表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態アニキとブラコン姉妹  作者: 神堂皐月
6/24

黒き悪魔

 るみかちゃん達と勉強会をした翌日の夜。現在時刻は22時半。


 俺は猛烈にがんばっていた。


 もちろんエロゲの攻略、と言いたいところだけど違う。テスト前の前日にしかやらないテスト勉強。それを今しているのだ。


 なぜそんなことをしているかと言うと──


 ビシッ! と彼女は俺に指をさし──


「私と勝負をします」


「はい?」


「今度のテストで私と勝負をします」


 えーと……話が読めないんだけど。


「君はたしか──西園寺さんだよね?」


「それがなにか」


 西園寺愛莉さいおんじあいり──黒髪をストレートに長く伸ばし、すらりと長い手足はまるでモデルの様な美人な子。そして俺を見据える瞳は、まるで吸い込まれてしまいそうなほどに真っ黒だ。


 そんな彼女がなんで俺なんかに?


「テストで勝負をしたいってことは解ったけど、なんで俺なの?」


「『したい』じゃなくて『する』のよ」


「決定事項!?」


「当たり前じゃない、藤森くん。あなたは唯一私に勝った人だもの」


 唯一勝った?


 俺が西園寺に?


 そんなことあったかな。


「私達の入学式の時、私が代表であいさつをしたの。けれど1学期のテストでは2回ともあなたに負けたわ、藤森くん。成績トップで入学した私がよ」


 そんなこともあった……かな?


 うちの学校はテストの結果が張り出されるんだけど、俺は結果とか気にしてないからなぁ。


「けれど、二学期以降は私がずっとトップだったわ。そして私に唯一勝ったあなたは、上位からは消えていた」


 二学期というと……俺がエロゲにハマりだした時期だ!


「だから1年前に負けた時と同じこの最初のテストで、あなたに勝つために勝負をします」


「ちょっと待ってくれ、西園寺はそれでいいかもしれないけど俺には何の得もない」


 そうだ、俺には何1つ勝負をする理由がないじゃないか。


「『勝負をする』これはもう決定事項よ、藤森くん。そしてあなたが負ければ──消えることになるわ」


「消えるってなにからですかっ!?」


「もちろん社会からよ」


「──!?」


 もちろんって……当たり前なんだ……。


「で、でもそれは俺が負けた場合だッ、得ではない。俺が勝った時の得になることがないと」


「そうね……」


 西園寺はその長い黒髪を掻き上げる。


「魔法少女になれるわ」


「魔法使いじゃなくて少女!?」


「私と契約すれ魔法少女になれるわ」


「それは倫理的にいろいろとまずいからダメ!」


「そう……」


 なんて危ないやつなんだ西園寺は。


 俺はふーっと息を吐き、西園寺を見た。


「なら、私の肉奴隷に──」


「だめぇぇぇえぇぇー!」


「肉便器──」


「それもだめぇぇぇぇえええぇぇ!!」


 なんてやつだ西園寺。


 西園寺のことよりも、ちょっといいかもしれないと一瞬考えた自分自身が恐ろしいぜ。


「ならあなたが考えておきなさい、藤森君くん」


「な、なんでもいいのか?」


「ええ」


「え、エロいことでも?」


「私に勝ったらの話だけれど。だけどあなたが負ければ消えるわよ、社会から」


「お、おおお、おう。わかった、勝負をしよう」


 西園寺はふふっと微笑み席へと戻った。


 ──とまぁこんな事があったわけだ。


 だから俺は西園寺に勝って、俺のエロ奴隷にしてみせる。


 いや、ここは『してみせる』じゃなくてちゃんと宣言した方がいいな。


「俺はエロ奴隷になるっ!」


 …………あれ?


 なんかちが──俺がなってどうすんだよ!


 でもそれはそれで悪くはないかも。ともかく俺は絶対に勝たなくては。


「勝つぞぉぉぉおおぉぉーっ!」


 バンッ!


「さっきからうるさーいっ!」


「ぐはぁっ」


 凛がいきなり俺の部屋に入って殴ってきやがったぜ。


 凛の拳で倒れた俺は、ゆっくりと立ち上がり──


「な、なかなかいいパンツだったぜ」


 親指をぐっと立てた。


「ど、どどど、どこ見てんのよ!? この変態がぁっ!」


「い、今のは違う! パンツじゃなくてパンチの間違い──」


「問答無用ッ!」


「ぐへっ!?」


 俺の弁解もむなしく、結局蹴りをおみまいされてしまった――――


「はっ!」


 ここは……俺の部屋?


 なんでベッドで寝てるんだ?


 今は何時なんだ?


 時計を見てみると──6時。


 え? 6時?


 俺はたしか勉強をしてて……ハッ、思い出した!


 凛に蹴られて気絶したんだ。


 で、今は6時ということは──


「朝かっ!」


 なんてことだ。時間を無駄にしてしまった。


 これでエロ奴隷計画が少し遠ざかってしまった。


 ガチャッ。


「もう起きてたんだ」


「凛か。おはよう」


扉を開けて入ってきた凛に朝の挨拶をする。


「おはようじゃないわよ。早くお弁当作ってよね」


 なっ、気絶させたやつの言う台詞かよ。


「奏が悪いんでしょ!」


「人の心を勝手に読むなっ!」


 我が妹ながら恐ろしいやつだぜ。


「なに言ってんの。台本に書いてあるんだからわかるに決まってんじゃない」


「またその話!?」


「そろそろ結衣の出番のはずよ」


 ガチャッ!


「おはよー、お兄ちゃんラブー」


 うわっ、本当に来た。


「ほらね」


 凛はなぜか勝ち誇った様な顔で、俺を見下ろしてきた。


 いや、正確には見下ろせてないけど。


「なぁ、結衣。俺たちの日常に台本なんてものは無いよな?」


 どうしても気になって訊いてみた。


「え──っ!? あ、あああ当たり前だよー、お兄ちゃん」


 む、なんでそこで苦笑いなんだ。


「次はお姉ちゃんよ」


 ガチャ。


「おはよう奏君」


「うわっ、また来た」


「違うよ奏君。そこは、おはようって言ってキスするところだよ」


「なんで姉弟でキスするんだよ!」


 なんなんだ今日は。


 朝から俺の部屋に全員集合するなんて。


「だって台本にはおはようのキスって書いてあるもん」


「「書いてないっ!」」


 息がぴったりだな。


 いやいや、関心するところじゃないな。


「書いてないってどういうことだよ」


 俺は3人をジト眼で見る。


「だからさっきから台本って言ってるじゃない」


「り、凛っ! それは言っちゃいけない決まりなんだよっ」


「そうよ凛」


「お姉ちゃんには言われたくない!」


 怪し過ぎる。


「台本を見せて──」


「「「ないっ!」」」


「ッ!?」


 なんかこれ以上訊けない雰囲気だな。


「わ、わかった。今日はもう訊かないことにするよ」


 凛達は、ほっと胸を撫で下ろした。


 まぁ凛は撫でおろす胸が無いんだけど。


「なにか言った?」


「な、なんでもありません」


 す、すごい殺気だ。


 凛に胸関係は禁句だな。


「そ、そうだ。弁当作らなきゃ」


「話を逸らしたな」


 うっ、凛の視線が痛い。


「結衣も手伝うよ、お兄ちゃん」


 抱きつきながら笑顔で言ってくる結衣。


 やっぱり可愛いなぁ。


 この前の結衣が嘘みたいだ。


「結衣が手伝うならワタシも手伝うよ」


「「それはだめっ!」」


 さすが双子、息がぴったりだな。


 確かにあや姉には作らせられない……。


「俺達だけで大丈夫だよ、あや姉」


「そう? 奏君がそう言うなら」


 ホッ、と俺は胸を撫で下ろした。


 俺だけじゃなくて結衣と凛もだけど。


 まぁ凛はその撫で下ろす──


「同じネタをやらない!」


「はいっ!」


 つい返事をしてしまった。


 人の心を読むなんてずるいだろ。


「じゃ、行こうか結衣」


「うんっ」


 にこにこと微笑む結衣と一緒にキッチンへ行き、2人で弁当を作り始めた。


 その間に凛は朝食のトーストを焼いてくれている。


 あや姉はというと──座っていた。


 弟と妹が準備をしているなかで、姉1人がリビングで座っているなんて……シュールだ。


 まぁ、いつもの光景なんだけどね。


 あや姉に料理関係のことをさせるわけにはいかないからな。


 弁当も作り終え、朝食を食べるために椅子に座った。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


 うん、平和だ。


 こんな平和な光景が、台本だなんてあるわけがない。


 俺は朝食のトーストを食べ終え、部屋に戻り学校へ行く支度をする。


「よし、支度終わり」


 玄関で靴を履いているとみんなも来た。


「それじゃ行きましょうか、奏くん」


 外に出て玄関に鍵を閉めると──


「お兄ちゃんの隣は結衣なんだからね」


「ちょ、押さないでよ結衣」


「たまにはワタシも隣がいいなぁ」


「…………」


「…………」


「…………」


「「「はぁー」」」


「台本通りにっていうのはやっぱり疲れるね」


「結衣ってこんなにお兄ちゃん大好きっ子だったっけ?」


「結衣はまだいい方だよ。ワタシなんてあまり出ないから、キャラがまだ安定してないもん」


「「「はぁー」」」


「そういうことを言っていいんですか!?」


 あまりにもひどい内容だったからツッコんでしまった。


「お兄ちゃんの言う通りだよね。こんなこと言ったってどうしようもないもんね。結衣がんばる!」


「なんかネガティブ感が否めないんですけど」


「ワタシもがんばるよ」


「あ、あたしはがんばる気なんてないんだからねっ!」


 ……これでいいんだろうか。







「はよーかなで」


「おはよう」


 教室の扉を開けると俺の親友、七瀬蓮が待っていた。


「なあなあ、昨日はどういうことだ?」


「どういうことってなにが?」


「とぼけるなよ。西園寺だよ、西園寺」


「西園寺がどうかしたか?」


「どうかしたかじゃねえよ! あの西園寺から話し掛けたんだぞ!」


 あの西園寺? ……あー、そういうことか。


 西園寺愛莉──学級委員長。


 西園寺は自分から人と話さない。


 というより、授業中以外は先生以外と誰とも話をしないのだ。


 あの容姿に成績の良さ、それに大人びた雰囲気だから1年生の時からモテたらしい。なんでも学校一のイケメンからも告白されたとか。まあそれは本当かどうか解らないのだけれど。


 だけど誰に告白されても断り続けているらしい。いや、断るというより、無視をしているらしい。


「で、何を話したんだ!?」


「何って、テストで勝負をしようって言われただけだよ」


「それだけ!? 本当にそれだけか?」


「あぁ」


「なんだ。俺はてっきり付き合ってるのかと思ったぜ」


 俺と西園寺が付き合う?


 ────それだ!


 テストで勝ったら付き合ってもらえばいいんだ。そしたら奴隷になるのもなってもらうのも、どっちもできる。


「近いうちにそうなるかもな」


「はっ!? それはいったい──」


「秘密だ」


「おいっ」


 俺は蓮の叫び声を無視して自分の席に着いた。


「奏お兄ちゃんおはよう☆」


 相変わらずるみかちゃんは今日も可愛いな。


「おはよう、るみかちゃん」


 挨拶を返すと、ホームルームの始まりを告げる鐘が鳴った。


「はーい、みなさん席に着いてくださーい」







「はぁー、やっと今日も終わった」


 俺は一日の疲れを吐き出すように深いため息を吐いた。


「奏お兄ちゃん、昨日はバイトで無理だったけど今日も勉強を教えてもらってもいいかな?」


「いいよ。じゃあ俺の家でする?」


「あの、今日は……るみかの、お家でも……いいかな?」


 な、なんですと!?


 フラグきたぁぁぁぁぁああああぁぁーっ!!


「も、ももももちろんいいよ!」


「ホント? よかったぁー……」


 頬を赤く染めてホッとしたような表情をするるみかちゃんの笑顔は、まるでひまわりの様だった。


「じゃあ案内するね」


「あ、ああ」


 俺とるみかちゃんは昇降口を出て、彼女の案内で家まで連れて行かれる。


 るみかちゃんの家は学校から15分ほど歩いたところにあるアパートだった。


 205号──ここがるみかちゃんの部屋か。


 3階建の2階の角部屋。


「入って入ってぇー」


「お、おじゃまします」


 兄妹以外のリアル女子の部屋に入るなんて初めてだ。


 エロゲなら数えきれないくらい入っているのにな。


 やっぱりリアルは緊張するぜ。


「適当に座って待っててねぇー。今着替えてくるから」


 るみかちゃんは隣の部屋へと入って行った。


 どうやらこの部屋は2LDKの様だ。


 俺はるみかちゃんを待っている間、勉強道具を出し準備をして待っていることにした。


「お待たせぇーだよ、奏お兄ちゃん」


 おぉー、これがるみかちゃんの私服か。


 可愛いなぁ。


 白を基調としたチュニックに、ショートパンツをはいている。


「そ、そんなに見られると……恥ずかしいよ、奏お兄ちゃん」


「ご、ごめん」


「…………」


「…………」


 き、気まずい。


 この沈黙は非常に気まずいぞ。


 なんとかしてこの雰囲気を打開しなくては。


「べ、勉強を始めようぜ」


「う、うん」


 るみかちゃんはちょこんと俺の隣に座った。


 ち、ちけぇー。


 腕と腕が触れそうなほど近いぞこれは。


 こ、これは触ってもいいのだろうか。


 るみかちゃんの手に俺の手をゆっくりと近づけていく。


 あと少し、あと少しだ。


「こ、紅茶入れてくるね」


「はいっ!」


 びっくりしたぁー。


 いかんいかん。何を考えているんだ俺は。


 勉強をしに来たんじゃないか。


 決して邪な気持ちで来たわけじゃないんだ。


 ブー、ブー、ブー。


 電話? 誰からだろ。


 着信中──結衣。


 結衣か。何の用だろ。


「もしもし、結衣か?」


『今どこにいるのお兄ちゃんっ? 教室に迎えに行ってもいないし、先に帰っちゃった? だったら今から行くからちょっと待ってて』


「あー今は──」


「紅茶入れてきたよ。あれ、電話?」


『お兄ちゃん今どこ! なんでるみかさんの声がしたの!?』


「実は今、るみかちゃんの家に──」


『結衣もいくぅぅぅうううぅぅっ!』


 耳がぁぁぁああぁぁ!?


「きょ、今日はるみかちゃんと勉強してから帰るから、悪いけど先に帰っててくれ」


『いぃぃやぁぁー! るみかさんなんかにお兄ちゃんは渡さないぃぃいぃー!』


 ブツッ。


 途中で切っちゃったけど大丈夫だよな?


「結衣ちゃんなにか叫んでたみたいだけど、大丈夫?」


「大丈夫大丈夫……のはず」


 本当に大丈夫なのだろうか……。


 まあ、どうにかなるか。


「そろそろ始めよっか」


「そうだな。じゃあ、まずは日本史から」


 途中るみかちゃんが焼いていたクッキーを食べたりしながらも、テスト勉強に励んだ。


 そうやって勉強を始めてから一時間程が過ぎる。


「るみか日本史苦手だなぁ。奏お兄ちゃんは得意なの?」


「得意ってほどでもないけど、日本史とか暗記系のものは、ただ覚えればいいだけだしな」


「えっ、その覚えるのが大変なんだよぉ?」


「そうか? 教科書丸暗記すればいいじゃん」


「もしかして、奏お兄ちゃんって優秀だったりするの……かな?」


「俺なんて全然だよ。最後にやったテストの順位なんて真ん中くらいだったし」


 まあ最高順位は西園寺の話だとトップみたいだけどな。


「そっかぁー。じゃあ今回こんなに勉強してるんだし、順位が上がるといいね☆」


 上がる程度じゃだめなんだよ、るみかちゃん。


 今回は絶対にトップにならなきゃいけないんだ!


 じゃなきゃ社会的に消されちまう。


 そうだ! ここで宣言しよう!


 人に言っておけば絶対にやらなきゃいけないしな。


「るみかちゃん、俺絶対に1位になる!」


「そ、そっか。がんばってね、奏お兄ちゃん☆」


 よっしゃーやるぞぉーっ!


 俺たちは駄弁りを止め、それぞれの勉強に移った。


 最初に期待していたような事はなにも起きずに、その日の勉強会は終了した。悲しいことに本当になにも起きずに……。


「今日はわざわざありがとね、奏お兄ちゃん」


「また誘ってよ」


「誘っても……いいの?」


「あ、当たり前だよ」


 恥ずかしがるるみかちゃんも可愛いな。


「じゃあ、またよろしくね」


「じゃ、また明日学校で」


「おやすみなさい」


 俺はおやすみと告げると帰路へとついた。







「遅ぉぉおおぃぃい!」


「ゆ、結衣!?」


 家に着き玄関を開けると、仁王立ちの結衣が待っていた。


「お兄ちゃん! 結衣さんはとっても心配したんだよっ!」


「ご、ごめん」


 結衣の迫力があまりにも凄過ぎて、俺は頭を下げていた。


 我ながら情けない姿だな。妹に頭を下げて謝る兄なんてさ。


「結衣さんは本当にお兄ちゃんがるみかさんに寝とられたかと思ったんだよ!」


「どこでそんな言葉を覚えたんだ!?」


 お兄ちゃんは悲しいぞ。


 結衣は純粋無垢な子だと思っていたのに……。


「お兄ちゃん、いったいるみかさんのお家で何をしてたのかな?」


「勉強だけだよ」


「嘘だよ! 結衣知ってるもん。お兄ちゃんはえっちぃゲームが好きなんだってことくらい。だから女の子のお家に行って、何もしないで帰ってくるなんてありえないんだよ! 何もしないのは相当な甲斐性無しさんだけなんだよ!」


 うわぁー、酷い言われようだなぁ、俺。


「結衣、本当に何もなかったんだって。信じてくれ」


「むむむぅーー」


 結衣は何かを探る様に、俺の眼をまっすぐに見つめてきた。


「……ぽっ」


「……わかった。信じるよ、お兄ちゃん」


照れるだけでいいんだ……。


「ありがとな、結衣」


 結衣の頭を撫でようと手を伸ばすと、


「ただし!」


 結衣にビシッと人差し指を突き付けられ、伸ばしかけた手を驚いて止めた。


「結衣にも勉強教えてね」


「あ、ああ」


 止めた手を伸ばし、結衣の頭を撫でる。


 ふにゃ~と、気の抜けた様な声を出した結衣の表情はいつもの顔に戻っていた。







 テストが終わってから3日。


 俺の返却されたテストの合計点は……。


「はぁー。これじゃ西園寺には勝てないよなぁ」


 俺は深い深いため息をついていた。


 だって負けたら社会的に消されるんだぜ?


 そりゃため息もつきたくもなるよ。


「あらあら、これはこれは。誰かと思ったら、なんだ、藤森くんじゃないの」


 俺が机に突っ伏していると、西園寺が話し掛けてきた。


「……俺を誰だと思ったんだよ」


 顔を上げ、西園寺を見る。


「──犬の糞」


「人ですらない!?」


「まぁ、冗談はこれくらいにして」


「冗談には聞こえなかったんだけど……」


「ところで、テストの結果はどうだったのかしら、藤森くん」


 俺は嘆息してから──


「498点」


「……あの、耳が悪いのかしら、もう一度言いなさい」


 なぜ命令口調!?


「だから、498点」


 西園寺は何か思案顔をしてから、


「藤森くん、ちょっと私に付いてきなさい」


「? べつにいいけど」


 俺は連れて行かれるがままに、西園寺の後に付いて行った。


 この方向はどうやら掲示板に向かっているらしい。


「──ッ。藤森くん、どうやら本当だったようね」


「嘘をついてどうすんだよ」


「いえ、あの……」


 ん? 西園寺の様子がおかしい。


 俺は気になって西園寺の隣まで行き、掲示板を見た。


 うわっ! 西園寺のやつ2位かよ。トップは獲れなかったみたいだけど、さすがだな。


 やっぱり負けたか……。


 俺が498点ってことは、上に西園寺ともう1人いてもおかしくないもんな。


「藤森くん」


 ビシッ! と俺に指をさす西園寺。


「は、はいッ」


「いきがって勝負を挑んだくせに、その勝負に負けてしまった哀れな女に早く命令をするといいわ」


 ……は?


 俺は掲示板で西園寺の結果を見直した。西園寺は2位で点数は──497点。


 ──え?


 俺は498点だから……俺が勝った!?


 俺はそのまま自分の名前を探す。


 名前はすぐに見つかった。


「俺が……1位!?」


「なにをそんなに驚いているのかしら。私に勝ったんだから、当たり前じゃない。それより、その腐りきった汚らわしい野心を早く言いなさいな」


「お、おう」


 よ、よし、言ってやる!


 俺のエロ奴隷になってくださいって言ってやるんだ!


 だけど他にもっといい命令があるかもしれない。


 そうだ! 前に蓮と、西園寺が彼女とかって話をしてたじゃないか。


 そうだよ。彼女になってもらえばなんでもできる。


 ……だけど、それで本当にいいのか?


 俺はどうすれば……。


 1・エロ奴隷

 2・彼女

 3・……


「──西園寺」


「なにかしら」


「…………」


「な・に・か・し・ら」


 目が怒ってらっしゃる。


「やっぱり──無しにしようぜ」


「はい?」


「だからさ、命令とかそういうの、やっぱり無しにしようぜ。消えるのは阻止できたわけだし、それでいいよ」


 うん、これでいいんだ。


 俺にも西園寺にもなにも起きなくて。


「私がよくないわ」


「は?」


「私の気がすまないのよ。藤森くんが決めないのなら、私が勝手に決めさせてもらうわ」


「な、なんだよそれ! だったら俺が決める」


「それはできないわ」


「なんですと!?」


「そうね……藤森くんには、私のお友達になってもらおうかしら。ふふっ、これから楽しみだわ、藤森くん」


「え──っ!?」


 それはどういった関係の……はっ! いじめたりいじめられたりする関係ですね!?


 そうだといいが、そうじゃないとしたら……。


 俺はこれから一体どうなるんだ……。

登場キャラクター紹介


クラスメイト

・西園寺愛莉(学級委員長)

165cm B88(Fカップ) W58 H84


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ