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悪女が騙りて神を裂く  作者: たかはし?
第零章 Ep2 Normal End ~聖女じゃないなら悪役令嬢になれば良いじゃない。~
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007 棘があっては触れたくないし、薔薇を眺める趣味も無し1






「アビス・アルシファイア!」


「私の名はアリ゜スです、殿下。発音は正確にお願い致しますわ。」




 放課後。

 授業が終わり、学園本堂から寮へと帰る際に使う出入口。そこから外へ出た数歩先の、本堂から張り出す軒の陰がちょうど切れた所。出入りする生徒達の邪魔になる事を考ない配置。出て来たアリ゜スを待ち伏せるように、それらは居た。





「……それで?これはまた、壮観ですわね。皆様揃ってなんの御用でしょうか。」




 彼女を呼び止めた王太子クラインを筆頭に、4人の青年たちがアリ゜スの行く道を阻んでいる。




「しらばくれるな!」


「…どなたか、簡潔に用件を述べて頂けます?」


「貴様、私の話を!」


「オールグレイブに…聖女に、手を出したそうだな、アルシファイア。」




 4人の中でも最も背の高い、王太子クラインの隣に居た男。紅色の髪をした男は、硬く低めの声で語りかける。

 クリム・クレイナイト・エクスレイ。エクスレイ公爵家長男。

 長躯強面真紅髪の青年。

 その長身のため相対的に細身の印象を持たれる事もあるが、実際には鍛えられた事が伺えるそこそこに筋肉質な身体を持つ。

 運動能力、中でも剣の腕は学園の中でも1・2を争うと言われる有名な三年生。


 学年は違うが、一歳年下の王太子クラインとは幼馴染としても知られており、二人が学園で共に居る事は多い。

 クラインが入学してまだ間もない頃、「王太子とお近づきに」と考える者が後を絶たなかった数ヶ月の間に、王太子への無許可の謁見を阻む門番役がすっかり定着していた。

 その役回りも然る事ながら、寡黙気味で王子の言葉に逆らわないその姿を見て、男子…特に同学年である現三年生男子生徒には「王子の腰巾着」と揶揄され、妬みの対象となっている。

 元々の眼光の鋭さ、それを助長する眉間の皺……元々顔だけでも十分凶悪な見た目だと言うのに、どこかを睨むような難しい顔を常にしているせいで、下級生にまで剣の腕より「王子の横の、顔が怖い先輩」のフレーズで有名な人物でもある。




「手を…?身に覚えがございませんわ。」


「しらばくれるなと言っている!貴様の所業は大勢が目撃している、言い逃れなどできんぞ!」


「…と、仰っておりますがどういう事でしょう?」


「無視をするんじゃない!」


「……」




 金髪の王太子クラインを、アリ゜スは頑なに視界に入れようとしない。

 語気に熱を帯びていくクラインを宥める役を、二人の薄緑髪の少年達が自主的に請け負う。

 クラインの体が会話する二人とは逆方向へと向けられ、少しだけ静かになった所で、クリムは咳払いをした。




「…先週末、取り巻き達にやらせた事だ、と言ったら?」


「ああ……彼女らのやった事については彼女らの責任。直接言って欲しいとご本人にはお伝えしたのですが、全く意味を為さなかったようですね。まあ、そこまで含めて予想通りではありますが。」


「ふむ、そうか……あくまで自分に責は無い、と。そう言う事か?」


「そういう事です。」


「うむ……確かに、一理ある。」




 「クリム!?お前!」、と叫ぶ声。赤髪の青年クリムの眉間の皺が、ぐっと濃くなる。

 が。振り返りもせず強い咳払いを一つだけ挟んで、クリムの言葉は再開された。




「俺はその理屈には一応の道理を感じる。」


「あら、案外話のわかる方でしたのね。これからは殿下との会話の仲介役を担って頂けませんか?」


「待て、早まるな。」




 言葉を制するように出された右手、その指の間から視線を交わす。

 互いが互いを見極めるように目を細め、少しの沈黙が流れた。



「お前のそれは、一見真っ当な意見に聞こえるが…しかし、だ。アルシファイア。その理屈、貴族としては聞き捨てならない意見だ。」


「ほう…。詳しくお聞かせ願えますか?」


「人は、人と関わり合い生きている。責任の所在は時に、自分か、自分以外か…という、単純な2つの枠では収まらない事もあるだろう。それが上下関係ならなおさらだ。それは、上に立つ者として……この国の上位にある公爵家の者が持つには、相応しくない考え方だ。…と、俺は思う。自分の下につく者達の不手際の責任は、時に上の人間が負う必要がある。その行動のきっかけが、お前の指示であってもなくても、だ。違うか?アルシファイア。」


「……成程。確かにその意見、理解できますわ。」


「そうか、ならば」


「早まらないで下さいませ?」




 制するように出された右手の扇。その上に並ぶ2つの目。

 逆の立場から見ても、恐らく同じような光景だろう。




「それとこれとは別問題、でございます。」


「…詳しく聞かせてくれ。」




 そのキツく細められた目に見える感情は、警戒。

 それを見たアリ゜スは微かに笑った。




「私とあの方々は、友人ですの。上下関係などではございませんわ?なので今回のお話、エクスレイ様の仰る例とは異なる事案となりますわね。」


「……ふむ。友人、か。流石に、少し苦しい言い訳ではないか?アルシファイア。」


「彼女達と私が友人では、何かおかしい所がございますか?」


「まず、身分が違うだろう。」


「身分が違う相手でも友人にはなれますでしょう?エクスレイ様は、殿下の友人かと思っておりましたが。」


「それは、勿論そうだが…いや、やはり違う。クラスメイトというわけでもないのに、まして相手は学年の違う新入生だ。」


「それは貴方も同じでしょうと。年が違っても、クラスメイトでなくても、友好関係は結べるのは貴方がよくご存じなのでは?と申し上げているのですが。」


「それは、クラインとは子供の頃からの……いや。そうだな。だというならば、お前とあの者達とはどうやって出会った?」


「彼女たちの方から、仲良くなりたいと申し出がありまして。」


「それだ。それもまた、家の繋がりだろう。家の柵で繋がる縁、それは…取り巻きと何が違う?」


「何故そこで家の繋がりだと断言できるのやら。事実は全く違うのですが……ああ、では逆に。友人と取り巻きの違いとはどこで決まるのでしょう?」


「それは………やはり、上下関係の有無、ではないのか?」


「……ほう。では上下があれば取り巻きで、取り巻きなら上下がある…と。否定しようにもするべき場所が最初からない、無理筋で堂々巡りなご意見ですわね。」


「む……」


「いえ、申し訳ありません。煙に巻きたいわけではございませんので……なんと申しましょうか。難しいですね。」


「ふむ…」


「では、こういうのでどうでしょう。私の噂はご存知でしょうか?」


「…お前が、アルシファイアの家に見放されていると言う、アレの事か?」


「そのアレです。で。そんな私が家同士の上下や力関係ありきな、取り巻きという間柄の知人を作る事はできるのか。いいやできない、公爵家の権威がなければそんな関係成り立つはずもない。…とは、考えて頂けないでしょうか。」


「いや、だが……お前は、前に他にも取り巻きを連れて居た事があるだろう。その理屈ならば、過去に取り巻きが居た事がおかしい。前は居て、今作れないと言うのもだ。」


「あの時の方々も友人、ですわ?現に反りが合わず、去年の殆どは孤独に過ごしておりました。それはエクスレイ様もその目で、長らく独りだった私の生活を度々ご覧になっていたのではないかしら?」


「それは、確かにそうだが…」


「簡単に見限ってしまう知人なんて、もうそれは上下関係とは言えないと思いませんか?あの時の彼女達とは喧嘩別れというお恥ずかしい限りの結果でしたが、だからこそ彼女たちと私との関係も、上下など無い対等な友人関係だった……という証にもなろうかと。この説明で、不足ございますでしょうか?」


「うむ…。」


「ちょっとちょっと!?上手く丸め込まれないでよクリム!?」


「あら、丸め込むだなんて。お久しぶりですのに、変わらず辛辣でいらっしゃいますね、ディーン様。」




 王太子を宥めていた内の一人。左右非対称な緑髪の青年は、軽い口調と明るい声で話に割り込んでくる。

 ディーン・トゥー・ウィンドル。ウィンドル公爵家長男。

 中背、薄緑髪。明るい雰囲気の、笑顔が似合う好青年。


 憶えている魔法の数は教師からも定評があり、その多彩な魔法を駆使した実戦的な立ち回りを得意とする。実力は現2年生の中ではトップクラスと言われており、1対1の魔法模擬戦で彼に勝った者がまだ一人も居ないという事実が、その噂を後押ししていた。

 しかし天は、容姿と魔法の才の二物しか与えない。発言は軽薄、授業態度も落第ギリギリもの。最たるは女性に対する態度だ。軟派な振舞いが問題になる事は多く、異性からの評価は「好意」と「嫌悪」で著しく二極化されている事で知られている。

 彼に貼られたレッテルはそのまま、「軽薄で不真面目な天才」だった。




「辛辣だなんてひどいなあ、アリ゜ス嬢?一応僕は今まで、君の事も一人の女の子として扱ってたつもりなんだけど?」


「あら。ならばどうぞ、本日もお手柔らかにお願い致しますわ。」


「それは、君次第だけどね。まあさっきのに関しては、丸め込んだと言うよりかは丸め込まれに行ったようなもんだけどさあ。なあバカクリム。責任とかそう言う複雑な話が苦手なのくらい、自分でわかってるだろ?」


「……」




 肘で小突かれた長身の青年クリムは、相変わらずの難しい顔から、少し毛色は違う…が、結局は難しい顔をした。

 その変化から感情を読み取るのは、非常に困難だろう。




「全く…こういうのはさ、得意な奴に任せておいてよ。」




 手を顔の高さに掲げたディーンに対し、クリムは黙したままその手を叩く。




「と言う事で、選手交代!次は俺と遊ぼうよ、アリ゜ス嬢。」


「あら。そう言うシステムならば私も、控えの選手が欲しい所なのだけれど?どこかから連れて来ても宜しいかしら?」


「よろしくないよろしくない!!ナチュラルに逃げようとしないでよ!」


「あら残念。」


「って言うか、こっちは取り巻きちゃん達も居ると思ってたんだけど…なんで一人なの?」


「四六時中共に居るわけではありませんよ。学年が違えば予定が合わない事もあるでしょう。」


「ん?でも…新入生はもう授業終わってるだろ?」


「……?」




 ディーンの見せた、まるで青空からの回答を求めるような仕草に困惑するアリ゜ス。

 勿論、返事など無い。




「…まあいっか。でさ、今取り巻きだって認めたね?語るに落ちたってわけだけど。」


「……そも、否定すべき材料すら無い空虚で言いがかりの如き発言には私も黙認以外しようが無いのですが?会話のペースを乱さぬよう配慮したつもりがこの言われよう、どうやらそれではいけないようですね。ああ、悲しいですが仕方がありません。ディーン様がお望みのようなのでこれからは、一々会話を中断する事になっても、同じ内容であっても懇切丁寧に何度も繰り返し説き、取り巻き呼びが続く限り徹頭徹尾徹底的に、時間がどれだけかかる事になろうともご理解いただけるまで延々と訂正させていただきますわね?『私』は、そのような生産性が著しく悪い会話は御免被りたい所ですが、『ディーン様』が、お望みのようなので、今後『ディーン様と会話する時だけ』そのように」


「わーーーかった悪かったやめてくれ、ギブアップ!そんな怒るなよ、俺の負けで良い!取り巻き友達問題はもう何も言わないから!それで勘弁して!」


「なら結構。」


「はーー…そもそも、俺達にとって大切なのはそこじゃないしね。」


「…では、教えていただけますか。あなた方の『大切』を。」


「わかってて聞かないでよ。面倒なのは、かわいい女の子でも嫌われるよ?」


「万一の無駄なすれ違いを防ぐ為ですわ。」


「はぁ…勿論、アリスだよ。君がアリスを悲しませた。だから俺らは、ここに来た。」


「それを身に覚えがないと言っているのですが。」


「『制服』。あれは流石に、やり過ぎでしょ。」


「……?何の話です?」


「……読めないなあ。」


「話しの流れが読めないのは私の方なのですが。」


「あのさあ。」




 突如、上から声が降って来た。

 いや、降ってきたのは声だけではない。白髪の少年だった。

 白髪の少年が、学園本堂の軒から声を伴って降りて来たのだ。


 アリスの連れであったマリアの、色が抜けたようなそれとは違い、色素が隙間なく詰め込まれたような濃密な白の髪。太陽に照らされるそれはまるで、髪そのものが薄っすらと光っているかのように見えた。


 片手に本を持つ童顔の少年。細められた目は無気力なようにも見えるが、不満そうに曲がった口にはたしかに意思が宿っている。幼気のあるその顔に不釣り合いな、静かな敵意を見せていた。

 制服姿の首に見える未だ汚れの無い真新しいネクタイは、今年度の新入生に渡されている一年生を示す色、黄色。

 その声もまだ少年然とした高いもので、童顔や背の低さも相まり、新入生と言う贔屓目で見ても尚幼い印象を受ける姿だ。



「犯罪教唆だって言ってんだよ。わかる?ハンザイキョウサ。さっきからずっと無関係な無駄話しててたけど、それ無意味だから。取り巻きだろうが友達だろうが関係ないの。犯罪は犯した人間だけじゃなく、実行犯をそそのかした人間も罪に問われる…って法律がこの国にはあるんだよ。どう凡人。勉強になった?」


「…その程度は一般常識の範疇かと。」


「ハッ!強がりばっかしてると身を滅ぼすよ。」


「御忠告痛み入りますわ。」


「おいエイジ、割り込むなよ!今俺が話してるだろ?」




 アリ゜スが軽い礼をしている間に、発言権はディーンと闖入者・エイジに移る。




「無駄が多いお前たちが悪い。僕の時間は貴重なんだ、まだ居るだけでもありがたいと思えよチャラ男。」


「だからチャラ男って呼ぶなよ!」


「私の時間も貴重なのでそろそろ帰ってもよろしいかしら。」


「よろしくないよろしくない!どさくさで逃げようとしないで!?」


「あら残念。ならばご挨拶が必要でしょうか?」




 もう言う事は言った、とばかりに目線を逸らしていた白髪の少年エイジ。

 彼に向き直り、正面に見つめた。




「お久しぶりですね。」






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