お爺さんとの出会い②
その後、たくさんのことをお爺さんと話した。
なんでも、お爺さんの故郷の村は人が少なくなって存続の危機にあるみたい。山奥にあるから外から人は来ないし、結構閉鎖的な文化があるのも原因みたいだけど、流行り病が毎年蔓延することで身体の弱い人がどんどん亡くなってしまうんだって。
それを食い止めるために街に出てきたけど、あまり成果はないようだ。
病気について聞いてみたけど、その病気には聞き覚えがなく力にはなれなかった。
「すいません。あまりその病気について知らず……」
「いやいや。こんな老いぼれの話を聞いてくれてありがとう。だが、そろそろ体力も限界かもしれん。そろそろ村に帰ろうかと思ってね」
「そう、なんですね」
私に気遣い、どこかぎこちない笑みを浮かべてくれるお爺さんはとても辛そうだ。
でも、今の私にできることなんて何もない。親に見捨てられただけの私には。
でも、私には――。
「なら、せめてこれだけでも――」
「――っ!?」
私にできること。
それは、せいぜいスキルを使うくらいだろう。
私のスキルは『種の保護』。ただ、指定した種を登録して好きな時に生み出せるだけのスキルは、三種までという制限もあるんだって。
判定してくれた教会の人が言っていた。
何の役に立つのかわからず、とりあえず国花であるファロムという花の種を登録しておいた。王城にしか咲いていない花だからとても珍しいものだ。王国の皆が大事にしている花でもある。
そういえば、国花はとても貴重だっていってたけどよかったのかな。
アルフレート様はめんどくさそうに「勝手にしろ」って言ってたけど。
それはそうと、このスキルは種を発芽させることもできるけど、それをやるとすごく疲れるのだ。だから今はあえてやらない。
手に力をこめると手のひらが光る。
体にある魔力が集まっているのだ。
スキルを使うために必要なこの魔力はすべての人が持っているものだけど、その量には個人差がある。私は人並みって言われていた。
そのまま魔力を集めたところに意識を集中させる。そして、記憶の中にあるファロムの種をイメージするのだ。
なぜだか保護したこの花のことはすべてわかる。
外観はもちろん、その中身がどうなっているか。細い管や、小さい粒のようなものの集合体がこの花の種だ。
うまくイメージできると、手のひらからその種が生えてくるように現れる。
自分でみても不思議な光景だ。
私は、生み出した無数の種をお爺さんに差し出した。
すると、なぜだか目を大きく見開いてとても驚いていた。まあ、そうだよね。こんな奇妙なスキル、お目にかかれるものでもない。
「こ、これを、私に……?」
「? ……ええ。村に植えてみてください。とても綺麗な花が咲きますから」
「そうか。ぜひ見てみたいものだ」
お爺さんが笑い、それにつられて私も笑う。どこか照れくさくなって、少しだけ早口で言葉をつづけた。
「ちゃんと育ててくださいね! それに、次は私の番ですよ? ちゃんと話、聞いてくださいね」
「あ、ああ! わかっている。全身全霊をもって聞かせていただこう」
「大袈裟ですね」
そういって二人で笑った。
まるで昔から一緒にいた本当のお爺さんみたいに、リラックスして話ができた。こんなに話したのは初めてだ。
私は、最近の起こった出来事を一から全部話した。
幼少期から始まった英才教育への不満や、アルフレート様への不満、婚約破棄の仕打ち、実家でのごみのような扱い。
あふれ出るような愚痴と不満は聞いていて気持ちいいものじゃない。
けれど、お爺さんはゆっくりと頷きながら聞いてくれた。
私はその相槌に気をよくして、さらに饒舌になっていった。
そして一時間も話していると、さすがに疲れてくる。
段々と瞼が重くなってくるのがわかった。
「あの……なんかだんだん疲れてきちゃったみたいです。でも、もっと話していたいなぁ」
「はは、光栄だね。こんな老人相手に酔狂なことだ」
「だって……今まで誰も私の話なんて聞いてくれなかったから……。嬉しくて、楽しくて、もっと――」
――あぁ、もっとお話していたいなぁ。
そんなことを思いながら、私の意識はゆっくりと暗転していった。
◆
「お嬢様。このようなところで寝ていると風邪をひきます」
そう声をかけられて私は慌てて顔をあげた。
あたりを見渡すと、海が見える道端に私は寝転んでいた。
いつの間にかお爺さんはおらず、代わりに屋敷の使用人がめんどくさそうに表情を歪めて立っている。
「え? あれ? ここは」
大きくため息を吐いた使用人は、立ち上がる私に手を差し出しながら話す。
「私が来た時には誰もいませんでしたよ。ほら、早く帰りましょう。使用人総出で探したんですから。感謝してください」
「あの……えっと、はい……申し訳ございませんでした」
私が謝ると、使用人は無言で踵を返す。
そして、近くに停められていた馬車に乗り込んで屋敷に帰るのだ。
すべての蓋がふさがったあの場所に。
そうして始まる。
前のような無機質な時間が。
そう思ってた。そうなるはずだったのに、この日だけは違っていた。
私が屋敷に帰って身支度を整えたころに、それは訪れたのだ。
「アンフェリカ様。出会ったばかりではございますが――
――私と一緒に人生を歩んでいってくれませんか?」
見たこともない男の人に、まさかの求婚をされたのだった。
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