球技大会
3日間かけて行われた期末テストも無事終わり、あとは結果が返ってくるのを待つだけだ。
そしていよいよお待ちかねの──
「みなさーん、期末テストも終わり、いよいよ明日は球技大会ですよーッ!」
「やったー!」「待ってたぜー!」
担任のみっちゃんが、いよいよ明日が球技大会だということを告げると、クラスのみんなの喜びの声で教室内がどよめいた。
うちの学校の球技大会は、2日間にわけて行われるわけで、初日の明日は各競技の準々決勝までで、つまり2日目が準決勝から行われるんだ。
男子はバスケットボールにソフトボール、バレーボールと、そして最後にサッカーの4種目がある。
女子はバレーボールにバドミントン、そしてテニスの3種目。
女子の種目はなぜかネットを使う球技のものばかりだ。まぁ、恐らく理由は身体を接触させないようにだろう。だって、ねぇ? 女子って白熱すると、男子より激しくなって後々怖いじゃん。
ちなみに俺はバスケの選手に選ばれた。というより、蓮のやつに無理やり俺までバスケにされた。
俺は本当は楽がしたいから、人数の多いソフトやサッカーがよかったんだけど。だから、蓮のやつに問い質したら「お前がいなきゃ勝ち目がないだろ!」だそうだ。
別に俺、バスケ部でもなんでもないんだけど……。
──ということがテストが終わってからあったわけで、本日、待ちに待った球技大会初日です!
「みなさん、着替えた人から体育館に行って整列していてくださーい!」
男子は教室、女子は女子更衣室に行き、各自着替え始める。そして、着替えを終えた俺と蓮は体育館に向かった。
「やっほー! お兄ちゃんッ」
「……」
「よぉ、結衣と凛」
体育館に向かっていた途中、偶然にばったりと廊下でニコニコと笑顔の結衣と、無言で少し頬を朱に染めている凛たちに出会った。
俺はそんな2人に片手をあげ応える。
「なんか久し振りだね、結衣ちゃんに凛ちゃん」
「お久しぶりです」
「……どうも」
蓮が結衣たちに声を掛けると、結衣は軽くニコッと笑顔で応え、凛は余所余所しくあいさつをした。
結衣はあーいう性格だから、誰とでもすぐ仲良くなれるし、人にあまり嫌な顔をしない。だけど、凛の方はその逆で、時間をかけなきゃなかなか仲良くなれないし、自分から仲良くしようともしない。
まったく、ちょっとは結衣を見習ってほしいよ。マジで。
「そういえば、蓮さんはお兄ちゃんと同じバスケなんですよね? がんばってくださいねッ」
結衣は両手を胸の前で軽くギュッと握り、がんばって、という仕草をした。
「──!? が、がんばるよ結衣ちゃん! うおぉぉぉッ! 燃えてきたぜかなでーッ!」
「……」
俺が隣でやたらとテンションが高くなっている蓮を、ジト目で見ていると、
──ギュッ。
「お兄ちゃんもがんばってね、応援に行くから」
結衣が突然、俺の腕に抱き付いてきて、隣にいる蓮に聞こえない様に俺の耳元まで背伸びをして──身長差があるから背伸びをしても耳元まで届かないのだが──ひそひそと言ってきた。
ただ抱き付くだけじゃなく、耳元に届くために背伸びをすることによって、さらに押し付けてくる胸が俺の肘に当たってもうお兄ちゃんのお兄ちゃんが必要以上にがんばって大変なことになりそうです!
俺はそんな妹に抱いてはいけない邪な感情を必死に抑え、なるべく平静を装い、
「お、おう」
結衣の頭を撫でた。
それで満足したのか、結衣は俺の腕から離れ「行こ、凛」と言い体育館に向かって行った。
そして、そんな結衣を後から追う形になった凛は、俺の脚をペシッと軽く蹴って去って行った。
「なんだったんだ……?」
「みんな、ついに1学期最大にして最後のイベント、球技大会よ! 思う存分に暴れなさい! そしてお姉さんを楽しませて頂戴。──ここに生徒会長の権限で球技大会開催を宣言します!」
一気に体育館内は「わぁぁぁッ!」という歓声でどよめき溢れ、空気を揺らした。
今、開催宣言をしたのは我が校の生徒会長──桜璃緒先輩だ。
あや姉と並ぶ学年、いや学校1の学力を持ち、あや姉の苦手とする家庭科などを含む全教科では満点のトップ。つまり首席。
まあそれでも、苦手な家庭科を含む全教科ではあや姉も2位なんだからすごいと思うけど。
そして、これまたあや姉に勝るとも劣らないプロポーションの持ち主でもある。会長が去年転校してくるまではあや姉が1番だと思うんだけど、会長がいる今ではそこもあや姉は2位だ。
え? なにかってそりゃ胸に決まっているだろ。
モデル顔負けのスラリとした体躯に、これでもかといわんばかりに激しく主張する胸。そして整った目鼻立ちで瞳は碧眼。髪は淡い青みがかった銀髪で、ゆるいウェーブのロングヘアだ。
みんなはそんな会長の体型を『我がままボディー』と呼ぶ。
そしてそんな見た目とは裏腹にかなりのドS。その性格と授業中にかける眼鏡が合わさった普段とのギャップにやられ、学校にはファンクラブがあるとかないとか。
会長がステージから下りると、球技大会執行部が第1試合の場所とクラスを告げ、それに審判を任されている生徒に招集をかけ、解散となった。
俺たちの試合は第3試合目か。
まだ試合には時間があるし、ちょっと他を見に行ってみるか。
たしか結衣たちのバレーが、第1試合目からだったはず。
バレーということは第2体育館だよな。
第2体育館といっても、大きさは第1体育館とそう変わらず、体育の授業では主に女子が使う体育館だ。
今、第2体育館ではバレーとバドミントンの第1試合がもうすぐ行われるはずだ。
ちなみに第1体育館では、バスケとバレーの第1試合が開始するところだ。
第1試合はどの競技も9時丁度に開始する。つまり、開始時刻は合わせるってことだな。その後は各競技の進行具合によって変わるわけだから、放送で招集がかかる。
第2体育館に着くと、今まさに開始したところだった。
「ここじゃちょっと見辛いな」
俺が入った入口からだと、手前のコートでバドミントンの試合をしていて、その観客のせいもあって、奥のコートで試合をしている結衣たちの試合が見えない。
仕方ない、回り込んで向こうの入り口から入るか。
俺は一旦体育館から出て、回り込み結衣たち側の入り口から体育館に入ると、
「うおッ!?」
結衣と凛がいるチームは10点差もつけられていた。
何をしたらこんな短時間で10点差もつくんだよ。
このバレーは2セット先取で勝ちだから、まだ逆転は可能だけどさ。
えーと、相手は……あちゃー。あの人が相手チームにいたら10点差も簡単につくか。
「会長最高ですーッ!」「もっとスパイク打って下さい!」
結衣たちの相手チームは3年生で、生徒会長の桜璃緒先輩がいた。
会長見たさにこっちのバレーのコートは、半分以上が男子が見に来ている。
でも、もっとスパイクを打ってってどういう意味だ?
俺は会長を見ると、今まさにスパイクを打つ瞬間だった。
──バシンッ! ボインッ。
なるほど、あれは是非もっとスパイクを打っていただきたい。
会長がスパイクを打つと、そのとき同時に会長の爆乳が盛大に揺れる。
これは良い眼福になったな──脳内HDに拡大保存!
おっと、いけないいけない。
俺は結衣と凛の応援に来たんだから、ちゃんと応援をしないとな。
「がんばれーッ! 結衣ッ! 凛ッ!」
俺が両手でメガホンを作り大声で叫ぶと、俺に気付いた結衣は嬉しそうに片手を大きく振り、凛は大声で名前を叫ばれたことが恥ずかしかったのか、頬を朱に染めそっぽを向いてしまった。
そしてそのまま凛はポジションに戻り、結衣はチームの子に何か言われ「怒られちゃった」という風に俺に舌をチロッと見せた。
そうこうして試合を観戦していると、結局1セット目はあっさりと取られてしまった。
1セット目が終わったので、3分間のハーフタイムになった。
ハーフタイムになると、結衣が小走りで、凛はその後を普通に歩きながら俺の下へとやってきた。
「おつかれ。まさか初戦から会長のクラスとあたるなんてな」
「ホントだよぉ……結衣さんもうクタクタ……」
──ギュッ。
「って結衣、なに自然とくっついてんの!?」
「お兄ちゃんエネルギー充電中なんだよっ!」
そう言うと、さらに結衣は俺に強く抱き付いてきた。
なんでだろう……もの凄く突き刺さる視線を感じるんだけど……。
まぁ、誰の視線か想像はついてるんだけどさ。
俺は恐る恐るその人物へと視線を向けると、
「…………」
「──!?」
視線の先には、見惚れてしまうほどの笑顔、もとい、俺にしかわからない怒りを秘めた作り笑顔の凛だった。
「なんかすんませんでしたっ!」
その顔を見た俺はなぜか、いや、必然的に凛に謝っていた。
だって恐すぎるんですもん! しょうがないじゃないッスか!
結衣に抱き付かれたままだから、頭を下げずに謝ることになった。そのせいで、凛がその笑顔のままゆっくりと、だけど確実に近付いてくる姿を見ていないといけない状況になってしまった。
恐い……恐い恐い恐いっ! 恐いよその笑顔!
なんかもう俺には口が裂けているようにも見えてきたし、凛が死刑執行人にしか見えないよ!
このままだと俺、こんな大勢の人前で死のレクイエムを奏でることになりそうだ。
そして、凛がゆっくりと俺の正面まで歩いてくると、
「ふんッ!」
「ぐはッ!!」
結衣が俺の右横から抱き付いているから、右サイドと上半身への攻撃は結衣も危ないと思ったらしく、見事なローキックを左脚に喰らってしまった。
俺は痛みに耐えきれず、ガクンと左膝をコートについてしまった。もちろん、それでも結衣はしっかりと抱き付いたままだ。
当然そうなると、俺は下から凛を見上げる体勢に嫌でもなってしまう。
くっ、残念だ。これが体操服じゃなく、制服ならスカートの中が見えそうなのに。
まぁ、妹の下着なんかを見ても仕方ないんだけどさ。
「……ずるい」
「へ?」
凛が突然そんなことを言うものだから、返事をした俺の声が裏返って変になってしまった。
よくあるよね! ね!?
「結衣ばっかり、ずるいっ」
「だ、だから、なにがずるいの?」
「あたしだって疲れてるもん」
「…………」
あー、なんだ。つまりあれだ。凛も甘えたいということか。そうかそうか。
…………って待て待て待て!
そんなはずがあるかっ!
あの凛がそんな意味のセリフを言うわけがない。
危ないところだったぜ。もう少しで凛の罠にかかるところだった。
さすが俺、ギリギリで気付くなんて天才。
「じゃあポカリでも買ってきてやるよ」
そう言い立ち上がると、結衣に抱き付かれたままなので引きずる形で自販機に向かおうと、体育館出入り口へ歩くと、
──ギュ……!
「──!? えっ、ちょ……凛……!?」
「バカ……これでいいっつーの……」
「……」
歩き出すと、背後から凛がいきなり抱き付いてきたのだ。
なんていうか……あれですね。
家でも外でも、もちろん学校でもお構いなしに甘えてくる結衣ならもう慣れたんだけど、普段なら絶対にありえない凛から抱き付いてこられると……恥ずかしい!
暫しの沈黙。
もちろん館内は騒がしいから静寂ではなく、ただの沈黙なんだけど……。その沈黙が、この場に俺達3人しかいないんじゃないかと思わせるほどに静かに思えて、俺は穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
「──2セット目を始めるので、選手の方は集まってください!」
審判の生徒が招集をかけると、あちこちで休憩をしていた選手たちがゾロゾロとコートに集まりだした。
「り、凛! 早くいってこい! ほら結衣も、早くッ」
「むーッ、そんなにお兄ちゃんは結衣さんと離れたいの!?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「……もういいもんッ。結衣さん行ってくるけど、あまり会長さんばかり見てると怒るからね!」
「あはは……」
俺は頬を膨らませて怒りながらもコートに向かう結衣に、手をヒラヒラと振り微苦笑で送った。
それよりも──
「ほら、凛。凛ももう行かないと」
「……わかった」
凛は少し渋々といった感じに俺から離れ、コートに向かった。
でもまさか、あの凛から抱き付いてくるなんて思わなかったから、俺はもう心臓が破裂しそうなほどにドクンドクンって鳴ってたよ。
なんか新鮮だったけど、あまり味わいたくないほどの緊張感だったな。
俺はその凛を見ると、なんだ? 凛のやつ、少し顔が赤いぞ。
プレイに影響がでなければいいけど。
あ、目が合った。
俺が凛に手を振ると、びくっ、と肩を震わせバッとそっぽを向いてしまった。
む、なぜ顔を逸らす。
さっきはあんなことをしてきたくせに、よくわからないやつだ。
俺は凛から結衣に視線を向けると──
あ、まだ頬膨らませてる。まださっきのこと怒ってるみたいだ……。
これは後で何かしてやらないと、機嫌を直してくれそうにないな。
「2セット目を始めます!」
──ピィィィッ!
ホイッスルの音で開始した2セット目、サーブは結衣たち1年チームからのようだな。
最初のサーブは公平にするため、交互に打つみたいだ。
そのサーブを打つのは──凛か!
おおっ、あれはジャンプサーブ! って、そんなに驚くものじゃないけど、初心者がバレーのサーブをジャンプして空中で打つのって結構難しいよな。
凛の小柄な身体からは想像が付かないほどの強烈なサーブが、相手コートに決ま──会長!?
決まると思ったその時、他の誰もが対応できなかった凛のサーブを会長がレシーブして、そのまま1回転し体勢を整えると、トスされたボールに会長がスパイクを打ち決まった。
なんで引退したバレー部の3年が拾えないサーブを、バレー部でもない会長がとれるんだよ……。
それに、見事にまた揺れたあの胸! もう見ざるを得ないよな!
ビデオカメラでも持ってくればよかった……。
相手チームのサーブは、なんというか予想通りというか……会長だ。
これはまたすぐに10点差をつけられるパターンか?
その会長のサーブは、さっきの凛よりもボールを天高く放り投げると、会長も跳び上がる。と同時に盛大に胸も揺れる! そりゃもうバインバイン! ってな。そして落ちてきたボールに、スパイク時の様な強烈な会長の一振りが炸裂!
「ありゃ弾丸サーブじゃねえか!」
そんな強烈なサーブ、バレー部でもとれやしないだろ──っておい!?
会長が打った強烈なサーブは凛がレシーブし、1人では力負けするので凛の手の下から結衣がサポートする様にレシーブをした。
しかもその動作をほぼ一瞬でするなんて、さすが双子。息ぴったりだな──としか言いようがないよな……。
そのレシーブして上がったボールを直接触れてはいない結衣がトスし、凛が強烈なバックアタックを決めた。
「やったね凛!」
そう言うと結衣は凛に近付き、手を挙げた。
その手を見た凛は迷う事なく自分も手を挙げると、
「結衣もナイス」
そう言って2人はハイタッチをした。
「ちょっとお兄ちゃん! 結衣たちのマネして1人で喋って、変な語りもいれないでよッ!」
「そうだよ奏! あたしはそんなこと、絶対に結衣となんてしないんだからね!」
「聞こえてたのか!?」
2人はコートにいるし、体育館内は応援やらで騒々しいのに。
「もちろんだよ。結衣さんはお兄ちゃんの心音だって聞こえてるんだから!」
「あ、あたしだってそれくらい聞こえてるもん! ──か、勘違いしないでよね!? そんなキモイ音、ホントは聞きたくなんかないんだからね!」
「地獄耳すぎるッ!」
本当は、地獄耳とはこういう使い方でも、意味でもない。
ピピピッ!
「そこ、試合進行の妨げですよ。2人も試合に戻って下さい」
「す、すいません」
笛を吹かれ注意をされると、俺は謝り、結衣たちもポジションに戻って行く。
点を取ったから、次は結衣たち1年生チームからのサーブ。
サーブを打つのは結衣でも凛でもない1年生だ。
さっきからあの子、なかなか良い動きをしてたんだよなぁ。
あ、いや別に俺、バレー部でも何でもないけど。
その子が今まさにサーブを打った。
そのサーブは驚くほどの速さではないものの、ジャンプサーブだった。
おー、今ので確信したけど、きっと、あの子はバレー部だな。
サーブは元バレー部だっただろう人に難なくレシーブされ、会長がトスなしでバックアタックを放ってきた。
凛のさっきのバックアタックが悔しかったのか、難しいバックアタックを2タッチで打ってきたもんな。
さすが会長、胸のようにプライドまでも高い。
会長の2タッチでのバックアタックは、さすがの凛たちでも反応が出来ず点を取られてしまった。
登場キャラクター紹介
・桜璃緒(生徒会長)
162cm B92(G) W59 H85