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四番隊は今日もゆく  作者: 唯羽
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神の落とし子(2)




ユエリナは思う。


なぜ、彼らはそのままなのか。

 ユエリナ達が保護後に、彼らの意識がない中で体を清潔にしたことはあるが、思えば、最初から彼らは汚い装いをしてはいなかった。髭もすごく伸びたようなわけでもなく、男は髪も短かい。

 長い間寝ていたのではないのか?カプセル内に入れられてから日が浅かったのか。

 いや、そんなはずはない、回収時に腐ったり損傷している他の遺体や施設の状況を見たが、どう考えても一年二年じゃ説明のつかないほど劣化していた。


ユエリナは思う。


なぜ、彼らは私たちの言葉がわかるのか。

 彼らは確実に私たちの国からのものではないだろう。この前整理したように、距離的に無理なのだ。

 なら、他の人類か?北の大陸に逃げずに生き延びた人類がいる?

それに関しては今後の進行にて明らかになると考える。


ユエリナは思う。


 彼らは私たち人類には想像がつかない力を持っているのではないのだろうか。

 彼らを見つけた施設にはまだ何かがある。少なくとも彼らの謎を解くことで絶対に新たな発見が一つ、いやいくつもある。

 彼ら自身が起きてから教えてくれるのかもしれないが、興味が、疑問が溢れてくる。


 ユエリナとしては彼らの身柄は確実にユエリナ軍にて保護したいし、できれば、これを知るものは本当に限られた人、信用のおけるもののみに限定したい。



 「こんなに緊張のする会議は初めてかもね。」



 自身の要求を認めてもらえるかどうか、ユエリナはいつもより少し重厚な装いをし、南大陸支部の会議室へ繋がる扉を開けた。



***




 「二人とも、南下作戦第二段階。作戦遂行お疲れ様。ユエリナのとこは損害なし、カランのとこは五番隊(ユエリナ軍の五番隊は無事です。カラン軍の五番隊です)で負傷者三名。予期せぬ攻撃を受けたらしいが死傷者なしで乗り越えられたのは本当によかった」


 部屋にはたった三人のみ。

 三角形でそれぞれが向かい合うような形の机でユエリナの右側の席に座る南大陸進行軍の総長、シズイがそう言うので、ユエリナは会釈を返した。

 シズイの声色は低く、渋い。歴戦の猛者…の一歩手間ぐらいが丁度いい彼の表し方だろう。体型はほんの少し大柄だが、温厚で優しい性格の持ち主だ。

 そして、シズイにはユエリナの父に仕えていたという過去があるので、ユエリナにはより甘い性格である。


 「命が助かったので安心しました。万全を期して、討伐と周囲の制圧を行こうと思っています。今回、その際の話もできればと思います。」

 ユエリナから見て左側の席に座る南大陸進行軍副長のカランが眼鏡の奥の目を下に向けながら、申し訳なさそうに口を開く。この男は、目が鋭いのだ。伏せて言うとさらに目が細まり、どこか怖い印象が浮かぶ。実際、カランは自分に厳しく、他人にも少し厳しい性格で、怒ると論理的に責めてくる大変な相手だ。(ユエリナ談)


 この軍はシズイ軍、カラン軍、ユエリナ軍の全三軍で形成されているのだが、それぞれ別々の進路を取っている。

 南の大陸ではカランが東の海沿いを、シズイが西の海沿い、そしてユエリナが大陸の中央を分かつようにそびえたつ山際を担当していた。


 今回の話についてはカラン軍がユエリナ達からほぼ真東の海沿いの地点で旧都市街を見つけた際に、な偵察として様子を見に行った五番隊と追随した七番隊が海から出てきたドラゴンのような生き物に襲撃を受けたようであった。

 


 「そうへこむな。しかたがない損害もある。我々は最前線で常にあるのだ。そういった予知の出来ぬものをすべて読み取っていくのは無理であろう?」

 カランを慰めるようにシズイが言う。


 「そうですが…」

 カランはそれでも反省しているようだ。

やはり、自分に厳しい。

 シズイは追いかけるように言う。


 「大丈夫だ。討伐と制圧の手はずについてはこの会議で追々決めていこう。」

 シズイの柔らかな声色でカランを慰める様子は、ユエリナとまではいかなくとも若き指揮官の一人をどこか懐かしむようであった。


「そして…」と、シズイが少し生えている顎の髭を触りながら、ユエリナの方へ顔を向けた。

 「予期せぬこと、と言えば、ユエリナ。予期せぬ拾いものをしたようだな。今のところ口を開かないのは少し緊張してるのか?」

 この人にはかなわないとユエリナは思った。


 父が健在の時から、父の右腕のように戦っていたシズイはユエリナに甘いだけではなく、ユエリナのことを十分知っている。

 ユエリナが南大陸進行軍で軍を持つことになったときも、シズイがその軍隊の総長であったことがどれほど救いになったか。

 ユエリナが取り繕っていても、緊張しているのが彼には筒抜けだったのだろうか。


 「はい。今回の会議で最も話したい事です。」

 ユエリナはシズイの目を見て言葉を発した。

 この甘々な総長なら簡単にいけるのでは…?という作戦の下で見てみたのは内緒だ。


 「あぁ、ユエリナ。お前はどうしたい。」

 シズイの声色が少し硬めに変わった。

 この落とし子についての問題はシズイにとっても前代未聞であり、ユエリナが危惧したような点もいくつかすぐに思い浮かんだことだろう。

 やはり、簡単には認めてもらえたりしないのだろうか。


 「お二人には他言厳禁という言葉とともに二人の拾い物について伝えていますが、この件については念のため中枢府の大臣と王には話を通し、基本知る人間を制限したいと考えています。」

 「なるほど」

 シズイが頷く、何かを考えているような素振りもなくユエリナの言おうとしていることを待っているようだ。

「俺もその考えに賛成です。」

 カランは現時点で賛成してくれているようだが、ユエリナの心配している要素はこの続きだ。


 「そして、」


 ユエリナはどうかこの案よ通れと願いながら口を開く

一つは自身の興味を満たすためではあるが、もう一つは人類の進歩に役立つためという真っ当な気持ちだ。

 「二人の身柄はユエリナ軍で保護し、二人についての調査もユエリナ軍に一任していただきたいと思っています。」

 姿勢を正したユエリナの凛とした声が響いた。





 ユエリナは二人の反応をうかがった。

 「そうか。」

 シズイが言った。


 「情報の提供は求めるが、基本的に二人のことに関してはユエリナ軍に一任しよう。」

 そんな考えるようなこともなく、まっすぐ見つめてくるシズイの目。

 こんなあっけなく認められていいのだろうか。仮にもユエリナは一つの軍の長とは言えど、南大陸進行軍で言えばその地位は副長、総長のシズイでもなく、一つの軍のただの副長であるユエリナがこの問題を担当してもいいというのだろうか。

 認めてもらうつもりでいたが、こんなに簡単に行くとは思ってもいなかった。


 しかし、シズイが認めた以上は、この会議ではユエリナの勝利である。 


 「実際にユエリナ軍ではもう全員が知ってしまっているのだろう?それであれば、そこ以上に安心のできる場所はない。」

 うむ、とカランも頷く。


 「中枢府と王には私が直々に報告に行こう。この会議で決まったことをそのまま認めさせてくる。悪いことにはせんから安心していろ」

 シズイは言う。

 しかし、中枢府と王。特に中枢府はかなりしつこいし、厄介である。


 そんなユエリナの不安さえもわかったのだろうか。

 「なにも心配するな。中枢府の奴らはあの地獄を見て中央に引きこもった腑抜けどもだ。容易い容易い。」

 地獄というのは3年前の北大陸統一時の掃討戦である。


 「シズイおじさん…」

 ついユエリナは公的な場でシズイをそう呼んでしまった。


 シズイは微笑み、

 「幸いユエリナ軍は戦果ともに信頼のおける軍であるからな。ユエリナ、南大陸進行の作戦も続行しながらであるが、二人の貴重な拾い物を失うなよ。」

 と、ユエリナへ告げた。


 「はい!!!」

 ユエリナは久しぶりに大きな声を出し返事をしたのであった。



 「して、二人の今後の扱いはどうするよて…「もう決めてあります!」…え?」

 ユエリナの食い気味の答えに少し抜けた声を漏らすシズイ。

 二人の扱いは四番隊と十一番隊。生活の世話も武力もかなり信頼のおける布陣と説明をする。


 「なら、二人は今どこに…「十一番隊と四番隊の護衛の下で身体検査を行っております!」…は?」

 

 シズイが少し困った顔で呟いた。


 「ユエリナ、お前は…ちゃっかりやってたな?」

 「一任していただけると信じていました!」

 緊張はどこへやら、苦笑するシズイに、ユエリナは先手必勝とばかりに笑って答えた。




****



 その後も会議は円滑に進み、次の作戦の決行日と配置、戦闘区域について大体をまとめた。

 例の落とし子事件(三人でこう呼ぶと決めた)については、ユエリナ軍が前回の調査作戦において無損害であることから、早急に南大陸支部を出発し、二人を発見した施設の再調査を行うこととなった。


 そしてその間、シズイも単身北大陸へと戻り、王都へと向かうことが決まり、それら二つの任務が終わり次第、カランの見つけた都市部へと乗り込む手筈となった。



 ユエリナはユエリナ軍の飛行船、そして自身の執務室へと帰り椅子へと座る。出発の準備だ。


 シズイはというと「2人の顔はまたの機会に確認しよう。彼らもユエリナのせいで疲れていそうだからな」と笑い、颯爽と王都へも向かって行った。



 「二人の検査結果はこちらです。」

 近づいて来たラナが二枚の髪を手渡してきた。

 「なるほどね。異常なしと、それに体の構造の違いはなしと」

 「はい」

 ふーんとみてみる。体の健康状態には筋肉量が過剰に少ないだけでなにか病気などを持っている様子はない。

 また、何かの研究に使われていたのかと体内の変化を見てもらったがそちらも変化はない。



 人と同じ…。では何を研究され、何のために2人はあの場にいたのだろうか。

 「ますます謎が深まるばかりねぇ…二人はもう船内に戻ったのよね?」


 「はい。起きていて、意思の疎通も図れています。少しだけ声を出したりもしていますが、会話レベルは難しそうです。」

 

 もう声が出るまで回復したのかと驚く。現代では、人材不足を補うために様々な薬やサポーターが出ているが、筋肉量の増加までもここまで早める物があるとは。

 「そう。ならもう一度名前でも聞いてこようかしら。あ、ラナ、ラナは戻っていいよ。お疲れ様。できれば、一番隊と二番隊の子に執務室に後で来るように声かけてもらえるかな。」

 「わかりました。」

 さぁて、と椅子から立ちあがったユエリナは礼をするラナを横目に彼らの元へ向かうべく、執務室の扉を開けた。


 

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