4 いよいよ、ゲームが始まった
「なあに? その目は……」
「……」
「言いたい事があるなら、ちゃんと言いなさいよ!」
ん? 最初?
ああ、やり直しはできるんだな。設定を理解した上でもう一度ってことか。
「タカフミ、お前は何のために生きてると思ってるの」
少なくとも母さんのエゴのためではない。
……そうだよな、俺。
「あの女の子供より、優秀だと……立派だと、世間に知らしめるためなのよ!」
“ピンポーン”
『A:……何回も聞いたよ』
『B:うるせぇな!』
『C:(マニュアルにする)』
……あ、新たな選択肢……。
そうか、チュートリアルモードのままだからか。
テーヘンの奴、感想くれとか言ってたけど……それは、チュートリアルモードの選択肢もチェックした方がいいんだろうな。
慣れるまではこのままでいくか。間違えてしまって早々に強制終了させられたらつまらないし。
「うるせぇな!」
「なっ……!」
“俺の言葉に、母さんはひどく驚いたように目を見開いた。”
『母さん』の背後の時計を見る。……AM7:30。
『母さん』の手には、限定プラモデルの箱。
傍には、グシャグシャになった模試の成績票。
なるほど、これを見せたらキレ始めた、という設定ね。
「タカフミ、何を急に……」
「……で、これは返してもらうね。シゲルに貰った宝物なんだからさ」
“そう言うと、『俺』は母さんの手から限定プラモデルの箱を奪い取った。”
“急いで持っていたリュックにしまう。”
せっかく救出できたんだしな、それは当然の行動だよな。
「そろそろ出ないと遅刻するから。行ってきまーす!」
『俺』の声と共に、視界はリビングの扉、狭い廊下、そして玄関のドアへと移り変わる。
……おお、勝手に始まった。
それにこっちだとプラモデル壊されずに済むんだな。
良かった、良かった。
“今日、初めて母さんに逆らった。”
“ちょっと気分がいい。殻を突き破ったというか……大物になった気分だ”
よっぽどストレスが溜まってたんだな、タカフミ。
でも……俺もちょっとスッキリしたな。
“ピンポーン”
『タカフミの感情値が5pt上がりました。思考値が2pt下がりました。』
おおっと! 急に機械的な女の声のナレーション。
……ん? これ、選択によってptが変動するのか。
ふうん、なるほどなー。
* * *
その後『タカフミ』は学校に行き、午前中の授業を受ける。
この途中もいろいろ選択肢はあったけど、まぁ無難にこなす。
この『タカフミ』という少年、学校では成績優秀な生徒会長で、先生にも信頼されている。そしてスポーツも万能な人気者のようだ。
ったく……それだったらこの設定を先に持ってきた方が、キャンペーンにはいいと思うぞ。
後でテーヘンに言ってやろう。
『人気者のタカフミ』――これは、皆に「期待」されてできたものであって、「圧力」ではない。
多少無理をしているところもあるようだが、『タカフミ』は好きでやっているんだ。
だから学校での『タカフミ』は生き生きとしている。友達も多い。
昼休みになり、友人の『シゲル』と会話をする。
「お前、何でソレ学校に持ってきてんだよー」
「母親に壊されそうになってさ」
「……相変わらずなんだな、お前の母ちゃん」
“ピンポーン”
『A:……仕方ないよ、我慢するしか……』
『B:もう、我慢しないことに決めたんだ』
『C:(マニュアルにする)』
「もう、我慢しないことに決めたんだ」
「えっ! ……大丈夫なのか?」
「どうにかなるよ」
「あれ……。彼女ができたからって強気?」
彼女? そんな設定あったかな?
……そうか、ルートが分岐したのかな。
* * *
件の『彼女』は、生徒会長を務める『タカフミ』の傍でちまちまとメモを取る、書記の女の子だった。
学年は一つ下で、背が小さく声も小さい、とてもおとなしい女の子。
『ミヤマ=ユキ』という名前だった。
どうやら1週間前に告白されて付き合うことにしたようだ。
俺はふと……エリカのことを思い出した。
現実世界での、俺の彼女――だった、女の子。