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5 色々、思い出してしまう

“放課後の生徒会室。”

“今日の会議も終わり、皆が次々と帰っていく。”


「あの……先輩。今日……一緒に……帰ってもいいですか?」


“会議ノートを俺に渡しながら……ユキが小さな声で聞いた。”


“ピンポーン”

『A:いいよ。帰ろうか』

『B:ごめんね。今日は早く家に帰らないといけないんだ』(※テストプレイが終了になります)

『C:(マニュアルにする)』


 えっ、1日って……24時間って意味じゃないんだな。

 家から始まって家に戻ったら終わりか。

 じゃあ、Aだよ、勿論。

 『タカフミ』が『ユキ』にどう接するのかも知りたいし。


「いいよ。帰ろうか」

「……はい」


“ユキはちょっとはにかんだように微笑んだ。”

“今日こそは……手を繋げるかな”


 ……うおっと。だいぶん清い交際をしてるんだな。

 とは言ってもまだ1週間だし、そんなものか。


 思えばエリカは、かなり詐欺だったよな。

 金持ちのお嬢ですごく楚々としてたのに、話してみれば妙に気の強い女だった。

 俺が飲んだくれの親父に殴られんのが嫌だって夜遅くまでコンビニにいたら、塾帰りのエリカに怒られたっけ。


「やられたらやり返しなさいよ!」

「そんな訳にはいかないだろ……。俺はまだ中学生で一応、養ってもらってるんだし……」

「じゃあ、高校生になったらやり返すの? 高校だってお父さんに行かせてもらうんでしょ? 本当に反抗できるの?」

「……」

「そんなこと言ってたら……タクちゃん……いつか、死んじゃうよ……」


   * * *


“俺はユキと一緒に学校を出ると、本屋に向かった。ユキがいい問題集を教えてくれ、と言ったからだ。”


「タカフミ先輩。……どれがお勧めですか?」

「こっちは説明が丁寧だから、調べるのにはいいんじゃないかな。でも、載っている問題数は少ないんだよね……」

「これは……どうですか?」

「そうだね、これは……」


 テキトーに選択肢を選びながら、『タカフミ』と『ユキ』の会話が続いていく。

 『ユキ』はショートカットが似合う、顔も鼻も口も小さい、童顔の女の子だった。

 目だけは大きくて、キラキラした瞳で『タカフミ』を見上げている。『タカフミ』のことを本当に尊敬しているようだ。

 そして……とても素直で、だけど優柔不断なところもあるみたいだ。『タカフミ』の説明に「どうしよう、こっちも……」とか、なかなか決められないでいる。

 真剣に悩む様子が、何だか可愛い。


「うーん、どうしよう……」

「あ、そう言えばこっちの参考書も結構いいんだよ」

「……意地悪……です、先輩」

「えっ……バレた?」


“ユキの少し困った顔が、俺は結構クセになっている。だからついつい、からかってしまうんだ。”


 うはー……。甘酸っぱー……。

 思えば、俺とエリカじゃ考えられない構図だ。

 エリカは同学年の女子と比べても大人っぽくて、とてもハキハキと自分の意見を言う奴だった。

 俺よりずっと成績が良かったから、逆に俺が勉強を教えてもらっていたもんな……。

 

“ピンポーン”

『A:じゃあ、こっちの参考書にしたら?』

『B:いい加減、早く決めなよ。』

『C:(マニュアルにする)』


 ……ここでBを選ぶとか、鬼だろ。

 『タカフミ』のモノローグと全く合ってないじゃないか。

 選択肢に手を抜くなってテーヘンに言っておこう。


「じゃあ、こっちの参考書にしたら?」

「そうですね……」

「俺が使ってたんだ」

「……はい! じゃあ、そうします!」


“急に弾かれたようにピンと背中を伸ばすと、ユキは俺の渡した参考書を持ってレジに小走りで向かった。”

“素直……過ぎるよね。悪い人に騙されないといいけど……。”


 お前がしっかりしろ、というツッコミを『タカフミ』に入れつつ、溜息をつく。


   * * *


「お待たせ!」

「今日もお疲れさん」


 学習塾から出てきたエリカを出迎える。

 夜も遅いのになぜか送り迎えもなく一人で歩いていたから……やがて塾への送り迎えは俺の役目になった。

 両親とも仕事で忙しいから仕方ないのだ、と言っていた。

 帰り道、たわいもないことを喋りながら二人で歩いて帰る。


 エリカの家は俺が住んでいるアパートからそう遠くはなかった。

 送り届けても……エリカの家は、真っ暗になっていることの方が多かった。

 最初はエリカが玄関の奥に消えるのを見届けていたけど……いつ来ても本当に真っ暗だから、そのうちエリカの家に寄っていくようになった。

 エリカの部屋で喋っていたらエリカの母親が帰ってきて、慌てて窓から帰ったこともあったっけ。

 ……俺たちが深い仲になるのに、そんなに時間はかからなかった。


 エリカは、本当はタクシー代を渡されていたのにわざと歩いて帰っていた。

 俺がそのことを知ったのは――永遠にエリカに会えなくなってからだった。

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