第3話 実はただの武器マニア
死に戻りをしない生活を初心者ダンジョンを使って
数日間実際にやってみた。
始める前から難易度が高そうだと感じたが、高いな
んてもんじゃなかったよ。
以前までの俺がどれだけ死に戻りに頼っちゃってい
たかよくわかる。
デスる事は単純に教会へ戻るだけじゃなかったん
だ。ダンジョンでの極度の疲労やモンスターから受け
たダメージ、状態異常、そういったものを全て回復し
てもらえていたのだ。
(これは体調管理をして休養もしっかりとらないと)
ダンジョン内へ持ち込むアイテムも厳選した方が良
いだろう。今はまだ初心者ダンジョンでスライムを相
手にしてるから問題ないが、霊廟はそうはいかない。
あそこには毒の状態異常持ちモンスターがやたら多
かった覚えがある。毒なんて喰らったら即デスッちゃ
うよ。
それにクロエ様に誰にも教えちゃダメって言われた
からパーティーも組みづらいんだよね。
ジャック辺りなら何も聞かずに組んでくれそうだし
もう少し初心者ダンジョンで頑張ってみて考えよう。
今日も今日とて初心者ダンジョンへ向かう。その前
にいつもの。
「クーロエーさまー!」
「はーい、クロエちゃんでーす」
今日のクロエ様テンション高くないかな。
「何か良い事でもあったんですか?」
「ロック君が言う事を聞いて頑張っているからです
よー」
ルンルンっと聞こえてきそうな動きをしている。あ
まり動くとその、神様のご立派な部分がアレでソレし
てダン停になりそうなので勘弁してください。
「デスれない事がこんなにきついと思いませんでし
た。俺がやってる事で合ってるんでしょうか?」
「うんうん大丈夫よ。こっちへいらっしゃい」
クロエ様の側に行く。クロエ様はいつもしてくれる
ように頭を優しくなでてくれた。
「ロック君はきっともう少しで殻を破れるはずだわ。
今は大変ね。でも、わたしはロック君が強い男の子
だって知ってるわよ」
「ふぅ、クロエ様にそこまで言われたら頑張るしかな
いじゃないですか」
この世界は優しい。
そんな世界でわざわざ自らを逆境に置き、困難を乗
り越える強さを得ようとするならばそれは成長に繋が
るんじゃないかな。
今はつらくて苦しいけどいつしかそれすら楽しい事
に変えていける俺になりたい。
「そんな男の子してるロック君に少しだけプレゼン
ト」
そう言うとクロエ様は俺のおでこに「チュッ」とキ
スをした。
自分があまりの恥ずかしさで真っ赤になっているの
がわかる。
「クロエ様!いきなり何を!?」
「おでこにキスしただけよ」
唇に人差し指を当てウィンクしてきた。うー恥ずか
しい。
あれ、けどさっきまで感じてた疲労感がなくなって
る……?
「クロエ様からの特別なキスよ。元気になれたかしら
?」
「ありがとうございます! なんかすごい元気になっ
てきました」
「よしよし、それじゃ今日も頑張ってデスらないよう
にね」
「はい!それじゃ行ってきまーす」
とは言ったものの初心者ダンジョンでは基本スライ
ム系のみなので単純作業になりがちだ。
だからこの機会に所持しているが使った事がない武
器を使えるようになろうと相棒の片手剣を封印し毎日
色々な武器を試している。
元々、武器マニアな俺は使いもしない武器を多数所
持していた。もしもこれを使いこなせるようになるな
らば、それは天にも昇る気持ちだろう。
「ロック、今日はそれか」
「ダンカンさんおはよー」
今日は両手持ちの剣、ツーハンデッドソードを担い
でいる。言うまでもなく既に重い。
「さすがにそれは。こいつスライムを根絶やしにする
つもりなのか……」
完全にオーバーキルになるのはわかっているんだ。
このツーハンデッドソードでスライムを叩き潰した
ら。
「武器の練習も兼ねてるからだよ!」
ダンジョンへ入ると早速、初心者がナイフでスライ
ムと戦ってる。邪魔しないように少し離れて移動した
ら俺の前にもスライムが。
「それじゃいきますかー」
ツーハンデッドソードを構えスライムの後ろから襲
い掛かる。地面にドスンッという音をたてながらブチ
ィッとスライムを核ごと叩き潰した。
スライムを倒した初心者が唖然としながらこちらを
見ている。そんな目で見ないでよー。
わかってるから。俺の体格に合わせてるから短めだ
けど初心者ダンジョンスペックの武器じゃない事は。
その後もあっちでドスンッ、こっちでドスンッとし
ながら初心者ダンジョンを進んだ。
「この辺で戻れば丁度良い時間だね」
歩いて戻るのにどれぐらいの時間が掛かるのかも感
覚として少しずつ把握できてきた。今日は重量のある
武器なので早めに帰る。
夜、酒場で飲んでるとダンカンさんが話しかけてき
た。
「よう、ロック飲んでるか?」
「ダンカンさん、こんばんはー」
俺の隣に腰を掛け俺が飲んでるのと同じお酒をウェ
イトレスに頼む。
「霊廟に行って戻ってきてからだいぶ成長したな」
「そう? 自分では全然実感できてないんだよね」
ウェイトレスがダンカンさんにお酒を持ってきた。
ダンカンさんはそれをゴクゴクと飲む。
「プハーッ! 仕事上がりはやっぱこれだな!」
今は引退したが歴戦の冒険者だけあってお酒の飲み
方も豪快だ。お酒で喉を潤し、目を指差しながら再び
話し始める。
「目だよ、目。俺もいろんな冒険者を見てきた。伸び
る冒険者ってやつはなぁ目が違うんだ」
「目が違うってどういう事?」
自分の目の前に手を持ってきて左右に振ってみる。
特に見え方が変わった様子はない。
「がっはっはっはっは!」
ダンカンさんは大笑いしはじめた。
「ちょっとダンカンさん笑ってないで教えてよー」
少しムスッとしながら尋ねる。
「すまねぇすまねぇ。ロックがあまりに純粋でな。目
が違うっていうのはそういう事じゃないんだ」
歩いてるウェイトレスにお酒のおかわりを頼みなが
ら続けて話す。
「今のロックはきっと目指す何かなり目標なりができ
ただろう?」
「確かにできたけどよくわかったね」
「そりゃダンジョンに入る時のロックの目を見ればわ
かるんだよ。これは経験からくる感覚的なもんでし
かないんだが、以前と違いしっかり前を向く意志を
感じられんだ」
ここ数日間は手探りではあったが今までの1年と比
べると必死さ具合が違ったかもしれない。それをダン
カンさんは感じ取っていたという事かな。
「さすがですね。それだけで見抜く事ができるなん
て」
ダンジョンへ入る前の俺を見て心の内まで見抜くな
んて経験不足の俺じゃ到底出来っこない芸当だ。
「それにな、」
おかわりしたお酒をぐいぐいあおりながら言った。
「初心者ダンジョンにツーハンデッドソードなんて持
って入ったやつは、俺が管理人になったこの10年
でロックだけだぞ」
スライム相手にツーハンデッドソード振り回す馬鹿
は俺だけでした。