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変態アニキとブラコン姉妹  作者: 神堂皐月
8/24

プールと水着と西園寺

 中間考査が終わってから数日、世間は今ゴールデンウイークである。


 というこで俺はGWに入ってから積みゲーを消化していた。


 積みゲーとは簡単に説明すると、やらずに溜まってしまったゲームのことだ。


 現在、GW最終日前日の夜、積みゲーも残り1作となり徹夜でやり込もうと思っていると──突然ケータイの着信音が鳴り響いた。


 もう24時だぞ。迷惑なやつだな。


 着信者を見てみると──西園寺愛莉。


 えっ、西園寺から!?


 俺は慌てて電話に出た。


「……もしもし?」


『私を待たせるなんていい度胸ね。着信音が鳴る前に出なさいよ』


「それは無理だろ!」


『まあいいわ。それより藤森くん、明日の予定はもちろん空いてるわよね?』


「いや、徹夜でゲームを──」


『空いてるわよね?』


「──はい」


『そう。それならよかったわ。明日、デートをします』


「はっ?」


『女の子に2度も言わせる気かしら』


「いえ、ちゃんと聞こえました!」


『じゃあ明日の午前10時に駅前に集合ということで』


「駅ってどこに行く気だ──」


 プープープー。


 用事だけ言ったらすぐ切りやがった。


 それにしても西園寺から、で、デートの誘いなんて。


 この間のテスト勝負に勝ったことによって、西園寺ルートに突入したのか!?


 1ヵ月前に凛ルートに入ったと思いきや、今度は西園寺ルートか。


 これは噂に聞く伝説の……モテ期というやつか!


 だとしたら明日に備えて今日はもう寝るか。


 ――――ということで翌日のGW最終日、現時刻──午前11時。


 俺は西園寺と2人で市営プール前に来ていた。


「どういうことだ」


「見ての通り市営プールよ。あなたのお粗末な脳味噌ではわからなかったかしら」


「それはわかるよ! 俺が言いたいのは、何であらかじめプールに行くってことを言っておかなかったんだってことだ!」


「そんなに唾を飛ばさないでくれるかしら。バカがうつるわ」


「うつるか!」


 こんなことなら昨日電話を掛け直して訊いておくんだった。


 午前10時に駅前に集合してそれから最寄り駅まで40分、さらに徒歩10分で市営プール前に着いたわけなんだけれど……。


 西園寺のやつ、駅で会った時には「ついてきなさい」の一言。それから俺が目的地を訊いても「静かにしてくれないかしら」の一点張り。


 で、今に至る。


「行くわよ」


「お、おい。俺の水着はどうすんだよ」


「買えばいいじゃない」


 買えばって……他人事だな。


 あんまり持ち合わせが無いんだけどな。


 入場料は学割で手頃な値段になった。


 中に入ると売店があり、僅かだが水着も売っていた。


「着替えたらシャワーの前にいてくれるかしら」


「おう」


「うろちょろされたりして、私まで変人だと思われたくないのよ」


「…………」


 そう言うと先にスタスタと行ってしまった。


 酷い言われようだ……俺がなにかしたとでもいうのか?


 男子更衣室に入ると、大人や子供が十数名着替え中だった。


 俺も空いているロッカーで買った水着に着替えると、シャワーのところへ向かった。


「初めてきたけど広いもんだな」


 市営プールの割には中も広く、チビッ子たちが思いのままに遊んでいる。


 季節はまだ早いので当然温水プールのようだ。


 プールは25メートルプール、50メートルプールだけだが、その他にもウォータースライダーや飛び込み台などもあった。


 そういえば西園寺はどんな水着なのかな。


 やっぱり西園寺のことだからビキニかな。スク水も捨て難いしな。


 そんなことを考えていると、


「待たせたわね、藤森くん」


 声を掛けられて振り向くと、着替え終えた西園寺だった。


「────っ!」


「どうしたのかしら、藤森くん。私の水着姿に見蕩れちゃって、声も出ないのかしら」


 ふふっ、と笑う西園寺の姿に、俺は本当に見蕩れてしまっていた。


 真っ黒な派手なビキニで、その豊満な胸を惜し気もなくさらしていた。


 制服の上からでも充分大きかったけど、西園寺は着痩せするタイプなのか。


 結衣より大きいんじゃないのか? もしかしたらあや姉くらいはあるかも。


 脳内HDに保存! 脳内HDに保存!


 その白い脚や豊満な胸の谷間に目を向けていると、


「あの、悪いのだけれど……そんなにまじまじと見られていると、さすがに気持ち悪いわ」


「……西園寺は酷い事を平気で言うよな」


「何を言うのかしら、私の愛という字は愛嬌の愛よ」


「かけらもないのに!?」


「失礼なことを言うのね、藤森くん。まあ、かけらもないのだけれど」


「名前を否定しちゃってる!?」


「そんなことはどうでもいいわ」


 どうでもいいんだ……。


 西園寺は辺りを見廻すと、


「じゃあ肩慣らしに50メートル行くわよ」


「肩慣らし!?」


「私は泳ぐのが好きよ」


「好きな事を知れてよかったよ……」


 50メートルプールまで軽快な足取りで歩く西園寺の後ろを、俺はとぼとぼとついて行った。


 ――――バチャッ。


「久しぶりに泳ぐと気持ちのいいものよ、藤森くん」


 プールサイドで眺めていると、プールから出てきた西園寺が隣りに座って話しかけてきた。


「来た甲斐があったよ」


「あなたは泳がないのかしら」


「あとでね」


「……ふーん」


「…………」


「次はあれにいきましょう」


 ほっと俺は胸を撫で下ろした。


 ここで買った水着は紐が付いて無くゴムだけだから、泳いでたら脱げちゃいそうだ。


 俺が水着のことを考えて西園寺の後に付いていくと、


「これよ」


 西園寺が指さす先を見ると──ウォータースライダーだった。


「げッ──西園寺、これは止めとこうぜ」


「何言ってるのよ。せっかくここまで来たのだから、これに挑戦しないと来た意味ないじゃない」


 市営プールなのに高さ15メートル、全長20メートルはあるこのウォータースライダーは、ここの1番人気の様だ。


「やっぱり……やらなきゃだめか?」


「当然」


 俺は嘆息し、最後尾に並んだ。


 待つこと20分。


 俺達の番が廻ってきた。


「……高いな」


「恐いのかしら? 藤森くん」


「恐くはないけど……」


 恐くはないけど……脱げるのが心配だ。


 俺は覚悟を決めてスライダーに座った。


「もう少し詰めてくれないかしら。私が座れないのだけれど」


「は? ──お、おいっ!」


 さ、西園寺の胸が背中に!?


 こ、これはやばいだろいろんな意味で!


「行くわよ、藤森くん」


「ちょ、おま──うわああぁぁぁああぁぁぁ」







「もう少しで晒し者になるところだったんだぞ」


 プールから上がったあと、売店で食べ物や飲み物を買って少し遅い昼食にした。


「あら、いいじゃない。注目の的で」


「よくねえよ!」


 ったく西園寺のやつ。


 ウォータースライダーを滑ってプールに飛び込み終わって立った時、俺の水着は半分脱げている状態だった。


「……あの、晒し者の藤森くん」


「晒されてはいねえよ!」


「それより、あの、私……」


 ん? なんか西園寺のやつもじもじしてるな。


 ……あー、なるほどね。


「トイレか」


「さらりというのね」


「だってトイレはトイレだろ?」


「はぁー……」


「な、なんだよ」


「女心がわからない人ね、藤森くんは」


 女心がわからないだと?


 落としたヒロイン1000人以上のこの俺に、理解できない心があるはずないだろ!


「まあいいわ」


 そう言うと西園寺は席を立ち、トイレへと向かった。


「……遅すぎる」


 西園寺がトイレに行くために席を去ってから30分。


 一向に帰ってくる気配無し。


 仕方ない、探しに行くか。


 場内は市営プールの割に広いがトイレの数は少なく、西園寺を見つけるのにそう時間は掛からなかった。


「おい、西園──」


 ん? 俺は目を細める。


 西園寺は何やら男の子といるようだ。


 どうやら迷子のようだ。


 へぇー、西園寺って迷子とかちゃんと面倒を見るやつだったのか。


 西園寺の方へ俺は歩いて行く。


 だが、近づくにつれて少し様子がおかしいことに気づく。


 ……どうしてだろう、予想がつくんだけど……。


「……何やってんだ西園寺」


「あら、藤森くんじゃない。見てわからないかしら、迷子を見てあげてるのよ」


「見てるだけじゃないか!」


 男の子泣きっぱなしじゃん……。


「私、子供が嫌いなのよ。死んで欲しいと思っているわ」


「…………」


「何かしら?」


「いや……西園寺らしいよ……」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


 皮肉で言ったんだけどな。


「で、その子どうしたのさ」


「どうしたのって何がよ?」


「だから、どこから来たとか誰と逸れたとかさ」


「そんなことは訊いていないわ」


「はぁー……俺が訊くよ」


「そうして頂戴」


 俺は仕方なく男の子にどこから来たのか、誰と来たのかなどを訊き、係員の人にアナウンスをしてもらうことにした。


 アナウンスを掛けると母親はすぐに見つかり、お礼を言われ男の子と別れた。


 その後俺達は泳ぐ気にもなれず帰ることにした。







 集合した駅に着くまでの間、西園寺は終始無言だった。


 たまに西園寺の様子をちらちらと窺って見ても、西園寺は俺のことをまったく気にせず外を眺めていた。


 電車が止まり駅前まで歩くと、


「藤森くん」


 いきなり西園寺が話しかけてきた。


「次はあなたがデートに誘いなさい」


「え──っ?」


「じゃあまた明日学校で」


「え、あ、おいっ」


 そう言った西園寺は振り返ることもなく、すたすたと帰って行ってしまった。


 ……次は俺か……。


 ……えっ、次!?


 次もあるのか!?


 西園寺とまたデートをしてる姿がまったく想像できないまま、俺は帰路につくのだった……。

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