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幸せを掴むために-拒み続ける本心-  作者: 黒空-kurosora-
あの日出会った運命
9/14

悲哀という感情

私はユウ君が差し伸べた手を取るのか、理性の私の言葉を受け入れるのか。

答えを出すという目標を定めた。

ユウ君の持つ不思議な武器によってハーツイーターを倒したものの、悲しみの感情を持つ私の姿がそこにあった。

「やっと、見つけた…」

悲しみの私は涙を流しながら、そう呟いた。

その声は確かに悲しみを帯びながら。

「見つけたってどういうこと…?」

「本能の私…何もわからないのね…」

何もわからない…確かに私は何もわからない。

「いいわ。教えてあげる」

そう言って、悲しみの私は静かに口を開いた。

「…この世界はカノンという1人の人間の心を体現した心象世界。

その感情の本元となるのは、本能。

本能が感情を心に繋ぎ止めてる。

しかし、その本能が揺らいだ結果、繋ぎ止める力が弱まり、私たち感情はバラバラになった。

この世界では、私のように感情は『カノン』となって現れる。

理性ではわかっていても、本能では拒んでるこの状況。貴女はどうするつもりなの?

生を選ぶか、死を選ぶか…」

「…まだ、わからないけど」

それでも、今の私にできることは。

「死を選んだらそれで全て終わりだ、なら今は生きる」

「…そう、なら消えなさい」

その言葉に悲哀の感情を持つ私は過剰に反応した。

…何故私が私を消そうとするのか?

本能が消えたら、もう全て終わり…。

まさか…?

「理性の私の言うことは正しい。

生を選んで、その先に幸せは、ない」

「根回ししてたんだ…」

理性の私が悲しみの感情に接触し、根回ししていたことに気づいた。

本能よりも理性の方が正しいと、説得したのだ。私たちが知らないうちに。

生を選んだ先に幸せはないと。

だけど、それでも疑問に思う点はある。

なぜ理性が正しいと思わせたのか。

何か理性の私には私が知らない何かを知っているのかもしれない。

「…………」

「どうするの?『私』は」

「…理性」

その考えに達したのと同時に現れたのは理性。

全て理性の私の掌の上で踊らされているようでなんだかいい気分がしなかった。

「…生きるか死ぬか、まだわからないからその答えを出すために今は生きると決めた。

…ユウ君の言葉を無下にはできないし」

「…貴女ならそう言うと思った。だから悲しみに触れた」

「…そう」

「貴女は私よ。何を考えてるのかはなんとなく想像つく。恐らく、『なぜ理性の私は悲しみの私を味方につけたのか』でしょう?」

図星だ。

益々気に食わない、自分に残る小さな感情が沸き立つ。

「…それがどうしたの」

「図星のようね、まぁいいけど。

貴女もわかるでしょう?この状況を脱するには…」

「感情との一体化しかない、でしょう?」

「そう。でも本能の貴女にそれができるの?」

「どういうこと?」

ユウくんもそういったことは言わなかった。

恐らく知らなかったか、隠していたんだと思う。

「理性は感情を制御するもの。剥き出しになる欲を押さえつけるもの。

感情の大元がバラバラになり小さな感情しか残ってない今の本能だからこそ正常でいられるけど、理性が弾け飛んだ人間が普段何をするかわかるでしょう?」

食欲、睡眠欲、性欲。抑えの効かなくなった人間が何をするのかは大体想像つく。

つまり理性の私が言いたいのは本能では感情を抑えられない、そう言うことだろう。

悲哀の感情を繋げば、私はその悲哀の感情を抑えられず、ただひたすら泣き、嗚咽し続けるだけになる、と。

「…………」

「カノン!」

そこでユウくんがやってきた。

「カノン、これは…」

「あら、ユウくん。これは貴方にとっても朗報。今この状況を脱するにはここにいる悲哀のカノンと同化しなくてはいけない。貴方の目的と一致するわ」

まぁ、本能は悩んでるみたいだけど、と付け加えて。

それを聞いたユウくんだが、特に表情に変化はなく。

「それはカノンが決めることだ。カノンがどう選ぼうと僕はそれを受け入れる」

「…まぁいいわ。どの道悲哀の私は本能を消すつもりだし、この場は引かせてもらうわ」

「逃げるの?」

「まさか。今日はあくまで小手調べ、逃げるわけじゃない、せいぜい悩むことね、そして自覚しなさい。自分の選択が誤っていることを」

そう言って理性は何処かへと消えた。

思えば何故理性の私は自分から消そうとはしないんだろうか。

何か理由があるのだろうか?

…考えてても仕方ない、今は。

「話はおしまい?

じゃあ消すから」

そう言って悲しみの私は向かってきた。

「カノン、下がって!」

「ユウくん」

「…君はどうしたいか考えるんだ、自分を信じるのか、理性を受け入れるのか」

「…わかった」

私は、私はどうしよう。

まだ答えを出し切れてない。

だって、理性の言葉は正しくもある。

間違いではない。

でもなら自分の考えは?

間違いなのだろうか?

否、それはない。

これは間違いではない、きっとこれも正しいんだ。

でもどちらも正しいのならどちらを取るのがいいのか?

自分にとってどちらが本当に正しい?

…やはり、わからない。

「…下がって。ユウくんじゃない、目標は本能、それだけ」

「本能を消したら、君たちは保てなくなって消えてしまう!それでも消すのか!?」

「当然。消えることが私の、理性の本望だもの。むしろ終わりの時を早く迎えられるなんて願っても無い」

「…それは嘘だ!本能も、理性もどっちもカノン!だから悲しみの君が消えたいということだけ思ってるわけじゃないだろう!?」

「…うるさい……!」

ふと2人の会話が聞こえた。

悲哀の私が少し表情を変えた。

少し怒りの混じった悲しみはユウくんを攻め続けていた。

悲しみの私は不思議な力でユウくんと戦っている。ユウくんは悲しみの私を傷つけることなく攻撃を凌いでいる。

しかし周りを見ると。

この街は大分破壊されていた。

ハーツイーターの出現、2人の戦い。

このままじゃいずれ街は完全に…。

それはいけない。

ミユみたいな子がここにはいるかもしれないのに。

私の勝手でこれ以上迷惑をかけるわけには…!

「……!」

そう思うと私の身体は動いていた。

自分でも驚くほどに。

だって剥き出しになった本能に感情を一体化させればどうなるかわからない。

本来なら、理性が必要だ。

生きたいと思う私がそんな無謀な行為を何故と思った。

だけどふと、ミユを助けた時のことも思い出した。

それは生きたいと願うことの裏腹に取った行動、ミユを助け、自分は橋から落ちた。

運が良かったとはいえ、本来なら命を落とす行為だ。

「…私はどうしたいんだろう。

……でも今はやることがある、考えるのは後!」

そう心に言い聞かせて、私は駆け出した。

「カノン!」

「ユウくん、私やるよ。まだ悩んでる途中だけど…でも理性を受け入れるのもなんか嫌だし、生きたいし、ユウ君ともっと一緒にいたいからね。ミユとも再開してないから」

「…ははっ、カノンらしいや。

よし、一体化の方法。カノンならなんとなくわかると思う。悲哀が隙を見せたら行くんだ!」

「OK!」

ユウ君は悲しみの私の隙を作るべく、守りの一点張りから攻撃に転じた。

「くっ、この!」

悲しみの私も猛攻を繰り広げるも、ユウ君の方が一枚上手に思えた。

…あの力、私も使えるんだろうか。

いや、今はそれは大して重要な事ではない。

隙ができる瞬間を見るんだ。

ユウくんが頑張ってくれている、私も頑張らないといけない。

攻撃を上手く受け流すユウくんだけど、隙を作るには至っていない。

どこか動きにも迷いがあるかのような、そんな風に感じ取れた。

「ユウくん、どうしたの?」

「…ごめん、でもカノンを傷つけるわけには…」

それは悲しみの私を攻撃する事への躊躇。

私を大切に思ってくれている故の。

とてもありがたい事だと思う、すごく嬉しい。

感情の大部分を失った私だけど、それでもわずかな喜びの感情が最大限まで高まっている。

胸が温かくなる、そんな感覚に襲われる。

……でも。

「ユウくん、大丈夫。私は大丈夫だから。

行って……!!」

その言葉に、ユウくんの顔は引き締まり。

「うおぉ!!」

これまで防戦一方であったユウくんが初めて攻撃に転じた。

「なっ!!?」

その変わりように悲しみのカノンの動きは鈍り出した。先ほどまでの動きは既になりを潜めていた。

これなら…!

「…ごめん、カノン。

…………はぁっ!!!」

ユウくんは思い切り踏み込み、悲しみの私の懐へと潜り込んで剣の腹の部分で一気に振りかざした。

私はここだ、と直感的に感じた。

そう思う頃には既にこの足は動き出していて、その方向はユウくんと悲しみのカノンが戦う戦場へと向かっていた。

「あぁぁっ!!」

「今だ、カノン!!この隙に!」

ユウくんが声を大きく張り上げる。

それは隙ができたという確かな証拠。

悲しみの私は吹き飛ばされ、その身体は宙に浮いていた。

受け身すらも取れない状況、これは隙。

「行くよ……!」

理性に身体を乗っ取られたときの事を思い出す。

身体を縛り付けられ、身動きが出来なかった。

全身で縛られたそれはまるで鎖のように硬く、解くに解けないものだった事を思い出す。

それを今度は本能と悲哀、ともに動く事ができる状態にしなければならない。

それも悲哀が暴走しないように。

やり方も何も知らないけど、やるしかない。

私は悲哀の感情に手を伸ばし、本能との一体化を試みた。



ここは…?

あたりは何もなく、街も、ユウくんも姿が見えなかった。

「…ここはカノンの心の中。

一体化を試みているのね」

「悲哀」

目の前にいたのは私。

悲しみの大部分を持つ私だった。

「これから私は貴女と一つになる。

自分がどうしたいのか、まだそれはわからないけど、今はこうしたいと思ったから」

「…そう。結局貴女は生きる道を選ぶのね」

「初めから死を選んだらこれから起きる事も何もかも手放してしまうでしょう?

私はそんなの嫌だよ。

心を壊した出来事は覚えてないけど、私はたくさんの人を苦しめてしまった。

そしてそこから逃げてしまった。

その償いはしないといけない。

それに…生きる事が間違い、だなんて私には思えない」

私は今自分が思っている事の本心を悲哀の私に真剣に伝えた。

悲哀の私は耳を傾け、私の今の気持ちを最後まで聞いていた。

「…そうね、そう思えるのもまた私、か…」

悲しみの私はそう言って諦めた表情をして。

「この悲哀という感情。

全ての感情どの事にも言えるけど、基本的に本能は感情を押さえつける事はできない。

それは本来理性の役割だから。

感情の衝動を抑えるには、感情を諌めてあげなきゃいけない。

本能にそれができるかはわからないわ。

やれるの?」

「やれる、じゃなくてやる。

……私には意志がある。

たとえ理性と呼べるものがなくてもやってみせる」

その意志で抑えられるかはわからない。

だけどそれしか方法がないのだから、私はやるしかない。

「…結局貴女はここまで来てしまった。諦めて貴女の考えに従う。

その代わり。しっかり納得のいく答えを出してね」

「うん、分かったよ。

約束する」

そして私は悲哀との同一化を図った。

強い感情が押し寄せてくる。

大きくて、ひたすらに悲しい。

一つになろうとしてる本能に感情が溢れこんでくる。

思わず涙が出る、声が出る。

悲しい。ただそれだけの感情が溢れ出していく。

私はその感情を必死に繋ぎ止める。

そして諌める。

悲しみが落ち着くように、溢れ出ないように意志を以て少しずつ、少しずつ抑えていく。

負けそうになる。そう思うたび、誰かが手を握ってくれてるような感覚になる。

きっと外からユウくんが手を握ってくれている。

この温かさはユウくんの手だと感じる。

そう思うと何にも負けない気がしてくる。

「ありがとう、いくよ…!」

自分の中で感情が一つになっていくのを感じる、悲しみが心の中に戻ってくるのがわかる。

…その時、ある映像が頭に浮かんだ。


続く

今度はこちらの更新となりました。

久々の本編ですね。

以降は混合世界と同じく設定をまとめる回を作る予定です。

こちらもまだまだ序盤ですが、ついに一つ目の感情を取り戻すことができました。

意志と理性というのをどう判断するのかは難しいところがありますが、意思を以て感情を抑える、現状はこんな感じになっています。

いつもこの作品はどうすればおかしくならないのか考えながら作ってるのでいつも自分の無知さに頭を抱えながら悩んで書き進めて行っていますが、少しでも面白いと思えるものを提供できるように頑張りたいです。

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