俺はどこでも同じなのか
ハローワークの中は、とても混雑していた。
人々が仕事を求めざわめきあっている中、田中義男も同じようにカウンターで相談員と話し込んでいた。
相談員が「前職はタバコ畑で働いていたんですね」と田中を見ずに、面倒そうな口調で言った。田中は「ええ、そうです」と、こっちも面倒そうな口調で答えた。
「それでは、何か希望の職種などはありますか?」
そんなものはなにもない。田中は心の底からそう思ったが、その考えや感じ方が、そして自分自身をも含めてのそれが社会に適応できないものだという事だけは解っているので仕方なく口先だけで繕ってみた。
「あのう、できればデスクワークみたいなものがいいんですけど・・・」とやった事も無く、出来るはずもないような要求をしてみた。学校だって、面倒くさくてろくに行かずに結局中退になった。性質が悪いのは、特に学校が嫌いだとか勉強が嫌いだとかではなく、ただなんとなく面倒くさかったのだ。友達だってそれなりにいたし、今もその時からの友達も多い。
理由なんて、自分でも解らないのだ。相談員は「前職とは随分違いますけど」と何かしらこちらの心の中を見透かしたような言い方で田中を見ずに言った。絶対にこちらの思いなんてバレている。と感じながらも「えぇ、やってみて肉体労働は自分にはかなり向いていないなって思いまして」と田中はすらっと適当に答えた。本当は、楽に金を稼ぎたいだけだ。
向いていないと思ったのは本当だ。だけど、まぁ、何でもよかったのだ。相談員は、そんなお前の心の内なんてどうでもいいんだよ。こっちは仕事でやってんだ、さっさと終わらせてしまいたいんだ顔で「なるほど。そうですねぇ、あるにはあるんですが。殆どがシャトルのオペレーション関係ですね。何か、それに関する資格とかは・・・」と田中の持ってきていた履歴書に目を落とす。
資格だって?そんなもん、わざわざ履歴書見直さなくても最初に渡した時から資格の欄が空欄だって事分かってるじゃねーか。と田中は思う。が、口から出た台詞は「あのう、そういった資格は何も・・・」とちょっと申し訳なさそう。
相談員は「まだ年齢も23歳とお若いので、働きながら資格を取りつつステップアップしてゆくという方法もありまして。その場合、シャトルの荷さばき場からはじめまして、それぞれ希望の職種の試験にチャレンジしていくという・・・」
うんざりだっ!帰ろう。
田中は「分かりました。もう一度よく考えて希望の職種を絞ってみることにします」と相談員の話を途中で切り上げるように言った。
席を立ち、出口へ向かう。外へ出る前の隔壁通路に入り、預けておいたヘルメットを被る。緑色のランプが光る。通路のドアが開き、田中は外へ出る。外は一面紫色の光に照らされていて、空には青色の月と赤色の月の二つが昇っている。田中はチラリと空を見上げ、ため息をつき紫色の街の中へと歩いて行く。