24 小都市サジェロネ3
食事は終わり席を移してお酒やお茶が振る舞われ、それぞれ晩餐で席が離れていた者もお目当ての人とお近づきになる為に集まりだした。
一応タイラーの側にいたが向こうは御婦人方に囲まれ、私はさっきの続きでパウトロウとライトに挟まれてソファに座っていた。
もうウンザリなんだけど……
後ろでは御婦人に「魔王を倒すのは大変でしょう?」とか「侵略戦争の敵は強いのですか?」など何度も同じ事を聞かれているようだ。
きっと彼も疲れてウンザリしているだろう。私も疲れてきていて二人に曖昧に適当に相槌を打っていると急にパウトロウに手を握られた。
「では私と婚姻のお約束をして頂けるのでしょうか?」
「は……はぁ?コンインですか?」
「いや、私の方が年齢が釣り合っております、是非私と」
別々の男性にそれぞれ手をとられ婚姻の申込みをされた……
いつの間にか部屋の中は静まり返りボーッとする私は二人の男達を見ていた。
「あの……」
状況が上手く把握出来ずにタイラーを振り返った。彼はニヤリと笑うと私の前に来て手を握る二人の貴族にこう言い放った。
「実はまだ公表は控えているのですが、私とローズマリー様は婚姻の約束をしているのです」
そう言って手を差し出した。
私は二人に握られていた手を離し彼の手を取り立ち上がった。
「まだ二人だけの間の話なので秘密にしておきたかったのですが、すまないローズマリー。美しい君が心配でつい話してしまった。許してくれますか?」
殊更優しい顔でそう言われ黙ったままこっくり頷いた。
コンインノヤクソクって何だっけ?いつしたんでしょう……
どれだけ考えてもよく分からず、何も考えられないまま会場を後にするとタイラーに連れられレーンと三人で部屋へ帰った。
黙ったままタイラーにエスコートされ部屋へ戻って首を傾げた。
「あの、さっきの話ですけど……私、よく分からなくて。婚姻の約束っていつしたんでしょうか?」
「してない。アレは嘘だ」
タイラーは部屋につくなり私から離れるとソファにどっと腰を下ろした。
「あぁーー、疲れた。レーン、水くれ。イヤ、やっぱり酒がいい」
レーンは困った様子で私を見た。
「ちゃんと説明してやれよ。ローズマリー様は分かってないぞ」
二人が話すのを聞いているうちに何だかとんでもない事をしでかしたんじゃないかと思い始めた。
「あの、あの、私、大丈夫なのでしょうか?凄く怖くなって来たのですが、まさか、私、婚約したのですか?あなたと」
「まぁ、晩餐会に来ていた連中はそう思っただろうな」
レーンに手渡されたグラスを飲み干しタイラー言った。
「水かよ。酒無いのか?」
「お嬢様にちゃんと説明してからだ」
こ、こ、婚約……
私はその場にへたり込んだ。
婚約って結婚する前段階のアレだよね。
男女が同じ家に済んで同じ部屋で過ごすアレのアレだよね。
私には一生縁が無いって思ってたアレだよね。
え?婚約って誰か他人が勝手に決めていいんだっけ?
お父様に聞かなくても良いのかな?
駄目だよね……
「何故こんな事をしたのですか?」
何だか泣きそうだ。
「心配ない。婚約って言っても一時的な事でいずれは破棄してやるし手も出さねぇよ」
タイラーはコチラを見ずに話している。レーンを見上げると困ったような顔だ。彼はいつも困った様子だ。だけど困っているのはこっちの方だ。
「申し訳ありません、ローズマリー様。我々の目的の為にご協力下さい」
「目的って、父に恩を売る事じゃないんですか?だったら私を助けたんだからそれで達成してますよね?」
「それは目的の為の一歩に過ぎない、本番はこれからだ。例のことをバラされたく無いならしばらく我慢しろ。そうすればお前の望みも叶えてやるよ」
タイラーはレーンに酒を催促しながら言った。
「私の望みって何?」
そう言うと彼はやっと私を見た。
「自分の望みも分からない父親との暮らしから開放して自由にしてやるよ、お嬢様」
無表情に私を見る目に耐えられず下を向いた。
これからどうなってしまうのだろう……
窓の外が段々と白んでくるのをずっと見ていた。
昨夜はよく分からない内にエラ達がやって来て就寝の準備を整えられベッドに寝かされたが眠れず。
起き上がると窓を開きパフを中に入れた。
パフが何か言っていたが黙ったまま抱きしめているとふんわりと温かい光りに包まれた。
「回復の魔術をかけてくれたの?」
「ポッポ」(だいぶ疲れておるようだな。何があったのだ?)
何も口にしたく無かった。言葉にするとそれが本当の事だと認めるようで怖かった。
黙って首を振るとその場に立ち尽くしていた。パフに促されソファまでは行ったがそこから動けず朝までそのままでいた。
しばらくするとエラが静かに部屋に入って来た。
「まぁ、ローズマリー様。もう起きてらしたのですか?」
エラは私を見ると驚いた顔をして慌ててベッドに連れて行き寝かせた。
「いつから起きてらしたのですか?体が冷え切っておりますわ。すぐにご用意いたしますから」
他の女中達も手伝い部屋は温められ食事も運ばれて来た。
私はパフを服の下に隠して抱きしめたままエラに背を向けベッドに潜り込んでいた。
「お食事なさいませんか?」
首を横に振った。
「では医術師をお呼びいたしますね」
また首を横に降るとエラは困った様にため息をついて静かに下がって行った。
しばらくするとノックが聞こえ部屋に誰かが入って来た。
「ローズマリー様、ご婚約者のタイラー様ですよ」
驚いて振り返るとベッドの横にタイラーが椅子を寄せて座る所だった。
「私達は外で控えておりますから」
エラ達が静かに部屋を出て行った。
私は起き上がり座ると彼を睨みつけた。
「怒る元気があるなら大丈夫だな」
椅子にもたれると腕を組んで私を見た。
「女中が慌てて呼びに来るから何事かと思ったよ。……寝てないのか?」
私の顔をジッと見て言った。
「眠れるわけないでしょう。こんな事態になってしまって、お父様にどう言えばいいのか……」
「自分を屋敷に閉じ込めるような奴を父と呼んで、連れさらわれても探そうともしない奴の言う事をこの先もずっと聞いていくのか?」
急に低い声でそう言われ、驚いた。
「それは……だけど、父親だし……」
「親でも駄目なやつはいる。エドワード・ゾルガーがそうだ」
タイラーがそう言うと服の中にいたパフがもぞもぞと出てきた。
「そんなとこに鳩を入れてたのか?」
タイラーが苦々しく言った。
「だって、急にエラ達が入って来たから」
パフはバタバタと飛び上がりタイラーの頭の上に止まった。
「クークー」(残念だがこの男の言う通りだ。もう奴は見限れ)
「うわ、何やってるコイツ!退けよ。チッ、鳩はなんて言ってんだよ」
パフを追い払いながら聞いてきた。
「怒ってる。前から父と決別しろと言われてたから」
「鳩のクセに良識だな。だからオレの言う通りにすればいい」
「父から離れる事とあなたと婚約する事は全く違うと思う」
「ポー?」(婚約?したのか、コイツと?いつ?)
パフが豆鉄砲を食らったような顔をした。
「昨日、知らない間に……」
私が頭を抱えるとパフがタイラーを猛然と攻撃しだした。ただし私が人に対しては魔術で攻撃してはイケナイといってあるので突っつく事しかできないが。
「うわっ!止めろ!止めろって鳩!オイ、止めさせろ!」
タイラーが何か叫んでいるが全く気にならない。
頭痛がする。
しばらく放っておいたら急にタイラーがベッドに上がり込み私を盾にしてパフを防いだ。
「ちょっと何してるの!降りてよ!」
「アイツを止めろ!」
「クークー!」(ロージーそこを退け!目玉をくり抜いてやる!)
それはグロい。
「パフ……もう止めて。ベッドを汚したくない、静かにして」
やっと不本意ながらもパフは落ち着き、そばにある椅子の背もたれに止まった。
タイラーを振り返ると相当パフに突かれたのか小さな傷が手や顔に集中して出来ていた。
「ぷっ、酷い。でもいい気味ね」
「チッ、どうすんだよこれ。今度羽を全部むしってやるからな!」
パフを睨みつけてそう言うとパフも再び羽を広げ飛び上がろうとした。
「クークー」(やるか、小僧!積年の恨みを晴らしてもいいんだぞ。)
「もう、二人共止めて」
睨み合うパフとタイラーを止めた。
これじゃ落ち着いて落ち込んでもいられない。




