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求婚と旅立ち②

 彼は自分のことをエヴァン・スクリークヴェルダと名乗った。

 スクリークヴェルダという家名を聞いて私は腰を抜かしそうになった。それは、おとぎ話ともいえるエルフの国の名前だったからだ。


 ――エルフ。

 その種族は、長い耳を持ち、美麗な容姿をしていると言われている。

 森にすみ、森を愛し、魔法にたけたその種族は人間とは国交を絶っていると聞いていた。

 彼はその国の王子様だという。

 種族が違うことも、王子様ということにも驚いたが、なにより私を驚かせたのは、彼の優しさ、信じられる眼差しだ。


 彼は、まっすぐ私を見ていた。

 アルフレート様も、お父様も、使用人達も、誰も私をちゃんと見てくれていない。

 生きてきて、初めて誰かと向き合えたと思えたのだ。 

 あの時は、お爺さんの恰好だったけど……それでも、優しい眼差しは、私をちゃんと見てくれる眼差しは変わらなかった。

 そんな彼は、こんなことを言っていた。


「後出しのようになってしまって申し訳ない……。もし嫌なら断ってくれてかまわない。ここまでの話になってしまったのだから、断ったとしてもあなたの居場所は私が必ず用意しよう」


 あまりに真剣な表情に思わず笑ってしまったが、私は今更種族なんて気にもならなかった。間違いなく、私を必要としてくれているのは目の前のエヴァン様なのだから。


「いいえ……。その結婚のお誘い、ぜひ受けたいと思います。私を――連れて行ってくれますか?」


 その想いを伝えると、エヴァン様はとても嬉しそうに笑って、あっという間にスクリークヴェルダに行く手はずを整えてしまった。

 お父様に話をつけ、旅の準備が完了したのは二日後。

 そのスピード感に驚きつつも、私の胸は日に日に高鳴っていく。


 何の憂いもなく旅立つその日。


 私の見送りには誰も来なかった。








「寂しいものですね」


 馬車の中でそういうと、エヴァン様はそっと私の方に手を置いた。


「そうだね……。でも私はすこし聞いただけだが知っている。あなたが……いや、アンフェリカがずっと頑張ってきたことも、真摯に国に尽くしてきたことも。それはとても素晴らしいことだと思う」

「はい、ありがとうございます……」


 その言葉だけで救われたような気になった私は、思わず流れ出る涙を拭って一生懸命笑顔を作った。エヴァン様は、そんな私に優しい笑みを向けてくれた。


「それに、あんな貴重な種を見ず知らずの老人に差し出すくらい慈悲深いのだから。私の国の者達は、きっとアンフェリカの優しさをわかってくれるよ」

「あの花が、皆さんの心を癒してくれればいいのですが」

「きっと癒してくれる。いや、そうに違いない」

「そうだと、いいですね」


 お互いのことを語り合いながら、ゆっくりとエルフの国――スクリークヴェルダまでの道程を歩いていく。

 だんだんと離れていく故郷。

 その寂しさにすこしだけ胸がざわつきながらも、目の前に続いていく未来に胸を躍らせていた。


 きっと、昨日までの自分よりも幸せになれる。

 そんな確信をもって。


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