四.真夜中の城門─転─
「やはり、なりませぬか」
「待て、今すぐ通せとはいささか無礼が過ぎるのでは。龍巳様にお伺いを立てる。暫し待たれよ」
中年の兵は、門の脇にある門守の詰め所らしき小屋に向かって、おいと声を掛けた。すぐに中から若い男が現れる。眠っていたようで、目を擦りながらこちらへ駆けてくる。そして、駆けてきたのに事の次第を伝え、それをすぐに伝令に出す。
「ご迷惑を」
娘は軽く頭を下げる。
「ときに、そちらの若いお方」
若いのは、はいと応えながら一瞬肩を震わせた。
「私が恐くていらっしゃるか」
「へ」
「いや、先程からそのような目をしていらっしゃる故」 若いのは、己の恐怖心を見抜かれたのと、娘に畏怖している自分に気づいて顔を真っ赤にした。
「け、決してそのようなことはッ」
娘は少し寂しそうに笑う。
「危害は加えませぬ。貴方方が私に何もしない限りは──」
中年の兵は一瞬、娘の腰元に光る物を見た。それが、娘が刀の鯉口を既に切っているからであることを判断するのに、さほど時間は要らなかった。
「伏せろッ」
中年の兵が叫びながら若いのの頭を抱えて地面に倒れ込むのと、娘が刀を抜いたのは、ほぼ同時だった。
抜かれた刀は綺麗に半円を描くように右側に振り上げられた。篝火に刀が鈍く照らされる。
「なっ、何を」
──カラン
若いのの声を遮るように、乾いた音が辺りに響いた。
「どうやら、貴女にはお帰り頂かねばならないようだ」
言いながら、中年の兵はゆっくり立ち上がる。
「残念にございます」
娘は微笑んだまま、振り上げた刀をゆっくりと鞘に収める。
「貴方方の主君は、たいそう気の早いお方らしい。門の内にも入らぬうちに殺しにかかるとは」
そう言って娘は、先程乾いた音が聞こえた方に目をやった。一人訳が分からぬ若いのも、どうしたことだろうと娘の向いた方に目をやる。
「……矢」
娘の右側には、丁度真ん中で斬られた弓矢が一本、落ちていた。
「困った、このままでは帰られませぬ」
「通しかねる」
「ならば、こじ開けるまで」
「お引き取り願えぬか」
「仕事を放棄して帰る兵士がどこに居るのです」
中年の兵と娘の気迫に、若いのはしりもちをついたまま後ずさる。
「事を荒立てたくはなかったのだが。できれば穏便に済ませたかった」
娘がそう言って俯き、目を閉じた瞬間、塀の上から無数の矢が放たれたのを若いのは見た。
「危な──」