117 派閥の長5
派閥という枠組みを越え助け合い競い合って国をもり立てる事が出来れば、辺境の町や村ももう少し生活がしやすくなるだろう。王都に集中している物資や人も地方へ向かえば道も整えられ安全面にも気を配れる。
「わたくしは自分の力を地位確保のために使うことはありません。依頼されれば現地へ向かい平民の町や人の為に喜んで働くつもりです。
急にそのようにあなた達の意識が変わることは無いでしょうが切り替えることが出来れば協力は惜しみません」
「そんな事言ってもやはり見返りが多い地域が優先されるのでしょう?」
一人の若い男が厳しい表情を私に向けた。
「失礼ですけどあなたは?」
見覚えのない男は人々の間を抜け私の前まで来た。
「私は小さな領地を父から受け継いだばかりのカルロ・マッケンジーです。今回王都へ派閥のお力をお借りするために参ったのです。私の領地は水が貴重です。魔石と井戸で補っていましたがもう限界なので山むこうの川から水路を引いて頂きたくて要請していたのですがずっと取り合ってくれなかった。魔術師を派遣するに見合う料金が直ぐに用意できないことが原因だと言われました」
イングバルを振り返ると頷いた。
「確かに急務の案件の中にそのようなものは幾つかあります。順に魔術師を派遣する用意をしておりますが……其方、マッケンジー家からの依頼は確認できておる。何分ローズマリー様が実権を握られたのは昨日だ、まだ実情全てを掴んではおらぬ」
カルロは驚いて私を見た。
「ごめんなさいね、まだ派遣には至っていないわ」
「いいえ!!そのように仰らないで下さい。そんな短期間でそこまで把握されていらっしゃるなんて。ですが、まだ支払う用意は……」
イングバルが彼を咎めるように見る。
「まだ見積もりもしておらぬのだ。話は工事が終わってからだ。ローズマリー様は取水施設を始め生活に欠かせぬ工事は出来るだけ負担なく設置が進められるようお心を砕いておられる。
なお、その事業への資金集めのための寄付も呼びかけておる。誠実さを証明するにはわかりやすく絶好の機会であると思い私も、ここにいるシーラス・ノヴァックもフェルナンド・ゾルガーも協力している」
その言葉に一気に会場内から声がかかる。
「私もその取り組みに参加したい!」
「こちらにもその用意がある!」
次々と資金の提供に名乗りをあげるものが現れイングバルが満足気に頷いた。
「話はこの後で聞かせて頂く。先ずはローズマリー様のお考えに賛同でき協力し、実行出来る事が優先である」
細かい話はイングバルが請け負い私は壇上から降りると顔つなぎをするために大勢の人から挨拶を受けた。側にタイラーとシーラスがついてくれ話が長いお年寄りを上手く下がらせたり、やたらと触る若い男に睨みをきかせていた。
「ローズマリー様!」
聞き覚えのある声がしたかと思うとミランダとヘレナがドレス姿で目の前にいた。
「おう、お前たちも来てたのか」
タイラーが見知った顔に笑みを見せた。
「勿論です。私達魔術師はもれなくローズマリー派ですから」
力強く頷くとミランダが私の手を握った。
「ローズマリー様、お願いがあってきました」
その言葉にシーラスがピクリと反応した。貴族が利権を行使する瞬間を見逃すまいとしているようだ。
「オイオイ、早速おねだりか?そんな奴はローズマリー派には要らないぞ」
タイラーがサクッと突き放すように言う。
「そんな、お願いですローズマリー様、私達は提供する資金も無いですし魔術の腕もまだまだ未熟で」
「未熟なら訓練すればいいのよ。自分に何が出来るか知ることが大事ですから」
そいうとさらにミランダとヘレナがグイッと詰め寄る。見知らぬ男性なら即座にタイラーとシーラスが排除してくれるが流石に女性相手で二人は一瞬躊躇した。間近に顔を近づけミランダが懇願する。
「私達に辺境を回る役目をさせて下さい。魔術を使う訓練を積みたいのです」
ミランダとヘレナは地方へ行って取水施設の工事や街道の舗装等に携わりたいと申し出てきたのだ。騎士として活躍するには未熟で毎日訓練はするものの的を狙う単調なものばかり。先日私が見せた魔術を見てやる気にはなったが思いの持っていきようがなかったらしい。
「何かをつくりあげて成果が目に見えれば自信にもつながるかと思います!お願いします!!やらせて下さい!」
あまりの勢いに一歩下がってしまったがタイラーがそれを支えてくれた。
「ちょっと押しがキツイが良いんじゃないか?」
シーラスも彼女達が利権を行使しているかのようだが熱意に笑ってしまっている。私腹を肥やすというより訓練の為と言われれば可愛らしく思えたのかも。
「良いのではないですか?どれだけ成果を上げたかでそれに見合う給料を支払うということで。工事を依頼した住民の意見も取り入れていけば無駄に資金をかけることにはならないでしょう」
報酬を依頼した町の住人の報告しだいとすれば平民に無体を働くことも無いだろう。
「そうですね、あなた達が良いモデルとなればこの先貴族が働いた場合の給料を決めるいい基準になるでしょう」
シーラスの許可が出たようなので後はイングバルと一緒に話を詰めてもらえるだろう。
「ありがとうございます!精一杯頑張ります!」
嬉しそうにはしゃぐ彼女達を見て周りの者達も次々と仕事を請け負うと手をあげだした。勿論なかには事業を一手に引き受け何かの利権を掴もうとするものもいるだろうがシーラスがそれを見逃すことはないだろう。
次々と挨拶は続きもう名前も顔も全く覚えることができなくなった頃、シーラスとタイラーが合図して私を休ませようと会場から連れ出してくれた。控室に戻るとソファに深く座り目を閉じた。
「はぁ……」
シーラスが女中にお茶を頼んでくれ出されたお茶を飲むとひと息ついた。
「上手くいったのでしょうか?」
グッタリとしながらも自分がちゃんと役目を果たせたのか気になった。隣で一緒に不慣れな社交を頬を引きつらせながら付き合ってくれていたタイラーが私と同じくグッタリしながら冷たい水を飲んでいる。
「良かったんじゃないか。みんな喜んで金払うって言ってたし」
「寄付って言ってよ。なんだか巻き上げてるみたい」
「どんな金でも金は金さ。それで町を囲う塀が建設されるならみんな大喜びだ」
確かにそうだ。
「ローズマリー様のようにクリームブリュレひとつで塀を造る者はいないでしょうからね」
シーラスが旧ウギマの町エカードのことを思い出したのか微笑んでいった。タイラーが呆れた顔して私を見ていた。あの時は仕方がなかった。またいつ魔物の大群が町を狙うかわからない状態だったのだから。
「悪いが先に戻る。どうもオスロワスが本格的に動き始めたようで会議に戻らなければいけなくてな」
さっきレーンが来ていたのはそのことだったのか。私も出来るだけ早く戻らなければ。
「今日は協力してくれて、ありがとうございます。あなたがいてくれてとても心強かったわ」
私の言葉にタイラーはにっこり笑って肩をポンと叩くと引き上げていった。
タイラーを見送ったあと部屋の中はシーラスとふたりきりになった。
「シーラス様、あの、フェルナンド達に何か仰ってくださったのでしょう。ありがとうございます」
向かいに座りお茶を口に運ぶと彼はいつもの微笑みを浮かべた。
「礼にはおよびませんよ。私がそうしたかっただけですから」
「何といったのですか?」
「勿論、ローズマリー様があなた方を優遇しなければこの場にすらいられないということをもっと自覚したほうが良いという趣旨の話をいたしましたよ。
特にアイダ様は聞き分けが悪く話を理解する速度がおっとりとなさっており何度か同じ話を繰り返さなくてはいけませんでしたが最後には理解したようですよ。ただただ姉の好意によってご自分の命が保たれているのだと」
う〜ん、言い方はともかく自分の立場を理解したのならそれで良かったのかも。でなければ我儘な行動などが目に付けば周りの者の手によって抹殺されそうだ。
「それと、アレ、シーラス様の仕業ですよね」
会場で派手に立ち回っていたカルロ・マッケンジーはタイミング、効果ともに新しい派閥を盛り上げる出し物として申し分なかった。
「仕業とは人聞きが悪いですね。彼の領地が困っているのもその理由も本当でただそれを発表する場を設けて差し上げただけですよ」
やっぱり、先に手頃な扱いやすい者を見つけ上手く言いくるめたのだろう。
流石一流の詐欺師っぽい人!




