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彼岸花の様な彼女と共に…

これにて完結、ここまで読んで頂きありがとうございます。(=゜ω゜)ノ

 夏休みがもう間もなく終わろうとしている、とある夏の日。

 朝日が部屋へと差し込む明け方頃、1人の男がパソコンと向かい合っていた。


「はあぁ……やっと書き終わったな…」

 そう言ってつい先ほどまで、自分がパソコンに向かいながらひたすらキーボードで打っていた文書に誤字脱字がないかを確認していた。

 

「にしても、何だってあいつは急に『生徒会役員は小さい頃の自分の思い出を原稿で書いてくるように』何て言い出したんだか…」

 その男-逆馬(さかば)(とう)()-は、文句を言いながらも先程まで自らの書いていた子供の頃の出来事を思い帰すのだった。


「そういえば、あの頃はまだ言葉遣いも丁寧な方だったんだな…」

 しみじみと原稿を見返しながら、刀真は自分が普段使っている荒い言葉遣いを若干反省するのだった。


 私立櫂耀高校の3年生で副生徒会長でもある刀真は、中学生の頃にとある事故で右頬に切り傷を作ってしまったことをきっかけに、目つきの悪さとも相まって度々不良に絡まれるトラブルに巻き込まれていたため、自らは積極的に絡もうとしないものの自然と喧嘩にも強くなっていた。


 高校に進学してからは身長も180cmを超え、髪は染めてはいないものの制服を着崩し、常に相手に威圧感を与える雰囲気を纏う様になっていた。

 そんな見た目ながらも、彼は昔から努力家であり、現在では清水千紅に次ぐ学年2位の成績を誇っており、品行方正ではないものの文武両道であるとして、教師からの評価が2分する生徒であった。


 また、幼馴染で生徒会長の清水千紅とは、小さい頃から常に行動を共にしており、彼女が刀真に勉強を教えているから成績が優秀なのではないかと彼の表面しか見ていない者からは言われている。


 確かに千紅自身、子供の頃から非常に優秀で大人を軽々と上回る能力を備えていた。

 だが、彼はそんな彼女に面倒を掛けられる側の人間であり、それでも彼は彼女の傍に居続けられる様に常に努力した結果が今の彼に繋がっている。


 彼と彼女の間にある絆は、お互いが認め合い育まれたものなのである。

 

「ふう…とりあえずこれで完成だな」

 自分が書いた原稿に問題が無いことを確認した刀真は、その原稿をUSBに記録し、自分の通学用の鞄へと収納した。

 それから自室を出てから家族と共に朝食を摂り、通学の準備を一通り整えた刀真は、日課となりつつある生徒会室の掃除を行うために早めに家を出るのだった。 


 夏休みのため授業は無いものの、部活動などで学校に来る生徒がいるため、生徒会役員の者が交代で学校に仕事をしなければならず、今日は副会長である刀真と生徒会長である千紅が学校に登校の日だった。


 高校へと向かうため住宅街を抜けて商店街を通るが、家を出た時間が早かったためか同じ高校の生徒はまだ通学路を歩いておらず、仕込みのために早くから起きて来た商店街で働く従業員の人しか見かけなかった。

 そんな様子を見ながら、商店街を抜けて学校へ向かう途中にある曲がり角に入っていった。


「刀真君、おはよう!」

 すると、曲がり角を曲がったその先に見覚えのある人物が刀真を待っていた。


「おう!今日も早起きだな、()()

 刀真の目の前には、あの祭りの日の夜に初めて会った少女が立っていた。

 

 かつて会った時と比べて身長も幾分かは伸び、胸こそ成長していないものの儚げな美しさを醸し出していた。

 白雪のような肌は今では程よく日に焼けており、銀色の髪は黒く染めてあるものの髪にある光沢は以前と全く変わっていなかった。

 肩に掛かる長さの髪を赤い彼岸花型の髪留めで纏めた彼女は、出会った頃と比べてますます美しさに磨きが掛かっていた。

  そして、彼女は刀真が通う高校の制服を着ており、右肩の辺りに『風紀委員』と書かれた腕章を付けていた。


 とある出来事をきっかけに紆余曲折の末、沙華は刀真たちが通う櫂耀高校に編入し、現在では『万樹沙(まんじゅしゃ)()』という名前で刀真たちが通う学校の風紀委員を務めていたのだった。

 沙華が編入した当初は、多くの男子生徒が彼女に告白とそれに続く玉砕をしていたが、彼女は多くの生徒の前で刀真の事が好きだと告げたことで、刀真に数多くの怨嗟の声が向かったものの今ではその騒ぎも収束していた。


 それから、学校へ向かう通学路で沙華に出くわした刀真は、彼女と昨日の出来事や友人の話などの何気ない会話などをしながら学校に向かうことにした。

 刀真は彼女とこのような時間を過ごすことを、日常の楽しみの1つとしているのだった。


「そういえば、沙華も早くから学校に向かっているようだが、今日は部活動に来た生徒に風紀委員の抜き打ちチェックでもやるのか?」

「ううん、今日は特にそういうのはないよ?」

「じゃあ、何でこんなに早くに学校に向かってたんだ?」

「それはもちろん…」

 電柱のある曲がり角を曲がった辺りで、沙華が刀真の疑問に答えようとした時に"ソレ"は刀真の背中目掛けて落ちて来た。


「ぐわぁ…!?何だ…突然背中が重ぇ…!?」

「……おはよ、まーくん。ただ、女性に重いは失礼よ…?」

「やっぱり、手前か…千紅…!!何て所から落ちて来やがる!!」

「安心して、ちゃんと周囲の確認・風向き・落下時の角度計算・まーくんの行動予測計算等に抜かりはないわ…」

「とんでもねえ能力の無駄遣いの上、それを行動に移す手前の精神性が恐えーわ!?」

「…という訳で…おやす…み……すぅ…すぅ…」

「そのまま、俺の背中で寝ようとすんな!?つうか、そんなことする位なら起きろ!?」

 刀真が電柱に背を向けたタイミングを見計らったかのように、彼の背中に向けて落ちて来たのは刀真の幼馴染(・・・)で生徒会長でもある清水千紅だった。


 刀真の背中に降りた彼女は、気品のある佇まいに整った顔と身体、艶のある黒髪を肩まで伸ばした和風の美少女だった。

 常に眠たげな瞳をしているものの非常に優秀であり、男女から支持されるカリスマ性と上に立つ者としての冷徹な判断力を持ち合わせている生徒会長である。

 ただし、彼女は普段から非常に自由奔放な面があり、常人の数十倍の仕事を易々とこなす一方で、時間さえあれば常に眠って過ごすことも多かった。


 彼女は沙華が櫂耀高校に編入する際に色々と尽力した1人で、沙華の正体も知っているのだが、それ以上に彼女は幼い頃から一緒に育った幼馴染である刀真を巡って争うライバルでもあった。


「あら、刀真君の背中に大きなナマケモノがくっついているみたいね?」

 沙華が目が笑っていない笑顔のまま、刀真の背中に乗ったままの千紅に目を向けた。


「…んっ?………朝から元気そうね、狐花(きつねばな)さん」

沙華(しゃか)よ!生徒会長ともあろう人が、朝から殿方にベタベタとくっつくのはどうかと思うのだけれども?」

「…そうかしら?まーくんを小さい頃からストーカー…観察していた風紀委員のアナタが言える立場かしら、地獄花(じごくばな)さん?」

「さっきからわざと間違えているでしょ!?私の名前は沙華(しゃか)!!」

「あら…?ごめんなさいね、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)さん?」

「さっきからアナタが言っている名前は、全部彼岸花の別称でしょう!?」

 千紅の度重なる挑発に、遂に沙華は子供の様な反応した。


 刀真を挟んで言い合っている彼女たちであるが、お互いを嫌っている訳では無い。


 片方は、子供の頃から共に傍にいてくれた幼馴染に恋する優秀過ぎる生徒会長。

 もう片方は、怪異として少年を幼い頃から見守り続け、少年と共に歩こうとする人外の少女。


 お互いがお互いをライバルとして認めているからこそ、彼女たちは真正面から向かい合い、尊重することが出来ていた。


「どうしたの朝から機嫌が悪そうね?胸でも痛いの……あっ!ごめんなさい……」

「アナタ、それわざとやってるでしょ!?あからさまに私の胸と自分の胸を見比べたでしょ!?」

「どうでもいいが手前ら、そういう言い争いなら俺がいないところでやってくれねえか……?」

 

 ……多分?


 朝から非常に賑やかな出来事があったものの、一同はそのまま自分たちの通う高校へと足を進め続けるのだった。


「そういえば、千紅。手前が昨日言ってた『小さい頃の自分の思い出』を書いた原稿って何に使うんだ?」

「すぅ………うんっ?それはもちろん、まーくんとの思い出コレクショ……夏休み明けの生徒会発行の会報に載せるつもりよ」

「おおい、千紅!?本音っぽいのが漏れてんぞ!?明らかに不純な目的に使うつもりだろ!?」

「ちょっと、清水さん!?風紀委員としても見逃せない事案よ!?…とりあえず、その原稿は一度私が預かるわね」

「おい、手前もかよ沙華!?そうじゃねえだろ、つうかそんな理由だったらどっちにも渡せるか!?」

「安心して…さっき、まーくんの背中に降りたと同時に、鞄の中にあった原稿の入ったUSBは回収したから…すぅ…」

「安心出来る要素が1つもねえよ!?つうか、寝るな!?とりあえず、背中から降りて俺のUSBを返せ!!」

「…すぅ…すぅ……もう隠したわ…」

「もう、清水さん!一体に何処に隠したの!?もしかして、刀真君の背中に今もくっつけているその大きな胸の…」

手前(てめえ)ら、俺の背中で何をしてやがんだぁぁーーー!?」

 

 慌ただしい雰囲気を醸し出し、周囲の人の目を集めながらも彼らは直も歩み続けていた。

 



 あの夏の日の夜、少年は彼岸花のような美しさの彼女に出会い助けられた…。


 彼岸花は近付いて害そうとする者には毒という牙をむく一方で、見る者には儚げな美しさを魅せる花でもある…。


 また、『悲しき思い出』『悲しい思い出』という不吉な花言葉がある一方で、『また会う日を楽しみに』『想うはあなた一人』という花言葉もある不思議な花である。


 そんな花のような彼女と出会った彼の物語はこれからも続いて行くだろう…。


 もしかしたら、艱難辛苦の果てに彼は大きな決断を迫られることになるかもしれない…。


 季節はまだ暑さの残る夏、夏の日差しは彼らの行く先を厳しくも明るく照らし続けていた…。

彼ら彼女らの物語はこれからも続いて行きますが、ひとまずここで一区切り。

ちなみに今作の主人公の彼は、連載作品・放課後怪談で主人公たちとも知り合いである、副生徒会長でもある逆馬刀真君(第3夜初登場)です。


機会があれば、生徒会長である彼女の物語も掘り下げて行きたいと思ってます。


ともあれ、

和モノ夏企画作品1作目、これにて一時閉幕でございます。

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