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十四.絆─今─

「なァ、朔乃」

「ん、何、弥栄葉」

 僕と弥栄葉は河原にいた。椿を追って訪れた戦場跡で体を壊してから数日、熱もようやく引き、やっと外を歩けるまでに回復したので弥栄葉が気晴らしにと仕事の合間を縫って散歩に連れ出してくれたのだった。

「あれ」

 言った弥栄葉の視線を辿れば、その先には河原の対岸、少し切り立ったところに、鮮やかな紅い椿の花が見事に咲き誇っていた。

 ──あぁ、そんな季節か

 そんなことを思いながら隣の幼なじみの顔を見ると、悲しそうな、嬉しそうな、懐かしそうな、そんな何とも言えない表情をしていた。きっと椿のことを思い出しているのだろう。あのは、自分と同じ名のあの花が、特に冬の灰色の中に咲く、鮮やかな紅いあの花がとても好きだったから。

「椿、どこに居るんだろうね」

 僕がそう問うと、弥栄葉は紅い花から目を離すことなく、さァなとだけ答えた。

 そのまましばらく僕たちは、対岸に咲く、鮮やかな紅を見ていた。

「朔乃、お前覚えてるか。椿との約束」

 視線はそのままに、弥栄葉がそうぽつりと漏らした。

 僕は弥栄葉の横顔を見ながら眉を顰めた。

 ──忘れるわけがない

 僕はコクリと頷く。

 忘れるわけがないのだ。僕たち三人だけの、あの冬の日のことを。

「あの約束がなくても、俺は──」

 幼なじみはそれだけ言うと、僕の先を歩き始めた。

 ──僕だって

 椿に対する気持ちは、僕も弥栄葉も幼い頃より変わらない。椿は、僕らのこの気持ちを解っているのだろうか。

「椿──」

 僕はもう一度立ち止まり、瞼を閉じる。そこに映るのは、僕たち三人だけが知る、あの冬の日の情景だった。あの日、僕と弥栄葉は誓ったのだ。何に代えても椿を守ると、そう誓ったのだ。

 弥栄葉に着いて歩きながら、僕はもう一度、あの鮮やかな紅を振り返った。

 幼なじみと同じ名の、汚れを知らぬ純然たる紅い花は、僕らに何も語りかけてはくれなかった。

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