球技大会4
抱き付かれながら結衣と一緒に試合を観戦し、試合にも2回戦3回戦と勝ち上がり、残すは明日の準決勝・決勝戦となった。
準決勝戦で負けても3位決定戦があるので、明日は結局2試合あるというわけだ。
準決勝戦まで勝ち上がったクラスのチームには、うちのクラス以外3クラスにそれぞれバスケ部がいる。
しかも、3年生のチームのバスケ部は既に引退しているから、人数無制限で出場できる。
ちなみに、現役バスケ部は1チーム2名までだ。
──そして現在自宅までの帰路。
「お兄ちゃんッ、お疲れ様だよ!」
学校でもそうなので、当然の如く自宅までの道程でも結衣は俺の腕に抱き付いている。
そんな結衣が俺を見上げながら言った。
俺は結衣の頭を撫でながら言う。
「結衣もおつかれ──凛もあや姉もおつかれさま」
「べ、べつに疲れてなんかないんだからね! ──初戦で負けちゃったし……」
「あはは……。あや姉も実行委員疲れたでしょ?」
あや姉は試合には参加せず、球技大会実行委員のクラス代表として、裏方に徹していたのだ。
まぁ、あや姉のクラスにはあの生徒会長──桜璃緒先輩がいるから、確実にバレーで1位を獲れるだろうし、あや姉が出るまでもないしな。
「そんなことはないよ。奏君の方が3回戦も試合して疲れたでしょ?」
そこであや姉は何か閃いたのか、手をパンと叩いた。
「そうだ! お家に帰ったら奏君にマッサージしてあげるよ」
「なんですと!?」
「ずっる~い! 結衣もマッサージする!」
「あ、あたしもしてあげてもいいけど?」
「結衣たちも!?」
「……せっかく久し振りに奏君を独り占めできると思ったのに」
「なんか言った、あや姉?」
「えっ!? な、なんでもないよ!?」
あや姉は両手をブンブンと振り、否定した。
「そっか」
そうこう会話をしていると、自宅に着く。
各々自室へ着替えに行き、再びリビングに集まる。
「それじゃあ奏君、そこで横になって」
「わ、わかった」
あや姉がソファーを指示したので、俺は若干緊張しながらソファーにうつ伏せに寝転んだ。
「それじゃあ始めるよ──ちょっと失礼します」
「え、失礼しますって──ちょ、あや姉!?」
あや姉がいきなり俺の尻の辺りに乗ってきた。
「な、なにか変かな?」
「変かなって……わざわざ乗る必要あるの?」
「じゃないと腰とかマッサージし難いんだもん──だから、し、仕方ないんだよっ」
「仕方ないんだ」
「そ、そう。仕方ないの」
「じゃあ……」
「……うん」
「…………」
「…………」
なぜか冷たい視線を4つ──2人分感じるんだけど勘違いかな?
いや、勘違いではないな。
俺はそろそろと顔を動かし、視線の方を向く。
「ひ──っ!?」
予想通りと言うかそれしかないと言うか、結衣と凛の冷え切った眼だった。
「……お兄ちゃん、お姉ちゃんとイチャイチャしすぎだよ」
「あ、あたしはそんなこと全然気にしてないけど、なんかムカつく」
思いっ切り気にしてるじゃん!
それにいつもの照れ隠しのような言い方と違って、声まで冷え切ってるし……。
結衣は結衣で冷え切った眼の笑顔だし、なんか怖いよ。
「結衣! 凛! 2人もマッサージしてくれるんだよな!? お、お願いするよ!!」
俺は今の状態を打開するため、必死に頼んだ。
「……まぁ、いいけど」
「そ、そんなに頼むなら、結衣さんもやってあげるけど……」
俺の土下座改め土下寝(あや姉に乗られているから、強制的にうつ伏せなだけだけど)が功を奏したのか、氷点下のような冷え切っていた眼だった結衣と凛の2人は、どうやら許してくれたようだ。
「背中はお姉ちゃんに取られちゃったから、あたしは脚をしてあげるわ」
「じゃあ結衣さんは手だね」
そう言うと結衣は手の横に座り、凛は俺の両足の間に座った。
「な、なんで凛までソファーに座って結衣ばっかりカーペットなの! 納得いかないな! 結衣さん納得いかないな!」
「そ、そんなこと言ったってしょうがないじゃない! ──カーペットに座ってやろうとすれば、ソファーの高さ分、あたしが膝立ちでもしなきゃいけないから疲れるし」
「むーっ。なら結衣さんも考えがあるんだから!」
そう言った結衣は立ち上がり──って、え!?
「ゆ、結衣!? なにしてんの!?」
「なにって膝枕にきまってるんだよ」
そんな当たり前みたいに言われても困るんだが。
たしかに膝枕なのかもしれないけどさ……。俺はうつ伏せで寝ていたわけで、そのまま膝枕をされたわけで、つまり結衣の太ももに顔を埋めている状態というわけか!
どうりで視界が真っ暗になったわけだ。
あまりに手際よく突然の出来事だったから、わからなかったぜ。
それにしてもこの感触──ヤベエッ!
あや姉と凛とは違って、結衣だけはショートパンツ丈みたいに短い部屋着を穿いてたし、それに生足。
つまり俺の顔は結衣の生足、それも太ももに埋まってるという、なんとも嬉し恥ずかしいありえないシチュエーションに、期せずしてなってしまったってわけだ。
「ひゃっ!? お、お兄ちゃん、あまり動かないで、くすぐったいよぉ……」
やべぇ……!!
結衣の顔を全く見れない状態なのに、声だけでめちゃくちゃ興奮する!
否、見えないからこそ普段以上に興奮してしまうのか。
想像力──いや、ここは素直に妄想力と言おう。それによって、今の俺は自由自在に結衣の表情を描ける。
妄想での理想の結衣の表情に、生の声。
これは最強で最高の技を手に入れてしまった!
まるで某有名RPGのアイテム「キュウソネコカミ」を手に入れた時の気分だぜ。
「それじゃあお兄ちゃん、始めるね」
「お、おう」
そう言われると、俺の手を取られ指圧がかかる。
視界が真っ暗だから、なんかいつもより敏感になってしまう。
自然意識もそこに集中する。
これはなんかいろいろとやばいぞ。いろいろと。
「……最初にポジション取ったはずなのに」
「なんか満塁逆転ホームランを打たれた気分……」
「「はぁ~」」
あや姉と凛が何か呟き、溜息を吐いたような気がしたけど、今の俺にはそんなことはどうでもいいや。
「じゃあワタシも始めるね」
「…………」
あや姉は一声かけてからマッサージを始めてくれたけど、凛は無言でいきなり始める。
しかも心なしか、凛はわざと強めに押してる気がする。
う~ん……なんでだ?
俺は原因にまったく心当たりがないので、考えるのを止め、マッサージに意識を集中した。
いや、マッサージにではなくて、結衣の感触にだな。
いやぁーだってもう最高ですよ!
結衣のプニプニと柔らかくてふかふかな太股に、俺の顔は挟まってるわけですよ。
ここまでしてもらえるということは、ギャルゲーならもう結衣は攻略したも同然だろ!
――それに対して、1番攻略に遠いのは凛かな。
だってマッサージが結衣とは比べものになら――ん? お? おお!?
う、うまい!
今まで結衣の太股にばかり意識を集中していて気づかなかったけど、凛のマッサージはうまい具合にツボにはいってきて気持ちがいい。
結衣とは別な意味で気持ちがいいぞこれは!
最初はあんなに力まかせに適当に押してるって感じだったのに、今はちゃんとマッサージをしてくれてる。
案外、凛も攻略に近いんじゃないか?
――いやいや、実の妹2人を攻略しようとなんて思ってないけどさ。
…………。
ホントに思ってないんだからね!
「――凛、そこ……気持ちいい……」
俺は凛のマッサージが気持ち良くて緩みきった顔で――結衣の太股も原因の1つだが――そう呟いた。
「ひゃぁっ!? お兄ちゃん、いきなり喋らないで」
いきなり喋るなと言われても困るんだが。
喋るために「喋るぞ」と言うのも、いきなり喋ることになるしな。
息でも吹き掛ければいいのか?
いやそれでも困るぞ!
鼻でフンフンと興奮気味に吹き掛ければいいのか、口でハァハァと興奮気味に吐き掛ければいいのかわからない。
お兄ちゃんにどうして欲しいんだ、結衣!
「い、いきなり変な声で変なこと言ってんじゃないわよ!」
俺が思考回路を加速させ、通常の1000倍の世界でそんなことを考えていると、凛が慌てた様に叫んできた。
せっかく褒めてやったんだから、少しは嬉しそうにすればいいのに。
可愛いげのない妹だな、まったく。
――まあ可愛いいんですけどね!
と言っても、今の俺は視界を塞がれている状態なので、たとえ嬉しそうにしていたところでその顔を見ることはできないんだけどね。
んー、残念だ。
いやでもこの状態は止めたくないから我慢しよう。
ここは我慢の子だぞ!
我慢の子になった俺は、結衣のプニプニの太股と凛の見事にツボをつくマッサージで妥協した。
――ってそれだけで十分過ぎるだろ! と、自分で自分にツッコミをいれてみたりもしようかなと思ったけど、ツッコミをいれることも我慢してみた。
と、ここで俺は一旦頭の中を整理してみることにした。
美少女の妹の太股の間に顔を埋め、その妹の声で邪なことを考え、これまた美少女の妹に見事なマッサージを脚にしてもらい、これまた邪な感情を抱いている兄がいた。
…………変態じゃねえかっ!!
見事なまでに変態じゃねえかよっ!
――はっ!? 忘れていた!
さらに俺の尻の上にはあや姉がいるんだった!
あまりに柔らかく気持ち良いから忘れていたぜ。
こうして尻の上にあや姉が座っていることを改めて実感すると──やべぇ……!
3姉妹の中でもっともナイスバディーな身体を持つあや姉の尻は──いや美尻は、手で触っているわけでもないのに形、弾力性、柔らかさ、どれをとっても最高レベルだということがわかる。
そんなあや姉の美尻を、たとえ尻の上からでも味わえるというのは、もしかしたら結衣の太腿を味わうことよりも、凛に超絶テクのマッサージをしてもらうことよりも幸せで、貴重な体験なのかもしれない。
──うっ!?
「…………?」
よ、よかった。あや姉に気づかれてはいないようだな。
でもこのままじゃあ……。
「──きゃぁっ!? そ、奏君!? なんかお尻の下がモゾモゾ動いてるんだけど?」
さすがにこんだけ動けば、いくらあや姉でもわかるよな。
な、なにか良い言い訳を──
「あ、あや姉──」
「ひゃぁっ!? お兄ちゃん、くすぐったいよぉ……──い、いいよ、話しても。結衣さん我慢するから」
俺は胸中で結衣にお礼の言葉を言い、話しを再開した。
「あや姉、悪いんだけどちょっと退いてくれないかな」
「え? うん、わかったよ」
あや姉は恐らく頷き、「よいしょ」という掛け声と共に俺の尻の上から降りた。
気持ち良すぎる重りから解放された俺は、数十分振りに身体を起こした。──前屈みになりながら。
その不自然な体勢の俺を、同じくソファーから降りた結衣と凛は首を傾げて見ている。
「あや姉、結衣、凛──悪いんだけどちょっと目を閉じてくれないかな」
「えっ──うん、わかった」
「お兄ちゃんがそう言うなら……」
「し、しょうがないわね」
あや姉、結衣、凛はそれぞれ僅かに訝しみながらも素直に目を閉じてくれた。
この隙に──
バタンッ!
俺はリビングから緊急離脱し、すぐさま自室へと駆け込んだ。
「ふーっ……もう少しで俺の息子が大変なことになるところだったぜ」
俺は額の冷や汗を腕で拭いつつ、ベッドに腰を掛ける。
俺は自分の息子の様子を確認すると、どうにか沈静化するまでこのまま大人しくしていることにした。
すると突然、コンコンというノック音が響く。
俺が突然リビングからいなくなったから、誰か様子でも見に来たのかな?
っとと、このままじゃやばいな。
俺は慌てて布団に潜り込み、返事をする。
「入っていいよ」
「……お邪魔します」
俺は様子を見に来るほどだから、てっきり結衣だと思っていたけど、意外なことに凛だった。
俺はいかにも今まで寝てましたと言わんばかりに半身を起こした。
まぁ、冷静に考えるとついさっきまで一緒にいたんだから、おかしいんだけどさ……。
そんなことは気にした風もなく、凛はベッドまで近寄ってきた。