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エンジェルス・リジェネレーション

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません。

 作中の用語、歴史、文化、習慣などは創作物としてお楽しみ下さい。


 また、オリジナルの単語は後書きで補足をいれていきます。

 更新は不定期ですが、よろしくおねがいします。

 エンジェルス・リジェネレーション。

 日本が発祥の20XX年大人気オンラインゲームの一角であり、略称は主にエンリジェ、えrl。プレイサーバーはアメリカや外国にまで存在する。


 タイトルの通り、プレイヤーは神々によって生み出された一匹の天使として始まり、思い思いのプレイスタイルを選ぶことが出来る。生産・加工・戦闘・堕天なんでもござれの自由度が高いゲームであり、運営も割と頻繁にアプデを入れる良作。


 このゲームで最も特徴的なのは、3階位による進化システム。そしてキャラメイクシステムである。

 1段階目は、【エンジェル】。何の変哲もない子供に真っ白な翼が生えたかのような統一アバターから始まり、チュートリアルを進めていく。基本的な操作方法、手に持った武器による攻撃、武器をなくしたときの体当たり、遠距離攻撃には【天法(オラクル)】など、天使の敵である悪魔の捕虜を練習台にしてエンジェルを操作する。

 レベルが20になると、次の段階だ。



 そして2段階目から分岐が始まる。【アークエンジェル】、【ガルガリン】。

 【アークエンジェル】はエンジェルがそのまま成人にしたような設定で、この段階からようやく本格的なキャラメイクが出来る。顔の細部から体型は胸の大きさや腰回り、翼、足や手の長さを各所単位で決定でき、ガリガリの骨野郎からブクブクのデブ天使まで作成が可能だ。

 最大の特徴は、その人間らしい手を使ったアイテム作成スキル。そしてバフやデバフを主とした【天法(オラクル)】を扱うことが得意で、パーティメンバーとしては支援火力とヒーラーを請け負う。

 主な攻撃方法は装備したメイン武器を特化させるか、【天法(オラクル)】で範囲攻撃やデバフ付与を重ねて敵を倒すスタイルだ。


 そして【ガルガリン】、これがまた異質なのだ。

 姿は人から一転し、ゆらめく炎の車輪から猛禽類の翼が生え、更にその翼には無数の目が散りばめられている。キャラメイクでは車輪のデザインを一定パターンのパーツから決め、猛禽類の翼の数や大きさ、そして散りばめる目の数と大きさ、翼の瞳のパターンや色をある程度決められる。

 ゲーム的な立ち位置は、メインアタッカーとタンク。車輪か翼に強化項目があり、これがアークエンジェルの武器や装備に値するという、システム項目そのものから変化しているという特徴がある。

 主な攻撃方法は翼を物理的な攻撃にしたアクロバティックな攻撃スキルで殴り殺すか、炎の車輪を盾のように扱い、カウンターや敵のヘイトを稼ぎやすい翼を伸ばした範囲拘束スキルでタンクのように立ち回るか。


 そしてレベルが70になると、3階位が開放される。

 【アークエンジェル】は【ケルビム】。

 【ガルガリン】は【セラフ】となる。


 【ケルビム】の姿は、アークエンジェルそのものに3対の翼を足したもので、キャラメイクに特に変化はない。だが、増えた翼の分だけ同時に使用可能なスキルか装備を選択することが出来、カスタマイズに富んだ性能に進化する。

 基本的な立ち回りはヒーラーと支援アタッカーから変わらない。


 【セラフ】の姿は、ガルガリン時代の火車がより豪華な日輪となり、猛禽類の雄々しい翼は形そのままに、純白へと色を変え不気味ながらも神々しい見た目となる。そして4対の翼が増え、増えた翼の分だけ攻撃スキルの威力が上がるシステムだ。

 立ち回りは全く変わらないが、上がった威力の分だけヘイトが取りやすくなってしまったり、タンクの立ち回りとしては楽になったりしている。






「そんで今はレベルキャップ開放で85が上限か。……懐かしいなあ。こんばんはーっと」


 チャット欄を見てみると、久々のログインに「一年前の伝説キタゼおるるぁん!」とか、「タンク崩しだ逃げろ!」だとか、別ゲーで言うギルドに値する【フォース】の面々から返事が返ってきた。

 このゲームをするのも、実に半年ぶりだ。

 仕事が忙しく、また別ゲーに目移りしたとこともあってしばらく放っておいたが、やはり積みゲーを崩した後はコレに戻ってきてしまう。


 俺のキャラクターは今やセラフだが、最近のアップデートに乗り遅れたせいで最大レベルにまでは到達していない。

 急いでホットな狩場を検索し、【フォース】のメンバーと【プラトーン】……システム上4人、もしくは大規模インスタンスダンジョンによっては10人まで組める、パーティーとかグループとかみたいな小隊を編成する。


 それから、仕事帰りということもあって風呂や休憩、飯を挟みながら狩場でひたすら敵の悪魔を倒していると5時間が経過していた。わりと緩めのアップデートだったのか、レベルはキャップに到達し、時刻は深夜の12時を回ろうとしていた。


「明日は土曜か……ま、平日より人がいるだろ」


 珍しく、土曜日に休日が取れたとはいえ夜更かしはそのまま体を壊すことに繋がる。一度ソレで熱を出して変に休んでしまった事もあり、せっかくの休日をそんなつまらない時間にしたくはないので、【フォース】のメンバーに挨拶をして就寝することにした。

 さて、明日はキャラクターを強化するための素材を掘ろうかな。






『ガーリンさんってドロップ運結構いいよね』


 自分のアバターは【ガル・ガガガガーリン】という安直な名前である。そして話しかけてきた相手はかなり濃い顔立ちの女性ケルビムだ。ただし中身はおっさん手前の社会人だが。


『かもしれないっすね』

『今の所セラフの人権(※高難易度ダンジョンなどで必要最低限装備しておく暗黙の基準)に必要なセットリングってあと何個必要だっけ』

『んーと、あと6個っすかね。新ダンジョンの1層巡って最短3回か』

『ケルビムのテンプレ武器素材が1層の中ボスから出るから一緒に行っていい?』

『いいっすよー。結構装備揃ってきたし、ペアで潜った方がドロ配分美味しいんで歓迎っすわ』

『よしゃ、ちょいアイテム整えるから待ってね』

『ういうい』


 【フォース】のメンバーも変わりないようで、2年目とはいえこのゲームも現役バリバリなことが伺える。こうしてペア潜りを約束したメンバーも、この【フォース】にほぼ同時期に入ってからそれなりの付き合いの【ケルビム】だ。

 ただ、美男美女が9割のプレイヤーたちのなかでも、このペア相手は筋肉もりもりマッチョウーマンのヒーラーという、一度は考えるけど中々やらない外見のアバターなだけあって、半年未プレイな自分でも会う前から覚えていた。


 さて、そんな相手とペア潜りでまた数時間が経過。

 ようやくセラフ系がお目当てのセットリングと、相手のメイン武器に必要な素材が揃う。物欲センサーが発動していたのか、はたまた自分が運を吸い取っていたのか、揃ってから余計に3週したのもいい思い出だ。


『うはwwwようやく揃った』

『欲望がにじみでている……』

『ゆるちて(はーと』

『レアドロ3時間券おくれ』

『いやんひどい』

 _【まっはっうぬん】さんからトレード申請が来ました。


 チャットではそういいつつも、なにげに即死ギミック満載のダンジョンを集中してプラス3週付き合ってもらった価値は計り知れない。というか、これだけでドロップしたのがかなり運のいいほうである。故に相変わらずどう呼べばいいか分からんネ友のトレードを受け、要求通りのアイテムを受け取った。


『めっちゃ疲れたしこの辺りでおちま、おつかれい』

_【まっはっうぬん】さんがログアウトしました。

『おつk』

『言う前に切られヤツwwww』

『ばっかおめえわざとだごるるぁ~ん』


 騒がしいフォースメンバーが居なくなり、チャットが少し湧いて数分後には静かになる。アクティブなメンバーも9人と多いほうだが、幽霊メンバーが30人であることを考えると人の入れ替わりがずいぶん激しくなったものだと、少ししみじみする。

 ふと気になることがあって、メンバーにきいてみることにした。


『そういえば、ララシャンサインさんってやめたんスか?』

『らっさんなら何かぱったりと連絡つかなくなりましたぜ』

『あー、いつもならdLitterあたりにコメント残すのに、そっちも更新ないよね』

『【まさかの】ララシャンサインさん死亡説【出来事】』

『えんぎでもねーこというなー』

『ありゃー、じゃあリダは不在か』

『あと2ヶ月リダ放置で解散だっけか。また面白そうなフォスフォス探さないとなあ』

『せやな』


 チャットログが流れていくが、少し驚いた。

 あれだけ熱くのめりこんでいたガチ勢が、ぱたりと連絡なしにやめるとは。

 今回のアプデも特に難しいわけでもないし、下手すると本当にリアルで事故にでもあったんだろうか。結構プラトーンを組んでいた仲ということもあってショックが少しある。


 だがまぁ、縁の切れ目がネ友の切れ目。

 いつどこで会えるかもわからない以上、消えてしまった人をいつまでも言うのもマナーが悪い。素直に別ゲーに流れたかなんかだと自分を納得させ、アバターを移動させてスキル強化のNPCがいる場所に移動する。


 すると、そこで公開チャットで話しているプレイヤーが何人か集まっていた。見かけない名前も多いから、アプデをきっかけに始めたニュービーたちの新しい【フォース】勧誘だろうか。

 そう思っていたが、内容は興味と、何か自分の中でも得体の知れない何かを引っ張られるような話題だった。


『っべー、こないだのオフ会でリア友になったやつと連絡つかんくなった』

『そっちも? このゲーム呪われてるんじゃ……』

『あいちんに続き2人目か。いや掲示板の内容だと10人以上いるっぽいな』

『ガチで呪いのゲーム。井戸の幽霊でも出るでござるか』

『オンゲやっただけで死ぬとか平成初期の都市伝説並み感』


 ……リアルのほうでも連絡がつかない?

 ララシャンサインさんも同じだろうか。


 なんだか寒気がする。


「……いけね、もう夕方だ。飯作ろ」


 集中して楽しんでいると、本当に時間が早い。ホラー物を見た後のような、背筋の気持ち悪さを誤魔化すように独り言を呟き、台所に向かう。


 その瞬間だ。


「うえ!?」


 ベランダの方から、ダンッと音がした。

 タイミング最悪だ。ただでさえ非現実的な気味悪さ感じてるのにここでか。いろいろと付きたい悪態も在るが、声に出したところで誰に言うでもない。かといって騒げば、近所の住人に迷惑になる。


「……見に行こ」


 自分を奮い立たせるように呟き、秋も近く冷えてきた床板を踏まないようフローリングの上を歩いていく。カーテンは、陽の光がパソコンの画面を見えづらくするから締め切ってある。それが余計に、得体の知れない怖さと相まって面倒くささを増長させる。


 どうせ鳥がぶつかっただけだ。たまにあることだ。

 なにもいませんよーに。


 目を閉じたまま、窓に手を掛けてゆっくりと開く。

 ……大丈夫、なんにもない。

 目を開けると、やっぱり鳥だった。太陽の光に反射した窓を光り物だと勘違いしたのか、その構造上、脆い首の骨が折れているのかピクピクとしていた。死ぬのも時間の問題だろう。


「なんだ、結局小鳥か……死んだら花壇の土よせて供養してやっかな」


 その瞬間、足首にチクリと痛みを感じる。

 ゾワリと背筋が震える。


 足元を見る。死んだと思った小鳥が、嘴の端を歪ませているのが嫌に目についた。

 気持ち悪い。


 意識が、消えていく。


【ガル・ガガガガーリン】

主人公であり主人公のアバター。

幾何学模様の日輪から、純白の翼が不規則に13本生えている。

翼に並んだ瞳の色は桃に近い紫。スキル使用時は青に近い紫に輝く。

脳筋に全てを振り込んだパワーアタッカー。火力が高すぎてタンクのヘイトをよく取る迷惑プレイヤーにも思えるが、ヘイトが取れる頃には悪魔エネミーもHP全損状態が常である。一部のプレイヤーからはアバター名を無視してゴリラと称されることも。


天法(オラクル)

いわゆる魔法的立ち位置。

ガルガリン系列は自己バフ(自分強化という意味)と下級回復のみ。アークエンジェル系列は敵のデバフ(相手を一定時間弱体化させる)と回復全般、そして攻撃用があるがガルガリン系列の自己バフは使えない。

バフ系は赤、デバフ系は青、回復系は緑、そして攻撃系は白とエフェクト色が統一されている。

一度使用すると3秒~2分(拠点ワープなどコモン系は30分)とリキャストタイムが設定されており、その間は別のスキルを使用しなければならない。アークエンジェル系列は更にスキル同士の連携もあるため、スキル回し(効果を繋げてより効率的に戦うこと)が重要になる。ガルガリン系は一度発動させたら後は殴り用スキルを連打するだけのお仕事。


【フォース】

ギルドとか、チームとか、ゲームによって様々だが大多数の人数が集まれるシステム。

フォースのメンバーだけでしか出来ないクエストや、所属することで受けられる常時バフなど恩恵は様々。勿論、所属しないことも可能だが、現状所属しないデメリットが大きいため、運営がそういったプレイヤー用に不特定多数用フォースを設立している。不特定用はフォース同士のポイントランキング報酬などから除外される。


【インスタンスダンジョン】

一度入ったら十数分のクールタイムが設けられたりするシステムもあるが、普通に攻略するためのフィールドだと考えてもらって問題ありません。(なお2話目以降は出ない


【プラトーン】

小隊という意味。古くから親しまれる4人構成で正規構成が「タンク・アタッカー・アタッカー・ヒーラー」の枠がある。4人以内であればタンク・ヒーラーやアタッカー・アタッカー、タンク・タンク、ヒーラー・ヒーラーも可能。ただし正規構成でなければダンジョンには潜れない。

大規模なダンジョンになると、ダブルプラトーン・トリプルプラトーンと称され、8人~12人での挑戦をすることも可能。その際は各プラトーンごとのギミックがあったり、12人がまとめられてワチャワチャとボスを倒したりも。

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