表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

こちら、転生業協会~転生監査業務日誌~

作者: 狐の孫族

転生業、これは私が就職活動をしていた頃、神界の中でも就職したい業種No.1として君臨していた。


顧客である人間には感謝される、その上ここ最近は顧客側の方が応対する神様よりも転生について詳しいような場合も多いという。


業務時間もたまに残業がある程度、それでいて、人の一生を左右する案件に携わる業務ということで、給与も高い。


――だから、その業界に就職したというだけで、羨望のまなざしで見られたのだ……例え、私のような中小企業に就職したのだとしても。


転生業会社「神さんマークの転生社」社神の女神ルナはそんな昔の事を思い出しながら、深くため息をついた。


一昔前人気のあった転生業、今やそれも落ち目と言われて等しい。


落ち目となった出来事、それは本当に些細な事であった。


ゴシップ雑誌「週刊FreyDay(フレイデイ)」に大手転生会社の社神の不祥事がすっぱ抜かれたのである。


記事にはこうあった「大手転生社社神、まだ寿命のある人間を殺害。過剰な転生特典による損失補填か?」


正直、神が人を殺して口封じをしたようにしか見えない。


これだけでも結構印象は悪くなると思うのだが、これを受けて各ゴシップ業界紙がこぞって転生業の不祥事を探り続け、最期には新聞すら連日一面で取り上げるレベルの大事となってしまったのだ。


ある女神は、あえて選択を早急にするように転生者を威圧し、転生者に判断の余地を与えずに十分な転生特典を与えなかったと。


そんな横柄な態度を取った結果、転生者に「女神自身がついてこい」と言われ、転生者と一緒に異世界に飛ばされた女神、という記事については女神に同情する声はほとんど聞こえなかった。


ある女神は転生特典をガチャ形式にし、転生特典の価値が転生者がもらうべき特典から大きく乖離する低価値の特典で転生させたと。


また、ある神は転生者から求められた要望を理解しないまま特典を与え、その結果転生者の希望からは大きく乖離した特典を与えていたと。


その他、「ついうっかり」特典を間違えた神や、「ついうっかり」その世界にはそぐわない特典を与えてしまった者等、細かい不祥事を含めれば数えるのがバカらしくなるレベルで不祥事が出てきたのだ。


憧れの職業と崇められる存在から、不祥事の象徴と転落するまでそれほど時間はかからなかった。


その自体を重く見た業界は「転生業協会」を立ち上げ、自主規制や監査を行い、転生が公平に行われるように働きかけているのであった。


だが、そんな状態であってもルナは大して気にも留めていなかった。


「どうせ、大手ばかり監査するのだから、自分の勤め先のような零細会社には来ないでしょ」と、そう思っていたのだ。


だから、お昼の休憩から戻ってきて、自分の上神が慌てていても、自分は関係ないや、といった考えを持っていた。


――上神からその言葉を聞くまでは。


「ルナくん、先ほど本部から連絡があった。当社に協会から監査が入ったそうだ。当支店にも臨店が入るらしい。」


――数日後


ルナは協会の監査官の一人に呼び出され、会議室で相対していた。


とはいえ、ルナはまだ若手であり、監査官と一人で面談は荷が重いだろうという事で、上神も同席の上、面談を行う事となった。


コンコンコン


「失礼いたします!」


「失礼します!」


上神とルナが緊張した面持ちで会議室に入室すると、そこにいた監査官の神は椅子から立ち上がり、非常にフランクな様子で迎えてくれた。


「初めまして!監査を担当しております神です!今日はよろしくお願いいたします!」


予想以上にフランクな態度であったため、その時点でルナはこう思ってしまった。


(こいつ、多分チョロイわ)


和気あいあいとした空気のまま3神が椅子に座ると、そのニコニコしたまま監査官がこう告げた。


「本日はお忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます。本日はこれより、ルナさんにいくつかお伺いしたい事がありますので、お伺いします。」


実はルナは監査を受けたくない理由があったのだが、この人相手なら誤魔化し通せるかな?と思っていた。


監査官はニコニコしながら続ける


「これよりいくつかお伺いいたしますが、絶対に嘘をついたり誤魔化したりしないでください。多少の物忘れや勘違いはあると思いますので、多少なら仕方ないですが、意図的に誤魔化しなどしようとしたのが発覚した場合」


一呼吸置いて、それでも笑顔を崩さずに


「処罰はより重いものになると考えてください。」


と告げた。


この一言でルナは悟った


(あ、この監査官、見抜いてる)


***


「さて、ルナさんの転生業務の記録を確認させていただきましたが……非常に優秀だと思います」


「え?」


監察官がまずはルナを褒めてきたので、身構えていたルナは肩透かしを食らった感覚を覚えた。


「まだ入社70年程度の若手ということで、6~15歳の男女を主に担当されてますね。面談記録などを見せてもらいましたが、きちっと転生者に向き合い、転生者のニーズを掴み、転生者の満足のいく転生をやっておりますね」


「は、はい。ルナには若手の頃から転生者とちゃんとコミュニケーションを取り、納得いくまで話し合えと指導してきました」


上神がすかさずそう言う。


実際、そういう指導を受けてきたのだ。上神様の言う通りである。


「若手だと子供相手の転生を任されることが多く、転生の話し合いにおいて、我が儘だったり身の丈に合わない転生条件にしろとゴネたりして、仕方なくそれを飲んでしまう若手も多い中、これは立派だと思いますよ」


転生時の特典の数や質は、今は協会の示す「善行ポイント表」を使って行う事が多い。


前世の善行と転生時の特典をバランスすることで、善なる人がより来世で活躍出来るような仕組みとしているのだ。


子供だと、単純に生きている時間が短いことから、善行を積んだ量が明らかに少ない反面、将来性があるところで亡くなったので、夢や要望が大きすぎる場合もある。


実際、将来時点での予測値を使って下駄をはかせる事も無くはないが、あまりにやり過ぎるとそれは問題なのである。


ルナもその対応で70年も苦労してきたので、褒められるのは悪い気はしない。


「あ、ありがとうございます」


「さて、ルナさんのような有望な若手が業界に居てくれる事を喜んだところで、本題に入りましょう」


先程のはアイドリングトークといったところなのか!


ルナは一気に緊張した。


「ご質問としては、6~10歳の男の子転生者についてです」


***


「な、何か重大な欠陥でも?」


上神が監察官に問いかける。


「いえ、重大、とまでは言わないのですが……よろしいですか?」


「はい……」


「この、8割くらいの子に付与されてる『老化防止』の転生特典、これは転生者の善行ポイントと

その他つけられた転生特典と比較すると、やや付け過ぎなのではないかと思うのですが?」


「そ、それは、将来的な善行を見越して……」


「もう一度言いますよ?胡麻化したり嘘はつかないでくださいね?悪質だと判断された場合、この場では問題にならない程度の話でも、何かしらの処罰を与えなきゃいけなくなる可能性もあります」


ヤバイ、これは正直に話さないと……クビになりかねない……


「し…少年の…を……させてもらいました」


「ルナ…?」


「すみません、もう一度お答えお願いします」


ルナが狼狽する姿に違和感を感じ心配する上神と、態度が変わらない監査官


ルナは大声で告げた


「し、少年の、む、無垢な魂を、モフモフさせてもらいました……」


監査官は眼鏡を光らせてその言葉を続ける


「つまり、少年にモフモフさせてもらった見返りに、若い肉体を維持できるよう便宜を図ったということですか?」


「はい……そういうことです……」


ルナはしゅんとうつむき、ルナの上神はどうしたらいいか分からずわたわたしている。


「ど、どうしてそんなことをしたんだ!!」


上神がそう問い詰めると、ルナはビクッと肩を震わせて


「上神さん、ごめんなさい!!でも、どうしても抑えきれなくて……11歳以上の男の子はちょっと粗野なところがあって、すぐに暴力に訴えようとするし、女の子は魂の成熟が早いから、対応疲れるんです……」


一旦堰を切ってあふれ出した言葉は止まらない


「その分、10歳以下の男の子は魂がすごく純真で、癒されるんです!!私の事を打算とか抜きでお姉ちゃんとか読んでくれるし……そんな子たちの来世に少しでもいい思いをさせてあげたくてつい……」


ごめんなさい!と、ルナは上神と監査官に頭を下げる。


「あのー、ということはルナには何か処罰が下るのでしょうか?免許はく奪とか…?」


上神が狼狽えながら監査官に問いかける。


監査官は真面目な顔になり、こう返した。


「まずはルナさん、正直に語ってくださってありがとうございます。貴方のやった事、間違ってはいましたが、どれも転生者に寄り添った対応であったことは理解しました。」


そして、ルナの上神に


「判断を下すのは私でなく本部の者なので、回答は差し控えさせていただきますが、何か沙汰があってもそれほど重いものにはならないと思います。」


そして最後に2人に対して頭を下げ


「本日は貴重なお時間、貴重なお話をいただき、ありがとうございました!!これでヒアリングは終了です!!また機会がありましたら、よろしくお願いいたします」


***


業務改善書提出、改善経過報告


ルナへの罰則は無し


会社に出された沙汰はこれだけであった。


会社からは男の子の担当から外れるよう沙汰があり、ルナとしては不服ではあったものの、これだけで済んだのが奇跡のようなものであるのも分かっている。


今回の監査があった他の転生社では、初老の老神が未成年の女の子に転生特典をエサに体を要求していた事例があり、即刻免許はく奪、懲戒解雇の上逮捕となっていた。


それと比べると何も無いに等しいものだと思う。


きっと、監査官がフォローしてくれたのだろう。ありがとう、あの時の監査官!


***


「えー、先輩が担当したその子、ほぼお咎め無しみたいなものじゃないですかー!」


転生業協会、監査部で2人の男が話をしていた。


先輩と呼ばれた方、ルナを担当した監査官が苦笑いしながらこう答えた。


「まあ、基本的に転生者に寄り添った対応していたからね、これが完全な我田引水であったならこうはいかないよ」


「まあ、最近のこの業界、ちゃんとそれをできる若手が少ないですから、それが出来るその子は確かに貴重ですよね」


「まあ、それにね…」


さっきから苦笑いしていたルナの監査官が肩を震わせる。


「先輩、な、なんっすか?何か面白い事でも……?」


「彼女の付与した『老化防止』の付与だけどね……彼女が『10歳以上の穢れた魂にならないように』と無意識に思いながら付与したようでね……クククッ」


「えー?なんすかそれ……え?まさか⁉」


「多分、お前の思ってる通りだと思うぞ」


「ぶふぉ!!」


後輩は思いきり噴出した。


***


時間は遡り、ある日の報告会議。


ルナを担当した監査官がルナの居る会社の報告をしている。


「……以上が、神さんマークの転生社の監査報告となります」


監査官がそう締めくくると、協会のお偉いさんが手を挙げて発言した


「ところで、この報告書にあるルナって子だが……一昔前なら問題にもならず、今の協会基準からしてもギリギリはみ出した、程度で引っかかるとは、私がこんなこと言ったらダメなんだろうが、可哀想だよねぇ」


「確かに」「いい若手じゃないか」「でも罰しないと体面が…」


助けたい、けど理由が無い、といった空気になった。監査官の予想通りであった、だから……


「ちなみに、追加調査で彼女の付与した老化防止についてまとめて来ました。それがこちらです」


監査官がプロジェクターを起動すると、資料のスライドが1枚、出てくる。


「調査の結果、彼女の付与した老化防止は、魂が綺麗な10歳を目途に発動し、以降、肉体は老化しません。しかし、寿命は普通に尽きます。そして、これを彼女は全転生者と面談の上、転生者の合意の上で付けております」


それを聞いて、協会のお偉いさんの一人が反応する・


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!10歳で老化が止まる?つまり……体は死ぬまで10歳なのか……」


「そういうことです」


その場に居たお偉いさんが全員、こう突っ込んだ


「「「「呪いかよ!!」」」」


ざわつく会場、だが、その後会議出席者の中の一部が気が付いたようだ。


「あの、勘違いだったらごめんなさい……この『老化防止』を呪いとして、転生特典でマイナス計算すると……協会の規定値に収まるんですが……全転生者分……」


その言葉を聞いて全員が資料とにらめっこし……


「「「「「「「「マジだ!!」」」」」」」」


監察官がこう続ける


「協会規則にはマイナスで調整してはいけないという記載はありません。つまり、彼女は協会規則を破っていないという事も出来るのです。まぁ……」


監査官はルナの業務記録書をヒラヒラし


「その場合、業務記録書に記載の数値間違いが多数あることになりますが」


「わっはっは」


協会の会長がひとしきり爆笑した後、こう告げた。


「神さんマークの転生社は業務記述書に一部不備あり。業務改善書提出、改善経過報告にて対応、これでよいだろう?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ