事始。
三年前の7月7日、瞬間で世界の常識が覆された。
”グレート・ポイント現象”
今まで「無い」ものが世界中に現れ、
今まで「無い」ものとされていた存在が誰にも見えちまうようになった。
サバンナに現れた水晶のオベリスク、万里の長城に刺さる巨大な剣。
ニューヨークには無限に滑り落ち続ける砂の円柱。
ロシアの森林には巨大な謎の柱が何本も現れた。
アマゾンじゃ木が歩くしインドではオーロラが観れるようになるし、、
と、本当に世紀末感がパない。
流石に都会では珍しいらしいけど、郊外の森にいけば妖精やエルフに遭遇するし
運が良ければ天使の群れが空を飛ぶ姿も見れたりする。
学会のお偉いさん方が言うには、突如現れた謎の物体たちは
どーやらこの世界の物では無いらしい。
何らかの物理的やら超常的な「力」が働き、
この世界ではない別の世界と「一部分だけ」
入れ替わったのでは無いか?という事で落ち着いているみたいだ。
という訳で… 人類はグレートポイント現象後、
いつまたこの妙な「取り替え」が起きるかと
大概の人類はヒヤヒヤして暮らしていたりする。
俺の暮らしてきた奈良はそんな事もなかったけど一番ひどかったのは大阪のウメダの地下街。
「迷宮」とまでいわれていた巨大地下街は今では巨大な「陥没穴」だ。
穴の底から今はこんこんと水が湧き出してる有様で繁華街の面影をミリも残していない有様だ。
それだけならまだしも、水の中に巨大な生命体が存在していて現在も調査は続いてる。
分かってるのは水質がとてつもなく綺麗な事と日本の地質ではありえないものが混ざり
混んでるっていう事ぐらいらしい。
ま、、、どうでもいいけどね。
俺は丁度、その頃、就職活動中でしてね…。
ええ、煽りを受けて就職どころじゃ無くなっちまいましたよ。
ほんと厄災。まさに厄災。
でも、それも今日で終わり。
長い、長い春が終わりを告げ、ようやく俺の就職先が決定した…。
このご時世で最強の安定職!!! 公務員だ!
奇跡!もう運を使い果したとしか思えないこの幸運に
そりゃ乗らない訳ないっしょ!
急な就職の決定にスーツを新調する時間もなく父の大事な形見の中から
スーツを選ぶ事にした。少しブカブカなのは気になるが仕方がない。
父ちゃんは二年前、勤務地での事故でそのまま帰らぬ人となった。
ぶっちゃけると、今回の就職も父ちゃんの仕事仲間が持ってきてくれたのだと
じいちゃんが話してくれた。
しかし、この部屋も今日で当分おさらばって思うと
ちょっと心がぐずついてしまう。
色々あったもんなぁ…と、少し頭が過去に傾き始めそうになる。
うちの家業はニッチな仕事なのに何でそんな知り合いがいたのが今でも不思議で
仕方がないけど、まぁ色々あって父ちゃんには感謝しかないので詮索はしない事にする。
あー!色々と思い出してるとキリがない。
そういうのはここらで止め。さ、下に降りるか。
俺は脳裏からこみ上げる勇み足な過去の思い出をなるべく拾わない様にして
ギシギシ音を立てる年季の入った階段をゆっくりと降りた。
階段降りた辺りから焼き魚のいい匂い。
この匂いからすると、銀ダラの味噌漬か爺ちゃん!?
味噌漬けの魚は焼き加減がすげー面倒なのに
今日は朝から気合が入っるのがモロ丸わかりだぜこりゃ。
って、まぁ…孫の晴れの日だもんな。
そりゃそうか。そんでもって…
じいちゃんの飯も当分食い納めなんだなぁ。
あー、また感傷的になりそうになっちまう。
いかんいかん。
気持ちの切り替えを兼ねて少し強めに階段を踏みしめ
いつも通り道場横の長い廊下を真っ直ぐ進む。
突き当たりの台所のドアを開けると、割烹着姿の爺ちゃんが朝飯の支度に精を出していた。
「おう、悠斗ぉお。おはようさん。」
「よっ、おはよ爺ちゃん。なんだよぉ。今日はやけに豪勢だなぁ。」
机には件の焼き魚、苦菜のお浸し、おからと豆腐の味噌汁が用意してあった。
「もちろんじゃ! 飯は人の要の1つ。儂が毎日こーしてお前の要をこしらえてやれてられるのも今日が一区切りになる日じゃからなぁ。ほれ、はよそこ座れ。」
「あいよ、って何だよ爺ちゃん。じろじろ見るなよ恥ずかしいじゃねーかっ。」
「いやいやぁ、こりゃ馬子にも衣装やのぉお。いっつもパーっとしない服ばっか
着よるから更に映えて見えるわな。」
「そうですよぉ〜父さん、悠斗ももう子供じゃないんだから。にしても…、悠斗お前そのスーツ相当ブカブカじゃねーか? 俺のタンスに他のも有ったろう?!よりによって何でソレなんだ?」
「うっせーな、あんたのタンスにあったバブリーなスーツやベスト付きダブルのスーツなんざどー考えても華奢な俺に似合う訳ねーだろ。アンタもう死んじまってんだからほっといてくれよ父ちゃん!」
「そりゃ父ちゃんおっ死んじまったけどぉ、おめーの父ちゃんには代わりねーかんなっ!お前の晴れの日にほっとくわけないだろぅが!しっかし… くーーーーーっ!うまそうな飯だなぁ。」
「欲も大概にせい霍雄。お主がその状態でここに留まれるのもこの地の浄めの計らいによるものじゃぞ。主にはまだ役目があるでの。穢れてはならん。」
「分かりましたお父さん。じゃ、悠斗。お父さんの分の飯は、いつも通り囲炉裏にくべて”こっち”に送るようにな。頼んだぞ」
「あいあい〜了解。」
そして俺はいつも通り、ご飯を自分でよそって席に着いた。
死んだ父ちゃんを爺ちゃんも俺も視れる。
ついでに言うと今は家にいない弟の由来斗も視える。
父ちゃんに関していえば、体が無いだけで全然ふっつーに存在していし
体無くなってからの方が本領を発揮している感じもするし、何やってるんだか
俺はまだ家の仕事あるし昇天できねぇとか言って、ほんと、すげぇ父ちゃんだよまったく。
と、我が家の日常はこんな感じ。
まぁ、父ちゃんがこんな事出来てるもこれは全て【ここ】のおかげではあるらしいので、
かなりイレギュラーな事だってのは比較的常識人の俺はとても良く理解している。
【扇谷】それが俺のホームネーム。
この辺りで代々続く修験道の大家の1つでもあり
そして【ここ】梅幻樹海を代々守り継承する由緒正しい血族だそうだ。
このあたりの人は、あえてこの場所の名前を言わず【天狗の地】と言うが
ご近所はこの土地の本当の名前をむやみに呼ぶと祟られると今だに思ってるくらいだ。
扇は山の谷間に吹く風を自身で起こす事が出来る力、、っていう事で、
遠い昔のご先祖様は天狗との間に生まれた半妖だったとも言われている。
俺の家は吉野の系統を組む修験道を子供の頃から叩き込まれてるが、
ぶっちゃけると俺はてんで修験道には向かないらしい。
うちの後を継ぐのは双子の弟で、あいつは今、入り婿の父ちゃんの実家の近くで
大絶賛修行中だ。
つまり、ここ【天狗の地】では、大昔からグレート・ポイント当たり前って事で、むしろ世界がここに追いついちまったんじゃねーの??って思う位だぜ。まったく…。
ってなこと考えながら、ポリポリと沢庵をかじってると窓をコンコンと叩く音がした。
窓の外にはぴょこぴょこ見え隠れする柚色のお団子頭。
「ほう、小柚がここまでやってくるのは珍しい。悠斗に挨拶にしきたのかもしれんのぉ。」
「相変わらず精霊の類にだけはモッテモテだなぁ悠斗。」
相変わらず一言多いよ親父。単純に凹むからその言い方ヤメテクレ。
凹んだ気持ちにほどよい温度のお茶を注ぐように飲み干し
「ご馳走様っ。ちょっと外行ってくる。」
俺は玄関へ向かった。
御読みいただき恐悦至極です。小説初めて書くのでゆっくり仕上げていきたいなぁと。とりあえず女神様が出てくるまでは、つらつら書き進んでまいりますのでよしなにお願いいたします。コメディ路線かなー。