学も卒なくこなす秀才として学園に名を馳せている。

 しかし人見知りな性格なのか、他人との会話を苦手としているのは彼を見ていれば誰も誰もが直ぐにわかる程だ。

 日常会話に支障が出る事こそ少ないものの、緊張すると言葉が出なくなるらしく、特に会話ができる異性は数える程だとか。

 授業中回答者に指名されても、緊張からその実力を殆ど発揮する事ができないという逸話も有名だ。

 その特徴的なエピソードの幾つかは、公爵家令息としては異例ながら嘲笑のネタにされる事も。反面その美貌の前では欠点すら魅力を感じる異性も多く、顔や名前は兄と共に広く知られ、その成績から「歩く魔法指南書」と学園内で広く知られている。

 因みに、その「会話できる数少ない女性」の中には、目の前に居るアリ゜スも含まれていた。


 薄緑髪の青年ダンテは、頭を下げてアリ゜スに謝罪の意を示す。




「気にしなくて良いわ、ダンテ。先程帰りたいなんて言った身で恥ずかしいけれど、本音を言ってしまえば割と…というか、そういう喜劇だと思って見ていれば、なかなか質の高い演目よ?独創的でしばらくは飽きそうにないわ。」




 「人をミュージカル呼ばわりするんじゃねえ!」と野次が飛んでくるが、そこまで織り込み済みだったのか。アリ゜スは被せ気味に肩をすくませ、それを見たダンテは笑みを零す。




「成程。示し合わせたように交代で話すものだから何かと思えば、やはり台詞の割り当てがあったのね。私の分の台本はどこかしら。もうすぐ歌が入る頃じゃないかしら?私、得意でしてよ?」


「ハハ。なら、作る時には、君の分も書かせるよ。そっか、喜劇か……わかるな。寮生活だと、娯楽が少ないから、ね。僕も、クライン達が居ないと、割と、暇を持て余していた、と思うよ。」


「あら、無理に合わせる事も無いわ?貴方はどうせ、そうなったらそうなったで本の虫でしょう?」


「ああ、そうか。そうだね。でも、合わせたんじゃないよ。多分。今の僕は、本を読むよりも、クライン達と居る方が、好きなんだ。」


「そう……。貴方、前よりずっと、話すようになったものね。」


「ああ。…アリスの、おかげさ。」


「…そう。」


「アリ゜ス…僕は、君たち二人が、違う事を言うなら…迷わず、アリスを信じるよ。」


「だから貴方も、私を糾弾しにきたの?」


「違うよ、アリ゜ス。確かに僕は、アリスの事を信じているけど、君の事を、全く知らないわけじゃない。僕が見た君は、そういう事をする人間には、見えなかった。だから話を、しに来たんだ。」


「私の返答は変わらないわ?身に覚えがないもの。」


「そうだね。でも、そうじゃなくて。アリスが嘘をつくとは、思ってない。でも彼女、ちょっと天然だから。なにか勘違いしてやしないかって、そう思ってる。すれ違いが起きているなら、僕はそれを正したい。君の言動や、行動のどこかに、彼女の思い込みのきっかけが、ありやしないか、って。だから、もっと聞かせて欲しいんだ。君の記憶にあるやり取りを、詳しく。」


「そう…。」




 思考を巡らせるように目を閉じたアリ゜ス。

 だが、一呼吸のあと。手にあった扇を開き、顔の下半分を隠す。

 対面の優男ダンテには、それが拒絶だとわかった。




「でもごめんなさいね、ダンテ。私、一切関った覚えが無いの。身に覚えがないのだから、これまでと同じ、何一つ言える事は無いわ。」


「…そうか。」


「話を聞くならまず私ではなく貴方達のお姫様か、取り巻きと呼んだあの子たちをお勧めするわ。彼女たちに子細を聞いてみてくれないかしら。何度でも言うけれど、私に聞かれても、お門違いよ。」




 学園本堂を振り返り、件の人物たちが居ない事を確認しながら、言い終わる前に視線を戻す。

 最初から傾向はあったが、今では遠巻きに、かなりの数の観衆に囲まれていた。




「……残念だよ、アリ゜ス。多分、僕一人なら、君の言う通りに、そうしただろう…と思う。でもそれじゃあ、『僕達』は、納得、できないから。」


「ええ…わかっているわ。」


「アビス!!」




 「納得できないから」。ダンテのその発言に。

 腕を組みながら2歩下がって聞いていた美男子ディーンが、その人物を手で示し首をすくませ。

 会話に飽いたか、持っている本を開きたがる素振りの美少年エイジが、その人物を目線で捉え。

 ウィンドル家の双子に代わり、抑え役を担っていた偉丈夫クリムが、肯定するように頷いた。

 それぞれが無言で同意を示した瞬間、その空気の隙をつくように、金の獣が解き放たれる。

 自らの肩に置かれたクリムの手を払い除け、ズンズンと音がしそうな強い足取でアリ゜スの前に歩み出る。

 王太子、クライン。




「ア『リ゜』スです、王太子殿下。発音は正確に。」




 ワーン・ド・クロセリウス王国王家次男。王太子。

 王立ウィルオール学園二年生。

 クライン・ロード・ホワイトナイト・クロセリウス。


 僅かに平均よりも高い身長。身長に対し少し華奢な身体。

 黄金色の美しい短髪は、重力に逆らう程に強く跳ねている。その黄金色の下には、まだ少しだけ幼さが残る顔。

 幼い。いや、幼いからこそ。「男」になれば失われてしまうであろう、完成する直前に残った僅かな幼さが、大人の色気とは違う、庇護欲をそそる愛らしさを見せる。

 名物の陶器と見紛う程の、触れれば壊れそうな、光が透き通りそうな白い肌。絹の質感で白磁の儚さを持つ、微かに「少年」を残す今こそが完成品にすら思える。そんな美しい見た目の青年。

 そんな彼がいつも人当たりの良い、涼やかで優しい微笑みを振りまいて学園内を歩くのだ。彼に心酔し、取入ろうとする者は後を絶たない。


 とは言えその美貌は彼だけの特権ではなく、多少の差があれど今の王家の誰もが持ち合わせれいる物だ。

 しかし、次男でありながら王太子の座を持つクライン。それには、明白な理由がある。彼が、もう一つ天から与えられたギフトを持ち合わせているからだ。

 それは、その年齢にそぐわない、潤沢な魔力。

 三人居る王子の中でも飛び抜けた魔力を保有して生まれた彼は、1歳の誕生日を迎える前に幼過ぎる王太子に指名され、当時「神託の聖女」と呼ばれていた少女との間に婚姻の約款が結ばる事となった。

 成長と共に増え続ける魔力量は、現状同世代の学生とは一線を画しているものの、未だ発展途上にある。その為今はまだ、見た目以上の身体能力を発揮したり、魔法での経戦能力が他と比べ非常に優れている、という程度でしかない。

 しかし彼が魔力の扱いを学びその経験を積めば、近い将来、常識を覆すような強さに至るのは明白だった。来る厄災を祓う聖女の隣に立てる、良きパートナーとなるだろうと言われている。


 容姿、地位、才能。「全てを持つ者」。誰が呼んだか、いつしか定着した彼を指す羨望の言葉だ。


 しかし、そんな順風満帆なはずの彼の名声に、一つの陰りを作る原因が居た。

 アリ゜ス・アルシファイア。

 既に決定された聖女との婚約は…いや、「聖女と呼ばれていた少女」との婚約は、その事実が発覚した時も、そして彼女の悪行の噂が蔓延した今も、撤回されてはいない。

 アリ゜スの噂が増える度、未だその婚約が保たれている理由の裏を探ろうとする話が下卑た貴族達の間で盛り上がる。

 しかし、権力の流れに敏感な者達は、思っている。

 もうすぐ、もうすぐだろう。近いうちに二人の婚約は撤回され、そして本物の聖女と…と。

 本物の聖女が学園に入学した今、それはもう目前だ、と。

 そしてそれは誰より、本人である王太子クラインの心からの願望だろう。


 最近になって何度か目撃されている、それまでの彼のイメージとはかけ離れた声を荒げる姿。しかし、それでも彼の品性を疑う者は居ない。

 何故なら彼が憤りを見せる時、その傍らにはいつも元凶の、あの悪女が居るから。

 そう。まさに、今も。




「何故誰もこの女に言ってやらないんだ!アリスにしているイジメは既に露見していると!」




 「あーもう…」とディーンが頭を抱える。

 「だからまだ証拠不十分だって…」とエイジが、本に顔を向けたまま非難の目線を向ける。

 「ははは…」と乾いた笑いしか出ないダンテ。

 そんな彼らに、「すまん…」と体に似合わぬ小さな声で謝罪するクリム。




「イジメ、ですか?」


「まだとぼけるか、だがもうしらばくれても無駄だ!アリスから既に話は」


「待った待った!」




 間に体を割って入ったのはディーン。

 しかし声こそ止まったモノの、割り込まれた二人は彼の事など見ずにお互いにらみ合う。




「クライン!そっちはまだ確定じゃないって!」


「…あっ!?…すまない、つい…」


 思い出し、ハッとした顔をするクラインから敵意が抜ける。

 しかし、3秒と保たずに同じ顔に戻る。




「しかし、言ってしまった物はもう戻せない。それにこの女である事は揺るがない事実だ!」


「あーもう…」




 ディーンは払いのけられ、項垂れて引き下がる。




「何度目かわかりませんが、私、身に覚えがございませんの。」


「貴様以外の誰がそんな事をする!」


「証拠不十分との声もありますが…」


「イジメられている彼女自身の言葉、それ以上の証拠などない!」


「…ねえ誰か、彼に法律を教えて差し上げて。」


「僕はパス。」




 もはや目線すら本に向けたまま、エイジが匙を投げる。

 他の誰からも声はあがらない。




「もう返す言葉も無いようだな。」


「返せる内容すら頂けていませんので…」


「安心しろ。僕も、そしてアリスも寛大だ。今ならまだ比較的穏便に済ませてやろう。だが、…これから先、もしまだ続けると言うのなら…僕らにも考えがある!」


「考え、ですか。」


「ああそうだ。その時には、貴様が最も苦しむ方法で、制裁を加えてやる。覚悟しておくことだな!」


「…そうですか。」


「フン。強がることしかできないと見える。精々その時を震えて待つが良い。失礼する。」


「……」




 歩き出すクライン。

 颯爽と歩き始める彼の後ろ姿は、どこか誇らしげだ。

 それは、いつかの意趣返しか。

 残る4人の反応はそれぞれだが、概ね彼に従い男子寮へと向かうらしい。

 だが一人だけ、その場に残ったままの者が居た。




「アリ゜ス。クラインは、本気だよ。アリスに関わる事だと、彼は変わる。普段の平静な彼と違う、激情家の顔になる。何をするか、わからない。しばらくは……」


「……」


「……しばらくは大人しく、していて欲しい。」




 そう言い残したダンテは、アリ゜スの返事を待たずに小走りで彼らを追いかける。




「そう。」




 その背を見送るアリ゜ス。

 喧騒の中でも目立つ、彼らの大声が聞こえなくなるまで離れて、それでもまだその場に立ち尽くしていた。




「望む所よ。」






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