二.それは鮮やかに、残酷に
森の奥、小さな滝のある池で、娘は身体を清めていた。自らの身体の表面から清らかな水の上に滑り出す鮮やかな緋色の帯を見ながら、娘は俯いた。
「綺麗……」
両手で帯をすくうと、微かに鉄の匂いがした。
「でも、私のは……きっと、こんな綺麗な色はしていないのだろうな」
──きっと、濁った罪人の血
娘は自嘲気味に笑うと、清らかな水に自らを沈めた。
瞼を閉じると、昨日の光景がまだ鮮やかに焼き付いていた。
逃げまどう人々の叫び、断末魔……
娘は水から顔を上げると、深く呼吸をした。
──生きている
身体の隅々にまで巡る森の澄んだ空気が、彼女にそう実感させる。
「──ッ」 ふと、手を見ると己の手が鮮やかな紅色をしているように見えた。しかしそれは一瞬のことで、瞬きを一つする間に元に戻っていた。
胸が激しく鼓動を打っている。恐怖のあまり呼吸が困難で、のどの奥がひゅーひゅーと音を立てる。
娘は元に戻った両手を乱暴に水に突っ込み、力任せに洗い擦った。
──バケモノ
脳裏に響く幼い声。
娘は手を止めると深くうなだれ、岸に置いてあった粗末な麻の衣を手に取り、静かにその場を後にした。
※※※
「見て、母さんっ。僕良いもの見つけたよ」
「どうした、蛍」
女は床から重い身体をゆっくりと起こし、はしゃぐ幼い我が子の手に握られた物を見る。
「蛍、どうしたんだい、それは――」
小さな手に握られていたのは、その手に収まりきらないほどたくさんの金銭──
「家の戸の前に置いてあったの。これで母さんのお薬が買えるね」
女は息子の手からそれを受け取ると、はっとした。金銭の鈍い色に混じる一片の鮮やかな紅。
──椿の、花びら
「母さん、どうしたの」
女は涙を流しながら、粗末な小窓の外に広がる鮮やかな青を見上げた。
「いいや、何でもないよ」




