第8話 スキルはしっかり確認したか?
今日はスキル講習の日だ。
一昨日飲み過ぎたけど昨日一日はゆっくり休めたし
エリーが解毒魔法をかけてくれたお陰でいつも通りの
体調に戻った。
何よりも「酔い」が状態異常だとは思わなかった
な。
バタンッと大きな音を立ててエリーが部屋に入って
くる。
「ロック! 早く起きないと間に合わなくなるわよ
!」
「あの、エリーさん? 鍵をかけてたはずなんだけ
ど」
「宿屋の「お姉さん」に合鍵を借りたわ!」
鍵の意味とは一体……。おばちゃんは人を見る目あ
るしいいんだけどね。
「遅刻厳禁って言ってたし早めに行っておこっか」
着替えるのでエリーが出て行ってくれるのを待つ。
エリーは腕を組んだまま微動だにしない。
「どうしたの? 早くしなさいよ」
「着替えたいなー、なんて」
「そ、それならそうと早く言いなさいよ! ばかーっ
!」
エリーは顔を真っ赤にするとドタバタと音を立てて
出て行った。このやり取りで完全に目が覚めた。
今日の武器は講習のスキルに合わせて短剣2本にし
よう。防具もなしで軽装だ。
部屋を出て外で顔を洗い食堂へ顔を出す。
「おまたせー」
と声を掛けるとビクッと反応した。
「さっきは気がつかなくて悪かったわね」
「俺も何も言わなかったしお互い様って事で」
エリーは意外とこういう事を気にする。ここ数日一
緒にいてわかった。
ハッキリした物言いだから勘違いされる事も多かっ
たのかもしれない。俺が真逆の性格なのでそういった
部分を羨ましく思う。
「ふふっ」
俺は可笑しくなって笑った。確かにこれは前衛っぽ
くない。
「急に笑いだしてどうしたの?」
訝しげに尋ねてくる。
「俺の考えがエリーが言った通り前衛っぽくないと思
ってさ」
「わたしが言ってた事がわかったようね! それじゃ
朝食を済ませてギルドへ行きましょ」
ギルドに向かう間にエリーにスキルの説明をする。
「エリーはスキルについてどれぐらい知ってるの?」
「さっぱりわからないわ!」
「え!? 魔法学校で習わないの?」
「ダメダメ! あいつらは脳が魔法で出来てるからそ
れ以外に関心ないのよ」
脳が魔法で出来てるってすごいなぁ。俺も脳が魔法
で出来てたら魔法使えたかもしれないのに残念だよ。
本当に残念だなぁ。
「もう時間がないから軽く説明するけど、スキル講習
って受ければ一回で必ず習得できるわけじゃないん
だ」
「そんなのインチキじゃない!」
ふんふん鼻息を荒げているエリーを「まぁまぁ」と
落ち着かせながら話す。
「スキルには相性があってさ。相性が悪いスキルは覚
えづらいみたいなんだ」
「なるほどね。それを先に言ってよ。詐欺かと思っち
ゃったわ!」
「あはは、そうだね。ギルドでしょっちゅう講習を開
いてるようなスキルは取得しやすいみたいだから、
この機会に取っておこうよ」
「わかったわ! 全部制覇してやりましょ!」
ジャックやダンカンさんや顔見知りの人達、そして
ギルド職員にオススメのスキルは聞いておいた。
今日の講習が終わったら全部予約するつもりだ。こ
れで俺もスキルマスターになれる。
「ふっふっふ」
「ほら、また一人で笑ってないで行くわよ!」
ギルドに着いてカウンターへ行って受付を済ませ
た。
「時間になったらお呼びしますので、ギルド内でお待
ちください」
「はーい、わかりました」
周囲を見るといかにもな感じの初心者が何人かいた
のでその子達も今日スキル講習を受けるのだろう。
「ロックはスキル講習受けた事あるの?」
「いや、俺も初めてなんだ」
「それじゃロックもわたしと同じスキル講習初心者ね
!」
俺も初心者だった。
初心はいつも忘れてはいけない。
しばらくして名前が呼ばれる。
講習は2階で行われるようだった。ギルドの2階に
上がるのも初めてだし、やはり初心者でした。
案内された2階の部屋に入ると机とイスが並べられ
ていた。
「座学をやるみたいね!」
「そうみたいだね。座って待とうか」
俺達以外に5人の受講者がいる。座って待っている
と講師らしき人が入ってきた。すごい目つきが鋭い人
だ。今日の講習を考えれば当然と言えるかもしれな
い。
「スキル「警戒」の講習を始める」
シーンとした室内で講師の人が説明を始める。
「このスキルは前衛や斥候に必須スキルである。瞬時
に周囲の動向を知り得るだけでなく持続的な使用も
可能だ」
この時点でもしかしたらエリーには相性悪いスキル
なんじゃないかという嫌な予感がした。
「このスキルを取得する事において大切なのは潜み、
観察する事だ」
聞けば聞く程エリーとは相性が悪いように思えてく
る。どうかエリーが一回で取得できずに暴れ出しませ
んように……。
結果から言うと二人とも一発で取得できた。はぁ、
良かった。
エリーにそれを聞いてみるとこう言った。
「馬鹿ねー。女性なんて誰しも、ある程度の観察力と
警戒心は元々持ち合わせているものよ!」
「まったくもってその通り」
ぐうの音も出ない。観察力がないのは俺の方かも
ね。
「警戒」を取得し終わった俺達はギルドカウンター
で以前聞いたオススメスキルを全部予約した。
宿屋の食堂でエリーの初スキル取得おめでとうパー
ティーを2人で開いた。
「「かんぱーい!」」
これで俺も着々とスキルマスターへの道を歩みだし
たというわけだ。
「プハーッ! わたしこの一杯のために生きてるわ
!」
「……。」
それはやめようよ。エリーの将来が心の底から心配
だ。
「ところでエリーはスキルの確認方法知ってる?」
「知らないわよ! どうやるの?」
「まずは目をつぶって」
俺に言われた通り目をつぶる。本当に「警戒」覚え
られてるのかな。警戒心0な気がするんだけど。
「心の中でスキルって思い浮かべて」
「わかったわ。キャッ! 何よこれ!?」
「大丈夫だから心配しないで。今日覚えた「警戒」っ
てスキルが普通に文字で出てこない?」
「出てきたわね! なにか他にもいくつかあるわ!」
「え? どういう事?」
「「大魔導」っていうのと「詠唱」っていうのがある
わね」
「んんん? スキル持ってないんじゃなかったの?
まさか、スキル持ってるのに知らなかったなんてま
さかそんなベタなオチないよね?」
「ここに出てるのがスキルなのよね? わたしスキル
持ってたみたい!」
そんなオチでした。
エリーの初スキル取得(偽)パーティーが終わったそ
の夜、宿の部屋でゆっくりしていると突然部屋が真っ
暗になり動けなくなった。
(これは一体……。)
そして天井の方が光り始めた。
(あれ、見覚えが)
「アリスでしたー」
真横にアリスが突然現れた。
「なんで天井の方光らせたの!? しゃ、しゃべれる
!」
「だってー、前と一緒じゃつまらないでしょ?」
そう言って指をパチンと鳴らすと俺の体は宙を舞い
アリスの膝の上に頭が乗っかった。以前クロエ様がや
ったように。
「くろえおねーちゃんばかりいつもずるいから今日は
アリスがしたげる」
アリスは柔らかく少し体温の高い手で俺の頭や顔を
なではじめた。
「ろっくおにーちゃんがスキルを覚えて成長したから
来れたんだー」
撫でられてるのかペタペタ触られてるのかよくわか
らないけど何か力が込められてるみたいですごく心地
良い。
そういえばクロエ様はどうしてるのかな? と考え
た瞬間。
「ドーン!」
という大きな音がした。
そこにはクロエ様がニッコリ笑ってご降臨なされて
いた。
「アリス。勝手に降りちゃダメってアレ程言っておい
たでしょ?」
「だって、だって、いつもくろえおねーちゃんばかり
ずるいもん」
「う、それはそれ、これはこれよ」
クロエ様、その弁解はダメなやつです。
「それに今日はろっくおにーちゃんがまたスキルを覚
えて成長したからいいんだもんねー」
「もう、しかたないわねー。それじゃ少しの間だけ
よ」
「やったー。くろえおねーちゃん大好き!」
「それじゃあ……わたしも」
クロエ様もアリスと一緒に俺の頭をなでなでしはじ
めた。なんだろうこれ。
「ガチャッ」
「ロックー。ちょっとスキルの事で聞き……」
「神様が増えてるッ!」
叫んでそのまま出ていった。エリーは絶妙なタイミ
ングを見計らってるのかな。クロエ様とアリスは何事
もなかったかのようになでなでしている。
しばらくしたあと、
「アリスそろそろ戻りますよ」
「はーい、ろっくおにーちゃんまったねー」
「ロック君またね。今度はちゃんと呼んでね」
手を振りながら帰っていった。エリーは放置してこ
のまま寝よう。