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謎森

朝起きて、顔を洗って歯を磨いて。

朝食に8枚切りのパンを2枚焼いて、それを咥えたまま重い足取りで玄関を出て行く。

毎日それの繰り返し。毎日が憂鬱。

いつまでこんな日が続くんだろうといつもぼんやり考えていた。


それも 昨日までの話ではあるのだが。



「……うっ、、、」


瞼越しに避ける光。


太陽の光だ。

また朝が来てしまった。

いやだ、だるい。動きたくない。二度寝したい。

でも今寝たら確実に寝過ごす。会社に間に合わない。


いつもの思考ルーティーンを経てから鉛で出来てるのではないかと思うような瞼を開けようとして……なかなか開かない。


さわさわさわさわ・・・


なんだろうか。頬っぺたを何かが触れている。


風? を感じる。

ここは外なのか?


微かに香る草と地面の香り。

地面越しに伝わるヒンヤリとした感触。

そして背中に伝わるゴツゴツとした感触。

少し痛い。


ここは俺の部屋じゃない。

ベッドの上じゃない。


何処か、草原……いや、瞼越しに伝わる光量的に何かに遮られているような感じがする。


多分、木で覆われているのだろう。ってことはここは森?


ぼんやりと二日酔い気味な頭で考えながら、俺はようやく瞼を開いた。


わさわさわさ……


目の前は緑で覆われていた。


木、だ。

それが沢山。

互いの幹や葉を擦り合わせながら音を立てている。


その間から漏れる木漏れ日は不思議と心を和やかな気分にしてくれる。

気持ちがいいなぁ……


「……じゃなくて。なんなんだ、これ」


二日酔いでズキズキする頭をあげて周囲を確認する。


間違いない。ここは森だ。


なんでこんなところにいるんだ?

酒に酔った勢いで変なところで一夜を明かしたのか?

いや、でも昨日はちゃんとベッドまで行った記憶が……ってあれ、これは一昨日の記憶だっけ?


ダメだな。ここ最近ストレスから飲んでばっかりだったからそこらへんの記憶も曖昧だ。


でも、どちらにしろ、こんな場所を俺は知らない。


どこだ、ここ?


そもそも俺ん家の近所にこんなところあったっけか?


あっても公園くらいなもんだが……


しばらくその場で呆然としていたが、そのままでは拉致があかない。


頼りない足で立ち上がると俺は改めて周囲を見渡す。


すると、木の密度が比較的薄い方を見つける。


薄いって言っても、人がなんとか行けそうなくらいって意味で、普通に森の延長線上なんだが。


(……でも、進むならこっちしかねぇか)


仕方なく俺はそっちへ歩き出す。

もうこの場所にいると気付いてから30分くらいは座り尽くしている。そのままずっと待っていても多分餓死するだけだろうと自分に言い聞かせながら俺は見覚えのない森へと足を踏み入れる。


本当は進むのは少し怖い。

いや、正直かなり怖い。


なんせ、本当に森の中なのだ。

周りに人工的な物も跡もないというのは、それだけで怖いものだった。


もしかしたら危ない生き物がいるかもしれない。

流石に日本にライオンやらジャガーやらはいないだろうが、それでも虫系、蛇系なんかで危険なのは結構いたはずだ。


茂木々を見ていると、絶滅したはずの狼なんかもそこらへんから出てくるのではないかと錯覚させられる。


なんで俺は一人でこんなところにいるんだよ……


俺は木々を掻き分けながら進む。


進むが、一向に景色は変わらない。

まあ、まだ歩き始めて5分くらいなのだが。


だが、やはり不安は募る。


本当にこっちであってたのだろうか?

ってか、昨日の俺は何してたんだよ。


一番最新の記憶は……やっぱり布団にダイブするところまで……いや。


そういえば変な夢を見た。


最近よく読む小説の展開でよくあるやつだ。

なんか、俺が実はもう死んでて、異世界に転送するってよくわからん奴が言ってた。


そういえば、あいつは誰だったのだろうか?

あれがまさか、神? ……いや、そんな訳ないか。


威厳もクソもないようなやつだった。

そんなふうに思うのは本当の神に失礼だ。


まあ、それは置いとくとして。

確か夢の中で奴はなんか言っていた気がする。


(確か、願えばそれがかなうだっけか)


アホらしい。俺が今までどれだけ昇進を願ってきたと思っている。

それが願うだけで叶うようなら、今頃俺があのフカフカそうな社長室の椅子に腰掛けていることだろう。 嫌な上司だって鼻で使ってやって、日々が楽しくて仕方ないはずだ。


あんなゴミみたいな日常ルーティーンを送らずに済んでいるはずだ。


……なんて、思いながらも心の隅では少し期待があった。

もしかしたら本当にここは異世界なのかもしれないと。


だって、そうすれば一応辻褄は合う訳だし。


(……取り敢えず喉が乾いたな。何か飲み物をください)


半信半疑で俺は心の中で祈ってみた。


……


5分ほど経過しただろうか。特に変化は訪れなかった。


やっぱりな。出来すぎた夢だったんだ。


と、思うと同時にふと思い出した。


そう言えば、あの声の主は少し願ったくらいじゃダメだとか、そのようなことを言っていたような気がする。

しっかり祈らなきゃダメだとかほざいてた気がする。


(それが本当なら、餓死する寸前まで追い込まれれば飯とか食えるようになるってことなのか?)


まあ、無いだろうな。

そんなことを考えている暇があったら自分で食料を調達した方がいいだろう。


なによりも、遭難において一番大事なのは如何に水分を確保出来るかにあると聞いたことがある。

水が一番大事だ。


だとしたら、まずは川を探すことからだろう。


といろいろ考えながら森を進んでいくと、ようやく終わりが見えてきた。今までより一層太陽の光が強く差し込んできている場所を発見する。


取り敢えず、この森から出られそうだという希望とともに俺はそこへと目指す。


この時、俺はそこを越えた先に希望があるものだと、信じて疑わなかった。

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